2
歌のような鳥のさえずり声が響き渡る森の中。
その森の中にある洞窟の中では、 1人の乙女が目を覚ました。
「......」
その名はカミラー(本名 : 森下 カミラー)、 しなやかな黒髪の毛を自慢する彼女は空から降りかかる日差しを手で遮りながら、地面から身を起こした。すると、背中から小さな砂粒が落ちるのが感じられた。彼女はそんなことは気にせず、さっさと動き出した。
眠りから起きた彼女が、一番最初に取りかかったのはマスコミの確認だった。その理由は、ただこの世の中がどう動き回っているのか知りたかったからだった。
カミラーは、インターネットに接続するためにいつも通り自分の手に力を入れ、神経を集中した。すると、すぐ手のひらの中から、巨大な両刃の斧がぱっと現れた。彼女は、まるでそれが当たり前のように斧の取っ手を握り、インターネットに接続し始めた。実はその斧自体が一種のアンテナの役割を果たしているのだった。
彼女は、両目を瞑り今日のニュースを確認した。 頭の中でニュースのイメージが広がっていく。いいことに今日のニュースも相変わらずいつも通りのことを報道していた。今日は自動運転自動車の交通事故で何重衝突が起きたらしく、それに対して盛り上がっていた。
彼女は安心しながらも、すぐ他のニュースにも目を向けていった。幸いにも他のニュース、マスコミにも自分について取り上げられているものは一つもなかった。カミラーは、予想通りの展開にもう一度大きなため息をつき、生命延長手術の広告を最後にインターネットを接続を切った。
この世の中の動向を確認した彼女が、次に取り掛かったのは食料調達だった。いくら長い間何も食べなくても生きられるとはいえ、今回はさすがに食べ物を食べなければ健康に異常が生じるかもしれないと判断し、買い物に出ようとしたのだ。いつも完璧な状態を維持することが彼女の人生の一番大事なところであった。
今日の計画がある程度定まった彼女は、光がほぼ差し込まない洞窟の中から外へ出た。すると、中より涼しい空気が胸の中で広がり、そよ風が頬をつたって吹いてきた。やけに今日の日差しが強く感じられる。
外に出てきた彼女は、出発する前に下を向いて汚れている自分の服に気づき、1回手を胸のあたりに置いてしばらくの間気を集中した。すると、砂の埃で汚れていった彼女の黒い服は、いつの間にか綺麗なグレー色のフードに変わっていた。カミラーはフードの帽子を被り、そのまま足の方に力を入れ、空気が圧縮する音とともに一瞬で姿を消した。
---
カミラーが姿を現した場所は、ある都心部の小路だった。ここは彼女は都市の中に入るとき、いつも愛用する場所だった。
実はこのように一気に位置を移動することは、彼女にとってそれほど難しいことではなかった。ただ、自分の体の原子を地球のある一定の位置に移動させるだけ。
この能力のおかげで彼女は地球のどこでも現れることができた。ただし、このような能力は現在の位置と指定した場所の距離が遠くなればなるほど時間はかかるが、 比較的短い距離であれば瞬時に移動することができるものだった。
「......」
無事に移動を済ませた彼女は、危険なものはないか一回周辺を見回した後、自分の顔を他の人の顔に切り替え、都市の中へ出ることにした。
最近は警備体制が固まっており、いくら監視カメラのない警備のゆるい場所だとは言え、注意を怠るわけにはいかなかった。
変装を済ませた彼女はゆっくりと歩いて小路を抜け、人が通う歩道に身を置いて予定していた場所へ向かい始めた。
歩きながら彼女は人とは目を合わせず、少し地面を見つめながら進んでいった。実は、彼女がそうするのはいくつかの理由があった。1つは、人と目を合わせると彼女が思わず理由のわからない怒りに包まれるからだった。この怒りは自分でも制御するのが難しいぐらい大きいものであり、 事前に事故を起こすのを防ぐためこのような対策をとるのだった。
2つは、できるだけ人の目につかず、自分の正体をバラさないためだった。人と目があって自分の存在を相手に認知させればさせるほど、後で不利になる。カミラーはそう考えていた。
何より今の時代は、AIが搭載されたヒューマノイドが町中のところところ散らばっており、監視は以前より厳しくなっている状態だった。そんなAIヒューマノイドからの疑いを避けるためのものでもあった。
カミラーは注意深く歩道の上を歩きながら、ふと自分の右の懐から財布を取り出してみた。すると、目の前に少し古びた茶色の折り畳み財布が現れた。
そこには、少量の紙幣とクレジットカードが入っており、横に中年の男と小さな女の子が共に写っている写真が一枚差し込まれていた。カミラーはこの人たちが誰か知らなかった。そもそも財布は自分のものでもなかったのだ。
だが、次に彼女の目を引いたのは、財布にぶら下がっているピンク色のウサギが魅力的なキーホルダーだった。カミラーには、なぜこんなものが財布につけられているのか分からなかったが、とにかくお金が十分あることを確認した彼女は、これ以上周囲からの疑いを避けるため素早く懐の中にしまうことにした。
財布をしまい込んだカミラーは、今回はもっとスピード出して歩き始めた。
人混みの少ない歩道を進みながら、カミラは下を向いていた視線を上げ、周りの風景にふと目を向けた。すると、180年前とそれほど変わらない都市の光景が瞳の中を優しく照らした。人間の社会というのは、長い時間がたった今でも大きな変化はなかった。
変化があったとすれば、それは建物が以前より少しモダンなスタイルに変わったこと、AIヒューマノイドが増えたことぐらいだった。
カミラーはしばらくの間、頭の中で過去の記憶と今の風景を見比べながら道を歩いていった。
それから約10分後、カミラーは目的地であった場所に到着していた。そこは簡単に商品などが買えるコンビニだった。彼女は食料を買うときは、いつもコンビニを利用していた。理由は、ただ便利だからだった。
入店する時に聞こえる馴染みのコンビニの効果音を聴きながら、カミラーはコンビニの中に入っていった。カミラーが一番最初に向かったのは、他でもなくインスタント食品が並んであるコーナーだった。
そこで、ラーメンやおにぎり、水、ナッツを箱の中に入れ、レジ方へ歩き出した。会計が始まると、カミラーは相変わらずフードを被ったまま俯いていた。
彼女はいつも会計するときに自分の顔を除いてくる店員がとても嫌いだった。心の中では何度も悪い言葉を発していたが、どうにかすることはできず、このときが一番つらい瞬間だった。
無事、会計が終わると、彼女は財布を懐にしまい、買ったものが入っているレジ袋を手にコンビニを後にした。
コンビニを出た時の彼女の表情は暗かった。なぜなら、気分が良くないからだった。先ほど会計をしていた時、自分の財布を胡散臭そうに見つめていた店員の表情が気に入らなかった。おそらく自分にふさわしくない財布を見て不審に思ったのだろう。今のカミラーは女子大学生の姿をしており、手にしている財布はピンク色のウサギキーホルダーを除けば、中高年の男性が使いそうなものだった、実はその瞬間、カミラーの体の中では大きな怒りが込み上げたが、幸いにも何もせず堪えることができた。
彼女は拳に力を入れながら、いつかはあの店員も処理するべきだと思いつつ、来た道を戻っていった。
---
洞窟に戻ってしばらく経った頃、カミラーは洞窟の中でしゃがみ込み、コンビニで買ってきたカップラーメンを静かに啜っていた。
ラーメンのお湯は、位置移動能力を使ってある家庭に忍び込み、奥さんが用を足しにトイレに行った間、キッチンの鍋に出来上がっていた味噌汁を持ってきたものだった。
そのお陰でラーメンの味はすごく濃くなっていたが、彼女は味を感じるのが苦手だったためちょうどいい仕上げになっていた。
ラーメンをご馳走しながら、カミラーはいつも通り手の内から両刃の斧を取り出し、インターネットに接続し始めた。
今日はまたどんな知識を吸い込もうかと、色んなジャンルの情報を読み漁ってみる。カミラーはいつもやることがない日には、こうしてインターネット世界に潜り込み、ひたすら情報を入手する生活を繰り返していた。
無数の情報が彼女の目を通り過ぎる中、今日の彼女の目を盗んだのはある昔の情報だった。よく見ると、それは約160年前に行われていた第三次世界大戦に関するものであり、カミラーは無意識が赴くまま、空想の手を伸ばしてそれをタップした。
すると、膨大な量の情報が目の前に広がっていった。戦場に出向かう戦士たちの姿、空から襲いかかる数えきれない無数のミサイル、人を殺すために開発されたドローン兵器、ハッキング部隊が繰り返し攻撃を試みている密室、戦争が始まったことによって怯える市民たちの姿、核兵器が組み込まれている大砲、平和条約を結ぶ国の権力者たち、世界政府設立の実現ため開かれる会議、長い戦争の弊害を修復するために動員されたAIヒューマノイドなど。
カミラーにとってはそれほど珍しくもない情報が一気に彼女の頭に入ってきた。実はカミラーはこの歴史がとても好きだった。理由は良くわからないが、その時の情緒がとても好きだったのだ。まるで、それが自分に合うような。カミラーは、一瞬当時の記憶を思い出してみる。まだ、その時の記憶は鮮明に残っていた。彼女の口元が自然と上にひきつられる。しばらくの間、彼女はそのまま昔の思い出に浸ってみることにした。
---
今から約160年前の2050年頃、資本主義体制を維持し続けてきた世界の国々は、成長の限界を感じつつ持ってるあらゆる手段を用いて、社会の中に存在しているデモや不満を押さえていた。
特にAIの技術の発展を最前線に置き、様々な改革を試みていた。しかし、最先端技術が発展していくなかで、富裕層と貧困層の格差はさらに拡大していき、AIなどがその貧困層の人たちの仕事を奪うことから不満が爆発し、世界各地では同時発的にデモや暴力を伴うテロなどが起こり始めた。
そんな中、これ以上国民の反発に耐えられなかった国々では、そういう人たちの願望を受け入れ、その原因が他の国や人種にあると、戦争を正当化するようなスローガンを掲げ、戦争をし始めた。
それが第三次大戦争の出発だった。それらの規模は、短い間押さえきれないほど拡大し、特に長い間限界に近づいていた資本主義国家を中心に行われた。
これらの結果は過去から受け継がれていた体制の限界によるものだった。すでに人々は資本主義というシステムが、AI技術の発展をきっかけに自分たちの安全を保証してくれないことを悟ってしまったのだ。
お互い生き残るための戦争が続き、そのような状況が長引く中で、国々は早い結果を求めて核兵器を開発したり、他の国から密輸し始めた。
核戦争の土台が整えると、世界の覇権を握っていた強力な国々が人類滅亡の危機感から集まり、会議を開いた。そして、そこで交わされた内容は、デモに耐えられず国の役割を失った国々の救助することであり、その解決策は世界政府の設立と統治だった。今まで貿易や経済、資源の面で優位を占めていた国が犠牲して全世界の経済の負担と安保を確保してくれる代わりに、その強力な国を中心に世界政府を設立し、全世界を統治するというものだった。
最初は各国からは反論もあったが、これ以上戦争と飢餓、無秩序に耐えられなかった国々は次々と世界政府を受け入れていった。
世界政府が設立してからは、国々は戦争を止め、それぞれの国の修復のために動き出した。(無論、世界政府ができたからとは言え、国と言う概念が消えたわけではなかった。人種や言葉の違いの問題はまだ残っていたため、国という概念は存続しつつ、それより大きな地球のための、全世界のための一つの概念「世界政府」が生まれただけだった。)
だが、長く続いてた戦争が止まり、再び平和が訪れた国々の状況は深刻だった。戦争中、多くの核心技術や建物、文化財が失われ、全体的に人類の文明は衰退し、その被害は100年以上に達するものだった。戦争が終わった2060年頃の人間の文明はほぼ、1900年度のものと同じぐらいになっていた。
そこから反省した国々は力を合わせ、戦争が始まる前の時期の文明まで戻そうと言い、お互い協力しながら国の修復に努めた。
そこで大きな力となったのは、AIが組み込まれたヒュマーノイドだった。まだ生き残っていたAI産業の大企業に、世界政府が莫大なお金をかけて支援し、全世界に普及するよう命じた。
その時、初めて人々はAIヒューマノイドに接し、実際多くの人たちがそのAIヒュマーノイドによって救われた。ヒューマノイドは人間には行きづらいところも自由自在に移動することができ、戦争の修復に大きな貢献を果たしたのだった。
それから、約30年がたった頃、人間の社会はようやく元に戻ることができた。
再び安定が訪れると、人々は過去の過ちを繰り返さないために、戦争の原因であったAIによる人間の失業を防ごうと、ある法案を作り出した。
それは、人間がAIより上にいること、そのためには人の代わりにAIを導入して失業させることを禁止した。そして、AIを仕事に入れるときは、必ずその数に会わせて人も選出しなければならないという法案も可決された。それは1対1AI労働法と呼ばれた。
さらに、貧富格差を減らすための法案も導入された。多くの国は発展し続けなければ存続が難しい資本主義体制を捨て、世界政府を中心に毎年2回、国の一番偉い人たちが同じ場所に集まって世界の全体的な方針を決め、計画的に経済や発展を成し遂げることを目標にした。
そこで決まった方針をもとに、各国は新しく設立されたAI政府によって統治されるという形になったのだった。
それ以降は、AI技術はますます発展し、超人工知能が生まれるようになっていた。そこからは、AIは人々の生活に溶け込み、社会の中でなくてはならない存在へと変わっていった。
超人工知能が誕生してから、人間の技術は急速に成長し、社会はより豊かなものになっていった。
その影響力は、今まで貧困な国だとされていた地域まで活性化させ、その地域なりの経済成長を成し遂げるようにした。それらの出来事は特定の国だけに力が偏るのを防ぎ、地球全体にその均衡が保たれるようにした。その後、人間社会は現状維持を目標に存続し続け、今に至るのだった。
無論、そのような長い歴史的なことがあるまで、カミラーはずっとそこにいた。彼女はそのような出来事が起こる遥か前からそこにいたのだ。
しばらく昔の記憶に浸っていたカミラーは、ふと気がつき、カップラーメンにラーメンがもうなくなっていることに気づいた。考えている間も知らず知らず本能的にラーメンを啜っていたのかもしれない。カミラーは、空になったカップラーメンを洞窟の壁沿いに置き、横になった。お腹はいっぱいになっていたし、考えすぎたせいか頭が熱くなっていたのだ。
横になっていたカミラーは、眠りにつこうとしたがよく眠れず、一瞬横を向いて地面に落ちてるある本を見つけた。手を伸ばしてそれを手に取ると、それは、彼女が一番愛用している小説だった。タイトルは「猫サウルスとトカゲ君」と書いてあった。彼女はこの物語がとても気に入っていた。この本を読んでいると、この退屈な生活から逃れるような気分になるからだった。彼女はその本の表面に付いてる砂粒を手で払い、ページを開いてもう一度読み始めた。




