お子様ランチ
monogatary.comでお題「深夜のファミレス」で投稿したものです。
僕の街には有名なファミレスがポツンと建っている。
昼は多くの子連れで賑わっているが、夜に通ると、とても静かである。
それもそうか。夜中に外食する人なんて、この街にはほとんどいない。
そんな中、疲労が蓄積しすぎたある男は、家に帰ってから夕食を準備するのも面倒くさく、そのファミレスで食事を済ますことにした。
その男とは勿論、僕のことだ。
最近は辛いと思うことが多く、正直希望なんて存在しない。いわゆる「もやし」状態である。
中に入ると、ファミレスによく行っていた幼き頃の記憶がかすかに蘇ってきた。
あの時の自分は、どれほど純粋で元気であったことか。涙すら出てきそうだ。
女性店員に「お好きな席へどうぞ」と言われ、他に誰もいない店内の奥の席に座ると、メニュー表を広げる。
特に食べたいものがあるわけでもなく、ペラペラとめくっていると、ふと、お子様ランチが目に入った。
小さく「大人もお召し上がれます」と書いてある。
「お子様ランチ、深夜に来る方がよく注文を取られるんですよ。なんでも、懐かしい味だとか」
いつの間にか席の前に立っていた店員がそうつぶやいた。
懐かしい味、その言葉に惹かれ、注文することにした。
「お子様ランチ、オーダー1です!」「あいよ〜」
奥からよく響く男性の声がした。調理担当なのだろう。
しばらくすると、先ほどの声の主であろう、図体の良い男性がお子様ランチを運んできた。
「はい、お子様ランチ、一人前です。冷めないうちに、どうぞ」
運ばれてきた皿の上には、オムライスに可愛らしい旗が立っていた。
一口食べると、かつての思い出と共に涙が溢れてきた。自分でも何故なのかはわからないが、とても懐かしい味だった。
「兄ちゃん、少し無理しすぎなんじゃないのか? 少しはな、休むべきだと思うぜ」
ふと、彼はそうつぶやいた。
「俺も、ここのお子様ランチに救われて、今ここで働かせてもらっている。お子様ランチに救われたなんて、馬鹿らしい話だけどな」
「この人、このお子様ランチを作れるようになるために、調理師免許までわざわざ取ったんですよ」
「おい、これ以上は止めろって」
久しぶりに感じた、人の温もりと優しさ、そして美味しさだった。
「ありがとうございます。また来ます」
「おう、毎週金曜の夜は絶対いるから、また来いよ」
「お仕事も、頑張ってくださいね」
雑談を多く交わしたあと、彼らはそう言って僕を見送ってくれた。
また一歩、前に進んでいこうと思った。
ストレスばかりの社会、少しは気休めもほしいものです。こんなファミレスが近くにあったらいいのに……