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第1話:「俺が滅ぼした国に転生してんじゃねぇよ」

西暦20XX年、夏。

焦げ付くようなアスファルトの匂いが、俺の鼻腔を刺激した。

「如月二尉、状況は?」

無線から響く声に、俺は無意識に唾を飲み込む。

「グレイル帝国軍、最終防衛ライン突破。残存兵力は推定500。抵抗は散発的です」

俺は双眼鏡を覗き込み、眼下で繰り広げられる光景を凝視した。

数年前、突如として東京上空に出現した巨大な「門」。そこから現れた異世界国家「グレイル帝国」は、瞬く間に日本を侵略し始めた。彼らの技術は、地球のそれとは比較にならないほど進んでいた。魔法と科学が融合したような兵器、空を覆う巨大な浮遊要塞、そして何よりも、彼らが持つ「魔力」という未知の力。

だが、日本は諦めなかった。

自衛隊は、文字通り国家の総力を挙げて反撃を開始した。情報部である俺の任務は、敵の戦術、兵器の特性、そして彼らの文化や思考パターンを分析し、攻略の糸口を見つけることだった。

そして、数年間の死闘の末、ついに俺たちはこの日を迎えた。

グレイル帝国の首都、ヴァルハラ。その中心にそびえ立つ、皇帝の居城「天蓋宮」を包囲している。

「目標、天蓋宮。これより最終突入を開始する。各隊、準備はいいな?」

総隊長の力強い声が、全隊員に響き渡る。

俺は双眼鏡を下ろし、隣に立つ隊員に目をやった。彼の顔には、疲労と、そして勝利への確信が入り混じっていた。

「長かったですね、如月二尉」

「ああ、本当に」

俺は乾いた笑みを浮かべた。どれだけの犠牲を払っただろうか。どれだけの仲間が、この戦場で散っていったか。

だが、これで終わる。

俺たちは、この国を滅ぼす。

その時、天蓋宮の最上階から、まばゆい光が放たれた。それは、グレイル帝国が持つ最終兵器「星辰砲」の起動を示すものだった。

「星辰砲、発射準備! 全員、伏せろ!」

俺は叫び、地面に身を伏せた。脳裏に、星辰砲の破壊力がフラッシュバックする。以前、この一撃で自衛隊の一個中隊が消滅した。

だが、今回は違う。

俺たちは、その対策を練ってきた。

星辰砲の光が空を裂き、一直線に俺たちの陣地へと向かってくる。その瞬間、空に無数の光の壁が出現した。自衛隊が開発した、対魔力シールドだ。

光の壁は星辰砲のエネルギーを吸収し、やがて弾ける。爆音と衝撃波が大地を揺らし、俺たちの体を襲った。

「よし、耐えた! 全隊突入!」

総隊長の号令が響き渡り、自衛隊の精鋭部隊が天蓋宮へと突入していく。

俺も立ち上がり、彼らの後を追った。

天蓋宮内部は、すでに血と硝煙の匂いが充満していた。グレイル帝国の兵士たちが、最後の抵抗を試みる。彼らの顔には、絶望と、それでもなお守ろうとする誇りが宿っていた。

俺たちは、彼らを容赦なく打ち倒していく。これは戦争だ。情けは無用。

情報部員である俺は、最前線で戦うことは少ない。だが、今回は別だった。この戦いの結末を、自分の目で確かめたかった。

最上階への階段を駆け上がると、そこには皇帝の玉座の間があった。

玉座には、白髪の老人が座っていた。グレイル帝国の皇帝、ヴァルハラ・グレイル。

彼の周りには、数名の近衛兵が立ちはだかっていた。

「ここまでか……」

皇帝は静かに呟いた。その声には、諦めと、そして深い悲しみが込められていた。

俺は銃を構え、近衛兵たちに狙いを定めた。

「投降しろ。さもなくば、撃つ」

俺の言葉に、近衛兵たちは剣を構え、俺たちに突進してきた。

彼らは、この国を守るために、命を捨てる覚悟を決めていた。

俺は引き金を引いた。

銃声が響き渡り、近衛兵たちが次々と倒れていく。

そして、最後に残ったのは、玉座に座る皇帝だけだった。

彼は、俺をまっすぐに見つめた。その瞳には、恨みも憎しみもなかった。ただ、静かな諦めだけが宿っていた。

「……未来を、頼む」

皇帝は、そう言って、ゆっくりと目を閉じた。

俺は、引き金を引くことができなかった。

その時、背後から別の隊員が飛び出し、皇帝に向けて銃を構えた。

「如月二尉! 何をしている!?」

俺は、反射的にその隊員を突き飛ばした。

だが、その瞬間、玉座の間の床が、まばゆい光を放ち始めた。

「な、なんだ!?」

光は急速に膨張し、俺たちを飲み込んでいく。

俺は、意識が遠のく中で、皇帝の顔を見た。

彼の口元には、微かな笑みが浮かんでいた。

――ああ、俺は、この国を滅ぼしたんだ。


次に目覚めた時、俺は柔らかなベッドの上にいた。

全身が鉛のように重く、頭がガンガンと脈打つ。

「……ここは?」

掠れた声で呟くと、視界に飛び込んできたのは、見慣れない豪華な天井だった。

白い漆喰の壁には金色の装飾が施され、窓からは柔らかな陽光が差し込んでいる。

まるで、どこかの貴族の屋敷のようだ。

俺はゆっくりと体を起こした。体に異変はない。だが、なぜか体が小さくなったような違和感があった。

自分の手を見下ろすと、そこには見慣れない、小さく細い手があった。

「は?」

思わず声が出た。

慌てて、近くにあった鏡に駆け寄る。

鏡に映っていたのは、見慣れない少年だった。

白い肌、銀色の髪、そして、エメラルドのような緑色の瞳。

年齢は、せいぜい10歳前後だろうか。

「なんだこれ……誰だ、お前は!?」

俺は鏡の中の少年に向かって叫んだ。

その時、部屋の扉が開き、メイド服を着た女性が入ってきた。

「あら、殿下。お目覚めになられましたか?」

メイドは優雅な動作で俺に近づき、心配そうな表情で俺の額に手を当てた。

「殿下……?」

俺は混乱した。殿下? まさか、俺が?

「高熱でうなされていらっしゃいましたから、心配いたしましたわ」

メイドは、俺の額から手を離し、優しく微笑んだ。

「殿下、本日は陛下がお見舞いにいらっしゃいます。そろそろ身支度を……」

メイドの言葉に、俺の頭の中に電撃が走った。

陛下?

まさか、あの皇帝か?

俺は、部屋の窓に駆け寄り、外の景色を眺めた。

眼下に広がるのは、見慣れたはずの首都ヴァルハラ。だが、そこには、俺が知る瓦礫と化した街の面影はなかった。

建物はどれも真新しく、人々は活気に満ち溢れていた。

そして、遠くに見える、天蓋宮。

それは、俺が数時間前まで包囲していた、あの天蓋宮だった。

「……おい、これ俺が滅ぼした国じゃねえか!」

俺は、絶叫した。

まさか、俺は、過去にタイムスリップしたのか?

しかも、滅ぼしたはずのグレイル帝国の、王子として。

冗談じゃない。

俺は、あの国を滅ぼしたんだ。

俺は、あの皇帝を、そしてその兵士たちを、打ち倒したんだ。

なのになぜ、俺は今、その国の王子として、ここにいる?

未来を知る俺が、この国の王子として存在している。

これは、一体どういうことだ?

俺は、自分の運命が、とんでもない方向へとねじ曲がっていることを悟った。

そして、このねじ曲がった運命が、新たな戦いを引き起こすことを、直感的に理解した。

俺は、この国を、また滅ぼすのか。

それとも、救うのか。

運命の因果が絡み合う、軍事×転生×時間逆行SFファンタジー、開戦するのであった。

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