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パラレル人生 ミジンコなボク  作者: IKEDA RAO
◇根暗なボクと女神な彼女◇
1/46

【 1 】



 今日も昨日と変わらない退屈な一日が始まる。


 僕にとってはあまり意味の無い日常。


 なんのヨロコビも、欠片のタノシミも無い日常。



 よく晴れ渡った五月の青空を、黒縁の丸眼鏡で力無く見上げてみる。

 あぁ、僕なんかがここで生きていることが申し訳ないくらいに思えるほどの、なんて眩しい青空に爽やかな初夏の風なんだろう。微妙に感動中。


 ―― そこに微かな轟音が。


 そいつは段々と唸り声を上げ、耳をつんざくような見事な騒音に成長しながら僕の鼓膜に次々と突き刺さってくる。片耳を押さえながら遥か上空から聞こえてくる音の正体を探ると、一台のヘリコプターが一直線に青空の中を突っ切って行くのが見えた。

 機体の(ヘッド)部分と後尾(テールローター)部分は目の覚めるようなショッキングなピンク色。あれは民間のヘリコプターだな。今日はよく晴れているので富士山の絶景でも撮りに行く所なのかもしれない。


 ……しかし高い所にいるよなぁ……。


 きっとあのヘリから見た地上に立っている僕なんて、惨めなほどにちっぽけで、悲しいほどに無力で、しかも呆れるほどに愚かな、生きてる価値一切ナッシングの哀れな生き物に見えているんだろうな。

 パイロットさんなんか声がここまで届かないのをいいことに、あの太い操縦桿をギュッと握り締めて、


「HAHA! この愚鈍な虫ケラ共め! そうやって一生地べたに這いつくばってろYO!」


 なんて叫んでいるかもしれない。


 じゃあ僕は例えるならすぐ下の足元でせっせと働いているこの一匹のアリ?

 いやいやとんでもない。

 僕の足元で必死にダンゴ虫の死体を運んでいる真っ最中のアリの方が僕より数段上の生き物だと心から思う。んー、じゃあ目には見えないレベルの微生物ならいいか…………。



 ―― そうだ、ミジンコだ。



 僕ならいいとこ頑張っても精々ミジンコ級だよな。我ながらいい例えだ、と暗い目ですっ飛んでいくヘリを眺めながら考える。

 今日もこうしていつものように朝からネガティブ思考全開な僕は、視線を上空から通学路に戻した。するとすぐ目の前をわいわいと賑やかに雑談をしながら、男子高校生の一団が横切って行く。


「なぁなぁ、昨日の夜やってた洋画見たか?」


「あぁ愚者達のなんとかって奴だろ? 俺、洋画は好きだけどサスペンス物は苦手だから見なかったけどさ」


「誰か他に見た奴いねぇ? 途中で寝ちまってさ、結局誰が犯人でどうして殺人を犯したのか分かんないんだよ」


 あ、それ、僕は分かる。

 犯人はすごく意外な人物なんだ。でもあの人がなぜあんな凶悪な犯罪に手を染めたかの理由は僕もよく分からないまま映画は終わっちゃったけど。せめて犯人の名前だけでもあの高校生に教えてあげたいけどいきなり声をかける勇気も無いし……。


「チェッ、なんだよ誰も見て無いのかよ? しゃーねーな、後で他の奴らにも聞いてみるか……」


「もう終わっちまったんだし誰が犯人なんてもうどうでもよくね?」


「気持ち悪いんだよ、訳の分かんねぇこの中途半端な状態がさ。考え事をしながら用を足していてよ、うっかりそのままケツを拭き忘れてパンツを思い切り上げちまった時と同じくらいの気持ち悪さなんだよ」


「ぎゃははっ!! なんだよ山岡その例えはよー! お前、それマジでやったことあるだろ!?」


「や、やってねぇよ!」


「ムキになるってことはマジやってるぜコイツ!!」

 

「だからしてねぇっての!!」


「きったねーな山岡ー!! マジウケるー!!」


 高校生達はゲラゲラ笑いながら左の方角にのろのろと去って行く。

 うーん、あのヤマオカさんって人はそんなにスッキリしないのか。やっぱり犯人を教えてあげれば良かったかな……。



 とぼとぼと歩きながら更に通学路を進む。

 また遠くから爆音が響いて来た。さっきのヘリが急旋回して戻ってきたようだ。予定を変更してこれから会社に帰る所なのかな。

 相変わらずかなりのスピードでヘリは僕の真上をあっという間に通過して行く。爆音が耳で拾えなくなるくらいまでぼうっとその勇姿を眺めた後、また視線を通学路に戻して歩き出そうとした。しかしその一歩目を踏み出す前に、道の先に一人の女の子が立っていて僕を静かに見つめていることに気付く。

 その女の子を見た瞬間、心臓がドキリと強く反応したのが分かった。さぁ、ここは僕お得意のネガティブ思考をもう一度発動だ。



 ―― あぁ、こんな惨めで情け無い僕なんかの視界に可憐な君をすっぽりと入れてしまって申し訳ないです。本当にごめんなさい。……とはいえ、そう言いつつも僕は君をこうして視界の中心にしっかりと据え置いています。この網膜にしっかりと焼き付けている最中です。それはいつでもどこでも簡単に僕の脳裏に君の姿を思い描けるようにです。本当にごめんなさい。


 こんなダメ人間の僕が思わず見惚れてしまうこのヒトは――。




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