「世間一般ではそういう人をストーカーと言います」
色々ごちゃごちゃで分かりにくくてすみません!
温かい目で見て頂けると助かります。
続きません、めぐちゃん潰されないように生きてくれ。
私、橘芽繰には、好きな人がいる。
同じクラスで超絶人気者の彼方君。彼方君は、容姿端麗頭脳明晰スポーツ万能。まさに才色兼備な訳で。しかも彼は生徒会役員まで担っている。彼方君ファンの間では「爽快王子」なんて名前で呼ばれている。何でそんなハイスペックな彼を、私のような平々凡々な一般市民が好意を抱いてしまったかというと、それは……。
「今日も素敵な憂い顔だよね! 彼方君」
少し離れた場所で友達と話している彼方君。けれどたまに見せる憂い顔に私は釘付けになっていた。
そう、何を隠そう私は憂い顔、もとい、悩んでる顔フェチなのだ。人が悩んで悩んで苦悩してる時の顔がたまらなくキュンとくる。まぁ、変態と呼ばれる部類の人間だ。
彼方君は今まで出会った憂い顔さんの中で断トツの一位だ。元の素材が良いっていうのもあるかもしれないけれど。
「憂いてた後のため息を吐く姿もカッコイイよ! でも一番はやっぱり、悩んだ末のあの笑顔! 問題が解決した後の笑顔は格別なの。反則物だよ」
「あんたの憂い顔フェチにはもう付き合ってらんない。彼方にはもっと良いとこあるでしょう」
あたたかい陽の光が眠気を誘う春の昼休み。
お弁当を食べ終えてネイルを塗りなおしている親友、曽根田千景ちゃんは呆れ顔でそう言った。千景ちゃんはどちらかというとギャル系な女の子でオシャレさんだ。だから告白が後を絶たない。平々凡々な一般市民の私とは大違い。
「うんうん、あるある! 分かってるねぇ、千景ちゃん! あの憂い顔でしょ? それから苦悩して困ってる時の目の伏せ加減!それからそれから、テストで難問を解いてる時の眉の下がり具合かなぁ。あ、千景ちゃん知ってる? 彼方君てね、悩んでる時は必ずペン回しを三回やるの。三回ともぜーんぶ成功するんだよ。イケメン君はペン回しも上手なんだね」
「テストに集中しなさい、ストーカー。あと、ペン回しにイケメン関係ないから! 世の中全てイケメンで解決すると思ったら大間違いだよ」
「失礼しちゃうなぁ。私は、ただ彼方君の事が好き過ぎてついつい彼方君のことを観察して調べて尾行しちゃう純情可憐な女の子だもん」
「世間一般ではそういう人をストーカーと言います」
千景ちゃんは整った顔を少し歪めてため息を吐いた。
あぁ、綺麗な顔がもったいない。
尾行だって彼方君のバイト先の喫茶店しかやってない。彼方君が働いてる姿を心行くまで堪能してたら、結局彼方君のバイトが終わった時間になってしまっていた。あの時は三時間電柱に隠れて彼方君を見守っていたっけ。
「メグ。あんたも、まぁ、可愛い部類の顔立ちに、そこそこ痩せてる体型で見た目は良いんだからあとは中身をどーにかしなよ。もったいないよ」
「千景色ちゃんは何でもお見通しなんだね。そうなんだよぅ。最近内臓脂肪が増えちゃってさ」
「そんなの見通してないわ!」
***
季節は変わり、秋。
木枯らしがひゅうひゅう吹きぬけ、周りの皆が寒さで身を縮こめている中、私は両手を広げて歌い踊り出してしまいそうだった。
だって、だって――。
彼方君の隣の席になれたから!
事の発端は、クラスのメードメーカーこと野球バカな田崎君のある一言。
野球バカな田崎君は二つ名通り、野球バカ。あまりにも成績が良くない為、留年も視野に入れているとか。来年は受験も控えているっていうのに彼には危機感というものが存在しない。と、言うか。きっとそんな言葉がある事すら知らないと思う。
そんな彼がこんな事を言った。
「もうすぐテストあるだろ? 俺さ、美女曽根田の隣の席になれたら絶対成績上がると思うんだよね!」
それを聞いた田崎君の友達が委員長にその旨を伝え、更に委員長が担任の先生にその旨を伝え、そして更に担任の先生がクラス全員に多数決をとり、約八割の生徒が賛成に手を挙げた為この横暴は行われる事となった。
「何で? 何であたしが犠牲になるわけ?」
「耐えてくれ曽根田……。お前だけが希望なんだ、お前が! 最後の希望なんだ……」
「先生、勝手に人をパンドラの箱にしないで下さい」
「大丈夫だよ千景。ちゃんと優しく見守るから、安心しなって」
「ちょっ、紗子! 他人事だと思って……」
「お前は選ばれし王女だったんだよ。逃れようのない運命だったんだ」
「黙れ中二病! そもそもの原因はあんたでしょう、田崎!」
「千景ちゃん、頑張って!」
「……」
あれ?聞こえてないのかな。千景ちゃんの目がまるで死んだ魚のよう。光が失われている。この席替えがよっぽどショックだったんだな、よし。元気づける為にさっきよりも気持ちを込めてもう一度激励の言葉を送ってみよう。
「千景ちゃん、が ん ばっ てー!」
「……ねーぇ? メグぅ?」
あ、良かった! 目に光が戻った、安心安心。でも灯ってる光が心なしか怒気に満ちてるように見える。何があったの千景ちゃん!
「なぁに? 千景ちゃん」
「何であんたはそっちにいるの? あたしの味方じゃないのかな?」
「私は強い者の味方です」
「こっっの、裏切り者ぉぉぉー!」
ごめんね千景ちゃん。明日お弁当のたこさんウィンナーあげるから許して下さい。
***
席替えをすると決まった時、私は人生で初めて神様に祈った。(いつも祈るのは仏様。)
どうか、どうか彼方君の近くに座れますように! 彼方君の前がいいとか前がいいとか斜め前後がいいとか、そんな贅沢言いません! 私が望む席はただ一つ、彼方君の隣の席! え、贅沢? 何を言いますか神様。学生の本分である学業の事を考えて私はこの席を選んだんです。だって前の席じゃ後ろにいる彼方君からの視線に耐えられそうにないし、かといって真後ろの席じゃ彼方君の背中しか視界に入らないし、斜め前後なんで論外! 気になり過ぎて勉強なんて頭に入ってこないに決まってる。だから、隣。隣ならいつでも彼方君を見ることが出来るから安心して学業に専念出切るって訳ですよ。
私は両手を額の前で合わせ、神様に祈りはじめた。
……隣隣隣!
「……」
「お、おい。橘?」
「…………」
「おーい、橘ってば」
「……うぬぬぅ」
「また黒魔術やってるのかよー、今度は何企んでるんだ?」
隣からよく知った声が聞こえてきた。奴め、自分はもう美女の隣という特等席確定だからって浮かれているな?
「もう、またって何よ。あれは祈りの儀式だって言ったでしょ。今だって麗ら清らかな乙女の祈りの儀式の最中なんだから、邪魔しないで頂けます? 私は今、祈祷師になりきってる最中なんだよ」
「お、おぅ。よく分らん設定だがまぁ、頑張れ」
「ありがと! さすが、話が早いね」
田崎君は、「黒魔術じゃなくて現在進行形の黒歴史だったか……」とボソッと言って去って行った。だから、私の祈りは黒くないってば!麗ら清らかな乙女の祈りなんだから純白に決まってるじゃないの。
***
私の清らかな祈りが神様に届いたのか、私は見事彼方君の隣の席を掴み取ることが出来た。もう一生分の運を使い切った気がする。でも、いいんだ。それでも構わないくらい、私はこの席、彼方君の隣が欲しかったんだから。
これで彼方君の憂い顔見放題! っしゃああ!
「今日からよろしくね、彼方君」
「っえ? あ、あぁ。よろしく、橘」
彼方君は一瞬軽く目を見開き、少し驚いているようだった。
あれ? 私が挨拶する事がそんなに驚く事だったのかな。……私、彼方君の中では挨拶もしなさそうな奴って事? それとも、こんな奴クラスにいたっけ? って事? そりゃ、まともに彼方君と話したことなんてないし、挨拶だってきちんとしたのはきっとこれが初めてだ。恥ずかしくて今まで挨拶出来なかったんだけど、これじゃだめだ。これからはもっと積極的に挨拶しよう! 私はちゃんとこのクラスの一員ですよ彼方君! あなたの事を軽くストーカーしちゃうくらい大好きなただの純情可憐麗ら清らかな乙女ですよ!
そんな訳で、私の素敵な高校二年生、二学期後半は幕を開けた。
これから起きる大事件の事など、まだ知る由もない――。
***
「メグ、絶対潰す!」
読んで下さってありがとうございました!