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「ふぅ、楽しかったー!」



ジェットコースターが終わった後、美口 凛は背筋を伸ばしながら言った。思ってたより楽しくて自分でもビックリしている。


一方、カミラーは気分がよくないらしく表情が暗かった。当たり前だった。先程からずっと変な気配が周辺を包み込んでいたからだ。おそらく、これは今までの彼女の心配が現実化したものかもしれない。


カミラーは、ニコニコと笑いながら楽しそうにしている彼女の背中を軽く叩き、静かな声で言った。



「凛、もうそろそろ行こう」


「...?なんで?」



その後、振り返って偽造のカミラーの顔を見た美口 凛は、さっきのことを思い出したらしく眉にシワを寄せて頬を膨らませた。



「あ、そうだ。そういえば、さっきなんであんなことしたのよ。お陰さまで本当にビックリしたじゃない。人に迷惑だし、これからはしないようにね」


「......」



だが、カミラーはそんな彼女の言葉に返事しなかった。まるで、その顔は遠いどこかを眺めているようだった。



「えっと、聞こえてる?」



美口 凛が首をかしげて、ただ黙って立ち尽くしている彼女のことを不思議に思っていると、しばらくしてカミラーは口を開いた。



「今は時間がない。無駄なことはせず早く逃げよう」


「えっと、それはどういうこと?なんかあったの?」


「だから...」


「あ、もしかして警察とかがもう捕まえに来たってこと?それはやばいね。じゃ、早く逃げないと」


「いや、そうじゃない...実は...」



その時だった。ジェットコースターを待っている人混みから、目立つほどの隙間ができ、やがてそこから悲鳴混じりの声とざわめく声が同時に聞こえ始めた。彼女たちは、一瞬その音がする方向に首を回し、目の前に見える光景を見て驚きを隠せなかった。



「あ...あれは何?」


「あれが私たちの敵だよ」


「AIヒューマノイド...?」


「うん」


「警察じゃなくて...?」


「......」



美口 凛が口を開けっ放しにして視線を向けているところには、AIヒューマノイド数十人が二人と向き合って陳列を成しており、視線が全部こちらを向いていた。


しかし、気になるところがあるとすれば、それは現在対峙しているAIヒューマノイドの見た目と大きさだった。一般家庭や生活用で使われているAIヒューマノイドより体格が1.5倍大きく、普段見かけることのないタイプだった。そこから、美口 凛は普通のヒューマノイドではなく、軍事用のものであることに気づいた。思わず、体の奥底から恐怖感が込み上げてきた。



「これからどうするの...?」


「さぁ...」



カミラーは、しばらく考え込んだ。答えは既に決まっていたが、なぜか体が思うように動かなかった。もしかすると、あの夢のトラウマが再現したからかもしれない。彼女は思わず歯を食いしばった


すると、AIヒューマノイド集団は目標対象の彼女を見ながら短く言った。



「逮捕しろ」



その瞬間、一斉にヒューマノイドたちは彼女たちに向かって突撃し始めた。混乱している今のタイミングを狙って、カミラーは素早く隣の美口 凛の腕をつかみ、息をする暇もなく能力を発動した。


AIヒューマノイドが襲いかかった時は、彼女たちはもうすでに消えた後だった。AIヒューマノイドたちはしばらく混乱していた。幸いなごとに、ちょうどAIヒューマノイドによって完全に囲まれる寸前に姿を消したため、普通の人からしたら手品を使った期間限定のイベントショーに見えたかもしれない。


その場面を近くから見ていたAIヒューマノイドたちのリーダーは、全く表情を変えず納得したように呟いた。



「なるほど...そういうことか...」



リーダーはすぐ今までの記録動画をアップロードし、世界本部に送り出した。



「The video has been sent(動画を送りました)」



その後、遠くから状況を聞いたジェットコースターのスタッフが現場に到着すると、運営を止めているAIヒューマノイドたちに怒った顔で話しかけ始めた。



「おい!お前ら誰の許可もらってこんなところに入ってんだよ」



すると、そのAIヒューマノイドたちは急におとなしくなり、近づいてくるスタッフに腰をさげた。



「すみません。実は...」



そして空中にホログラムを映し出し、自分達の所属と情報をスタッフに提示した。すると、スタッフはしばらく画面に書かれている文字を読み、内容を見てかなり驚いたらしく手で口元を塞いだ。


AIヒューマノイドの指揮を取っているリーダーは一回周辺全体に目を配ると、そこにいる人全員に聞こえるように大きな声で宣言した。



「今からテーマパークを封鎖します。どうぞご協力お願い致します」



それと同時に、四方八方からざわざわと声が漏れ始めた。誰もが納得できないという顔だった。



「はぁ?そんな勝手なことがあるか。私たちはこれからどうしろって言うんだよ」


「そうそう、一体何が起こってるんだ。さっきから全然列動かへんし、いきなり封鎖って...」


「お金は返してくれますよね...?まだ、遊園地に来てから1時間しか経ってないんですけど」



そのような反発の声を上げる人たちを見ながら、AIヒューマノイドのリーダーは両手を広げ、安心させるように言った。



「ご心配なさらないでください。今日の料金は全額返金致しますので、安心してご退出ください。テーマパークご利用の皆様には、ご迷惑をおかけしてしまい誠に申し訳ありません」



その後、人々はもう諦めたらしくジェットコースターを後に待機列から離れ始めた。



「まったく...もう」


「何で今日に限ってこんなことが起こるんだよ。運が悪すぎるな」


「せっかく家族みんなで来たというのに、本当に残念ね」


「何があったのかは知らんけど、本当何なんだよ」



不満の声を漏らす人たちの後ろ姿を眺めながら、AIヒューマノイドたちは人々の退出を助けた。


やがて、賑やかだったところが人がいなくなり、スタッフは隣のAIヒューマノイドのリーダーに小さな声で聞き始めた。



「殺人事件の犯人がつい最近までアトラクションに乗ってたってどういうことですかね...」



すると、リーダーはこれ以上は話せないらしく、首を横に振りながら答えた。



「本当に申し訳ありませんが、規定によりこれ以上のことは非公開になっています。これらのことは既にテーマパーク全体に乗り物故障による休止としてお伝えしてありますので、退出がすべて終わるまでは秘密厳守でお願いします。皆の安全のためです」


「なるほど...分かりました。何かものすごいことが起きてるようですが、そうさせていただきます。頑張ってください」


「ありがとうございます。では」



AIヒューマノイドリーダーはそう言って、AIヒューマノイドたちを率いてどこかに向かい始めた。


ジェットコースター乗り場を出た後、リーダーはすぐ本部に連絡し始めた。テーマパークの中は先より人が半分ぐらい減っていた。



「番号AE172。今から犯人逮捕のための作戦に突入する。現在犯人の位置不明。犯人はテレポートの能力があると推定。すべての監視カメラと人工衛星、他のヒューマノイドたちの情報を照らし合わせて犯人の位置を特定する。所要時間は不明。犯人は一人ではなく、現在捜査中の女性と同行。関係性不明。より仕事処理スピードを上げるため、ロケットブースター使用許可を求める。以上」


しばらくして許可が下りると、数十人のAIヒューマノイドたちは一気に足の方から炎を吹き飛ばし、空に向かって飛び始めた。



---



約数分後、遊園地から逃げ出した彼女たちは、ある都市の中に移動していた。今まであまり見たことのない肌色の人たちが、路上を歩いている。



「ここはどこ...?」



美口 凛が首をかしげながら不思議そうな顔で聞くと、カミラーはいつもの落ち付いた声で答え始めた。



「ここは、アフリカ大陸のある国の中だよ。ここなら日本と遠いし、しばらく時間稼ぎにはなるかもしれない」


「えっそうなの?そんな遠いところまで一瞬で来れるんだ。すごいね...今何時間ぐらいが経ったのかは分からないけど、ここってめっちゃ洗練されているんだね」



美口 凛は、その後周囲に目を向けた。すると、ほぼサイバーシティを連想させるほどの大きな都市の風景が目に入った。200年前ぐらいだったら考えられない光景だったが、すべてAIヒューマノイドの導入により可能になったのだった。今はもはや、アフリカは気候と食料問題を解決し、住みやすいところに切り替わっていた。


美口 凛は一瞬心配な顔になると、隣のカミラーに静かに聞いた。



「ね、でも私たちってこれからずっとここで生活するつもりなの?」



すると、カミラーは手を横に振り、彼女のその質問に答えた。



「いや、ここはあくまでしばらく滞在するだけ。まぁ、ここは少し治安が悪い方だから長い間バレずに潜り込めるかもしれないけど、結局状況次第かな」


「そうなんだね...」



言葉を放ったあとの美口 凛の顔はそれほどよくないように見えた。過去の自分の選択を後悔しているのかもしれない。



「もう帰りたくなったの?」



カミラーがそれに気づいて聞くと、予想外のカミラーの言葉に驚いたらしく、彼女は目を大きく開いた。



「いやいや、それはあまりにも自己勝手だね...もちろん帰りたい気持ちはあるけど、今さらそんなこと言っても意味ないよね...自分が選んだ道だし、貫き通さんと」


「......」



カミラーはそんな彼女の意思を高く評価した。やはり、彼女を選んだのは正解だったとカミラーはその時そう思った。



「じゃ、行こう。こうなった以上同じ船に乗ったのと同じだし」



カミラーの言葉を聞いて彼女は少しためらうように見えたが、頷いてみせた



「うん...」



それからは、しばらく泊まれるところを探すはめになった。一応、今の美口 凛はAIヒューマノイドたちに顔が知られている可能性があったため、彼女は人目につかないところで待機し、カミラ一人で探して後で合流することにした。


カミラーは、歩道の上を歩きながら周辺をよく観察した。一見すると、静かで何も起こってないように見えるかもしれないが、カミラーには全部分かっていた。建物の中や地下では、あらゆる犯罪が多発していると。


今やAIヒューマノイドや技術の発達により、犯罪の発覚率と逮捕率が跳ね上がってしまい、全体的に犯罪の数が減ったと思われるかもしれない。しかし、それはあくまで表面的な世界のことであって、犯罪はより目には見えない形に変わっていった。インターネットの世界やオフラインなど、人々は先端技術からの目を避けてより高度化した犯罪を犯し続けたのだ。


カミラーは、それらにことを目の当たりにしながら前に進んでいった。今彼女が探しているのは、お金になってくれる生け贄だった。ホテルなどに泊まるためにはお金がいる。だが、今は少しお金が足りなかった。ということは誰かから奪うしかない。


カミラーは体に刻まれた本能を露にしながら、速やかにそして静かに目標遂行のための短い旅に足を運んだ。



---



「えっとお帰り」


再び戻ってきたカミラーことを見ながら、美口 凛は元気そうに言った。しかし、少し息が荒いカミラーのことを見て違和感を覚えたらしく、彼女は首をかしげ、緊張した顔で言った。



「どうしたの...?具合でも悪い?」



すると、カミラーは血のついた両手を密かに隠し、首を横に振って答えた。



「ちょっと走ってただけ...」


「えっそうなの...?大丈夫...?」



美口 凛は疑心の目で彼女を睨み付けたが、全く表情を変えずカミラーは言った。



「うん、大丈夫...」


「本当に...?なんか顔色悪そうだけど...」



美口 凛は何かに気づいたらしく繰り返し聞いたが、カミラーは最後まで知らない振りをした。



「大丈夫。そろそろ行こう。ホテル予約しておいたから」



カミラーがそう言うと、美口 凛は驚いたらしく口元に手をのせた。



「えっもう予約とったの...?めちゃ早いね!」


「......うん」


「私のために...本当にありがとう」



感謝の表れとして抱っこをしようとしたが、カミラーは後ろに身を引き、彼女はそのまま地面に格好悪く倒れた。



「ごめん、そういうのはしたくない」



カミラーが感情のこもってない声で言うと、痛そうに地面から立ち上がる彼女は、大丈夫だと言わんばかりだった。



「いたたっ。ごめんね。勝手に抱っこしようとして...」


「......」



しばらくして沈黙が続き、服についた埃を払い落とした美口 凛は、やはり悔しかったらしく、カミラーに文句を言い放った。



「ねぇ、でもお礼ぐらいさせてよ。私たち友達なんでしょう?」



カミラーは友達という言葉にしばらく黙り込んだが、やがてやや恥ずかしそうにゆっくりと口を開いた。



「あくまで私が凛を助けるのは恩返しのためだし...そんなことしなくても良くない?」



そんなカミラーの言葉に呆れたらしく、美口 凛は頬を膨らませ唇を尖らせた。



「カミラーは、よく私の腕触るくせに...ずるい。不公平だよーー」



---



その後、二人は無事ホテルに着いていた。ホテルまではカミラーの瞬間移動能力を使い、瞬時に移動したのだった。


部屋の中は外の都市の風景とはまた違う、落ち付いた雰囲気を漂わせた。ベッドは一つしかなかったが、照明からトイレ、テーブルまで全部綺麗に整理整頓されていた。


美口 凛は、ベットの上に身を任せ、気持ち良さそうに言った。



「ね、本当にありがとう。先程は見知らぬ場所に来て一人で待ってて不安だったけど、お陰でホッとするよ」


「...それは良かったね」



カミラーは、それほど気にしないらしく淡々とした声で答えた。美口 凛にとっては、しばらく友達と一緒に旅行しに来た気分だった。



「多分、1週間ぐらいは問題なく過ごせると思うから、頭に入れておいて」


「うん、分かった。それまでちゃんと準備しておくね!」



美口 凛は、今までの不安が吹き飛んだらしく、ベッドに寝転んで今の時間を満喫した。その間、カミラーは手の内からある電子機器を取り出すと、それを彼女に渡した。



「これ、前にもらった携帯なんだけど返すよ」



久しぶりに会う自分の携帯を見て、美口 凛は嬉しそうに言った。



「えっ返してくれるの?もうすでにどっかに捨てたのかと思ってたけど、ちゃんと持ってたんだ。ね...本当にありがとうー。カミラー大好きー!」


「......」



自分のモノをまるで初めてみるかのような彼女を少し不思議に思いながらも、カミラーは先程の話を続けた。



「あくまで一週間も部屋の中に閉じ籠っていると、退屈すると思うから返すだけだし...もし、その携帯で変なことでもしたら、すぐ捨てるよ」


「わ、分かったよ。そんな怖いこと言わないで。絶対にそんなことはしないし、私はカミラーのこと信じてるから安心して」


「......」



どうせ、今の状況だと彼女も裏切ることはできないと思うし、大丈夫だろうと考えた。もし、想定内のことが起きたとしても、いつも通り一人で逃げればいいだけ。むしろ、通報することで被る被害は彼女の方が大きかった。なぜなら、今の彼女も一応は助力者もしくは共犯者扱いとして処理される可能性が高いからだ。つまり、罪はより重くなり、彼女が先に裏切る手はなかった。カミラーは安心し、そのままにすることにした。


その後、二人は部屋の中にじっとして何の音も聞こえない静かな時間を過ごした。美口 凛は、ベッドの真ん中で久しぶりに使う携帯に夢中になっており、カミラーはしばらく息抜きとして、ベッドの端に座って少しも動かずにいた。カミラーの頭の中には、あの時の記憶が繰り返し再生されていた。数時間前のAIヒューマノイドに襲われそうになった時の記憶だ。


彼女はその軍事用AIヒューマノイドたちがとても気になっていた。実は、あの時に逃げずに戦うことを選んでいたら容易く制圧していたかもしれない。しかし問題はそこではなかった。もし、あのようなAIヒューマノイドがこの世の中に数万体いたら?となると、話は大きく変わってくる。数百体までなら何とか対処できるかもしれないが、それがその何倍にもなるとカミラーにも無理だった。いや、そもそもその瞬間からはもはや災難に近かい。


さらに、今は一人ではなく美口 凛という子もいる。高が数百体が押し寄せてくるだけでも、しんどくなるはずだった。おそらく、そのときはどちらかの一つを選らばなければならないだろう。カミラーは思わず歯を食いしばった。


その時だった。部屋の中の扉の向こうからトントンとノックの音が聞こえた。考え込んでいたカミラーは、一瞬驚き、ドアの方に目を向けた。考えに没頭しすぎたせいで全く気づいていなかった。カミラーは、情けない自分に頭を横に振り、ベッドから立ち上がった。


美口 凛もそれに続いて、携帯の画面から目を離し、カミラーの方に目を向けた。



「えっと誰...?」


「分からない。確認してくる」



カミラーは、ドアの方に近づき、一度自分の能力を使って外の状況を確認してみた。すると、片手に正体不明の白い何かを持っている男の人がドアの前に立っていた。カミラーはもしかすると不審者かもしれないと思い、殺意が込められた右手を背の後ろに隠しながら、ドアノブを回した。



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