天文20(1551)年4月24、25日
4月24日。 それから12日程して、三郎の交代人員が3人やってきた。くたびれ果てて薄汚れた風体で、山賊と見まごうばかり。海路でなく陸路で来て、かなり苦労した様子。小川のずっと下流で、下帯一つになって体を洗っている。きっと体裁を整えてから、此方に来るんだろう。
夕方になって、三郎と3人が此方へやって来た。きっと美味い食事にありつける、という三郎の指嗾だろう。皆、我々に食事をたかる気満々だ。女子2人は先刻承知とばかり、準備万端。まあ、簡単に焼肉バーベキューなんだけどね。
「(三郎)使徒様、お騒がせします。徳山館から某の交代要員が到着しました。皆、某の同僚で主の長門廣益の家人です。先ず、左におりますのが交代でここに滞在する渡会次郎と申して、実のところ某の1つ上の兄です。」
「(次郎)次郎でございます。使徒様には、三郎がお世話になり申した。御礼申し上げます。」
「(秀明)我等の名は長い故、簡単に言うておく。先ず我は桜井秀明と申す。こちらは木下優也、手前が優也の妻で咲耶、奥にいるのが我の妻で美香、いずれもこの世で一仕事するよう、天照坐皇大御神様に遣わされた。」
短髪・色白美人の女子2人が混ざっていることに驚いたのか、初めての3人は不躾にじろじろ見ている。まあ、1月以上女断ちすることになっていたんだし、女子2人は此方の世界では立派なむ*、いや体格だしね。彼等は三郎と乙甲か、少し年上に見えるので、この時代の武士なら跡継ぎを得るために元服後間を置かずに妻帯するだろうし、子供が居てもおかしくない。三郎は19歳(満年齢だと18歳)、渡会家の三男で、まだ独身だそうだ・・・・だからここへ飛ばされたのかもね。
「(三郎)この2人は、次郎の付き添いで参った者で、こちらには滞在せず、某と一緒に帰還いたします。左が陣馬一郎、右が早田参十郎と申します。」
「「(一郎・参十郎)お初にお目にかかり申す。宜しなにお願い致します。」」
「(次郎)三郎の兄の次郎でございます。三郎が厳い(いかい=大変にの意)お世話になり申した。厚く御礼申し上げる次第にて、某も宜しくお引き回しの程、お願致す。」。
「(秀明)然様か。疲れて、空腹でもあろうから、食事をしながらゆるりと話す事にしよう。三郎、今夜は焼肉にした。3名に作法を教えながら食してくれ。我等は飲まぬが、其方等には酒を出しておく。さあ、座るがよい。」
焼肉の良い匂いがしてくると、3名は唾を飲み込みながら逡巡しているが、三郎に促されて、焼肉のタレをつけて一口食べてみる。とたんに大きく目を開き、誰ともなく「旨いっ!」と言ったかと思うと、忙しく箸が動いて焼肉が消えていく。
「(優也)慌てずとも沢山あるから、ゆっくり食せ。酒もチビチビ飲んでみたら如何だ。」
酒と云うか、冷やした焼酎の水割りなのだが、日本酒より此方の方が焼肉には合うだろう。皆、緊張が解けたようで、相変わらずペースは速いが、よく食べ、よく飲んで、最後に大盛ご飯(白米)・漬物・茗荷の味噌汁で〆め。大盛ご飯にも盛大に感激していた。この北の地では、武士と雖もそうそう米食は出来無いのだろう。
「(秀明)三郎、何時出立する?」
「(三郎)早い方が良いので、明後日では如何ですか?」
「(秀明)良いぞ。それでは、明日8時に此方に来い。朝餉は用意しておく。その後皆で神明社に向かい、神様に旅の無事をお祈りする。それから、地図で海路を確認する。今日はこれで解散としよう。疲れているだろうから、今宵はよく眠れよう。」
「「「「ありがとうございました。」」」」
*****
4月25日。 翌朝、塩引き鮭、お浸し、漬物、味噌汁、大盛飯の朝餉を振舞った。塩鮭はこの時代では大変な御馳走で、四人は、一言も喋らず凄い勢いで食べ終えた。食後に冷茶で喉を潤して、一息つき、
「(秀明)良ければ、神明社にお詣りに行くぞ。」
立ち上がって、2分程の処にある神明社に詣でる。
「(秀明)良いか、この神社は我らが主神である日輪の神様、天照坐皇大御神様の神明社だ。日ノ本の国、元は倭の国だが、その八百万神を統べるお方だ。我等使徒をこの世に降した神様でもある。この手水舎で顔、手、口を清め、次にお社に向かって二礼二拍手一礼する。」
美香が先ほど作った黄粉と餡子のおはぎをお供えし、全員でそろって二礼二拍手一礼の参拝を終えた瞬間、なじみになった白い光に包まれた。三郎以下の4人は始めてなので、恐れ慄いて(おののいて)いる。
『新顔が居るようじゃの。吾は、日輪の神、アマテラスという。宜しなにの。』
「(優也)神様、明日我等はこの地を発って、松前に向かいます。他の者は我等と共に向かいますが、この者、渡会次郎と謂い三郎の兄にあたりますが、此地で三郎の任を引き継ぎます。」
『然様か。次郎よ、此地が安らかになるよう、尽力せよ。この神明社には折りに触れて参るが良い。秀明・優也・咲耶・美香、船旅が無事であるよう、吾の加護を与えておこう。』
神様が右手の指を伸ばすと、我等四人が一瞬光り、何かが体を巡ったような感触があった。
『それでは行って来やれ。向こうで神明社が建立されたら、また会えるであろうよ。・・・・美香、餡子は今少し甘い方が好みじゃ。』
そう言うと、神様はお帰りになり・・・・おはぎも消えている。三郎以下の四人は青を通り越して真っ白な顔になっており、細かく震えている。
「(次郎)・・・・・某は、三郎から聞かせられていましたが、正直、半信半疑でござった。しかし今、神様の御姿を目の当たりにして、疑うべくもない事を納得させられました。」
「(秀明)良き体験だったであろうが。其方は、また次の者に引き継ぐまで、この神明社を守るのも任の一つだ。社殿の奥に、神様の御立像があろう。先ほどの事を思い出して、折に触れ、参拝せよ。良いな。」
「(次郎)分かりましてございます。確かと承りました。」
「(優也)それでは解散。三郎はちょっと寄っていけ。」
DKに戻って冷茶を飲みながら、明日の出発について話し合う。明朝は6時集合とし、1時間程度で交易品や土産物などを積み込む。7時には出発する事として、三郎から乗り組む者達へ伝えて貰う。予定より二人多く乗船することになったが、大きな船の割には人手が足りていないから有難い位だ。風に恵まれれば4泊5日で、遅れても6泊7日位で到着するだろうとの見込みだ。地図を見ながら、旅程について三郎の説明を受けた。
いよいよ明日は出発だ。船に積み込む必要の無い荷物は全て倉庫に仕舞った。着替えなどもあらかた倉庫に置いておき、着替え終えたら脱いだものを逆に倉庫に仕舞う、というように船の空間をなるべく有効利用するよう心がけることとした。ライフジャケットは、どうしても増えてしまう荷物の一例だ。また女子二人のためにも、トイレや風呂、他は持って行かざるを得ない。新品を倉庫に入れておき、今から船に行って設置しておこう。槍、弓矢などの武器を買い増しして、倉庫に入れておく。三段繋ぎのうち二段目までとした短槍(120cmになる)2本と、弓2張・矢50本、それに拳銃と脇差を船に持ち込むことにして、後は倉庫に格納した。まあ若干の手間とタイムラグはあるが、何時でも取り出せるし構わないだろう。海賊とか、泊っているときに山賊とかに襲われたとしても、手元の武器だけで十分持ち堪えられる筈で、ちょっと待てば過剰な位の武器を取り出せるので大丈夫だろう。あれこれ考えてもしょうがない。




