第六十二話「スキル《破壊神》」
どうもですわ、リリアナ・フォン・エルフェルトですわ!
今回も戦います。というか、戦わせられてます。
正直ちょっと、いろいろ理不尽なんですけど……仕方ありませんわね。
でも、それでも私は──諦めない。
さあ、物語の続きをどうぞご覧くださいませ。
少し離れた場所から雷鳴のような衝撃音が響く。
(お父様……!)
ミカのスキル《破壊神》。
一度でも攻撃が当たれば、即死。
そんな理不尽な能力を前にして、お父様は──。
「……」
私は一度目を閉じ、深く息を吐いた。
恐怖を振り払うように。
不安を振り払うように。
(今はお父様を信じるしかない)
お父様がどれほど愚かで、不器用で、戦いに全てを捧げた人間かを、私は知っている。
(負けるはずがない)
けれど、正直勝つ保証もない。
(なら、私がやるべきことは……)
エルが、じっと私を見つめている。
その表情は、まるで何かを測るような目だ。
「お前は、どうする?」
「……決まっていますわ」
私は剣を収め、ゆっくりと立ち上がる。
「私は、私のすべきことをするだけ」
エルは、それを聞くと小さく笑った。
「……そうか」
どこか、諦めたような、納得したような。
そんな曖昧な笑み。
「なら、行け」
エルが視線を逸らす。
「……どういうつもりですの?」
「俺は降参した。もう、お前と戦う理由はない」
「……」
「それに──お前はここにいるよりも、やるべきことがあるだろう」
「……!」
私は、その言葉を聞いて、一瞬だけ迷った。
(でも──)
「行きますわ」
私は背を向け、父の元へ駆け出す。
その背中に、エルの小さな声が届いた。
「──止めてみろ、同郷」
私は答えず、ただ走った。
(お父様……!)
風が吹き抜ける。
戦場の中心へ、私は向かう。
地を蹴る音が響く。
風が肌を裂くように冷たく感じるのは、気のせいではない。
私は戦場の中心へと向かっていた。
(間に合え……!)
お父様の気配が感じられる。
ミカの存在が、そこにある。
そして、戦場の"異質さ"も。
何かが、おかしい。
(……静かすぎる)
戦場は混沌としているはずだ。
怒号、衝撃、剣戟の音。
しかし、そこには"沈黙"が広がっていた。
「……何が起こっているの?いえ、何も起こってない、の?」
(まさか……)
一抹の不安が私の足を止めた。
視界に広がるのは、"倒れ伏した人々"。
兵士たち。
貴族たち。
皆、膝をつき、動けなくなっていた。
「なっ……!」
息を呑む。
誰もが、"何か"に押し潰されている。
まるで、見えない手で押し込められたかのように。
「……」
震えが走る。
この光景は、見たことがある。
以前の戦いでも。
「これが……スキルの力?」
呟く私の前に、"彼女"がいた。
ミカ。
その橙色の髪が、淡く揺れる。
「……遅いのう」
彼女が、静かに微笑んだ。
その背後には、お父様の姿。
「お父様!!」
私は駆け寄ろうとする。
だが──
「おっと」
ミカが手を上げた、その瞬間。
私の足が、止まった。
(……身体が……動かない!?)
まるで、重圧がのしかかるように。
空気が、重い。
視界が、歪む。
「っ……!」
私の中の"本能"が叫ぶ。
(これは……危険だ……!)
ミカが、笑う。
「……さぁ、お主はどうする?」
私は、歯を食いしばる。
「負ける気は、ありませんわ」
──勝たなければ、ならない。
だが、身体が動かない。
まるで、大気そのものが私を押し潰しているような錯覚。
(これは……スキルの影響?)
エルの話ではミカのスキルは《破壊神》。
それが、ただの"一撃必殺"の能力だけではないとしたら?
「……何をしたんですの?」
私は、わずかに息を整えながら問いかける。
視界の隅に映るお父様の姿は、未だ倒れていない。
だが、明らかに動きが鈍い。
「別に、大したことはしておらん」
ミカは軽く肩をすくめる。
彼女の瞳は、どこか楽しげだった。
「ただ……少し、この場の"概念"を壊したのじゃ」
「概念……壊した?」
「簡単に言えば、ここにいる限り"私のルール"が適用されるって事じゃな」
ミカは片手を軽く掲げた。
「この場で、私が認めないものは"動けない"」
「なっ……!」
息を呑む。
(まさか……)
「それが妾のスキル──《破壊神》じゃ」
ミカがにやりと笑う。
「"破壊"ってのは、単にモノを壊すだけじゃないんじゃ。"意志"を壊すこともできるんじゃ」
「……!」
全身に鳥肌が立つ。
それは、"戦いのルールそのものを支配する力"。
そんなものが、許されるの?戦意すらも破壊する力……。
「でもまぁ、お主はまだ動けるみたいじゃから妾の"ルールの例外"にいるようじゃ」
ミカは私を見つめる。
「さぁ、どうするんじゃ?」
──どうする?
選択肢なんて、ない。
(……やるしかない)
私は一歩を踏み出した。
「お主……本当に動けるんじゃな」
ミカの目が細められる。
「なら……もっと"強く"してやる──」
その瞬間。
──空気が、弾けた。
「っ……!」
私は思わず、剣を握りしめる。
ミカの身体から放たれる"圧"が、桁違いに強くなっていた。
(これは……ただのプレッシャーじゃない)
まるで、空間そのものが変質していくような感覚。
「さぁ……ゲームを始めようなのじゃあああああああ」
ミカが、笑う。
私は、彼女のその笑みに──全力で、応じるしかない。
──スキル《破壊神》、か。
ミカの能力は、単純にして致命的。
拳が当たれば即死級の威力。空気を破壊すれば、衝撃波にもなる。
……だが、それで終わりじゃない。
《破壊神》の本質は、"概念の破壊"にある。
場所の意味、存在の理由、戦いのルール──そういった抽象的なものまで、壊せる。
要するに「私が認めないものは動けない」ってのは、理屈じゃなく"世界がそうなる"ってことだ。
ただ、問題は──ミカがバカってことだ。
いや、悪い意味じゃない。あいつなりに真剣で、本気だ。
けど、あの力の本当の意味には気づいていない。
感覚で、感情で、雰囲気でスキルを使ってる。
それでも手に負えない。
だからこそ……ミカの《破壊神》には、まだ"先"がある。
あれは底が見えない。いや、たどり着けるかも怪しい。
──さて、ここまで読んでくれた君へ。
もし少しでも楽しんでくれたなら、ブクマでも評価でも頼む。
リリアナも、ミカも、まだまだ"本気"を出し切っちゃいない。
だから、続きを見逃すな。
俺が言うんだ。間違いない。




