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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

逆ハー主人公に百合的な意味で襲われた件

百合です、すみません

 夕暮れの人気のない教室にて、マイ・レールフィン(女)は絶体絶命の状況に陥っていた。


「マイ、可愛い……」


 口の中でとろりとチョコレートが溶けるような、甘い声。

 目の前にいる彼女は、頬を染めてうっとりするようにこちらを見ていた。

 柔らかなピンク色の髪が、夕暮れの日の光の中で今にも消えてしまいそうな神秘的な輝きをもっており、あたかも彼女を妖精か何かだと錯覚させるような不思議な色合いを醸し出していた。


「あの、アリア……」


 マイはそう、彼女の名前を呼ぶと、嬉しそうに顔をほころばせた。

 そんな彼女、アリアを一言で表現するならば、可愛らしい、そんな愛されるために生まれてきたような人だった。

 実際に、この学園のいわゆる美形として名高い男子たちはこぞって彼女に夢中なのは有名な話。

 いわゆる逆ハー主人公であったわけだ、アリアは。

 そんな魔性とも言うべき魅力を秘めた、けれど中身は素朴な女の子……だったはず。


 少なくとも、マイにとっての親友であるアリアはそんな女の子だった。

 目立たない自分と比較して、マイは劣等感を抱いた事もある。

 現に幼馴染の男、リオもアリアに心を奪われているように見えた。

 それは少しマイには辛かったけれど、それでもアリアは、平凡で消極的なマイにとって親友と呼べる大切な友達だった。


 そして親友であるアリアは今、この夕暮れの空き教室でマイを窓に近い壁に押し倒していた。

 その壁に座り込むように、マイはいて、けれどその反対側にアリアが迫っている。

 なのでマイは、この状況を打開しようと焦って、


「ア、アリア、えっと……」

「ようやく捕まえた。私の愛しいマイ……」


 聞く者を蕩かすような、甘い声でマイの名前を呼ぶ。

 そんなアリアの表情とは反対に、マイは真っ青になっていた。


 マイはアリアに相談に乗って欲しいと、この教室に呼び出されたのだ。

 いつもの相談だと思って、マイは仕方がないなと一回嘆息してからここにきたのだ。

 なのに。


 どうしてこうなった。


「私ね、ずっとマイの事が好きだったの」


 頬を染めて潤んだ瞳で告白してくるアリアという親友に、マイは色々突っ込みたい衝動に駆られて、だからマイは、


「……この前、ほら、あの金髪の美形の……」

「ルイ君? そういえばマイ、前にあの男の事、カッコイイって言っていたよね? 彼、マイの風に飛ばされたハンカチを拾ってくれたんだっけ」

「よ、よく覚えているわね」

「だって、私、ずっとマイと一緒にいたんだもの。あんな男なんて、ここに来てすぐマイと接点があっただけの男じゃない」


 その棘のある言い方に、マイはぎょっとする。だって、


「付き合っているんじゃないの? だってこの前、アクセサリーのお店で……」

「だってマイ、あそこの隣のお店のクレープ、あの日食べに行くって言ったでしょう?」


 今、怖い発言を聞いた気がして、けれどマイは恐ろしさのあまりそこにはあえて突っ込まず、代わりに、


「彼と付き合っているんじゃ……」

「誘われたから、少し付き合っただけ。今も昔も、本命はマイだけなんだよ? でも、マイは全然、私の方を見てくれないの」


 当たり前だー! と、マイは叫びたかった。

 けれど、悲しげにアリアは目を伏せて、それからじっと、


「だけど、気づけば皆、マイの魅力に男達も気づき始めたの。だから、取られる前に私のものにしてしまおうかと思って」

「ええ! えっと……好きな男が私の事を好きだから、こんな風に私を口説いて、諦めさせようって事?」

「マイは結構頭がいいほうだと思っていたんだけれど、ハズレ」


 にこっとアリアが笑って、それからするりとマイに体を近づけて、床に付いているマイの手に自分の手を重ねた。

 そのマイの手の感触を楽しむかのように、指でアリアはマイの手の甲を撫でてから、


「ずっと好きだったの。だから私は、マイを誰にも渡したくなかった」

「いや、あの、答えになってな……」

「マイはね、とても魅力的なんだ。マイは気づいていないけれど、私が初めて会った時、一目惚れしちゃうくらいに」


 知らないよそんな話! と、マイは心の中で叫んだ。

 けれどそうなってくると、マイが親友だと思っている間ずっと、アリアはそういう目でマイを見ていた事になる。

 そしてマイはそれにまったく気づいていなかった。


――だって、親友の女の子が自分を狙っているなんて思わないでしょう! 普通!


 そんなマイの様子をアリアはじっと幸せそうに見つめて、


「絶対自分のものにするんだって、決めていたの。だから私、マイを手に入れるためなら何だってやったの」

「何でもって……」

「マイって、面食いだよね?」

「う、うう、で、でも普通誰でも綺麗な人は好きだし」

「うん。幼馴染のリオ君も格好良いしね。だから、マイの基準は高いのかも」

「いやいや、カッコイイ男の人は好き……アリア」


 そこで、目の前のアリアがマイが今まで見た事もないような冷たい表情になった。

 怖くなって、マイはおそるおそる名前を呼んでみる。


「アリア?」

「あんな見た目だけが良い男のどこが良いの? お金持ちな所? スポーツ万能な所? 頭脳明晰な所?」

「あの、えっと……」

「あんな奴らよりも、私の方がずっとずっとマイのそばで、マイの事を愛しているのに……。あんなぽっと出の男達の方が良いの!」

「いや、知らないし!」

「知らないってどういう事! マイに目が行かないように、私、頑張って全員口説いたのに!」

「え?」


 マイは間の抜けた声を上げた。

 いや、だって今の話だと……どう考えても、天然逆ハーではなくこれは……。

 冷や汗をだらだら流すマイに、ふうとアリアが悲しげに嘆息する。


「マイの方に少しでも彼らが行かないようにずっと私頑張っていたの。だって、面食いなマイはちょっとでも口説かれたら、彼らの方になびいていってしまいそうですもの」

「いや、あの、素敵な男性に口説かれたら、なびきかけるのが女だと……」

「ほら! やっぱり! だから、私、彼らの望む女の子を魅せて、口説いていったの! そうすればマイとの接点はなくなるわ! 私のマイは、誰にも渡さない!」


 ぎらぎらと目を見開いて、アリアがマイを見る。

 怖い、と、マイが思っていると表情からそれに気づいたのか、アリアがにこっと先ほどの剣幕など微塵も感じさせない優しげな表情で、 


「ごめんなさい、マイを怖がらせるつもりなんてなかったのだけれど」

「う、うん。所で、手を放して欲しいかなって」

「うふふ、だーめ。……でないと、マイは逃げちゃうでしょ?」


 当たり前だ! と心の中で再度叫びながら焦るマイ。

 そんなマイに、更にアリアの顔が舞いに近づいて、陶酔するようにマイを見ながら頬を赤く染めて、


「私、マイの体が欲しい」

「ええ!」

「ごめんなさい。間違えてしまったわ」

「そ、そうだよね」

「マイの心と体が欲しいの」

「悪化しただけじゃん! わ、私は嫌!」


 きっぱりと拒絶を口にするマイに、アリアはしゅんとなって、


「そんなに私が嫌い? 私、マイの趣味から何から全部、懸命に調べて良いお友達を演じていたのに」

「え、あ、う……もう何も驚かないかも」

「それもこれも全部、マイの事、私が本気で愛しているからなの。男という虫どもを近づけさせなかったのも全部それが理由。それくらい大切に守ってきたのに、それなのにマイは私を拒むの?」


 マイはもう勘弁して下さい状態だった。

 何を言われているのかもわからなくなるくらい、頭が一杯一杯だった。

 そんなマイの様子に、アリアがふとほんの少し獰猛さを滲ませてにっこりと微笑んだ。


「キス、していいかしら」

「やめてぇええええええ」

「良いでしょう? マイのファーストキス、私に頂戴? それとも、どこぞの馬の骨とも知れない男か女が私の可愛い可愛いマイの、この柔らかい唇を奪ったって言うの!」

「ちょっと待て、女が何で対象に入るの!」

「マイは可愛いもの! 私以外の女がマイを奪って……」

「無い! 流石に無いから!」


 必死で否定して、マイは話題を逸らそうとした。

 けれど、アリアはそこで優しげな声になって、


「ねえ、マイ、ファーストキス、誰としたの?」

「な、何の話?」

「マイの様子から分るよ? 何年一緒にいたと思っているの?」


 マイはガクガク震える。

 ちなにみにマイのファーストキスは、幼馴染のリオ君だ。

 だが、もしこの状況でアリアにばれたなら……マイは必死になって隠そうとする、と。


 そこで教室の扉ががらりと開かれた。


「ここか! マイ、大丈夫か!」

「リオ!」


 幼馴染のリオがやってきて、マイはほっとする。

 けれどそこでアリアがちっと舌打ちをして、そのままマイの唇を……奪えなかった。


 走ってきたリオに、間一髪でマイとアリアは引き裂かれた。

 助かったと、リオ、ありがとうとうと涙を流しながらマイが思っていると、そこでリオは怒ったように、


「マイは俺のだ! この性悪女!」

「ふん、性悪男に言われたく無いわ。マイと私の邪魔をいつもして。色々裏でやっている事マイにばらしてあげるわ!」

「へー、俺もお前の悪行を沢山知っているがどうする?」


 ふふふふふ、と暗く笑いあう二人。


 だが待って欲しい。


 マイの知っているリオは、もっと陽だまりのような裏表の無い優しい人物だったはずなのだが……こんなふうに、どす黒く笑ったりしないはず。

 というかこんなリオをマイは見た事がなかった。


 嫌な予感が、真夏の入道雲のようにむくむくと湧いて、疑惑が夕立のようにマイの中に降ってくる。

 

 おかしい。

 何かがおかしい。

 そう、とってもおかしくて……そう、顔を青くしているマイに、そこで二人はくるりとマイの方を向いた。


「ほら、私のマイが怖がっているじゃない。もっといつもみたいに優しそうな仮面をかぶれないわけ?」

「いや、お前のその表情の方が怖いんだろう、俺のマイは。お前もいつもみたいに借りてきた猫みたいに大人しそうに出来ないのか?」

「あら、私のマイだってば、嫌ね、これだから腹黒男は」

「ほほう、俺のマイだって。本当にこれだから陰険女は嫌だな」

「「ふふふふふふふふ」」

 

 その二人を見てマイはそろそろと逃げ出した。

 この二人に関わるのは危険だと、本能が告げていた。

 だが、伸ばされた二つの手に、マイは襟首を捕まれる。

 そしてそのまま二人に両腕を捕まれて、


「「それでマイはどちらを選ぶ?」」

「いっいやぁあああああああああ」


 火事場の馬鹿力というべき力でマイは逃げ出した。

 そしてそれを、リオとアリアが追いかけてくる。


 それを全速力で必死に逃げながら、マイはどうしてこうなったんだろうと思う。

 流石にこの展開は無いよ! という思いと、これから私、どうなっちゃうんだろうという思いにかられるも、それよりは恐怖の方が先立つ。

 逃げろ、逃げるんだ私。

 心の中で何度も念じながら、マイは必死で逃げる。

 

 それが全ての始まり。

 そしてこれを機に、傍観者のようなマイを主役とした、学園ラブコメ略奪戦争が始まるのである。




{おしまい}

 

ついかっとなって書いた。後悔はしている。花粉症と風邪のダブルノックアウトで、暴走したみた。

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[一言] 素晴らしい! XD ヤンデレはやっぱり美味しいよなぁ。 リアルに出会うと怖いですけどね。友達は元同級生の女の子に何が欲しいかと尋ねて「あなたの綺麗な目玉がほしいの」ってマジ顔でいわれたのが…
[一言] 続きが読みたい わりと本気で
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