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カミラーが目を覚ました時は、彼女は部屋の中にいた。最初に白い天井が見え、静かな空気と妙な違和感に身を起こすと、彼女の目に入ったのは、壁に貼られているアイドルのポスターやウサギ、クマのぬいぐるみが並べられている引き出し、机など、綺麗に整理整頓されている女子の部屋だった。



「ここは...?」



カミラーは一瞬、今の状況を把握しようとしたが、その時、彼女の頭の中に甦った記憶は、自分がある女の子を殺そうとしたその瞬間、急に体が異変を起こし、意識を失ったことだった。確かにそうだった。あのような経験は、カミラーにとっても初めてであり、忘れようにも忘れられなかった。でも、ということは今のこの場所は...


カミラーがそこまで気づいた頃だった。ノックする音とドアノブが回される音ともに、扉が開けられ、一人の女の子が部屋の中に入ってきた。その女の子の手元には、小さなお盆とその上にティーカップが乗せられており、よく見ると、その女の子は予想通り、あの時自分が殺そうとしたあの女性だった。カミラーは彼女と目が合うと横に目をそらした。どうやら、この若い女性が自分をここにつれてきたらしい。


その女の子はゆっくり歩いて部屋の中に入ると、ベットの近くにある小さな椅子の上に座り、トレーに乗せられているティーカップをカミラーのいる方に差し出した。



「これどうぞ」



カミラーは一瞬、普通の人より美しい顔を持つその女の子と目があい、しばらく見つめたが、彼女の配慮が要らないらしく、ティーカップの反対方向に首を回して言った。



「要らない」



当たり前だった。カミラーはこんなもの飲まなくても、すでに元気だったのだ。だが、それよりも気になるのは、やはりあの時なぜ自分が倒れたのかと、この女の子そのものだった。


さっき気づいたことだが、この女の子とは目があってもカミラーは何も感じなかった。今までの人間と同じように、怒りというべき感情だ。不思議だった。今まで人間を見るだけで怒りが込み上げてくる彼女だったが、まるで普通の人間に戻ったかのように、この女の子を見るときは何も感じないのだ。


無論、カミラーは長い間人間社会に紛れ込んで生きていく中で、ある程度自分の本能を押さえるようにはなっていたが、今みたいに何も感じないということはなかった。今の状況はまさに、カミラーにとって今までの常識を覆すようなものだと言えた。カミラーは、もう少しこの女の子を注意深く観察することにした。



「...」



それから、差し出したお茶を受け取らないでいると、その女の子はカミラーに向かって再び話しかけ始めた。



「今は飲みたくないの?」


「......」



カミラーは、沈黙した。これは肯定の意味だった。



「ごめんね。今は何も飲みたくないのに勝手に勧めちゃって。じゃ、後で飲めるようにここに置いておくね」



そう言って、その女の子はティーカップが乗せられているトレーを近くの棚の上に置いた。カミラーはその様子を横で見守る。


そして、その女の子は、再びカミラーがいるベットの方へ見向きを変えると、口を開いた。



「ね、今体の体調はどう?あの時いきなり倒れてて本当にビックリしたんだけど、大丈夫?あと名前は何?私は美口 凛って言うけど、名前聞いてもいいかな?」


「......」



カミラーは一瞬、自分の名前を話すか迷ったが、言わないことにした。そんな余計なことをする必要はない。この女の子と長い付き合いになるとは思っていないからだ。その茶色短髪の女の子は話を続ける。



「えっと、それとあの時一体どこから出てきたの?近くに何も無かったからさ、あの時は上から人が落ちてきたのかと思ってたけど、まだ、それが疑問なんだよね...何か覚えてる?本当、不思議だよね。確か私さ、あの時40代に見えるおじさんに出会ったんだけど、気づけばその人は消えて、あなただけが地面に倒れてた。何かそれについて思い当たるところとかある?もちろん、全然無理なんかしなくていいよ! だってまだ、疲れてると思うし......」



その女の子は、話が終わった後、少しぎこちない表情で笑みを見せていた。だが、カミラーには分かった。この女何かに気づいている。そして、何かを隠している。カミラーはすぐその妙な違和感の原因を探り出した。そして、気づいた。あの携帯か。確かに、この女と最初に会ったとき、この女は右手に携帯電話を握っていて、動画を撮っていた。頭の片隅にまだ記憶が残っている。ということは、この女が自分のことについてどれぐらい知っていて、あのときの状況をどれぐらい把握しているのかは分からないが、大切なのはこの女は危険だということだった。そこまで考えが至ると、カミラーはすぐ次の行動に移ることにした。



「......」


「...?!.」



カミラーは、瞬く間にベットから身を起こし、美口 凛の首をぎゅっと掴んだ。彼女の体は空中に浮かび、美口 凛は何とか首元を締め付けている手を解こうとしたが、圧倒的な力の差によってちっともびくともしなかった。ますます、彼女の顔は青ざめ、息しづらくなっていった。視野がぼやけ、体の力が抜けていく。だが、彼女は最後まで諦めないで気をしっかり保ち、ポケットから携帯を取り出して、その画面を自分を殺そうとする目の前の女性に見せつけた。これは最後の足掻きだった。


しばらくすると、ほぼ意識を失っていた美口 凛の体は、床に落とされた。これは、カミラーが画面の中の動画を見て衝撃を受けたからだった。画面の中には、今日のニュースが流れており、その内容は、今日の午前11時頃、ある都心部の路地裏の中で殺人事件が起き、それらに関して捜査を進めているというものだった。


画面をよくみると、その小路の入り口は立ち入り禁止テープに囲まれ、その周りに記者と刑事たちが集まって必死に取材をしていた。それらを見てカミラーが思ったことは、今まで完璧に隠し通していた自分の存在が初めて世界に知らされることになるという絶望感と怒りだった。


約200年に渡って知らされることのないはずだったが、それが今、目の前のこの女の子によって完全に崩れた。最初は信じられなくて、ただぼーっと動画を眺めていたが、いくら時間が経っても内容が変わることはなかった。現実だったのだ。やがて、ニュースに目を奪われていたカミラーは、床に倒れて痛そうに咳をしている美口 凛に聞いた。



「これは、お前の仕業か?」



だが、美口 凛は顔をしかめながら首を横に振った。



「ゲホッ、ゲホッ、ち...ちがう。私は何もしてないよ。私だってこのニュースを見た時は驚いたんだもん。殺人事件なんって見たこともないし...これが私と関係していると知ったときは、本当に驚いた...」



話が終わった後、カミラーは美口 凛の顔を眺め、彼女の言っていることが真実かどうか確かめた。気配に変な歪みがないのを見れば、どうやら本当のことを言っているらしい。だが、同時にカミラーは、この女をこれからどうすればいいのかについて考え始めた。どうせ今この女を殺したところで、今のこの状況が大きく変わることはない。無論、自分の秘密を知っているこの女をこのまま放置するのは危険で、先に殺しておいた方がいいかもしれないが、世間に自分の身がばれたこの時点では、自分に協力してくれる存在が必要だった。さらに、この女は自分が怒りを感じない唯一の人で、今すぐ殺すのはもったいなく、少し研究する価値もある。実は、殺すのは後でもいいのだ。そこまで、考えが及ぶとカミラーは、少々笑みが滲んだ表情で美口 凛に言った。



「お前、頭いいね」


「......?」



カミラーの言葉に、美口 凛は少し予想外のことでも聞いた顔で首をかしげた。今の言葉が何を意味するのか分からない。カミラーは、この言葉を先ほどの美口 凛の行動に対して使った。もし、この女の子があの時このニュースを見せていなかったら、既に死んでいたはずだからだ。カミラーは、話を続ける。



「で、なぜ私をここに連れてきたのかは分からないけど、お前は私のどこまで知ってるの?あの時、いったい何を見た?」



カミラーが少し威圧的な雰囲気で聞くと、美口凛は緊張した顔で、ぎこちない身振りを見せながら、あの時自分が見たものについて説明し始めた。



「あ...あの時のことは、私もちゃんと覚えてはいないんだけど、多分、路地裏を歩いていたら、急におじさんが出てきて私を攻撃しようとしたの...それで逃げようとしたんだけど、体が言うことを全然聞いてくれなくて...怖くて目を瞑ってたら、何かが落ちる音がして目を覚ましてみると、おじさんは消えててあなたが地面に倒れていたから、何か大変そうだし、助けなきゃと思って一応家まで連れてきたんだよ?無論、警察を呼ぶのも考えてたけど、色々面倒くさくなりそうだし、私にもよく分からない......もし、迷惑だったのならごめんね...」


「......」



カミラーは、彼女の言うことに耳を傾けていた。聞いた限りだと、この女の子はあの時、自分が殺人を行うところまでは見ていないようだった。今言ったことが嘘かどうかは100%は分からなかったが、今までの態度からして嘘ではないのだろう。


じゃ、一体なぜ殺人の現場が表に出ることになったのだろうか。カミラーはそれらについて考え始めた。もし、この美口 凛という子が通報したのでなければ、他の人がそれを見たということになる。監視カメラか、もしくは、ただ運悪く見つかってしまったのか。しかし、カミラーはいつも殺人を行う時は周りの状況を把握し、徹底的に見つからないようにしていたため、少なくともこんなに早く発見されるのは異常だった。となれば、やはり気絶していたのが原因か。そこまで気がついた時だった。


カミラーの右手に握られていた携帯から、彼女を驚かせるような内容のニュースが流れ始めた。



「今の件について......」



カミラーはすぐそこに目を向け、内容を確認した。すると、画面の中には一人の記者が多くのシャッター音とフラッシュを受けながら、インタービューをしていた。



「どのような経緯で今回の殺人事件を発見されたのですか?」


「一言で言えば、運が良かったですね。日頃の職業精神がようやく光を浴びるようになったと。私も自分の目で今回の事件に直接触れたときは、相当驚いていましたね。あれはひどいものでしたよ。実は、私もこれを人々に知らせるかどうかは結構迷ったんです。だって、このような事件があったとなれば、この世の中けっこう大騒ぎになるからですね」


「なるほど!それは本当に大きな決断だったんですね!次の質問ですが、その職業精神とはなんでしょうか?」


「常に仕事のことを考えるということではないんでしょうかね。私はいつも仕事をしていないときも、周りのものをよく観察するんです。癖と言いますかね。で、今日の事件はまさにそれらがよく働いたと言えますね。一人の女性がもう一人の女性を背負いながら走る姿を見たときに、私はこの周辺に何かが起きたと直感で分かったんです。そして、実際そこの周辺をちゃんと観察して道をたどっていくと、やはり、私の予想通り事件が起きてたわけですね。今日の事件はそうやって出会ったわけです」


「なるほど...それは凄い観察力ですね。では、その事件発見の手掛かりとなった女性たちは、今どこにいるのでしょうか?」


「今それについては刑事たちが追跡を行っている状況です。今頃はもう、追跡が終わって迎えに行ってるかもしれませんね。私も早く事件の真相が明らかになって欲しい気持ちです」


「そうなんですね!私も一日も早く事件が解決してほしいと思います。国民の皆さんも、それを望んでいることでしょう。今日も事件解決のために尽力されている刑事の皆さんに感謝の気持ち申し上げます。前田さん、ありがとうございました。以上、山田 浅子からお伝えしました」



インタビューが終わり、画面が次の天気予報へ切り替わっていった。カミラーは、少し力が抜けた顔でその画面を見つめていた。ということは自分が気絶している間、あの現場は先ほどの記者によって世間に知らされ、もうすぐこっちに捜査中の刑事たちが追って来ることを意味した。あれからどれぐらいの時間が経過したのかは分からないが、多分、気絶している間は監視カメラを無力化することもできず、記録が全部残っているはずだから、周りの人に聞いたり、AIヒューマノイドに頼んだりなどして、ここにいるのを突き止めるのそれほど難しくないだろう。そこまで至ると、カミラーはすぐ次の行動に移ることにした。時間がなかった。



「......」



カミラーは、視点を変え半径1km内のすべての状況を調べ始めた。すると、予想通りもう既に刑事とAIヒューマノイドが近くまで来ており、ところところに数名の刑事が配置され、犯人特定のための聴取を行っていた。


カミラーは、捜査網が迫ってくることに少しの焦りを感じた。夢の内容が思い出されたからだった。無論、これぐらいの捜査網は、彼女なら簡単に逃げ切れるはずだった。しかし、彼女が焦りを感じるのは捜査が進めば進むほど、この世界で自分の居場所がなくなり、初めて自分の蛮行が世間に知られることから、人類全体を敵に回すところにあった。個体の人間は弱いが、集団の人間は恐ろしいほど強いからだ。



「じゃ、また」



カミラーは、そう言って部屋の窓がある方へ歩き出した。ここから離れるためだった。



「えっと、あの、どこいくの?」


「知らなくていい」



カミラーは彼女の言うことを無視し、位置移動能力を使って逃げようとした。その瞬間だった。



「もう無駄だよ。そんなことしたって、すぐ警察か刑事が来ると思うよ。見たでしょう?あのニュース」



美口 凛が最後に放った言葉を聞いた瞬間、カミラーは少し笑って見せた。



「だから、逃げるの。これ以上、ここに留まる必要はない」


「でも、そんなことしたら、きっと捕まっちゃうわよ?あの人たちはバカじゃないんだもん。今でも自首したら?それがあなたのためだと思うよ。あなたが今までどんな罪を犯してきたのかは私には分からないけど、いつまでも人は逃げられない」



美口 凛の心配そうな言葉に、カミラーはしばらくの間その言葉を噛みしめた。確かに、その通りだった。自分がいつまで逃げ続けられるかは分からない。いつかはその終わりが来るであろう。でも、彼女に選択肢はなかった。それが、異質の人生を歩む彼女に課された運命だったからだ。



「大丈夫だよ。それをお前に心配されるほど私は弱くない。あと...」



カミラーはそう言って、最後にここから逃げ出す前に大事なことを処理することにした。



「お前のこの携帯は私が持っていくよ。邪魔だからね」


「えっどういう?それ私の携帯なんだけど、ちょっと待って返してよ。ね!」



美口 凛が必死に声をあげて手を伸ばしたときには、もう消えた後だった。彼女は今何が起きたのかという顔で、そこで立ち尽くしているだけだった。天井に掛けたカーテンが風で靡く。目の前に起きた出来事が信じられなかった。先ほど人が急に消えたのだ。しかも、一瞬で。目で見ていたにもかかわらず。



「本当にどいうこと?今何が起きてるの...?こんなこと現実であり得るの?やっぱりあの人はただ者じゃなかった...?」



美口 凛は驚きを隠せず、独り言をこぼした。実は、彼女もある程度気づいていた。少し前、家に戻ってきた頃のこと。


凛は背負っていた彼女をベットに寝かせ、居間で休息をとっていた。そして、先程の動画が気になり、携帯をポケットから取り出して動画を確認した。すると、周辺が暗いせいか、画質はそれほどよくなかったが、何もなかったはずの路上に急に男のひとが現れ、その後は驚いたせいで画面が揺れていた。そして、彼女が地面に尻餅をついた瞬間の動画の中には、ほんの一瞬ではあったが、血の痕跡と思われるようなものが壁に着いていたのだ。それを初めて見つけた瞬間、彼女は嘘だと思っていた。なぜなら、こんなところに人の血があるはずがないからだ。さらに、視聴を続けていると動画の最後には、今まで見たことのない女性が急に倒れ、その代わりに、いたはずの男の人の姿は見えなくなっていた。そもそも、男の人が逃げるような様子はまったく撮れていなかった。


それらを見ていて彼女が気づいたのは、今自分が家に連れ込んだ女性が、実はあの男性である可能性が高いということであり、自分が犯人を連れ込んだのではないかということだった。そして、それが確信に変わったのは、あのニュースを見たときだった。今日の午前11時頃、殺人事件が起きたという内容のニュースだ。よく見ると、その殺人事件が起きた場所は、ちょうどさっきの自分がいたあの場所だった。それに気づいた瞬間、美口 凛はどうすればいいのか迷い始めた。


もし、今ここにその犯人がいると警察に通報すれば犯人も捕まえられるし、問題も解決するはずだった。だが、そのとき彼女の脳裏をかすめたのは、犯人だと思われる人を庇ったという自分の行動であり、もし、警察とかに通報してしまうと犯人蔵匿罪などの疑いで自分も処罰を受ける可能性が高いということだった。つまり、犯人だと分かっていても、どうすることもできなかった。


今まで法律的に罪を犯したことのない彼女にとっては、今のこの状況はとても衝撃的なものであり、人を助けたいと言う純粋な思いがこんな風に返ってくると初めて悟る瞬間でもあった。そして、それらのことから彼女は一旦落ち付いて、自分が連れ込んだあの女性が本当に犯人なのかどうか確かめようと決意し、今に至るのだった。



「結局、あの人って何だったんだろう...」



美口 凛は、床に横になって一人で考えていた。今の状況がまるで夢のように思えた。人の外見が自由自在に変わったり、気づけば、その人が犯人で、助けようとしたら、殺されそうになって、結局、その犯人と思われる人は、もう訳のわからない方法で逃げて、警察もすぐこっちに来るらしい。そして、これから警察にどう説明すればいいのかも分からないし、携帯もない。完全にパニックそのものだった。



「私、これからどうすればいいんだろう」



部屋の中が静かだった。頭の中はこんなにもうるさいのに、やけにこの静けさが怖いと思えるほど、不快感を生み出していた。命は助かっていたが、生き残っても生きてる感がしなかった。あまりのストレスに直面したからかもしれない。


それから、しばらく目をつむっていると、玄関の方からチャイムが鳴った。おそらく、ずっと頭の中を占めていたあれが来たのだろう。美口 凛は一度唾を大きく飲み込んでから、床から身を起こし、ドアの方に歩いていった。そして、ドアホンの画面から誰が来たのか確認した彼女は、震える身体とともにドアノブを回してドアを開けた。すると、そこには予想通りの光景が広がっていた。



「こんにちは、警察の神谷 陽斗です。少しお話を伺ってもよろしいですか?」



美口 凛の両目は徐々に見開かれ、顔が強ばっていった。



---



世界政府本部のある密室の中では、たくましい体格を持つ男の人がテーブルの椅子に腰を下ろし、壁側に設置されているスクリーンを見ていた。男の体の大きさは、身長2mははるかに越え、体重はそれにふさわしい150kg位に思えた。もう、人間離れした筋肉質と言っても過言ではないだろう。



「......」



その男はスクリーンを見ながら、口角を上げ、何か面白そうなものでも見つけた表情で笑い始めた。低くて重みのある声が部屋の中に響き渡る。



「みっけー。やっと見つけたぞ。この逃げネズミ野郎」



彼はもう一回、口角をあげた。今の状況に満足しているようだった。彼が見ているそのスクリーンには、今日のニュースが放送されていた。そのニュースは日本からのものであり、京都府内で起きた殺人事件を扱っていた。現在、その犯人は逃走中で追跡を行っているという。



「今までずっと日本にいたのか。道理で静かだった訳だ。あの化け物がな」



彼はおでこに手をのせ、頭を横に振った。これは、残念の気持ちとあまりの嬉しさからくる行動だった。長い間ずっと追跡していた目標をやっと見つけたという達成感。



「今度は絶対に逃がさんぞ。必ず捕獲してやる」



彼は拳に力を入れ、弾けそうな血管が浮き上がる太い腕が震え出した。

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