003 活動拠点
「それで、ユナちゃんは何処からやって来たの?」
肉じゃがをつつきながら、崇文は尋ねてきた。
「アララから来た」
ユナはそう言うのだ。
「アララ……聞いた事ない国だね」
20年も小説を書き続けている崇文でさえ、聞いた事がないという。それもそのはずだろう。
「そして、わぬは船に乗ってやってきた」
相変わらず頬にご飯粒をつけたまま、ユナは喋っている。
「舟かい? 両親と一緒に来たの?」
「わぬ一人で来た」
「一人で日本に?」
「そうだ」
ユナはご飯を食べながら頷いている。
「この近くに、誰か親戚はいるのかい?」
崇文の質問攻めは続く。
「いない。わぬひとりだ」
「それは困ったね」
と言いながら髪の毛をかいていた。すると、そこに翔太朗が会話に割って入ってきたのだった。
「ねえねえ、ユナも僕の家に暮らさない?」
翔太朗は目を輝かせて言うのだ。あまりの輝かしさに、ユナは一瞬言葉を失って唾を飲み込む。
「わぬが……この家に?」
突然の事に戸惑いを隠せないでいた。
「そうだね。君も住む場所がないと困るでしょ?」
崇文も住んでいいと言っていた。後はユナの返答次第である。
「ううむ。それはありがたいのだが、本当にいいのか?」
「大丈夫だよ。大人の手続きは僕がやっておくから」
面倒な事は全て崇文が引き受けてくれるというのだ。こんな優しい人間は滅多にいない。
「あ、ありがとう!」
ユナは感謝の気持ちを忘れずに、日本式で頭を下げて礼を言ったのだった。
「困ったときはお互い様って、お遍路で学んだから」
そう、崇文は四国八十八か所を巡ったことが過去にあるのだ。
「お遍路……聞いた事がある」
ユナは日本に来る前にある程度勉強していたため、お遍路の事をある程度知っていた。
「その時に家の大切さを身に染みて感じたからね。君を見ていると放っておけなくてさ。両親が迎えに来るまでここにいていいからね」
「あ、そうだ」
すると、ユナは突然大きな声を出した。
「どうしたの?」
翔太朗が顔を近づけて尋ねてきた。
「あの場所に荷物置いたままだった!」
「あの場所……あきちの事?」
「そうだ。とってこないと」
「もう暗くなるし、僕も一緒について行くよ」
すると、崇文は押し入れの中に上半身を入れて探し物をしていた。しばらくすると押し入れから出てきた崇文は片手に懐中電灯を持っていたのだった。しかも、見事に古風な懐中電灯だ。
「僕もいくっー!」
「そうだな。その空き地とやらに案内してくれ」
こうして、空き地に荷物を取りに行く事となったのだった。