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第10話:「天才魔導師との邂逅」

夜明け前の書庫は、ひっそりと静まり返っていた。俺は、隠し持っていた魔力増幅炉の改良設計図を再び広げた。そこに書き加えた浮遊要塞の概念図が、暗闇の中で不気味に浮かび上がる。


(これで、帝国の技術は飛躍的に進歩する。だが、その代償は……)

俺は、未来の自衛隊が苦戦した浮遊要塞の姿を思い描いた。あの巨大な兵器が、この時代に、俺の手によって生み出されるかもしれない。それは、未来の日本にとって、より大きな脅威となる。


しかし、俺はもう後には引けない。リリアーナ姉上への示唆、そしてこの設計図。すでに俺の行動は、歴史の歯車を大きく狂わせ始めている。俺がこの帝国を救う道を選ぶなら、この技術は不可欠だ。


問題は、この設計図をどうやって、エミリオ・ヴァイスハルトに届けるかだ。直接渡せば、病弱な王子がなぜこんなものを持っているのか、不審に思われるだろう。ゼノン先生を経由するのが最も安全な方法だが、彼がこの設計図の真価を理解できるか、そしてそれをエミリオに繋げられるか、確証はない。


その日の午後、ゼノン先生との学習時間。俺は、慎重に切り出した。

「先生、先日お話しいただいた魔力増幅炉の研究について、もう少し詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか?」

俺は、あくまで熱心な生徒を装って質問した。


ゼノン先生は、俺の熱意に満足そうに頷いた。

「ほう、殿下も随分とご熱心ですな。宮廷魔導院の奥深くで進められている研究ですから、私も全てを把握しているわけではありませんが……」

彼はそう言って、魔力増幅炉の基礎理論について、再び説明を始めた。


俺は、ゼノン先生の説明を聞きながら、時折、最もらしい疑問を投げかけた。

「先生、魔力結晶の安定供給が課題とのことでしたが、もし、特定の触媒を組み合わせることで、その問題を解決できるとしたら……?」

俺は、改良設計図に記した触媒のヒントを、さりげなく盛り込んだ。


ゼノン先生は、俺の言葉に目を見開いた。

「な……特定の触媒、ですか? そのような発想は、これまでの研究にはありませんでしたな」

彼の顔に、驚きと、そして知的な探究心が浮かび上がる。


「わたくしは、ただ書物を読んでいて、ふと、そのような可能性を考えただけでございますが……」

俺は、あくまで偶然を装った。

ゼノン先生は、腕を組み、深く考え込んだ。

「なるほど……。殿下のその発想は、もしかしたら、長年停滞していた研究に、新たな光をもたらすかもしれませんな。これは、エミリオ・ヴァイスハルトに伝えるべきでしょう」


俺の思惑通りだ。ゼノン先生は、俺の言葉に興味を持ち、エミリオ・ヴァイスハルトに繋ぐことを決めた。

「エミリオ・ヴァイスハルトに、ですか?」

俺は、わざとらしく驚いたふりをした。

「ええ。彼こそが、この研究の第一人者ですからな。殿下のその発想が、彼の研究をさらに加速させるかもしれません」

ゼノン先生は、興奮した様子で言った。


数日後、ゼノン先生の計らいで、俺は宮廷魔導院を訪れることになった。表向きは「病弱な王子の気晴らし」だが、目的はただ一つ、エミリオ・ヴァイスハルトとの接触だ。

宮廷魔導院は、王宮の奥深くに位置する、厳重な警備が敷かれた建物だった。内部は、魔力の光が満ち溢れ、奇妙な装置や魔導具が所狭しと並べられている。


ゼノン先生に案内され、俺はエミリオ・ヴァイスハルトの研究室へと足を踏み入れた。

研究室の中央には、複雑な魔導回路が組み込まれた巨大な装置が鎮座している。それが、魔力増幅炉の試作機だろう。

そして、その装置の前に立っていたのは、一人の青年だった。

年齢は20代前半だろうか。眼鏡の奥から覗く瞳は、知的な光を宿し、どこか狂気じみた情熱を秘めているように見えた。彼の周りには、無数の資料が散乱しており、その天才的な頭脳が常に稼働していることを物語っていた。


「エミリオ君、紹介しよう。こちらがアルフレート殿下だ」

ゼノン先生が、エミリオに声をかけた。

エミリオは、俺たちの方を振り返った。その視線は、俺の幼い体ではなく、俺の背後にある魔力増幅炉の試作機に向けられているようだった。

「……殿下、ご足労いただき、恐縮です」

彼は、形式的に一礼した。その声には、研究以外のことには興味がない、というような響きがあった。


「エミリオ君、実は殿下から、君の研究に関する、興味深い発想を伺ったのだ」

ゼノン先生は、俺が話した触媒の話を、エミリオに伝えた。

エミリオは、ゼノン先生の言葉を聞くと、その瞳に鋭い光を宿した。

「特定の触媒、ですか……? それは、どのような?」

彼の口調が、明らかに変わった。研究者としての好奇心が、彼を突き動かしている。


俺は、ゼノン先生の背後から、エミリオに視線を向けた。

(ここが勝負どころだ)

俺は、アルフレート王子としての穏やかな表情を保ちながら、未来の知識を、この天才魔導師に、どう伝えるべきか考えていた。

この邂逅が、帝国の未来を、そして俺自身の運命を、大きく変えることになるだろう。

パラドクスへの道は、さらに深く、複雑に絡み合っていくことになるのであった。

お試し版なので、ここで完結済みにしておきます。

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