表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おまえの手のなかに。  作者: AZURE
Heine
1/9

Scene1






 「好きだよ」


 ――そんな言葉、おまえは誰にでも言っているんだろう?


 「好き、好きなんだよハイネ…」


 やつは俺を後ろからぎゅっと抱き締めながら泣きそうな声で言った。不覚にもときめきそうになる。


 正直、聞きたくない。


 「……だから、もうどこにも行くなよ…」


 「…るさいっ!」


 「ハイネ…」


 ああ、もう大嫌いだっ!


 でもこいつと離れたくない……ジレンマを抱えているとわかっていても、こいつがいないのはもっと嫌だ…。


 「ハイネ……」


 やつの手が服の下に入ってきた。ゾクゾクする。


 「や、め…」


 「ないよ? ハイネ…こっち見てよ」


 やつは俺の顎に手を添え当て、そのまま顔の向きを変えようとしたが、俺は意地を張って抵抗をした。やつの顔なんざ見たくない。


 「……っ」


 「ハイネ…どうして素直になってくれないんだよ…」


 「俺は素直だ! おまえの方こそ素直になった方がいいんじゃないか!?」


 「…どういうことだよ」


 「見たんだよ。おまえが他の女と楽しそうに抱き合っているところを。ついこの間は顔を真っ赤にしながら俺にあんなこと言ってきたくせに……ずいぶんと気持ちの切り替えが早いんだな」


 「……」


 やつは無言のまま俯いた。それが俺の話を肯定しているようで悲しくなった。


 「……やっぱり女がいいよな。こんな、ジグザグしている俺よりも」


 「……」


 「俺なんかに抱きついてないで素直に向こうに行けよ。俺は構わないから」


 違う、本当は傍にいてほしい。だけれど口が勝手に動いてしまう。


 「行けったら!! このまま抱きつかれても俺が困るんだよ!」


 しかしやつは離れないどころか、絞め殺されるのではないかというくらいに強く抱き締めてきた。まるで脱走した俺を閉じ込めようとするように。


 「ハイネ……僕はどこにも行けないよ」


 「何で…っ」


 「ハイネ…泣いてるもん」


 「……え」


 あわてて頬に手をやると、透明な雫が転がり落ちた。


 「…あ…」


 「泣いている君を置いてどこかに行けるわけないじゃないか。それに、さっきの告白は本心だよ。僕は君が好きなんだ…」


 「嘘を吐くのも大概にしろっ!」


 「嘘じゃないっ!!」


 「じゃああの時の女は何なんだよっ!」


 「あれは……」


 やつは口籠もった。やはり、何かある。俺は泣きたくなった。いや、泣いていたのだが。


 「あの女と幸せにしてろよ…っ」


 「ハイネ違うっ! 僕はあの子とは何もないし、好きでもない!!」


 「じゃあ、何なんだよっ…」


 溢れだした大量の涙は止まらない。時々、涙を止める能力があればいいと思う時がある。どんなに力んでも涙腺は閉まらない。


 「ハイネ……こっちをむいて」


 「嫌だっ…」


 「…いいから向けよっ!!」


 普段温厚な、やつらしくない怒気した口調にビクつき、素直に振り返った。正直、泣き顔を見られるのは抵抗があった。


 「ハイネ…」


 やつはホッとしたような笑みを浮かべ、俺の額にキスを落とした――。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ