009 シャンプー初体験
ユナと翔太朗は、お互いにすっぽんぽんになった状態で風呂に入った。ユナは顔を真っ赤にしているのだが、湯気が濃くて、互いの大切な部分が見えていないだけましか。嫌、小学生でそれを気にしすぎる方が可笑しいのかもしれない。小学生はまだ性には目覚めていないため、異性のおっぱいやぞうさんを見ても、犯罪的な目で見ることはない筈だ。崇文も考えたものである。異性と言えど、同世代の二人を風呂に投入するなんて大それたことをやってのけるのは、やはり崇文の大人力の高さがあるからか。
「まず、体を洗ってから風呂に入るんだよ」
翔太朗はそう言った。
「先に入るのは駄目なのか?」
二人は椅子に座りながら会話を交わしている。何故、先に風呂に入ったら駄目なのかを。
「駄目だよ。汚い体のまま風呂に入るのは。後からお父さんも入るんだから」
「なるほど。後から入る人の事を考えるのか」
「そうだよ。絶対、先に体を洗ってから風呂に入ってね」
翔太朗は注意深くユナに指摘していた。ユナもこれには賛成の様だ。
「分かった。肝に銘じる」
「さっそくだけど、体の洗い方は分かるよね?」
「つかぬことを訊くが……手動で洗うのか?」
「手動? 当たり前じゃん。手で洗うに決まっているでしょ」
そうだと言っている。手で洗うのは当たり前なのだと。しかし、ユナは首を傾げて伏し目がちになっていた。
「わぬの故郷ではロボットが体を洗ってくれた」
「えええ。ロボットが!」
すると、翔太朗の目がよりいっそう輝いていた。
「ど、どうした翔太朗?」
ユナは若干引き気味になっている。
「僕、ロボットアニメが好きなんだ。いいな、ロボット」
翔太朗はその他にも特撮や刑事ドラマが好きな現代っ子である。無論、ロボットアニメだけではなく、幅広いアニメを好物としている。
「それで手で体を洗うにはどうすればいいんだ?」
しかし、ルナはあまり興味が無さそうだった。むしろ、目の前の風呂事情に興味関心があるようだ。
「んとね。頭からお湯をかけて」
「どうやってだ?」
「桶を使うんだよ」
翔太朗は見本をみせた。風呂のお湯を桶ですくって、頭の上にかぶせたのだ。ジャバンという水しぶきを立てて。
「こうやるのか?」
ルナも翔太朗と同じようにして頭を濡らした。
「そうだよ。次はシャンプーをつけるんだ」
シャンプーの液を手に取った翔太朗は、その手をシャンプーに付けてゴシゴシと洗いながら泡立て初めた。ユナも真似してシャンプーを頭につける。すると、みるみる内に泡立ってきたではないか。この時、ユナには不思議な感情が芽生える。
「面白いぞ!」
ユナのピンク色の髪の毛は泡で真っ白になっていた。
「そうでしょ。泡が立って」
「この泡の感触もいいな」
そう、初めてのシャンプーで幸福を感じているのだった。