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チート能力「地の文掌握」が常軌を逸している

作者: 内田らいす

何にも考えずに作った馬鹿馬鹿しくてしょうもないものですが、楽しんでいただけると幸いです。


 これは、とある世界のとある大陸の北部に位置するとある国の都市部から少し離れた町に作られた像のモデルとなった英雄が登場する伝承の中で彼の息子として生まれた男と同じ名を持つ少年の物語。

 少年の名はロット。ロットは裕福な家庭に生まれ、何不自由ない幼少期を過ごした。両親は一人息子に愛情を注いだ。

 彼の人生に淀みが生まれたのは、彼が読み書きをできるようになった頃のことだった。母と共に文字の練習をしていると、突如として母が倒れた。突然の事に状況を理解出来ぬまま、母の名を呼びかけるロット。だが、母は目を覚まさなかった。どうすればいいか分からずに狼狽(うろた)えていると、どこからともなく一人の老婆が現れた。


「だれ?」


 正体不明の老婆に恐れを感じながらも、母を助けてくれるかもしれないという一縷の望みをかけて、涙ぐんだ声で呼びかけるロット。老婆は不気味な笑みを浮かべて答える。


「ヒヒヒ、私は悪い魔女。この世に生を受けた時から幸福を約束されたお前が腹立たしいから、呪いをかけてやる」

「へ?」


 ロットが老婆の言葉を理解する間もなく、老婆は杖を振った。すると、色とりどりの光の粒が辺りに降り注いだ。


「わあ、きれい!」

「お黙り! 呪いの魔法をかけられるというのに、喜ぶんじゃないよ!」


 怒りに任せて、悪い魔女は杖を振り下ろした。光の粒がロットを包み込んだかと思うと、その体内に入っていった。


「う……あ……あ」

「ヒヒヒ、これでお前もおしまいだ」


 ロットはその場に倒れ込んでしまった。それと同時にロットの母親が意識を取り戻した。不鮮明な視界に映る不気味な影。彼女は咄嗟に老婆と息子の間に割り入った。


「あなた誰!?」


 老婆は何も言わずに不敵な笑みを返す。そんな老婆には取り合わず、母親はロットを抱き寄せ、頭を撫でた。


「大丈夫? 何ともない?」

「俺は異世界からの転生者、前世の俺はブラック企業勤めで毎日のように上司からいびられる毎日。もう限界だ、そう感じていた。そんな時――」

「ロット?」


 様子のおかしいロットに、母は何度もその名を呼びかける。けれど、ロットは虚ろな目をして上司がどうとか残業がどうとかと口にするばかりだった。息子の異変の原因が老婆だと気づいた彼女は、鋭い視線を向ける。


「私の息子に何をしたのよ!」

「他人の精神で人格を上書きしたのさ。今のそいつの人格は、異世界の成人男性、それも四十歳を目前とした社畜(しゃちく)さ!」

「成じ……四十……そんな!」


 母親は口元を抑えてその場に座り込んだ。息子の姿なのにもう息子はどこにもいない。その事実に彼女の胸は張り裂けんばかりだった。


「その精神の持ち主はさぞ喜ぶだろう。苦痛の日々から解放されるのだから。お前はどうかな? 別人となった息子も同じように愛せるかな? ヒーヒッヒッヒ!」

「許さない」


 母親が低い声で呟いた。彼女の背後からは暗黒のオーラが立ち込めている。


「あの子には未来があったのに、四十路(よそじ)手前のおじさんの人格に上書きするなんて、絶対に許さない!」


 その言葉を聞いたロット――の肉体を奪った四十路手前のおじさん――は一際大きなため息をついて落ち込んでいた。

 気まずい空気が部屋中に流れる。


「あ、いえ、違うのよ。あなたに未来が無いって言ってるわけじゃなくて……その、大丈夫。四十路なんてまだ若いんだし、やり直せるわよ……ファイト!」

「そんなの慰めになるか! 乳がでかくて顔がちょっといいだけのくせに、適当なこと抜かすなよ!」

「じゃあどう言えってのよ! 異世界の事なんて知らないもの! それと、息子の声でおじさん的な卑猥な言葉を喋らないで!」

「はいはい、まあ、俺はこれから主人公としてこの世界で活躍するんだ。異世界転生って大体そういうもんだしな。これからよろしく、ママ」


 母親はロットの頬に平手打ちをかました。ロットの体は空中で三回ほど回った後地面に叩きつけられた。


「何すんだよ!」

「中身おっさんのくせに気安く"ママ"なんて呼ばないでちょうだい! 吐き気を(もよお)すでしょ!」

「五歳児がママって呼ぶのは普通だろ!」

「あんたは四十路手前のおっさんよ! 私より年のいったあんたに、ママと呼ばれる筋合いないわ!」


 その時、暗黒のオーラに包まれていた母親が眩い光を放ちはじめた。それは彼女の持つスキルによるものだった。彼女は感情が高ぶるとそのエネルギーを凝縮し、光の弾に変換して体外に射出することができるのだ。

 彼女の視線は忌まわしい呪いの元凶である、老婆に向けられている


「覚悟はいい? 怪しいお婆さん」

「クソババアじゃと!? 誰にそんな口を……私はまだピチピチのギャル――」

「死になさい!」


 目にも止まらぬ速度で迫る光弾が命中した老婆は、悲鳴を上げる間もなく全身を細切れにされ、跡形もなく消し炭になった。静寂が訪れた部屋、母親は慌ててロットの元へ駆け出す。


「ロット、大丈夫?」


 ロットは目をきつく瞑り、苦しそうに顔を歪めたたかと思うと、ゆっくりと目を開いた。


「おかあ……さん」

「あぁ……良かった。戻ったのね」


 母親は涙ぐみながらロットをきつく抱き締めた。その後、老婆も四十路手前のおじさんも彼らの前に現れることはなく、ロットは健やかに育った。


 数年後、ロットはこの世界のありとあらゆる国で伝わる「覚醒の儀」に出ることになった。この儀式は、正体不明の上位者によって力を半ば強制的に覚醒させられるというものであり、これにより人々はスキルと呼ばれる力を得ることができる。

 儀式が始まると、なんか偉い人が一人ずつ名前を呼んでいく。


「次、ロット君」


 呼ばれたロットは目を瞑り、水晶玉に手をかざした。するとそこに文字が浮かんだ。そこに書かれていたのは「()(ぶん)掌握(しょうあく)」だった。未だかつて存在が確認されたことのないスキルに人々はどよめいた。果たしてこれは優れたものなのか、あるいは……。


「こんなのハズレに決まってんだろ? だってカタカナが一つも入ってねえんだもん」


 そう口にしたのはガキ大将のドンプだった。彼が得たスキルは<ハイパー・アルティメット・インフィニティ・ストロング・レジェンド・ゴッド・バスター・エクストリーム>だった。このスキルは、ものすごく悪い奴らを一人で滅ぼしたという伝承に残る戦士と同じもので、尋常ではない。彼の言葉にまずは取り巻きたちが笑いだした。それは徐々に周囲に感染していき、やがてほぼ全員が笑いだした。

 ロットは一目散にその場をあとにした。

 家に帰ると部屋に閉じこもり、静かに涙を流した。どうしてこんなスキルを手にしてしまったのだろう。どうしてあんなに笑われなければならないのだろう。ただただ悔しくて、けれど何も言い返す言葉も持たず、ロットは泣くことしかできなかった。

 この力は本来、あの四十路のおじさんに人格を乗っ取られたロットが手にするはずの力であり、元に戻ったロットには無縁の力だったが、呪いの影響が残っていたことにより覚醒してしまったのだ。だが、ロットにはそんなことを知る由もなかった。

 その日からロットは毎日からかわれ、笑われた。その度に心が傷ついたが、決して諦めることはなかった。いつか必ず、このスキルで皆を見返してやるのだ、そう決意し、毎日スキルの練習をした。


 ある日のこと、ドンプが木刀での戦いをしようと持ちかけてきた。無論、能無しのロットを皆で笑いものにするためである。彼らにとって以外だったのは、ロットがその誘いに乗ったことだった。いつもとは違う、自信がロットから溢れていた。


「いくぞ」

「うん」


 開始の合図もなくドンプは突進してきた。そして、木刀で何度も何度もロットを殴る。頭、胸、腹、足、容赦ない攻撃がロットを襲った。うずくまるロット、だがドンプは攻撃の手を緩めない。観戦者たちの中には止めに入ろうとしたものもいたが、体がすくんで動けずにいた。


「そろそろ本気でやっちゃおうかな」


 そう言ってドンプはスキルを発動した。剣の形状をしたオーラがロットへと一直線に飛ぶ。

 そして、ロットは決闘に勝利した。


「は? 何でだよ」


 地面に倒れ込んだドンプか涙を流しながらそう言った。


「何で俺が地面に倒れてんだよ! さっきまでと違うじゃねえか」

「ドンプ、僕の勝ちだね」


 ロットはドンプの顔を覗き込んで誇らしげに言った。見ていた者たちは盛大な歓声と拍手を送る。ドンプは何も言わず、悔しそうに去っていった。


「ふざけんなよ! もう一回だ!」


 ドンプは何も言わず、悔しそうに去っていった。


「く……思い通りになるかよ……」


 ドンプは何も言わず、悔しそうに去っていった。


「うわあぁぁあぁぁぁ」


 ドンプは何も言わず、悔しそうに去っていった。


 彼が手にしたスキルは、世界の(ことわり)を自分の思い通りに改変するというものだった。

 その後色々あってロットは悪い奴らを倒すため、冒険の旅に出た。

 この先の物語は全てが彼の思う通りに展開するのみで、読者にとっては何の面白みもなかったため、先人たちによって歴史から抹消されている。

思ってたんと違うのができた。

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