天文19(1550)年5月6日-その2
シャベルを4つ買い足し、スコップ大小を6つずつ、コンクリートブロック・鉄筋・細い番線を多数とセメント・砂・砂利、縄、桶を準備した。あまり長いと鉄筋はウィンドウを通らないようで、1.2mのものしかない。1.8m規格がギリギリ通らないのだろう。重複部分を十分に取って3本を番線でつなぎ、最終的に長さを2.6mに統一することにしよう。そうこうするうちに、部落の男五人、女一人と三郎・チッカが揃った。
「(優也)先ずは、大まかに説明する。縄を張ってある処に溝を掘り、そこに砂利セメントを埋める。砂利セメントの作り方は後で教える。次に(と言いながらコンクリブロックを持って)、このコンクリブロックというものを上に積み重ねていく。そのときに、この穴の処に砂セメントと鉄筋を埋める。後でやってみせる。コンクリブロックは土台に1個、その上に8個積む(30cm×8=2.4m)。ぐるっと積み上げて壁ができたならばその上に屋根を乗せるのだが、それは後で。先ずは溝を掘るから、こっちへ来て。」
縄張りに沿って、深さ50cm・幅40cmくらいの溝をぐるりと掘ることになる。シャベルで掘り、足で踏み固めてスコップで平らにならしていくやり方を見せて、部落の人たちに任せる。
女子2人は皆の昼飯造りに取り掛かる。12人も居るから結構大変だ。調理器具を買い足している模様。チッカは女子2人に纏わりついて、あれこれ聞いている。我等男子2人はちょっと離れたところの適当な太さの木を伐り倒しに行く。立木切用のチェーンソーは入手出来たので、2台を始動して伐り倒し始める。けたたましいエンジン音にびっくりして皆手を止め、三郎がこちらへ走ってくる。
「(優也)あー、三郎、心配せんでも良い。これは木を伐るための道具でね。やってみせるから。」
手近の木を1本伐り倒して見せると目を丸くして、
「(三郎)こんなに簡単に・・・・。これならばあっという間に平地を広げられますね。」
「(秀明)そうでもないだろ。木材が必要なので木を伐り倒しているだけで、平地や農地を作るには更に根っこを掘り起こさねばならない。そっちの方が大変だろ。」
「(三郎)それはそうですが、簡単に材木が手に入って、後は根を掘り出すだけなんて信じられませんよ。」
「(優也)はは、そのうち慣れるさ。戻って、皆に何事も無し、作業に戻るようにと言ってくれ。」
「(三郎)はあ、分かりました。」
三郎は戻っていき、皆も作業を再開した。我らは間引くように伐採し、枝打ちする。風通しのよさそうな平らなところに丸太を数本横たえて並べ、長さを6mに切り揃えた丸太をその上に間隔をあけて積み上げて乾燥を促す。数年置いたほうが良いのだが、秋まで待てば何とか使えるかもしれない。枝の類は燃料にしよう。けっこう太い丸太なのに、2人掛りなら軽々運べる。神様に授けてもらった数人前の力に感謝だね。
「(優也)おい、これ椎茸じゃね? 枯れ木に沢山付いているぜ。」
「(秀明)たぶん当たりだ。1個取ってナイフで割ってみよう。」
「(優也)なんでそんな無駄になることをするんだ?」
「(秀明)似てる毒茸にツキヨタケというのがあるんだが、断面を見たとき、根元から黒いしみがあるのがツキヨタケで、無いのが椎茸。柄の付き方も若干違うけど、断面のシミの有無で判別するのが最も確実。・・・・うん、これは椎茸で間違いない。天然物はいい出汁が出るから、帰りがけに採っていこう。それと、この時代、椎茸はバカ高くて良い商品になるから、この木は覚えておいて、養殖するときの菌ダネにしよう。クヌギのような広葉樹があったら、切って乾燥させ、椎茸菌を植えてみようぜ。しかし、この森は針葉樹や白樺、ダケカンバだけでなく、クヌギやナラのような広葉樹もポツポツあるみたいだな。北海道の中でも若干暖かいということか。北限に近いかも。」
そうこうするうちに昼食が近づいたので、良さそうな大きさの椎茸の8割方を収穫し、燃料として丸太から切り落とした枝を持てるだけ運ぶことにした。
帰ってみると、溝は1/3くらい出来ていて、深さや幅も概ね大丈夫。最後に優也が平面性を微調整すれば良いだろう。今日一杯で溝は完成するな。
「(美香)ご飯出来ましたよー。少し下流の方で、顔と手を洗ってきて。咲耶、石鹸を数個と各自に手ぬぐいを配って。」
「(秀明)はい、天然椎茸。沢山あったぜ。」
「(美香)わぁー、後でよく同定して、大丈夫なら夕食や干し椎茸に回しておきます。」
「(咲耶)はーい、一人ずつ受け取っていってね。手は良く洗うこと。秀明と優也、石鹸の使い方を教えてあげて。」
椅子とテーブルは買い足したみたいだ。人数分以上に揃えてある。座ると、女子3人が配膳してくれる。大盛ご飯、豚汁、焼いた大型のアジの干物、ナスの煮ひたしと野菜炒め。男連中はかぶりついている。めったに食べられない米の飯がうれしいのか、バクバク食べている。そういう風習なのか、それとも少ない食料を大事にする考えなのか、三郎やチッカも含め部落民の皆は干物の頭も骨も食べている。残していたら、我等の分の頭と骨も喰っちまった。顎と歯が我々よりも強いみたい。30分程で食べ終えてしまった。米の飯が美味かったということだろう、部落民は満足した顔でガヤガヤ騒がしく話している。大きな湯飲みで冷茶が出された。どうも、元はペットボトルの「お~い、お〇」のようだ。
「(三郎)皆、美味しかったと言っています。それと、この飲み物はさわやかな味がしますが、何でしょうか?」
「(咲耶)昨日の紅茶のときに話に出たお茶ね。煎茶とも言うわ。南の方にはお茶の木というのがあって、その新芽を摘んで乾燥させ、出来た茶葉をお湯で煮出すの。乾燥とその前の工程次第でお茶になったり、紅茶になったりする。」
「(三郎)そのお茶の葉とやらを少量戴く訳にはまいりませんでしょうか? 次に帰還するときの主への土産にしたいのです。」
「(秀明)それは全く構わないが、帰還とは、何時頃何処へ?」
「(三郎)来年の今頃、某と交代で誰かがこちらに来ます。帰還先は、蠣崎様の本拠地、松前の徳山館(以前は大館といった)です。」
「(秀明)ふ~ん、如何やって帰る? 陸路か海路か?」
「(三郎)陸路では下手すると1月以上かかりますので、舟を使います。しかし小舟しかないので、陸に沿ってちょっとずつ進んでは泊まり、を繰り返してやはり半月以上かかります。また、交易品を持って帰るのが目的なので、舟4艘位で行くので、アイヌ達にも負担を掛けてしまいます。」
「(秀明)それならば、伐採して得た木材の一部を使って大型の船を作ってみるか。帆と櫂の両方が使えるようにしよう。」
「(三郎)帆はどうしますか? 大きな莚を編むか、かなり大きくて丈夫な布が必要になります。莚の帆は重く、小舟だと転覆しやすくなります。また布の帆だと使い方次第で有効でしょうが、アイヌにはアットゥシという木の皮(オヒョウという木の内皮)から作った布しかありません。彼の者達にとってはとても貴重で、大きな布はありませんが。」
「(秀明)それは心配ない。我らが布の帆を用意する。この秋頃から作り始めて来春迄に船を完成させ、三郎の帰還の時、その船で我らも同行する。蠣崎に会って、神の使徒としての任に従って貰うべく言い渡さねばならぬ。もっとも、蠣崎にあれこれ選択する自由は無く、我等に従うしかないのだがな。」
そう言うと、三郎は、恐ろしいものを見た/がっかりした/困った、というような感情をない混ぜた顔色で、
「(三郎)分かりました。それならば、最初から奇跡と言いますか、神の使徒である事が誰にでも分かるように天変地異を下すようお勧めします。某はここ数日で使徒様の力を見て納得しておりますが、主の長門様や蠣崎のお館様は俄かには従おうとしないでしょう。」
「(秀明)それは我等で考えておく。」
「(優也)お~い、作業に戻るぞ。」
「(秀明)分かった。三郎、我等は伐採に戻る。こちらの作業は頼むぞ。」




