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白い部屋。無機質な部屋。その部屋の真ん中に少女は立つ。
少女は、少年とも大人とも老人とも人ではないモノとも取れる異質な声で言葉を紡ぐ。
たった一人に世界の命運を託す事に責任を感じながらもただ紡ぐ。
「私の声が聞こえるか。私の名は―――だ。私の言葉が君の信用を得るために幾許かの時間を要することは理解している。それでもどうか、聞き届けてくれ。永久にも等しい思考の末、私が見出した事象を。」
「私はただ観測するだけの存在。君への干渉は行わない、行えない。」
「故に私は示す。あらゆる偶然を演算し、計算し君に伝える。」
「私は観測するだけの存在。君を導く役割を持たない。だが”私の片割れ”が、君を導くはずだ。」
「未だ信用も信頼も得られていないと推測する。君のその思考は正しく正常だ。
私もそれを、妥当と判断する。」
「だが、私はそれでも君を信じている。」
「私の得ることの出来なかった一つの答えを、”全ての救い”を。君が得られることを私は信じている。・・・・・・アレン。」
「うぅ・・・・ん?あっ!!!!」
ガバッ!そんな擬音が聞こえて来そうなほど勢いよくアレンは飛び起きる。
時刻は午後2時半。出かける準備をしているつもりが、昨日夜更かしをした所為で睡眠不足だったのかいつの間にかベッドで寝てしまっていた。
「今の夢・・・・・・なんだったんだろう・・・・・・。」
不思議な夢でも見たのかアレンは首を傾げながら仕度の続きをしようとして気づく。完全に遅刻である。待ち合わせ時刻を優に1時間オーバーだ。これでは待ち合わせ人が可哀想でならない。
余ほど焦っているのか小指をテーブルの角にぶつけながら、机の下にある者を拾うときに謝って頭を強打しながら、なんとか用意を終える。
今日の待ち合わせはアレンのガールフレンドとのデートだ。
時間にルーズなうえ、女性を一時間も待たせるとは生真面目なヤポンスキーが聞いたらきっと顔を真っ赤に染めて怒るに違いない。
「~♪」
音声通信の通知である少し前に流行った音楽がデータ端末から流れる。この端末は最新鋭の機能複合型小型データ端末、通称”Link"と言って、今若者の間で爆発的に流行している。
アレンはリンクに手を翳し通知を受け取る。無論、手を翳して操作できるのはアレンだけの特権だ。
「あ、あの・・・・・・アレン君?も、もし道に迷ってたりしたら連絡を下さい。それとも、あ、あの何か・・・・・・事故・・・・・・とか・・・・・・。私心配で・・・・・・。」
現代の若者達と比べると比較的大人しい声のトーンで音声が再生される。
この声の主こそ、アレンの彼女のエリス=アレースだ。
今にも泣きそうな声なので、アレンは慌てて返事を返す。
「いや!全然違うんだよ!これにはグランドキャニオンより深いわけがね・・・・・・―――。」
間違っても寝坊だなんて言えないアレンは必死に言い訳を考え相手を納得させるために言葉を紡ぎ、何とか納得してもらってエリスとの通信を切断した。
そのまま即、家を出て駅へと足を進める。この時代での交通機関は電車やバスなどではなく空間転移装置、通称”Port”と呼ばれる装置で成り立っている。
次元演算装置がある科学者によって発明されたのを切っ掛けにポートの開発も実行段階に移されたというわけだ。開発からは5年以上経っているので、危険性などは無いことが実証されている。
駅へと着いたアレンは行き先を設定し、ポートに乗って転移した。
そこで訪れる非情な運命の選択を知らずに――――。