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ある国の没落

作者: ライス

黒い煙が視界を遮る。


固いものをぶつけ合う音と、怒声や悲鳴で会話さえままならない中。それさえも凌駕する声が聞こえる。


「撃ち方やめーーーーーー!!」


号令に、銃を構える腕が降ろされた。黒色火薬の特徴である濃い煙があたりを漂っている。


砂漠地帯から大量の硝石を輸入し、年間三百トンもの火薬の材料が生成されるこの時代。良い面でも、悪く面でも武器は進化し続けた。


攻城戦、野戦が主流の世の中である。


今、帝国は一つの城を落とさんと首都を包囲。商人に作物を買い占めるよう指示をだし、農民を痛めつけ、攻城戦は長期に渡り多数の死者が見込まれる展開へと進む。


「準備はまだか!」


男の視線の先には、戦で初めて使用されるという兵器が鎮座していた。


「はっ! なにぶん、今までの砲より巨大でして……」


兵器の使用者は、軍の中でも将来が約束された有望な者たちが行う。銃しかり、砲しかりだ。彼らは、専門の知識をもち重要な役目を仰せつかっていた。


「カタパルトに変わる新兵器だと聞いたが、こうも上手くいかぬとは……」


帝国の兵力は、相手の十倍以上。これほどの勝ち戦も珍しい。相手たる国は、すでに戦力の半分ほどを削っているだろう。民に至っては、兵以上の死者が出ている。


帝国の圧倒的な力の前に、一つの国が滅びに貧していた。





――――――――――――作戦会議と目された広間には、この国の王に忠誠を誓う者達が集っていた。


他国からの援助を受け、二国から兵を借り受けた。その数は二千。自国と合わせると八千人が戦いに出ている。


「あの時、降伏していれば……」


王の声が響く。


「なにを言いましょう! 和解を拒否し、すぐさま進軍してきたのです! 降伏すれば、属国になれば、行く先は地獄だったに違いありません!」

「農民は嬲られ、市民の多くが死に絶えています……」


家臣が次々と意見を言う中、国政の一部を任され王の旧知の友でもある男が告げた。


「機会を狙っていたのでしょう。帝国の真の目的は、この国を取り込み国土を増やすことだけではなく、この国を貿易の拠点にした他の二国の弱体化も狙っているのでしょうな。最初から、仕組まれていたのかもしれません。留学中なのは、第二王子……。彼がいなくなろうとも、帝国の痛手にはならんのでしょう。すぐさま攻撃を仕掛けて来たのが何よりの証拠。帝国の第二王子を盾にしようと、もう相手は止まらないでしょう」


帝国を牽制する切り札にされようとしていた王子は、利益の前に哀れにも見捨てられたのだ。


兵たちは、泣きながらお互い別れを惜しむ。数の差が敗北に繋がると知っていたのだ。


今、この国は滅びに貧している―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――それを王は謝罪した。


家臣に頭を下げ、自分の落ち度を認めるのみならず、一人一人に声をかけ謝罪したのだ。この城で死にゆく運命の者たちに、許しをこう王。


「なんと勿体ないお言葉……」

「我らは最後まで戦います」

「いいのです。頭を上げてください! 私は、最後までお供します!」


家臣は泣きながら、王を許した。


一糸報(いっしむく)いましょう」


彼の友は笑った。王は、驚き友を見返した。


「……どうするのだ?」


家臣達も耳をすまし、静かに話を聞いている。


「それには、この場にいる皆の協力が必要です」


彼は、皆を見回し言った。







帝国側では――


「当たれば、かなりの威力だな……」


玉の重さは五百キロほど、その新兵器は姿形から大砲と呼ばれた。従来の砲よりも、威力は上だが準備には三時間という長い時間がかかる。それほど、今までのモノより巨大に作られていたのだ。


「城の修繕はされてしまうが……悪くはない」


大きいが故に、手頃な(いし)が見つかりにくく、飛距離も三百メートルと短い。それを遠くから使っていたため、当たりの悪さは指定した場所の隅に当たればいい方だった。それでも、帝国は大砲や銃など新しい兵器をいち早く取り入れ、この戦いにも使ってきた。


「閣下ーーーー!!」


伝令が、思考に沈む指揮官に近寄る。


「大変です! 裏の門が空いています!」


信じられない内容に、指揮官は驚いたものの冷静に指示を出す。


「これは、好機だ! 裏から、総攻撃をしかけろ! 急げ! 一気に畳み掛けるのだ!」


この城は、今まで兵を通したことがない鉄壁の要塞である。大砲でさえ、外壁を崩すことは容易ではなかったのだ。






帝国兵は、一気に場内になだれ込み王の首を討ち取ったという。


相手国は、油断していたらしい。なぜ、裏門が空いていたのかは不明だ。


帝国が城内の騎士と打ち合っていたとき、騎士を引きいた王が飛んできたという。その国の王は「誰ぞ、ワシの首を打ち取るモノは居らぬのか!!」と叫びながら、紋章と煌びやかな衣装を脱ぎ捨て、そのまま帝国兵の中へ切り込んだ。


こうして、戦いは幕を閉じ……かの国は、四千の兵と一万の国民を失い滅びた。


帝国は、戦いに勝ち、領土を無事拡大。数百年後……その帝国も滅びた。


帝国内では、終戦後に没落した国の王の血筋に近い者が目撃された。だが、それはありえない事として、否定する意見が多かったという。


かの王の死体は、数日間晒しものにされたが後に丁寧に弔われた。一部では、聖人として崇められている。「王は、いつか復活する」とされる言葉と共に、彼は伝説になり、その死を多くの人が悲しんだ。







「彼を逃がしましょう。いつか、王の血を引くものが玉座に返り咲くことを願って」


真実は闇の中。

死んで欲しくなかったので、歴史をねじ曲げました。王様に生きてて欲しかったのですが、生きていたら没落でも何でもないような気がしました。家臣に謝罪とか、敵の兵に斬り込んで行ったとか、そこら辺は本当の話です。

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