請負人
時間は午前10時。隠岐はタクシーから降りる。
どの建造物も高い。初めて東京に来た時となんら印象が変わらない。
そのビル群の中でも一際高いビルへ入る。
社員証など普段使わないので、まごまごしつつ、受付を通り、エレベーターをあがる。
本社に来るのは7ヶ月ぶりかと、隠岐は回想する。
A社では、隠岐は請負人と呼ばれていた。普段は支社で店長の補佐をしているが、たびたび本社の重要局面になると招集される。
会議室はすでに盛り上がっていた。対象はすでに来ているようだ。
「あなたたちを信じたから託したのに。その結果がこれなのは信じられない。どうしてくれるんだ。」
声の主は、取引先の方だろう。だいぶ、勢いづいている。
「大変遅れて申し訳ありません。」
隠岐は会議室に入りながら謝る。社員からは安堵の目、取引先の方からは冷たい目を受ける。
「君は誰なんだ。責任を取ってくれるのか。」
「まず、すみません。自己紹介をお願いしてもいいですか?」
取引先の勢いを受け流すように、佐藤は一定の調子で応える。
「そんなことを言っている場合か。私は、岡部。岡部電気の社長だ。」
「岡部さん、この度は誠に申し訳ございませんでした。」
佐藤は姿勢を正し、一礼をする。
「いや、一体どうしてくれるんだ。」
岡部は姿勢をあえて直し、また詰め寄る。
「大変申し訳ないのですが、弁償等はできないんです。規約にも書いておりまして。」
佐藤の言葉を聞き、岡部の顔が赤くなる。
「だからそれをなんとかしろと言っているんだ。」
彼には謝り続けるのが、最善策だと思った佐藤は2時間謝り続けた。できるだけ誠心誠意伝えられるように。毎回の伝え方を変えたり、次の対策(口約束)を行なった。
無事岡部は帰って行った。
佐藤と関わると力が抜けると言われる。彼は問題のある契約や、商品についてをなあなあにする請負人だったのだ。




