【 6 】
空き地に戻る。なんか疲れた。
向こうに戻ったら僕もショーリみたいに今日は学校をサボっちゃおうかな。そうすれば真柴さんにも絶対に会わないし。母さんには急に腹痛が起きたって言えばいいや。うん、そうだ、そうしよう。
雑草ジャングルを斜めに踏み越えてブロック塀の右手側を探る。
あ、あった。跪いて穴をくぐる。……よいしょっと。
ふぅ、戻ってきた。妬み渦巻く虚脱な僕が存在するこの世界に。
……あれ? スクールバッグが無い……。
空き地を隅々まで探したけど見つからない。
参ったな、財布はスラックスのポケットだから大丈夫だったけど、教科書とか無くすのはまずいよな。誰かに持っていかれちゃったのかな? 交番に寄って紛失届けを出してから帰らなくっちゃ……。
雑草を蹴飛ばすように歩く。八つ当たりだって絶対やり返してこないこんな植物相手にしか出来ない僕だ。
空き地を抜けると通学路を逆に進む。
交番に寄った後は家に帰ってベッドに潜って布団を頭からかぶって、自分のいじましさと徹底的に向き合おう。そして自分をもっと追い込むんだ。どうせ僕はこの世からいなくなってもたいして誰も悲しまない人間なんだから。
交番に寄って落し物の手続きをした後、再び通学路に戻り、家路に着く。
突き当たりの角を左に曲がろうとした時、ちょうど通学しようとしていたらしい、走って来た芽羊の生徒と思い切りぶつかってしまった。その衝撃で右手に持っていた僕のスクールシャツが離れ、フワリと地面に広がる。
「あっ失礼! 大丈…」
ぶつかった相手が先に謝ってきたがそのまま言葉を失い、立ち尽くしている。僕は普段、人の顔から視線を逸らすのが癖なので相手の顔を見ていなかった。でもまたしても妙に聞き覚えのある声がしてきたのでギクリとしながら上目遣いで相手の顔を見る。
…………なんで?
たぶん相手もそう思っているだろうけど僕ももちろんそう思った。
だって僕とぶつかったのはまたしてももう一人の僕だったから。
今度の僕はショーリよりもさらにだいぶ見かけが違う。
こっちの僕の髪は両耳が少し隠れるくらいまで長くて、かなり細めの四角フレームの眼鏡をかけている。こういう眼鏡をかけているとパッと見、いかにも秀才って感じに見えるし、それに何だかすごく大人びても見える。
「君、僕とよく似ているね」
この世界の僕は冷静で大人なタイプのようだ。さっきのショーリのように僕を見て逃げ出したりしない。
い、いや、それよりもなんで!? どうして僕は元の世界に帰っていないんだ!?
焦る僕に冷静な質問が来る。
「僕は北原勝利っていうんだけど、君も芽羊の生徒かい?」
……あぁ間違いない。ここもやっぱりパラレルワールド。もしかすると僕は永久に抜け出ることの出来ないラビリンスに迷い込んでしまったのか……?
足元から力が抜けていく。
「ど、どうしたんだい!? 貧血かい!? 立てる!?」
へなへなと路上に座り込んだ僕の肩を急いで支えるもう一人の僕。
こっちの僕は親切だな……。さっきのショーリもそうだったし、この目の前の僕もそう。必ず良い所がある。どっちも僕とは大違いだ。
無性に泣きたくなってきた。
ちっぽけな僕に。 情けない僕に。 惨めな僕に。 そして、どこまでもミジンコな僕に。