プロローグ4
「(優也)えー、俺らに何を期待してんすか? 俺ら唯の高校生っすよ。何も出来ませんぜ。第一、そんな処に飛ばされて、戻って来れるんすか?」
『何も出来ないことはあるまい。其方等は、それなりに優秀じゃ。全員、東大模試の全国50位以内に入っておろうが。それと “試み” じゃからの、行くのはその時代に合致した其方等が言うところのパラレルワールドじゃ。其方等が日本を統一し、穏やかに日ノ本の国の世の進みを速めて貰いたい。彼方で何年過ごそうと、必要であれば1秒とかからずこの世界のこの時間軸の神明神社に、18歳の其方等として戻すことが出来る。戻す条件は、あちらの世界で其方等が任務を果たした時じゃ。病気や怪我程度では死なぬようにする。首と胴が離れれば駄目だがの。尚且つ(なおかつ)途中で誰かが死んでしまったら、もう一度最初からやり直しとしよう。簡単に言うと、そなたらはこの世界のこの時間軸に戻らぬ限り、死なぬ。』
「(優也)あのー、という事は俺ら行くことは決まっているんですか? 選択権は?」
『選択権は無い、行くのは決定。』
「(優也)そんな殺生な・・・・」
「(咲耶)はぁー、私ら唯の高校3年生。そんな重大任務を負わされたら潰れちゃいます。」
『大丈夫じゃ。おぬしらが言うチートとやらは与えられんがの、健康も含めて身体能力は数倍に上げておく。それから必要な物を幾つか持っていけるようにする。』
「(秀明)持っていきたい物は沢山あるのですが、武器の類は良いのでしょうか? それから、余りに細々(こまごま)したものまでお願いし難いので、金貨・銀貨などを入金すればどこかのホームセンター辺りから買えるようにできませんかね。」
『その時代に前後して使われている物ならば、武器も構わん。刀剣・弓矢・火縄銃程度だの。ホームセンターの件は一種のチートじゃの。吾の神力を使わねばならないので、大きな物は無理じゃ。概ね6×6×6尺(約180×180×180cm)に収まるものにせよ。各人共に使えるようにしておくが、言ったように神力を消費するので、別々に引っ切り無しでは困る。相談して回数をなるべく少なくして使え。他に欲しいものはあるかや?』
「(秀明)現地人の仲間を増やして戦力が整うまでが不安です。火縄銃は取り回しが不便なので、最初だけ拳銃を持たせてもらえませんか? 薬莢を100個位にすれば、何時までも使い続けていられませんので制限になると思いますが、如何でしょう?」
『それ位ならば宜しかろう。警察官の制式拳銃であるニューナンブM60と弾丸を100個だの。』
「(秀明)それでは弾薬火薬付きの火縄銃、ニューナンブM60とタマを100個、弓矢を各人に1挺・1張ずつ、私と優也には大小刀と槍、斎藤さんと勅使河原さんには差し添え(小刀のこと)と薙刀をお願いします。刃物は鉄・マンガン・クローム・ニッケル鋼などの固さ・強さ・粘り強さのある特殊鋼製でお願いします。あと、ヘルメットと防刃衣上下・手袋・軍靴を各人に一揃いずつ。金銀銅貨も適量ずつお願いします。」
『防刃衣と手袋はケブラー製で良いかや?』
「(秀明)ケブラーは重いので、ザイロン製でお願いします。最後に辞書や専門書を持たせてください。アイヌ語・英語・ポルトガル語・スペイン語・オランダ語・ロシア語の辞書と、私に化学・地学関係、優也に物理・機械工学・電気電子工学関係、斎藤さんに土木・建築学、勅使河原さんに農林水産・医学関係、全員に数学書と全国の詳細地図帳、現代版とこの時代版それぞれです。皆、他に考え付くものある?」
「(咲耶)うまくジャンル分けするものね。年表も欲しいし、日本史・世界史、日本地理・世界地理の解説書が必要だと思う。それと、現在、要するに高校3年次の各種教科書を全員に欲しい。今日は授業が無かったので、教科書を持っていませんから。」
「(美香)ジャンル分けはそれでいいのですが、漢方を含め薬学関係の書籍もお願いします。医薬品や野菜の種はホームセンターなどで買えるでしょうか?」
『薬学関係の書籍は分った。医薬品は、マツモト〇ヨシ等からは購入できるようにしておこう。ただし、医師の処方箋が必要なものは無理じゃ。抗生物質は外用の軟膏等は買えるだろうが、内服あるいは注射用は後に自分達で開発するのじゃの。野菜の種はホームセンターで買えるので心配ないの。』
「(優也)書籍の中にこの時代のも含めて船舶とその動力の設計図も含めてほしいです。旋盤とフライス盤が欲しいけど、無理かなぁ?」
『大型旋盤と大型フライス盤は重すぎ・大きすぎて無理だわ。中型くらいまでだの。大型は、部品を作るか購入して向こうで如何にかせよ。しかし随分と欲張ったのう。出来ん事はないが、ふむぅ。それと、如何に体力などを数倍にすると言うても、嵩張るし全部は常に持ち運べぬじゃろう。小判1枚(約95万円:この時の時価)/年で借りられる倉庫をホームセンターと契約出来るようにしておこう。』
「(秀明)ぜひお願いします。任務達成の為には必要ですから。倉庫の契約方法と大きさはどんな感じですか?」
『メニューと念じると開いて見える。後はメニューの指示に従えば良い。大きさは10m立方くらいじゃ。初年度だけ契約済みにして先ほどの書籍類や薙刀等の持ちきれないであろう武器類の一部は倉庫に入れておくから、必要に応じて取り出せ。』
「(秀明)ありがとうございます。ところで、何処(どこorいずこ)に飛ばされるんですか?」
『それなのだが、室蘭の近くじゃ。』
「(秀明)あー、先ずは鉄ですか。地質図とその時代の勢力分布図の全国版および地方版を追加でお願いします。しかし、何で北海道というか、蝦夷の地なんですか? そのパラレルワールドを天下統一せねばならないというなら、もっと中央に近い方がやり易いと思うのですが。」
『鉄もそうだが、その近辺だと人口密度がそれほどで無いから、武器の質次第で四人でも容易に制圧できるじゃろう。なるべく殺さずに味方に引き入れ、徐々に広げていけばよい。それと蝦夷の地にしたのは、中央に近いと場合によっては簡単過ぎるのではないかと他の神から横槍が入っての。蝦夷地に決まった。』
「(秀明)しかし蝦夷かぁ。中央から離れていて遅れているから武器の質の違いで戦に勝つのは容易だけど、若干面倒くさいなー。寒いし。」
「(優也)如何いう事?」
「(秀明)簡単に言うと、その時代、蝦夷にはアイヌと蠣崎しか居ないだろうから制圧にはそれ程苦労しないと思う。その後、蝦夷から陸奥に進むことになるが、この時代の陸奥の武士たちは頑迷というか、昔からの家柄を誇っていて無駄にプライドが高いというか、一所懸命で命を捨てても己が領地を守ろうとするというか。そいつらが面倒くさい。」
「(優也)あー、だけど負けを認めさせてから本領安堵すれば従うんじゃないの?」
「(秀明)最終的にそれはダメなんだわ。土地は我々が一括管理せねば。例えば戦争に強い領主ないしその部下に、殖産に秀でた者がいるとは限らんだろ。むしろ内政なんて殆ど出来ず、百姓に年貢を納めさせて戦に動員出来れば、それが領地経営だと思っている馬鹿が多い。治水なんて謂うのも必要だが、例えば一筋の河川の流域を複数の領主が治めているとすると、水争いばっかりで治水なぞ全く進まないなんて謂う弊害もある。」
「(優也)なるほどね、ということは必然的に地侍とか国侍とかいう連中は、銭侍として従ってもらうか、放逐するか根切りにするか、になるか。」
「(秀明)そういう事。最初からは無理かもしれんが、結局はそこに行き着く。あっ、忘れてた。薬品も買えるようにお願いします。和光純薬とか東京化成とか関東化学とかフルウチ化学とか。」
『結構よく考えているようで安心したわ。その方らを選んだのは間違いで無かったの。そのせいで要求が多いが。薬品の件は分った。それでは、行く準備は出来たかの?』
「(咲耶)おうちの人たちに一言残したいけどダメでしょうか?」
『すまんがそれはダメだの、というか無駄だわ。言ったように、要件を満たして其方等が希望すれば今の時系列に戻ってこれるのだから伝言を残す必要はない。其方等が消えている間の此方の世の中は、皆の記憶から四人の存在は無くなっている形で時間が進むことになる。其方等が戻ってくると、時間が巻き戻って、人々の記憶も元に戻る。帰って来れる時が来たら、また知らせる。』
皆が光に包まれたと思ったら、其々武器を持ち、ザイロンの上下・手袋・ヘルメットを着けている。ザイロン、表面が滑らかでキラキラ光っている。女子も含めてザイロンの内側の服装は上下ともジャージに変更されている。手には車の中に置いてきたはずの通学用カバン。足は登山靴というか、プロが履くようなやつに変更されている。
「(秀明)あのー、食糧なんかは?」
『お主の要求が多すぎて、どうせ持てぬだろうが。向こうで落ち着いてから購入すればよい。勿論、後々は自分達で生産するようになってもらわねば困る。彼方の世の発展と関係するでの。ホームセンターや薬屋、薬品屋などとやり取りするカードはカバンに入っておる。ついでに太陽光充電器を入れておいたので、ネット・電話・GPSなどは使えんが、その他の端末の機能は保持されているぞい。今、其方等は18歳ではなく、12歳に設定しなおされておる。少し背が縮んだろう。後でカバンの中の鏡でも見てみるとよい。12というと、武家ならば男子はそろそろ元服で、女子は早ければ嫁に行く歳だ。それではな、頑張ってきやれ。到着時は天文19年、1550年の5月5日じゃ。あちらは太陰暦だからの。ちなみに、其方等が桶狭間の戦いと呼んでいるのは永禄3年、1560年で、足利義昭という馬鹿タレを連れて織田信長が上洛するのが永禄11年、1568年、本能寺の変が天正10年、1582年じゃ。但しこれ等は元の世界の正史で、此のパラレルワールドではその儘とは限らん。第一、其方等のような異分子が入り込んだ事でもあるからの。・・・・良いか?』
「(美香)いえ、待ってください。最初に “一つ足りないが” と仰いました。その一つとは何でしょう?」
「「「俺(私)も疑問に思っていました。」」」
『其方等、耳が良いと謂うか、賢いと謂うか。大体分かって居るのでは無いか?』
「(秀明)多分、第二次大戦当時の日本の上層部は判断力が不足し、且つ、指導力も欠如していたからだと思います。我等4人を送り込むのも、4人で何か実働するという事もあるでしょうが、現世の知識を駆使して指導力を発揮せよという事では無いかと。」
『嫌になるほど簡単に正解を出すの。当時の日本は精神論だけの馬鹿な軍人が国の上層部を占めて居った。乃木希典と山本五十六位かの、例外は。先程其方等が指摘した鉄鋼生産高とか石油採取高とかのような目に見える物理的格差にも気づかぬ馬鹿じゃ。唯一、開戦に走ろうとするその者等を留める事が出来たのは時の帝、昭和天皇であった。あの者は開戦に反対しておったわ。しかし、残念な事に指導力不足で軍部に押し切られてしまった。尤も、明治から昭和にかけての天皇及び朝廷の地位は軍閥に支えられたものであったからの。昭和天皇、迪宮裕仁は稀に見る程の善人であったよ。知って居るかや? 彼の者は、たとえば元旦、未明の3時から冷たい水で禊をして、4時には拝殿の中で薄縁も敷かぬ板の間に正座し、8時迄の4時間に亘って我に祈る・・・・日本国国民の安寧と全世界の平和を願っての。その清らかな心には一点の濁りも無い。あの者は、20歳で摂政となってから生涯に亘ってずっと祈って来て居る。神の間の決まり事で禁じられているのじゃが、もう少しであの者の前に現れて、其方の願い聞き届けよう、と言う処であったわ。其れを見て育ってる次代の継宮明仁も昭和天皇の行いを継承し、更に今代の浩宮徳仁にも受け継がれて居る。惜しむらくは唯一点、開戦論に抗し切れなかった事じゃの。何はともあれ、上に立つ者は全ての責任をその身に受けねば為らん。正しき判断をせねば為らん。時には冷徹に、時には愛情に満ちて。容易き事では無いぞ。』
「(優也)で、神様は俺等4人にそれを押し付ける、と。」
『じゃから済まんと言うておろうが。然し、其方等ならば此の任に堪えると思うておる。頑張ってみてくれ。我に用があらば、各地に残る神明神社にて願うが良い。ではな、吾は往く。また会おうぞ。』




