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Scene2-2



 ジュリは、やや納得した様子で帰っていった。すごく心苦しい。長年思い続けてくれていただけに、それを断るのは相当悪者になった気分だ。フッた自分が言うのもおかしいけれど、僕も同じような恋愛をしているから、彼女の気持ちは痛いほど分かる。おそらくしばらく口を聞いてくれないだろう。


 家に入った時、忘れかけていたことを思い出した。ハイネだ。ハイネはどうしたのだろうか。


 さっき連絡を取ってからもう随分時間が経っている。今頃来ていないとおかしい。


 (もしかして――)


 彼がこっちに来たところで、僕がジュリといたところを見られてしまったのではないだろうか。しかも運悪く、キスしていたところに遭遇してしまっていたら――。


 (――ハイネッ!)


 考えるよりも先に動いていた。まずはハイネの携帯に掛ける。案の定、ハイネは出ない。


 (くそっ…)


 僕は携帯を投げ捨て、家を飛び出した。彼を失いたくない。おそらく、ツンデレで嫉妬深い彼のことだから、もし見ていたのなら、その場を引き返して逃げ出したに違いない。それじゃなければ、今の状況は生まれない。


 (ハイネハイネハイネ…っ!)


 凍りつく寒い夜空の下、心の中で彼の名を反芻しながら走る。とりあえず彼の行きそうな場所を巡り、見つからなければ他の場所を手当たり次第探した。本当に必死だった。早く見つけて、彼を抱き締めたかった。


 1時間ほどかかり、ようやく彼の姿を発見した。そこは、幼少時代、よく遊んだ小さな空き地だった。締め付けられていた心がやっと解放された気がした。


 月光下、ほどよく手入れされた草むらに、膝を抱えて座り込むハイネ。その姿はひどく小さく、か弱く見えた。僕は一目散に駆けつけ、後ろから抱きついた。ハイネはビクッと身体を震わせた。


 「……あ、きら…」


 「ハイネ…! ああよかった…!! 見つからなかったらどうしようかと…っ」


 僕の言葉に、ハイネは黙りこんだ。どうやら僕のことを疑っているらしい。


 対して僕は、抱き締めている人に愛しい気持ちが込み上げてきて、もう抑えきれなくなっていた。



 「――…好きだよ」


 いつの間にか口にしていた。いつも言っている言葉なのに、無駄に感極まってしまう。


 「好き、好きなんだよハイネ…」


 僕は彼の身体を強く抱き締める。もう絶対に逃がさない。


 「……だから、もうどこにも行くなよ…」


 「…るさいっ!」


 「ハイネ…」


 ハイネの声が震えていた。今回は本気で怒っている。それでも僕は怯まず、とりつかれるように彼の服の下にかじかんだ手を滑り込ませた。


 「ハイネ……」


 彼の肌は柔らかく温かい。触れていると、すぐに自分の手も熱くなってきた。僕の脚の間に座る彼は、次第にハアハア言い出し、じれったそうに躰をよじった。


 「や、め…」


 「ないよ? ハイネ…こっち見てよ」


 ハイネはさっきから僕を見まいと意地になっていて、顎に手を当ててこちらに向かせようとしても、断固として受け入れてくれなかった。


 もどかしい。早く自分の気持ちを伝えたいのに、生まれた誤解が邪魔をする。


 「……っ」


 「ハイネ…どうして素直になってくれないんだよ…」


 「俺は素直だ! おまえの方こそ素直になった方がいいんじゃないか!?」


 「…どういうことだよ」


 「見たんだよ。おまえが他の女と楽しそうに抱き合っているところを。ついこの間は顔を真っ赤にしながら俺にあんなこと言ってきたくせに……ずいぶんと気持ちの切り替えが早いんだな」


 「……」


 やっぱり見られていたのか。僕は下を向いた。申し訳ないと同時に、一刻でも早く誤解を解かなければと焦燥にかられてしまう。


 「……やっぱり女がいいよな。こんな、ジグザグしている俺よりも」


 違うんだ、ハイネ。僕が好きなのは君しかいない。


 「俺なんかに抱きついてないで素直に向こうに行けよ。俺は構わないから」


 ハイネの声が泣き声になる。振り払われそうになったけれど、本心で言っていないのは誰にでも分かる。


 「行けったら!! このまま抱きつかれても俺が困るんだよ!」


 泣きながら言われても、説得力がない。お願いだから信じてほしい。君以外、僕に行く宛なんてないんだから。


 「ハイネ……僕はどこにも行けないよ」


 僕は、興奮して泣きじゃくるハイネに優しく囁いた。もう絶対に離したくないから、ハイネが動けなくなるくらいに抱き締める力を強める。


 「何で…っ」


 「ハイネ…泣いてるもん」


 「……え」


 ハイネはそこでようやく自分の状況に気づいたらしく、頬に手を当てていた。


 「…あ…」


 「泣いている君を置いてどこかに行けるわけないじゃないか。それに、さっきの告白は本心だよ。僕は君が好きなんだ…」


 「嘘を吐くのも大概にしろっ!」


 「嘘じゃないっ!!」


 「じゃああの時の女は何なんだよっ!」


 「あれは……」


 僕の従妹だ。


 「あの女と幸せにしてろよ…っ」


 「ハイネ違うっ! 僕はあの子とは何もないし、好きでもない!!」


 「じゃあ、何なんだよっ…」


 ハイネは嗚咽を漏らし、苦しそうに叫んだ。もうこれ以上彼を悲しませたくない。


 「ハイネ……こっちをむいて」


 「嫌だっ…」


 ハイネはムキになっているし、このままでは膠着状態だ。なかなか話を聞こうとしないハイネに腹が立った。


 「…いいから向けよっ!!」


 大声を出したら、ハイネは僕が怒っていると思ったのか、恐る恐る振り返った。ハイネの美しい顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。


 「ハイネ…」


 やっとだ。ジュリのことも含めて、僕は今日で一体どれだけ泣かせたのだろうか。


 罪悪感に苦笑いして、ハイネの滑らかな額にキスを落とした。彼の強張っていた身体は力が抜けて、やっとおとなしくなった。



 「…まず、誤解を解きたい」


 僕はゆっくり言葉を慎重に選んで、従妹との関係を説明した。聞いているハイネは、不安そうに見つめてくる。でもそれもはじめのうちで、僕の話が終わる頃にはホッとした表情に変わっていた。


 「……だから、従妹とは何もないんだよ。いや、さっきのを見てそう言うのは苦しいけれど、でもほんとに、ただの従妹だから」


 彼はもう泣き止んでいた。もうすっかり後ろにいる僕に身体を預けている。


 「…本当か? …信じていいのか?」


 「信じてよ。僕には君しかいないんだから。だいたい、一度も浮気しないで、10年もおまえに片想いしてたんだよ。今さら他に乗り換えられるわけないじゃないか」


 それもそうだな、とハイネは呟いた。ようやく解決してくれて、僕は胸を撫で下ろした。緊張から解放されて甘えたくなって、僕はハイネの躰を撫で回し、首に顔を埋めてキスをした。


 「…好きだよ…」


 「…アキラ……、」


 「欲しいのはハイネだけ。他は何もいらない」


 「…じゃあ何で…ッ」


 「…ん?」


 「じゃあ何で、最後までしてくれないんだよ。どうしていつも、イキきれないところで止めちゃうんだ?」


 「…それは…」


 「俺に何か悪いところがあるのか? それとも俺とはヤりたくない…?」


 「違う…っ!! 」


 再び涙声になりかけているハイネ。僕はいたたまれなくなって、彼を地面に押し倒した。


 「…違うよ、ハイネ…っ」


 「じゃあどうして…」


 「…反対だよ。君に悪いところが皆無なんだ。君の躰はあり得ないほど美しくて、まるで彫刻とか絵のような芸術品に見えるんだ。だからどうしても、最後で怖じ気づいてしまう。でも、逆に、そういう躰を犯してめちゃめちゃにしたい自分もいる。理性と本能の葛藤に、いつも本能が勝ちきれないんだ」


 「……そんな…」


 彼は、月の光でも分かるくらい頬が赤くなった。その表情だって、僕にはたまらない。


 「……そんなヘンな話、聞いたことないぞ」


 「だろうね。だってこれはきっと、ハイネを手にした僕だけの悩みだから」


 「意味分からない。芸術品か何かは知らないけど、俺はそいつらみたいに壊れたりしない。最後までしたところで汚くもならない。いくら綺麗といっても生身の人間だし、おまえが芸術品に見えてしまうのはただの幻だから」


 そう言って、ハイネは僕の首に腕をからめ、僕を誘い込むようにキスをした。瞳の奥にはすでに欲情の色が讃えられ、上に乗る僕を切ないくらいに欲していた。


 「…だから、ね…?」


 ちょっぴり瞳を潤ませる愛しき人に、僕はふと微笑みがこぼれた。満天の星空に包まれながら、どちらからともなく貪るようなキスを繰り返した。


 それは、17歳の冬だった――。






 「…好きだよ……」


 「うん、愛してる」



 透明な光の月だけが、僕らを優しく見つめていた。

一応R-15版はここまでです。

(R-18版で本当の完結となります。)

もともと気まぐれで始めた作品なので、ここまで来るのに丸二年かかりました。

長い間、本当にありがとうございました。


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