第十一話 何でも積もれば山になる
冬。雪は降っていないのに犬は喜び庭かけまわり。私は自宅のこたつで丸くなる。
座布団をまくらにして、こたつを布団にして。
麻井睦美、十七歳。色気のかけらもなく冬休みライフを満喫中。
テレビには地元の高校をでた大学生ランナーが走っている。
国民的行事とも言えるレースのランナーに選ばれた我らが郷土の星は、残念なことに、さっき順位を落としてしまった。
決してスポーツおたくなわけではないが、冬休みになるとスポーツを見る機会が増える。冬休みといえばやはり箱根駅伝は外せない。別に興味は無いが何故か見てしまう。現に今も見ている。
スポーツっていうのは、きっとたまに見るから面白い。高校サッカーや年末の格闘技とかはまさしく、たまに見るから面白い。
これだけ冬にスポーツ目白押しなんだから、せっかくだし冬にも甲子園をやればいいのに。
もったいない。
もったいないと言えば、あと少しで冬休みも終わりか。
神社にお参りに行って、お婆ちゃんの家でお年玉もらって、テレビをみんなで見る――
工業高校に入学しようとなんだろうと一年の始まりなんてものは、やはり平凡であった。まあ変わるって思ってたわけでは無いですけどね。
しかしもうすぐ学校ですよ。学校。
あー、もうちょっと休んでたいな。北海道の人が羨ましい。私、冬だけ北海道民になろうかな。
そんなありきたりな現実逃避をしながら、彼女は身体をのばすように、こたつの上で冷ましておいた紅茶に手をのばした。
冬。――新学期まであと四日。
あんなに待ち望んだ冬休みはあっという間に終わり、高校に通ういつもの日常が戻ってきて早二週間。テレビも少しずつ特番をやめてきて、冬の新ドラなんかも開始し始めていた。
当然のように何事も無く高校の新学期は始まり、昨年と何も変わらぬ日常が待っていた。
この学校は工業高校のため、三年生の大一番であるセンター入試もあまり関係なかった。大学や専門学校など進学を考えている人はみんな推薦で行ってしまうらしい。
センター前日の日も、普通高校だったら殺意が芽生えている先輩がいてもおかしくないくらいに、この高校はいつもどおりの騒がしさだった。
いつもどおりと言えば、始業式の日に
「冬休み最終日に隕石が振ってきて学校が無くなれば良かったのに」
なんて小学生的な発想が出てきている飯島大介の脳みそもまた、新年になっても変わらなかったことを私は確認した。
そんな変わらない日々のとある昼休み、これまたいつものように私がお昼ごはんにしようとすると
「麻井、今日購買?」
裏に座る飯島が相変わらずヘラヘラと尋ねてきた。あれさっきまでいなかったのに。
「ん?お弁当だけど」
するとこいつは目をキラキラさせながらたずねて来た。
「おお、弁当?……お前が作ったのか?」
そういう子もいないわけじゃないが、大抵の女子は親に作ってもらっている。
当然じゃないか。料理が趣味とかならともかく、普通朝早く起きて自分の弁当作ろうとは思わない。
「違う違う、お母さんに作ってもらったんだよ」
「ああ、だろうなあ」
でもそういう風に『お前はそうだろうな』的な言い方はイラッとするのもまた事実である。
どうして一部の男は女の弁当は大体自分の手作りだと思うのだろう。何の見すぎなんだ一体。
ま、世の中知らなくて良い事もある。そういった男子に
『人によっては彼氏の弁当を親に作ってもらって自分の手作り扱いしている子もいる』
とか言ったら女性不振におちいるやら私が嘘つき呼ばわりされるやら。いや、違うな。その子の女子グループから私がハブられるだけか。
「何?たまには購買じゃなくて家から持ってきたの。悪い?」
「いや、悪いとかじゃなくてさ」
「手作りじゃなきゃ持ってきちゃいけないの?」
「いや、ちが、そうじゃなくて、弁当なんだなーって」
「たまにはね。最近購買ばっかし」
「あーなるほどー」
なんだこいつは。言いたいことがまるでわからない。
「で、それが何?食べたいんだけど」
「俺、今日弁当忘れてさ」
「……」
あ、なんか言いたいことがわかったぞ。多分。
飯島はクラスの誰かが貸してくれたのだろう弁当箱のフタを出してきた。上には何人か恵んでくれたのかご飯やらオカズやらが置いてある。
あーなるほど教室にいなかったわけだ。
「なんかくれないかなーって思ったんだけど……」
「……」
とある男子生徒の即席弁当に新しくウインナーが二つ増えたのはまた別のお話。