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プロローグ

 あの日々を思い出すとき、私の心にはいつも、音もなく雪が降っている。

 

 吐く息が白く凍るほどの寒さだというのに、私の身体は、まるで熱に浮かされたように火照っていた。

 目の前で、大好きな彼が立ち尽くしている。

 かつて、この世の誰よりも輝いて見えた私のヒーロー。

 

 私たちを取り囲む空気は、凍てついていた。

 

 彼のたった一人の親友の、失望を隠そうともしない冷たい視線。

 私と彼を巡った恋敵の、別れを決意した悲しい微笑み。

 そして、私のこの想いを唯一共有してくれた友人の、静かな眼差し。

 

 その全てに貫かれて、彼はたった一人で雪の中にいた。

 誰からも、手を差し伸べられることはない。

 

 彼を孤立させること。

 それだけが、彼に気づいてもらうための、唯一の方法だったから。


 「――なんで、だよ……」

 

 その、絞り出すような声。

 信じていた世界に裏切られた、迷子の子供のような響き。

 

 ――ごめんなさい、よしくん。

 

 私は心の中で、そう呟くことしかできなかった。

 声に出せば、私が壊れてしまいそうだったから。

 あなたのその完璧だった世界を壊したのは、他の誰でもない、この私なのだから。


 誰も、悪人なんていなかった。

 みんな、ただ、誰かを大切に想っていただけだった。

 

 それなのに、どうして私たちは、こんなことになってしまったのだろう。

 

 その全ての始まりは、こんな雪の夜ではなかった。

 それはどこにでもあるような、平凡で、穏やかな、夕暮れの帰り道だったのだ――。

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