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第三話 ある横殴りの雨の日の午後

 ある横殴りの雨の日のこと

 私が玄関から出ると、そこは大雨だった――


 ……勘弁してほしい。またか、また雨か。意味が無いとわかっていても空を睨まざるを得ない。

 麻井睦美は、恨めしそうにどんよりとした空を見上げて、これから乱れるであろう髪を撫で付けため息をついた。

 季節は今、梅雨真っ盛り。


 私こと、麻井睦美が県立F工に入学し、もう二ヶ月以上が過ぎた。他の学科の数少ない女子とも、クラスの男子たちともそれなりに打ち解けた毎日を送っている。

 大変結構である。

 だけど、ここ二週間ほどは話が別だ。正直、雨というだけで私は学校に行く気を無くす。

 第一、夏服に代わったが意味があるのだろうか? かえってシャツがベトベトくっついて鬱陶しい。

 ……しっかし今日の雨風は酷いなあ。バスにすれば良かったかな?

 横殴りの雨の中、逆さまになった傘の骨を直しながら私は一人後悔していた。 


「だああーもう」

 乙女にあるまじき声を上げつつ教室に飛び込む。何事かと驚いたクラスメイトの視線が私に集中していた。私、今ずぶ濡れで髪とかぐしゃぐしゃなの。文句ある?

 他の男子どもも事情は同じようで、タオルで頭を拭いている。中にはドライヤーやヘアアイロンを持ち込んでいるのもいる。初めてその光景を見たとき、私は、男も髪型には気をつけてるのかと妙に感心してしまった。とりあえずその男子からアイロンを借りて髪を乾かしているとあのバカな声が聞こえてきた。

「いーやまいった、なんだこりゃあ」

 どうやら、同じくずぶ濡れになった飯島大介が到着したようだ。確かあいつは自転車通学だから濡れ方は私の比ではないだろう。早速、私がいるのもお構いなしに濡れたシャツを脱ぎ始めた。


「麻井、お前終わってからで良いから俺にドライヤー貸してくれ」

「別にいいけど」

「お、シャツ濡れてブラ透けてるぞ」

「うるさい見んな、口に出すな」

 こればっかりは普通にしていても透けるときは透けるから、しょうがないと言えばしょうがないのだが、決して見られて気持ちが良いものではない。とりあえずタオルを羽織ってガードする。


 授業が始まっても、男連中は大体ワイシャツを干してTシャツになっていた。それどころか上半身裸になっているのが何人かいる。教室の裏のほうは現在、物干し置き場となっていた。普通、校則違反なのだから教師は注意すべきなのだが見てみぬふりをしている。まあ気持ちはわかるけど。不良連中に服を着ろと言って素直に聞くとも思えない。現在ジャージに着替えている私にとってみれば実に羨ましい。

 いいな、私も一人ならやってみたいのに。そう一人の時なら。こいつらにサービスする義理はない。


 今日の昼休みはいつもと違った。購買部の混み具合が尋常じゃない。

 昼休み、本来なら近くのコンビニに行く男子生徒まで購買部に殺到したため、一階の購買部には昼ごはんを求めて黒山の人だかりが出来ていた。

 これって昼休み終了までに買えないんじゃない? 残ってても菓子袋一個とかじゃ困るんだけど。

 押し合いへし合いで殺気立った三年生たちを見て、すっかり戦意を削がれた私のもとに、同じく昼食を買いに来た飯島がやってきた。

「なにやってんの、お前」

 なんていいタイミングで。こいつに買わせてしまおう。

「いいじまー。パン買ってきてー。おにぎりでもいいからー」

 めったに出さない猫なで声で話しかける。こういうときこそ、女のか弱さを最大限見せ付ける機会である。

「しょうがねーな」

 声をかけた時点で飯島もそのつもりだったのか快く引き受けてくれた。うんうん、やはり女は顔と愛嬌である。男は知らない。 


 しばらくして、人の波の中から飯島が出てきた。

「ほらよ」

「グッジョブ、飯島」

 ……しかし、ぽっけモンパンとはどういうことだ。

「それしか無かった」

 見ると飯島も同じパンを持っていた。そうか、それしか無かったか。買ってきてもらって文句をいうほど私はイヤな女ではない。私は素直に礼を言った。


 午後の授業終了後、その頃には雨もすっかり弱くなっていたので私はのんびりと帰り支度をしていたのだが、ふと自分の椅子の背後に何かくっついているのを発見した。何気なく見ていたが、あることに気づいた。

「あ、これぽっけモンパンシール」

 ぽっけモンパンについてくるおまけのシール。おそらく、授業中に裏の座席の飯島が悪戯で貼り付けたのだろう。精神年齢が小学生並みのあいつならやりかねない。


 おのれ……私は即座に反撃することを決意した。


――翌日、飯島大介の椅子にも同じぽっけモンシールが貼り付けてあったのはまた別のお話。

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