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第七話 男子たるもの(前)

 今まで、私、麻井睦美が高校生になったと実感した出来事が三つある。

 一つは高校野球応援、二つ目は、かつて職員室の脇の掲示板に貼ってあった高校生クイズ参加募集のポスター。

 そして三つ目は現在、文化祭――。


 普段はむさ苦しい土木科の教室には、現在、他校の女子高生が列を作って並んでいた。

 なぜ女子高生だと言い切れるかというと制服を着ているからである。

 あ、いいな。あそこの制服、かわいいな。

 現在、土木科のメンバーは鼻の下を伸ばして接客中である。


 私は教室を後にして、フラフラと学校を友達と歩くことにした。

 土木科の出し物、私は関係無いし。

 ――なぜ、こうなったかと言うと話は少し前までさかのぼる。



 あの厄介な中間テストが終わり、何の行事も無くなった私は、つかの間の平和を味わっていた。

 外はもう、秋深まり、風は寒い。もうじき冬が訪れるのだろう。

 そして、テストが終わると待っているのはF工の一大イベント文化祭である。

 今度はホームルームの時間を使い、文化祭でどういった出し物を出すのかを決めることになった。


 正直、私は土木科の連中は大してやる気もないし、どうせ休憩室とかで済ますのだろうと考えていた。

 しかしその読みは甘かった。男たちの目は期待に満ちていた。

 普段、工業高校では女子生徒を見る機会が少ない。ほとんど、男子校状態と言っても言いすぎでは無い。

 しかし、文化祭は違う。普段は入れない工業高校、「男の園」を見ようとこの周りの女子高生が殺到するのだ。

 女子高の文化祭に男が殺到するのと一緒ってわけか。

 そして男たちもここぞとばかりにそれを狙っている。つまり需要と供給がピッタリ一致することになるから、その気合の入れ方は半端じゃない。

「普段、女子と会えねーからな、久々に近くでJK見て心癒さねーと」

 飯島はそういって興奮していた。

 おい、お前の目の前にいるのもJKだぞ。別にお前の癒しになる気はさらさら無いけど。


 授業中に見せたことの無いような白熱した男たちの議論の結果、一年土木科の出し物は「ホストクラブ」に決定した。

 もちろんアルコールは出ないが、食べ物と男子生徒のトークで女子高生を楽しませる。というコンセプトらしい。

 ……よく許可出したな、生徒会。私は、普段は影のうすい生徒会の適当さに少し驚いてしまった。


 準備もまた、文化祭のかなり前から進めていた。

「麻井、化粧道具を貸してくれ」

「化粧?」

 飯島、化粧すんの?

「違うよ、こいつらにやらせんだよ」

 見ると、土木科のオタクグループの何人かが囲まれている。ああ……なるほど。

 土木科にいるのは何もヤンキーグループだけではない。影はうすいがオタクグループも存在している。

 別に教室内にイジメはない。時々、イジられることはあるようだが、不良たちはスキンシップのつもりらしい。つまり価値観の相違である。

 つまり、クラスのオタクを何人か化粧してピエロ役にしたいわけだ。まあ彼らに女子高生を接待できるとも思えないからある程度納得してしまう。……かわいそうだとも思うけどね。

 

 さらに、スーツやネクタイも近くのディスカウントストアで買ってきて、おのおの衣装合わせをしていた。いや、その頑張りを少しは勉強に活かせよお前ら。

 ただ、ファッションや教室内のレイアウトに関しては私も手伝った。どうしたら女子高生の食いつきが良くなるのかをアドバイザーとして協力したのだ。

 また、クラス内でホスト役とボーイ役をそれぞれ男子会議で決定した。つまり自分たちでクラス内イケメンランキングを作ったのだ。そして上位はホスト役に選ばれた。

 うーむ、あっさりしている男子ならではのやり方だ。女子で同じ事をやったらあとが恐ろしい。


 前日、教室の飾りつけなども自分たちで積極的に働いていた。

 男子って、真面目に文化祭とかやらないイメージだったんだけどなあ。ひょっとして、文化祭って男子だけのほうがうまく行くのかな。

 飯島もまた、積極的に動いていた。こいつの場合、ホスト役になったから気合の入り方が違う。

「ようホスト」

「麻井、どうよ俺の格好」

「まあカッコいいんじゃない」

「女の子、俺に惚れるかな」

「知らないよ」


 しばらく、そんなとりとめのない会話をしていたが、あいつは急に真面目な顔になって話しかけてきた。

「麻井……」

「なに」

「俺、源氏名は『ダイスケ』と『ダイ』、どっちにしよう」

「知るかっ!」

 カッコよくても飯島は飯島だった。つまりバカだった。

 

 ――そうしていよいよ、文化祭は本番を迎えることになった。

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