八度目の婚約破棄の真相
『ツェツィーリエ公爵令嬢!お前とは婚約を破棄する!心配せずとも辺境伯にでも嫁ぐがいい!』
そう宣うのはこの国の王子である。
『これで 度目だ?』
『もう… なんじゃないか?』
『公爵 宰相… なんだろ?』
ゼフィロは持っていたグラスを給仕に渡し、ざわざわとする会場をあとにした。
『王子が婚約破棄をしたぞ』
ざわりとする応接室。
そこには数人の人物が各々歓談をしていた。
彼らは辺境伯の子息である。
パーティなどに呼ばれることはあるが辺境故に王都の貴族には見下され、会話もそこそこになり壁の花ならぬほぼ壁になってしまう。
そこでとある人物が辺境伯専用応接室を作り、皆そこで思い思いに過ごせるようにした。
爵位はそれなりにあるのだ。しかし、王都の人々は辺境だからと嘲笑う。
毎度毎度王子が婚約破棄ばかりして辺境へ嫁げと言うが辺境伯の子息たちは誰かが心配せずとも婚約者がいる者はいる。
毎度押し付けないでくれ。
『8回目だろ?いい加減気づかないかな』
『この国大丈夫か?』
ここにいる辺境伯の子息らは皆、隣国との小競り合いを生き抜いている猛者である。
ある者はその肉体で。
ある者はその頭脳で。
そしてこのように設けられた場で互いに繋がりを持ち、協力し合い自領の民を守っているのだ。
『相手の婚約者の父親の青スジがやばいから逃げてきた。
ま、流石のこの騒動で王子は廃嫡濃厚になるだろうな。
チラリと見たが陛下もやばい顔してたし…
第二王子派もこの前から準備してたから時間の問題だろうな。』
いい加減廃嫡は濃厚だよな〜なんて笑い合っていたが
『『もうしわけありません!!ご子息様方!至急お戻りを!!』』
給仕が2人、飛び込んで入ってきた。
『アーサー様ご婚約者様に王子が…』
アーサーはここでは年長者(22歳)である。
アーサーの婚約者は王子の最初の婚約者で、
辺境に嫁げと言われた令嬢アデリアーナである。
来月には結婚式を挙げる予定だ。
ちゃきり。アーサーの剣がもう抜かれそうである。辺境一の武闘派なので覇気がすごい。
ゼェハァする給仕をそのままに風のようにアーサーは消えた。
他のメンバーもいつの間にかいなくなり、給仕の息が整った頃には誰もいなかった。
『アデリアーナ…私を忘れずにいたからこんなに美しくなったのかい…?
安心しておくれ。君のためにツェツィーリエとの婚約は破棄したよ』
アーサーが扉を開けた時には王子がアーサーの婚約者アデリアーナを口説いているタイミングであった。
アーサーは覇気を出してもう臨戦態勢である。
あ、これ血を見るな…と会場にいる誰もがそう思った。
『王子…私…』
アデリアーナは扇で顔を隠すと
『私は王子のためでなくアーサー様のために着飾っております。
今回だって結婚前のご挨拶に。とアーサー様と参りましたの。それに』
ーーーころころと心変わりするような軽い王子とは一生は添い遂げられません。
鬼神の形相で今にも抜刀しそうなアーサーに振り向くと
『アーサー様。私、少々気分が悪くなりましたの。帰りましょう。』
そっと手を出して2人仲良く会場を後にした。
フラれた王子は銅像のように固まったままである。
辺境伯子息達も抜刀しかけたアーサーを止めるべく色々構えたところだった。
バルトやクルト、ディオンらの婚約者はかつての王子の婚約者である。
騒ぎに乗じて一発は喰らわせたかったと思う。
ちょっと殺傷能力の強い武器だったのを見逃さなかった。
そこへ王が到着し、
『王子!……お前は廃嫡だ!
毎度毎度令嬢との婚約を破棄しおって…今回という今回は許せん!
お前も辺境へと送り、迷惑をかけた代わりに辺境にて無償で働け!』
辺境辺境うるせえな。辺境の何が悪い。
少々ゼフィロはイラッとしてしまった。
王子はショックで青白い顔のまま、ふらふらとどこかへ行ってしまった。
誰も、追う者はいなかった。
重苦しい空気の中歓談は再開されたが、悲喜交々…ゼフィロも会場を後にした。
『令嬢、こちらをどうぞ。』
と、先ほどから婚約破棄で涙を流している令嬢にハンカチを渡して。
『『『乾杯!!!!』』』
辺境伯子息専用の応接室にはアーサー、アデリアーナ、バルトなど各々の婚約者が乾杯を始めていた。
そこには廃嫡を申しつけられた王子もいた。
『ようやくだな!ったく、あのジジイ2回目か3回目で見切りをつけりゃいいのによ…』
『皆にはすまないと思っているよ。本当にありがとう…』
先程まで切るか切られるかの相手だった王子とアーサーが仲良く乾杯をしている。
『婚約者って言われても正式な書面を交わしてないのすら気づかない王様もどうかとは思いますわ…』
アデリアーナはやれやれとため息をついていた。
王や宰相、王都の人々は王子と辺境伯子息達がとても仲がいいのを知らない。
王都の人々は辺境だからと言って辺境伯や辺境に住む人を軽視する傾向がある。
王子だけが、辺境伯やその子息、民が王国を守っているのだと知っている。
彼らと協力し王都を栄えさせる一端を担ってきた。
その腐った人々と一緒になりたくない。
できるなら、廃嫡されてでも民を守る盾になりたい。
そうして王子は自ら辺境伯子息専用の応接室を用意し、彼らと交流を深めていった。
そしてある時、1人がこう言ったのである。
婚約破棄騒動を起こせば廃嫡にでもなるんじゃね?と。
隣国で婚約破棄騒動を起こして廃嫡になった王子がいるらしい。
とはいえ、破棄するためだけに婚約者を用意するのも相手に悪い…
どうしたものかと悩んでいると、鶴のひと声ならぬご令嬢の一言。
『私と婚約をすれば良いのでは?』
婚約に細かな制約は無く、婚約した!と、言ってしまえば婚約は成立する。
王族も例に漏れずである。杜撰すぎるが。
アーサーの婚約者、アデリアーナはそう言って、初めの婚約破棄された令嬢を見事に演じてみせた。
しかし、一度の婚約破棄では廃嫡にならなかった。
またアデリアーナを婚約させて、婚約破棄というのもおかしい話になる。
またも悩んでいたところに救いの女神、ならぬ救いの令嬢。
『面白そうですわね。』と、バルトの婚約者ブランディーヌ。
そうして、バルト、クルト、ディオン、ゼフィロら他の婚約者と婚約し、婚約破棄騒動を起こした。
ゼフィロで8回目である。
いい加減気づくかと思ったが、王都の貴族たちは辺境へと嫁ぐ令嬢には興味ないのだ。
王族の婚約だというのにザルを越えて枠すぎる杜撰さだ。
『はぁ…何とも思ってないことに涙を流すのも大変ですわ…』
ツェツィーリエがゼフィロの後をゆっくり追って応接室へと入ってきた。
『今回の功労者だな』
ゼフィロがツェツィーリエの肩をそっと抱き寄せると、優しく額にキスをした。
『王子が廃嫡されたのでただのエリオになったし、今後は王都に集まることはないな。』
アーサーがにこやかに言った。
『そうだな。あー!やっと王子の仮面を捨てられる!皆、本当にありがとう』
王子改めエリオはにこやかに笑った。
『次は各自の領地で会合だな。』
『もう当分王都は寄りたくない…』
『わた…俺もゼフィロの元で一から修行だ。』
エリオはこのままゼフィロの住む北の辺境に居を構えて辺境騎士として戦うつもりだ。
本当なら別のところへ行く話があったがゼフィロの妹に惚れたのでここから猛アタックするらしい。
兄としては少々複雑だが。
ーーーこの後、王都は辺境との窓口であった王子がいなくなったため混乱を極めた。
まずは食料。
辺境周辺の食材が入らなくなり、近隣のあまりおいしくない食材しか手に入れられなくなった。
次いで宝飾類
辺境からの質の良い宝石や織物が入らなくなり、貴族の夫人方からかなりのクレームが王家に来た。
人材も不足した。
国を守るために強くなるような辺境地の出身者が志高く王都へと行くことが多かったため、騎士団のレベルはかなり高かった。
しかし、王子廃嫡後辺境出身者が辺境へと戻り、入ってくるはずだった辺境出身者が来なくなったと騎士団長が訴えてきた。
どうにかしようにも辺境と強いパイプで繋がっていた王子はいない。
さらに、王都の人々は辺境なんぞに。というプライドか辺境に頼み込むということもできなかった。
不自然に思った第二王子が秘密裏に調べると兄と辺境とのつながりがたくさん出てきた。
そして婚約破棄の騒動の真意も。
一生裏舞台のまま終わると思ったこの人生が兄の失敗で表舞台に立てたのだ。
と、思っていたことが全て兄と兄の友人たちの策略だったと思い知らされた。
『…知ったところでどうにもしようが…』
独り言が大きく出てしまった。
おそらくこのことは父は一生理解できないだろう。
辺境蔑視の父である。説明をしても無駄に終わるだろう。
『私は辺境で生涯過ごすだろう。生きているうちは国を守ると誓おう』
兄が王都を出る時、話していた言葉がなんとなくわからないでいた。
今ならわかる。王都を捨てたのだ。
捨てられた自分はそこでどうにか足掻くしかない。
国を守るものを嘲笑う王になるな。と。




