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第五話 そのうちなんとかなるだろう

 入学して五ヶ月。麻井睦美は今、最大の危機に瀕していた。


 そもそも世の男性諸君に言っておきたいのは、女性と男性では求めるものが違うということである。

 うちのクラスにも自分の身長を気にする男子がいるが、そこまで気にしなくても良いと思う。

 男性が、女性の価値を胸で決める人と決めない人がいるように、女性もまた、身長が低いのを嫌う人とそうでない人がいるのだ。むしろ気配りや優しさが欲しかったりする。

 あ、顔に関してはお互い様だと思う。男子がカワイイ女の子の事を好きなように、女子もまたイケメンが好きなのだ。えーとつまり、ここまでの説明で何が言いたいのかと言うと――

「あれ麻井、お前少し太った?」

「……」

 ――男子が思っている以上に女子は自分の体重を気にしているのだ。


 季節は秋。食欲の秋。


 あんなに長かった夏休みもひぐらしの鳴き声とともに終わりを迎え、二学期がやってきて早くも二週間。今現在、私は再び一日の大半を土木科で過ごす生活を送っている。

 ただ、一学期と少し違うのは、夏休みにゴロゴロした生活を送り、夏服をもう着る機会も少ないと油断した私のお腹はちょっとばかりヤバいことになっていた。ちょっとね。

「……は? 何? 悪い?」

 私は大人気ないとは思いながらも強い不快感を表明し、二学期に入っても飯島大介はバカであるとの認識を改めて示した。ほんちょっととはいえ、相手はバカとはいえ、その発言は許しがたい。 

 一学期のわずかな期間で、飯島はもはやバカの名を欲しいままにしていた。

 夏休み直前の期末テストでは四点を叩き出し、クラスの一部から『四点王』の異名が付けられた。

 飯島本人は「おお、俺、四天王か」と、わけのわからないことを言っていた。仮にお前が四人いたとしても十六点で赤点に変わりは無いと思うが。


「え、あ、すまん」

 飯島も地雷を踏み抜いたことに気づいたのか、珍しく平謝りをしてきた。

「別にいいよもう」

 ダイエットとして朝食を抜いているせいかイライラしやすくなっているようだ。

「でも、あれだぞ? ちょっとムッチリしてても男はその方が良かったりするぞ」

 私としても胸が大きくなるのは別に構わない。ふとももムッチリもある程度までは許可しよう。

 問題は腹である。今の状況だとウエストだけわがままボディになってしまう。なぜ肉はおなか周りからつくんだろう……。


 腹の虫が鳴き続けるものの、授業は真面目に受ける。そしてようやく、あと一時間で昼休みというところまで漕ぎ着けた。

「あーおなかすいたー……」

 でも結構限界である。

「朝飯は食ってこなかったのか」

「うん」

「え、ひょっとして、麻井の家、水道とか止められてんの?」

「おい」

 なんでそうなる。どこまで私は貧乏キャラにされているんだろうか。

「今から早弁すんのに買いに行くけどついでに買ってきてやる?」

「授業サボるの?」

「おう。ぶっちゃけ、メシ抜きよりも良く食って、良く運動するほうが良いと思うけど」

 ……バカのくせに正論だな。それが出来たら苦労はしない。

「あと、男って女が思ってる以上に、お前らの体重気にしてないぞ」

「……」

「正直それが何って感じ。よっぽどじゃない限りは気にしないって。第一聞いた事あるか?『俺、体重43キロ未満の女の子じゃないと付き合わないんだよね』みたいな会話」

 確かに聞いたことは無い。このクラスでも、他の学科の誰はかわいいとか、胸がデカイとか、足が太いとかは聞いた事はあるが、体重そのものに対する意見は聞かない。

「……」

「食っとけって」

「……飯島、何を買いに行く予定?」

「牛丼」

 思わず噴出してしまった。ダイエット中の女子高生に牛丼を食べさせようとするんだから良い度胸だ。

 あまりにもバカすぎて、つい言ってしまった。

「飯島、並み盛り」

 飯島はいつものヘラヘラ顔で聞いてきた。

「卵はいるか?」



 昼休み。土木科の教室に夢中で牛丼を食べる女子高生がいたとかいないとか。


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