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Scene2-1

 僕には、ひとつ年下の従妹がいる。


 名前はジュリ。可愛いし、甘え上手で、小悪魔みたいな子だ。


 僕らの家は歩いて30分の距離にあったから、小さい頃そこそこ遊んでいた。でも、僕の時間は、ハイネがウェイトを大きく占めていたので、従妹に関しては付き合い程度に一緒にいたくらいだったし、それほど興味もなかった。


 しかし、ジュリは幼い頃から僕に好意を寄せていたみたいで、会うと必ず「おにいちゃん、おにいちゃん」とついて回ってきた。僕が他の女の子としゃべっていようものなら、プクッと可愛らしく頬を膨らませ、話に割り込んできたくらいだ。


 あの頃のジュリは可愛かった。まるで本当の妹が出来たようだった。


 今は可愛くないって? いや、そんなことはない。今高校生になって、お化粧とかもするようになって、ますます女に磨きがかかってきた。モデルの女の子よりも可愛いかもしれない。本人は狙ってないだろうけれど、上目遣いで幸せそうに話す笑顔とか、もうそこらの男だったら一瞬でオチるだろう。


 しかし、どんなに可愛くなっても、ジュリに彼氏がいたことがない。性格が悪いわけじゃない。むしろひたむきで好ましいくらいだ。男からだって、両手使っても足りないくらいに告白されているはずだ。


 それなのに一度も彼氏を作らないわけは、困ったことに、ジュリは幼い頃から僕一筋なのだ。いまだに僕にベッタリだし、何度かデートにも誘われた。断りたいけれど、従妹だから逆に断りづらい。まだ告白はされていないから、表向き普通の従兄妹同士だけれど、もう僕のことが異性として好きなのは分かる。この前も、他の男なんて一切興味ない、とか言っていたし。


 可愛くて自慢の従妹なんだけれど、少し困ってしまう。好かれるのは嬉しいけれど、僕にはハイネがいる。というかハイネしかいない。


 このことはまだジュリには言っていない。多分言えないと思う。ましてや男同士だなんてね。




 「…んぁっ…アッ!」


 ある日、僕は自室でハイネを抱いていた。最近はハイネから誘ってくるようになったし、こっちの方は結構順調にいっている。


 「…ア、キラッ……」


 一応フィニッシュを迎え、荒い息をつきながら、汗だくでベッドに横たわる。ほんのり朱に染めたハイネの顔は、こんなときでも美しかった。


 「…ね…ぇ、ア、キラ…」


 依然ハアハアと肩で息をするハイネは、潤んだ瞳で僕を見上げた。


 「な、んで…」


 「…ん、」


 「何で、俺のナカでイってくれないんだよ…っ!」


 「ハイネ…」


 「…俺のこと嫌いか? だから最後まで…」


 「…違うっ!」


 僕は大声で否定する。確かにまともなセックスはしていない。いや、最近ようやくハイネに挿れることは出来るようになったけれど、快感が絶頂になる前で引き抜いてしまうのだ。だから、ハイネとひとつになっている時間は、短い。


 「…違うんだよ……ハイネ…」


 ハイネにこの気持ちは分からないだろう。ハイネのカラダを目の前にしてしまうと、綺麗すぎて固まってしまうと同時に、自分でも抑えられないくらい獰猛な感情が込み上げてきてしまう。理性のタカが外れるとかそれ以上の問題で、それ以上行為を続けていれば、僕はきっと、どうにかなってしまう。ハイネのカラダも傷つけかねない。


 それが怖いんだ。長年好きだった相手だからこそ、余計踏み込めない。


 「…な、にが違うんだよ…」


 ハイネは泣いていた。好きな人を泣かせるなんて最低だと思う。けれど、「好きだ」と言うのが精一杯で、ハイネを悲しませている状況は、何も変えられない。


 こんなことにこだわっているのは僕だけなのかもしれない。新しい自分を見つけることにいつの間にか臆病になっていた。次こそは、絶対にハイネを泣かせないように頑張らねばと、心に決めることしかその時の僕には出来なかった。




 その一週間後、覚悟を決めて、ハイネを誘った。家に来てくれるようメールした直後、インターホンが鳴った。ハイネの家からだとこんなに早くないはずだ。不思議に思ってドアを開けると、そこにはハイネではなく、トレンチコートに身を包んだジュリが立っていた。


 「…え、ジュリ!? ど、どうしたの!?」


 僕が驚いていると、ジュリは切なそうに顔を歪めて抱きついてきた。フワッとジュリの甘い香りに包まれる。


 「アキにぃ…、好き…」


 「ジュリ!?」


 僕より小さいジュリは、背伸びしながら腕の力を強めた。いきなりな展開に、頭がついていかなくなりそうになる。


 「ちょ、ちょっと待って、…落ち着いて?」


 「…落ち着くのはアキにぃよ。…アキにぃ、好きな人いるの…?」


 「…え」


 従妹はまだ離れないまま、すすり泣いた。


 「…だって、だって……、」


 潤んだ瞳で見上げたジュリは、つま先立ちになりながら唇を重ねてきた。切ないキスに僕も心が苦しくなった。


 「…ジュリ!」


 僕は彼女の肩を掴んで引き離した。彼女は少しショックを受けた顔した。


 「…あ…」


 「いきなりそんなことするんじゃないよ。…びっくりするだろ」


 従妹はうつ向いて、押し黙った。しばらくして顔をうかがうと、声を殺して泣いていた。


 「…アキにぃのばかっ…20歳になったら、結婚しようって約束してくれたじゃない…っ」


 「それは小さい時の話だろ。ジュリには僕よりももっと、お似合いの人がいるよ」


 「ううん、いない…、ずっとアキにぃしか好きになれなかったんだから…!」


 「ジュリ…」


 「ねえ、」


 ジュリはその黒目がちな瞳から大粒の涙を滴らせ、怒りに似た声音で問い詰めた。


 「…いつもアキにぃと一緒にいるあの外国人は誰? アキにぃに彼女がいたことがなかったから、いままで気を揉むことはなかったんだけど…でもこの間アキにぃの首に赤い痕がついていたから……誰か好きな人いるの?」


 とうとうこの日が来てしまったか。ジュリには絶対言いたくなかった。僕はため息をつき、苦笑いした。


 「…好きな人、いるよ。そいつはね、僕の大切な人なんだ」


 ジュリの表情が固まった。唇がふるふると震えている。


 「……あいつはね、両親がどちらも仕事で忙しくて、小さい頃から独りにされていたんだよ。口には出さないけど、極度の寂しがり屋なんだ。僕も似た境遇にあったから、お互い孤独を分かり合えた。心の底でいつも繋がってたんだ。気持ち悪く思うかもしれないけど、そいつとはもう離れられないんだ」


 可愛い従妹は、唇を一文字に結び、拭うことも忘れて涙を流していた。ぷっくりと膨らんだ頬には、いく筋もの涙跡ができている。


 「アキにぃ…」


 「ジュリのことも大好きだよ。でもね、それは従妹としてであって、恋愛感情じゃない。でも、大切な人には代わりないから、僕はいつでもジュリの幸せを願ってるから」


 ジュリは声を漏らして泣いた。僕は空いた手のひらで、彼女の頭を撫でた。


 「……ねぇ、アキにぃは、その人のこと、好き…?」


 僕は天を仰いだ。澄みきった星空にふと、暗い金髪の彼が浮かんだ。


 「…好きだよ。きっと、誰もが思っているよりもね」



 

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