初めて見付けたあの日から
暖かな春の日差しを浴びて、土煙を起こさない様に、ゆっくりと、慎重に歩いて行く。
ふと、木の上に猫が居たので、そっと撫でようとしたら、「ふしゃあああっ」と威嚇され、爆速で逃げられた。
(猫ちゃん……撫でたかったなぁ)
撫でようとした手を下ろし、溜息を吐きながら、またゆっくりと歩き出す。
目的の場所まで、あと僅か。
私の身長と、殆ど変わらない門をくぐり、体育館へと足を運ぶ。そこには、"並々高校入学式"と書かれた、小さな看板が立て掛けてあり、私は一度、小さな出入口から離れ、手鏡で身嗜みを整える。
お婆ちゃんに無理を言って、何とか許可を取り、初めて入学する、普通の高校。
大丈夫、大丈夫と息を整え、小さな出入口に、頭をぶつけない様に入り、沢山の小さな椅子の、最後尾に座る。
背が高い事は、自覚している。だからこそこうして、最後尾に座ったのだ。
ポケットから、一枚の紙を破らない様に取り出して、自分のクラスを確認する。
『1ーC 鬼乃目 里美』
そっと折り畳み、またポケットに仕舞う。
辺りを見渡すと、沢山の同級生達が、和気藹々と話をしている。
時折りこちらを見ては、直ぐに目を逸らされるけど、何処にも違和感なんて無い筈だ。
念の為手鏡を取り出し、顔を確認する。
(うん、問題無い)
座ったまま、再度ぐるっと、同級生達を見渡して行くと、最前列の真ん中に座る、一人の男子生徒に、目が止まった。
他の同級生達と違い、"違和感"があった。
ここからだと、後ろ姿しか見えないけど、それでも分かる、"違和感"があった。
その"違和感"から、目が離せないでいる。
寧ろ、座ってても自然と、その"違和感"が視界に入るので、どうしても見てしまう。
入学式が始まり、校長先生の長話しが延々と続く最中でも、私はその"違和感"の有る男子生徒ばかりを、見てしまっていた。そして、いつの間にか、入学式が終わっていた。
(あっ、移動しなきゃ)
ゆっくりと壊れない様に、パイプ椅子から腰を上げ、他の同級生達の、後ろを付いて行く。
(1ーC、1ーC……あった)
ゆっくりと扉を開け、中腰になりながら、教室へと入ると、既に居たクラスメイト達が、一斉にこっちを見て来た。
(何っ、何で見て来るのっ)
視線から逃げる様に、腰を曲げながら、黒板に貼られた、自分の席の位置を確認して、おどおどと、窓側最後尾の席に座った。
(机……小さいなぁ)
足を曲げると、"机が"持ち上がってしまう。
仕方無く足を伸ばすと、前の人の椅子に当たってしまったので、机ごと後ろに下がった。
(うぅっ、一人だけ列から外れるぅ)
自然と溜息が、口から漏れた。
誰にも話かけられず、話しかける勇気も出ずに、ぼーっとしながら、教室の扉を眺めていると、なんとあの、違和感の有る男子生徒が、入って来た。
どうやら、クラスメイトだった様だ。
動きを目で追っていると、違和感のある男子生徒が、何故かこっちに向かって来る。
(ええっ!? 何でこっちに来るのっ! もしかして……見てた事、気付かれてたっ!?)
小さな机に目線を落とし、ビクビクと震えていると、足音が近付いて来た。
(怒られるのかなぁ……嫌だなぁ)
「宜しく」
(ふえっ? 今、話かけられた?)
目線を前に持って行く。違和感の有る男子生徒の、威圧感の有る後頭部が見えており、どうやら前の席だった様だ。
(あれっ? 前向いて……私の勘違い?)
きっと、違和感の有る男子生徒は、私では無く、前の席のクラスメイトに、挨拶したのだろう。そう考えると、少し寂しかった。
(でも、気になるなぁ)
さっきの入学式の時ですら、あれだけ離れていたのに、目が離せなかった。それなのに、今度は目の前に、あの違和感が有る。
聞くべきか、聞かざるべきべきか。そんな事を悩みながらも、一月が過ぎ、二月が過ぎ、あっという間に、一年が経過していた。
その間、何もしていなかった訳では無い。
休み時間を使い、あの違和感の有る男子生徒を、そっと屋上から観察したり、スマホで撮影したり、学校終わりには、後を尾行し、家を突き止めようともした。
それらが全て、失敗しただけ。
屋上に居たら先生に見つかり、長々と説教を受けて、違和感をスマホで撮影したのに、画像や動画がブレブレで見えず、何度尾行しても、突然消えたかの様に、居なくなる。
二年の始業式を終え、2ーCに向かうと、一年の時と、クラスメイトは変わっておらず、慣れ親しんだ定位置へと、ゆっくり向かう。
そしてまた、ボーッと扉を眺める。
もう少ししたら、あの違和感の有る男子生徒が、扉を開けて来るだろう、ちょっとした予感。
ガラガラっと扉が開き、"違和感の増した"男子生徒が、ゆっくりと入って来た。
私は直ぐに、目線を落とす。
この一年間、まともに顔を見た事が無い。
足音がゆっくりと、近付いて来た。
「宜しく」
(今度こそは、返事をするんだっ!)
そう思って前を向くが、一年前と同じ様に、違和感の増した男子生徒の後頭部だけが、こっちを向いていた。
(うぅっ、気になるよぉーっ)
誰もその違和感に、気付かない。
気付いているのは、私だけ。
そしていつもの様に、学校が終わると、こっそりと後を付け、また居なくなる、筈だった。
その日だけは、いつもと違った。何故なら、違和感の増した男子生徒が、車に轢かれそうな子供を助けて、そのまま車にぶつかり、飛んで行ったからだ。
(えっ……えええ────っ!?)
それは見事に、飛んで行った。
まるで、違和感の増した男子生徒が、体重など無いかの様に、ポーンとビルを越えて、飛んで行ったのだ。
(助けなきゃっ!?)
私は全力で"道路を飛び越え"、違和感の増した男子生徒が落ちたであろう、ビルの隙間へと突撃して────見てしまった。
(あっ……開いてる)
地面には、まるで衣服を脱いだあとの様に、ペラペラの男子生徒が横たわり、その側には、一体の軟体生物が、"紫色の血"を流しながら、座っていた。
(えっと……えっ?)
「見られたか……」
(あれっ、その声……っ、まさかっ!?)
「鬼乃目さんだよね?」
私がずっと、抱いていた違和感。
男子生徒の後頭部に、ずっと見えていた、誰も何も言わない、"大きなチャック"の存在。その中身が、目の前に居る、軟体生物。
(名前知られてるっ!?)
「認識阻害が通じ無いなんて、何者なんだい?」
(認識阻害って、何それ!?)
「まあ良いや。出来ればこの事を、黙っていてくれるかな? 僕にとってこの星は、とても居心地が良いんだ」
何と言えば良いのか、この数秒の出来事が、頭の中をぐるぐると掻き回し、冷静になる為に、コンクリートの壁へ、頭を打ち付けた。
ゴズンッと壁に"角"が突き刺さり、コンクリートが剥がれるのを見て、無意味である事を悟り、ゆっくりと男子生徒を見る。
「今の……何? えっ、壁が……」
(軟体生物に、ドン引きされてるよぉぉぉっ)
「鬼乃目さん。君は……人間なのかい?」
(違います、立派な"鬼"です。もっと言えば、人喰い鬼です。何て言えないよぉぉぉっ!!)
人間なんて、食べた事無いですけど。
寧ろ食べるよりも、友達として、仲良く出来たら良いなぁって思ったから、こうして姿を偽って、学校に入学したんです。
「その角……まさか、妖怪? 凄いな……妖怪って、実在したんだ」
(その感想は可笑しいっ! 貴方はどうみたって、地球外生命体なのにっ!)
「ふぅ……ようやく傷が治ったよ」
軟体生物が、ニュルンっと男子生徒の皮に入り、ゆっくりとチャックを閉めて、こっちに顔を向けて来た。
「鬼乃目さん。今日の事はお互いに、見なかった事にしよう。その方が、お互いの為だしね」
(それはっ……そうだけど……)
「それじゃあ鬼乃目さん。また明日」
違和感の増した男子生徒がそう言うと、直ぐに姿が見えなくなり、私はそれを見て、ふと、思った事があった。
(宇宙人って、本当に居たんだなぁ)
お互いに、秘密を共有した二人。
宇宙人と、人喰い鬼。
この出来事以降、互いが互いを意識し合い、恋と成る。かどうかは、まだ分からない。
(そう言えば……名前、知らないなぁ……)
はいはいどうもーっ! かみのみさきです。
気分転換に、思い付いた恋愛モノを、書いてみましたが、如何でしたでしょうか?
恋愛? 恋愛なのか? 始まる前ですね。
現実に、後頭部にチャックが付いてたら、間違い無く摘んで下にジィィィっと下ろして、中身を確認するわ。
人喰い鬼と、宇宙人の、ラブストーリーw
しかも学園モノです。
読んで『なんじゃこりゃ?』と思っていただけたら、書いた甲斐が有ると言うモノです。
評価等々頂けましたら、今後の作品作りに、モチベアゲールですので、気が向いたらお願い致します。
ではでは短いですが、またの作品でーっ!




