表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

転生ヒロインの異常な愛情 ~または私は如何にしてクリアするのを止めて推しのイベント全回収を目指すようになったか~

作者: 希清水音威
掲載日:2026/04/18

ループ五回目 推しを救えないなら、せめて全要素を回収したい

「あー、またこれだ。揺れの異様に少ない馬車。謎に解像度の高い馬糞の臭い……。入学式、何回目だっけ?」


 私は、平民設定にしてはやけに豪華な馬車のシートに身を沈め、窓の外を流れる見慣れた景色――学園の校門へと続く桜並木――を眺めながら、深いため息をついた。


 私の名前はマリア。この世界では「稀代の魔力を持つ平民の出」であり、攻略対象の王子たちに囲まれて世界を救う「聖女」となる運命だ。

 ……というのは表向きの設定。実は前世は、乙女ゲーム「ル・プリミエール」のソースコードをガリガリ書いていた、ただの社畜プログラマーだったりする。


 記憶ははっきりしている。

 デバッグ地獄の最終盤。連日の徹夜で意識が朦朧とする中、大量のカフェインで無理矢理脳を起こしながら、「クリア後エピソードのダミーデータ、後で差し替えとかなきゃ……」なんて考えていたら、気付いたら交差点で、視界が真っ白になった。

 目が覚めた私は、自分の作っていたゲームのヒロイン、「マリア」として、この世界に「転生」していた。

 前世に未練がなかったかと言われれば……そういえばスマホに密かに書いてたゲームの夢小説、あれって見つかったら守秘義務違反になるのかな。それより、中身を見られた時の社会的死のほうが重罪か。いや、もう死んでるのか。

 まあ、死んでしまったものはしょうがない。そう割り切ることにした。


 で、テンプレ展開なら「えっ、王子様たちに愛される逆ハー生活!?」って喜びそうなもんだけど、私の視線はその先にあった。


 私の最推し、悪役令嬢エリザベート・ド・ラ・ヴァリエール様。


「あぁ、今日も神々しい、目が死ぬ。それに、この世界の衣装ってコスプレっぽさがないのよね。やはり神絵師様のおかげ……。私が納期一週間前に土下座して入学イベ制服を描き下ろしてもらった甲斐があったわ」


 昨今の悪役令嬢ブームに乗っとり、プロデューサー(と主に私)の暴走で攻略対象の王子たちより豪華なスチルと有名声優のボイスを引っ提げて爆誕した、美しき氷の薔薇。

 企画会議で「エリザベート様ルートを作れ!」と暴れてディレクターにコーヒーをぶっかけられたのは、今となっては勲章に近い。


 だから、転生した直後は息巻いてたんだ。「ヒロイン(開発者)の特権を使って、エリザベート様を救ってやる!」って。

 全攻略対象をオトすハーレムルートを完璧に踏んで、その権力でエリザベート様の断罪を阻止する。フラグ管理を知り尽くした私なら勝ち確定――のはずだった。


 ……でも。


「……ダメだったんだよね」


 断罪の瞬間。

 いくら王子たちに「エリザベート様は悪くない!」とかばわせても、エリザベート様の瞳には恐怖と絶望が宿り、操り人形みたいに、自分の意思を奪われたように絶望の言葉を叫んでしまう。

 断罪は絶対に回避できない。私の書いたプログラムは、エリザベート様の幸福を実装していなかった。


 画面越しに見てた時は「敗北美、尊すぎて死ぬ……」なんて悶えてたけど、生身のエリザベート様が目の前で壊れる姿は、控えめに言っても地獄だった。

 プログラマーとしてのプライドも、オタクとしての心も、まとめてボキリと音を立てて折れた。完膚なきまでにバキバキに。


 そこから先は、死んだように繰り返した。

 二回目のループ、三回目のループ。

 エリザベート様と友達になろうと試みたこともある。けれど、どれだけ親密になっても、翌日には記憶がリセットされているかのように、初対面のような冷たい目で睨まれる。


「好感度パラメータ、エリザベート様のオブジェクトには定義してなかったもんね……」


 救い方が、わからない。

 愛しているのに、この世界はエリザベート様を傷つけることしか選ばせてくれない。

 こんなことならディレクターを拉致してでもエリザベート様ルートを作らせておくんだった……。


「もう……疲れたなぁ。既読イベントのスキップ機能有効にできないかな」


 何度目かの校門をくぐりながら、自嘲気味に呟いたその時。

 脳裏に浮かんできたのは、これまでのループで見てきたエリザベート様の姿。


 私に泥水をかけた時の、あの完璧に蔑んだ角度の三白眼。


 私の教科書を捨てた後に見せた、少しだけ罪悪感に揺れたように見える眉間。


 扇子で口元を隠し、高らかに私を罵った時の、あの美しく通るアルト。


「……あ。今のシーンのボイス差分、まだ回収してなかったわ」


 私の脳内ブランチがガツンと音を立てて切り替わった。

 救えない? 絶望? 甘かったわ。

 救い方が見つからないなら、この世界が「もう出せるリソースはありません!」って泣きつくまで、エリザベート様のすべてを回収してやればいいんじゃない?


「そうだよ。私はプログラマーだもん。機能を実装するのも、バグを直すのもそうだけど、隅から隅までデバッグするのも仕事でしょ」


 感情の蓋を、論理的に閉める。

 これはもはや、リアルじゃない。私は今から、このゲームの「エリザベート様要素を全回収」するまでの、孤独なテストプレイヤーになるんだ。


 悲しむのは、全エリザベート様要素を回収し終わってからでいい。

 エリザベート様が放つ罵倒の一言、私に向ける蔑みの一ピクセルまで、一粒残らず脳内フォルダに永久保存してやる。


「よし、目標変更。今周回のノルマは……第一王子ルートでの『噴水前での罵倒ボイス差分』の回収!」


 馬車が止まり扉が開く。

 そこには――光り輝く学園の校舎と、そして。

 私を今からいじめるために、完璧な美貌で待ち構えている私の「最推し」。


 私は、にやけそうになる口元を、よだれも出かかっている口元を、怯えるヒロインの仮面で無理矢理隠蔽した。


「それにしてもリアイベ常時供給助かりすぎる……。待っててくださいね。エリザベート様のすべて、私が全回収して差し上げますから!」


 こうして私は、絶望の果てに、狂気混じりの「全回収ロード」へと舵を切ったのだ。

勢いで書いた「悪役令嬢は反省中!」のマリアの中の人の妄想でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ