表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編集

お子様ランチ

作者: 神原夏吉

monogatary.comでお題「深夜のファミレス」で投稿したものです。

 僕の街には有名なファミレスがポツンと建っている。


 昼は多くの子連れで賑わっているが、夜に通ると、とても静かである。


 それもそうか。夜中に外食する人なんて、この街にはほとんどいない。


 そんな中、疲労が蓄積しすぎたある男は、家に帰ってから夕食を準備するのも面倒くさく、そのファミレスで食事を済ますことにした。


 その男とは勿論、僕のことだ。


 最近は辛いと思うことが多く、正直希望なんて存在しない。いわゆる「もやし」状態である。


 中に入ると、ファミレスによく行っていた幼き頃の記憶がかすかに蘇ってきた。


 あの時の自分は、どれほど純粋で元気であったことか。涙すら出てきそうだ。


 女性店員に「お好きな席へどうぞ」と言われ、他に誰もいない店内の奥の席に座ると、メニュー表を広げる。


 特に食べたいものがあるわけでもなく、ペラペラとめくっていると、ふと、お子様ランチが目に入った。


 小さく「大人もお召し上がれます」と書いてある。


 「お子様ランチ、深夜に来る方がよく注文を取られるんですよ。なんでも、懐かしい味だとか」


 いつの間にか席の前に立っていた店員がそうつぶやいた。


 懐かしい味、その言葉に惹かれ、注文することにした。


 「お子様ランチ、オーダー1です!」「あいよ〜」


 奥からよく響く男性の声がした。調理担当なのだろう。


 しばらくすると、先ほどの声の主であろう、図体の良い男性がお子様ランチを運んできた。


 「はい、お子様ランチ、一人前です。冷めないうちに、どうぞ」


 運ばれてきた皿の上には、オムライスに可愛らしい旗が立っていた。


 一口食べると、かつての思い出と共に涙が溢れてきた。自分でも何故なのかはわからないが、とても懐かしい味だった。


 「兄ちゃん、少し無理しすぎなんじゃないのか? 少しはな、休むべきだと思うぜ」


 ふと、彼はそうつぶやいた。


 「俺も、ここのお子様ランチに救われて、今ここで働かせてもらっている。お子様ランチに救われたなんて、馬鹿らしい話だけどな」

 「この人、このお子様ランチを作れるようになるために、調理師免許までわざわざ取ったんですよ」

 「おい、これ以上は止めろって」


 久しぶりに感じた、人の温もりと優しさ、そして美味しさだった。


 「ありがとうございます。また来ます」

 「おう、毎週金曜の夜は絶対いるから、また来いよ」

 「お仕事も、頑張ってくださいね」


 雑談を多く交わしたあと、彼らはそう言って僕を見送ってくれた。


 また一歩、前に進んでいこうと思った。

ストレスばかりの社会、少しは気休めもほしいものです。こんなファミレスが近くにあったらいいのに……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ