第六話 学問のすすめ
二学期に入り、夏のおもかげは完全に消えてしまい、秋さながらとなってきた十月、県立F工にも中間テストが迫ってきた。この頃になると土木科の人間ですら、今までのサボりっぷりがウソのように、みんな必死になる。
そう、『必死になる』のだ。しかし、その必死さがどこに向かうのかは人それぞれである。
麻井睦美のように、テストの出題範囲を必死で勉強しなおす人間もいる。しかしこれは土木科では少数派である。
土木科には、むしろ飯島大介のように、せっせとカンペ作りを始め、もしもの時のためのカンニングに必死になる人間の方が多かったりする。
――何にせよ、テストに向けて準備は進む。
「……マズい、どうしよう」
私は焦っていた。今度の試験のテストの出題範囲が広すぎて勉強が追いつかないのだ。しかも大の苦手の専門科目が。
そもそも土木科には普通科目と専門科目が存在する。
普通科目とは、よくある「国社数理英」のことだ。これに関しては、普通高校より範囲も狭く、勉強することも少ないため私にとっては問題ではない。
今焦っている専門科目とは、「土木科」の勉強である。例えば、「測量」とか「土木力学」とかいった具合だ。これはさっぱりである。どんな勉強かと言われれば、まあテストのたびに数学の公式を多めに覚えることになると思って欲しい。
たとえば、「土木力学」ってなにそれって感じである。
【例題、ダムがこれくらいで、放水口がこれくらい、ダムの放水量は一時間にどれくらいか。】
いや、知るか。というかその仮定はなんですか。たしかに土木っぽいけど。
これに圧力だったり、なんとかの定理などが加わるのだ。とても話についていけない。
そもそも私は土木科志望ではない。つまり土木科の授業には正直興味が無いのだ。
しかし、土木科に所属している以上はやらないわけにはいかない。私はこのときほど土木科にいるのがイヤなときはない。
正直、何度もカンニングの誘惑に襲われていた。が、それはしないと心に決めている。
親には「バカでもいいから正々堂々として不正をするな」と教わった。
それを破ってしまっては私の今までの人生否定である。だからこれからも堂々としている。
それが私の信念なのだ。
バカといえば……飯島はどうしてるのだろうか。ふと、私は裏を見てみた。
「……マズい、どうしよう」
俺は焦っていた。今度の試験のテストの出題範囲が広すぎて、カンペが追いつかないのだ。
たとえば、「土木力学」って何それって感じだ。
しかし、これ以上赤点は取れない。留年は流石に困る。
親には「バカでもいいから留年だけはするな」と言われた。
それを破って留年するほどのバカ息子にはなりたくない。バカでも勉強が出来ないだけのバカであればそれで良い。
それが俺の信念なのだ。
ん? 麻井がこっちを見ている。なんだ、心を読んで俺に惚れたか?
まあいいや、これ聞いてみよう。あいつならきっとわかる。そうに違いない。
「麻井……ベルヌーイの定理って何?」
飯島め、カンペ作ってるヒマがあるなら勉強しろよ。私だって結構必死なのに。
とは言わずに教えてやる。こいつ理解できんのかなあ。
「わかった?」
「……」
わかってないな、こりゃ。
「飯島、ちゃんと勉強しなよ」
「大丈夫、次のテストから本気出す」
「出す気ないでしょ」
お前、夏休み三日前からスパートかけるタイプだろ。
ホントに大丈夫なんだろうか。
「飯島、留年しても二年の教室、遊びに来てもいいからね」
「待て待て、勝手にダブらせんな。何、優しくなってんだよ」
「だって飯島、バカなんだもん」
「しみじみ言うなバカ。一年で留年なんか誰がするか」
「四点王が何を言う」
「……麻井、バカにしすぎ。俺だってやるときはやるの」
珍しく真面目に怒られた。うーむ、ちょっとバカにしすぎたか。
その後、テストで飯島は、持てる知識とカンペをフル稼動させてなんと赤点を一つも取らなかった。
ま、カンペはどうかと思うが。
あと、非常にどうでもいいことではあるが、その後、しばらくあいつは私と口を聞いてくれなかった。
……はい、反省してます。言い過ぎました。
その後、購買部に、弁当を選んでいる男子生徒と、その後ろで財布を持って待機している女子生徒の姿がありましたとさ。




