第六十話「強者の邂逅、交差する剣と拳」
「はぁ……また面倒なことになったな」
どうも、エルだ。
俺はただ静かに暮らしたいだけなのに、どうしてこうも騒がしいんだか。
まぁ、今回はちょっとばかり興味深い相手がいるみたいだが……。
さて、この国は俺たちに何をもたらしてくれるんだろうな?
ま、読んで確かめてくれ。
──強い。
目の前の少女、ミカと呼ばれた少女は"本物"だった。
戦場で鍛えられた者特有の、無駄のない動き。
彼女の拳が空を裂くたび、重い衝撃が周囲の空気を揺るがしていた。
「ほれほれどうしたのじゃ! こんなものかのう?」
彼女は軽口を叩きながら、拳を繰り出してくる。
だが、それは決して"軽い攻撃"ではない。
一撃でもまともに受ければ、私の身体ですらただでは済まないだろう。
「うるさいですわね!」
私は剣を振るい、その攻撃を受け流す。
剣とナックルがぶつかり合い、金属が擦れる高い音が響く。
ミカの腕に嵌められた鉄のナックルは、私の剣と拮抗するほどの威力を秘めていた。
(この子は確かに強い。純粋な強さで言えば、昨日のカゲロウのダイルと同格……あるいは、それ以上かもしれない)
だが、私はまだ一度もスキルを使っていない。
彼女の猛攻を剣だけで防ぎ、いなしている。
なのに、妙に余裕がある。
(……負ける気がしない)
この感覚は何なのか。
戦いの最中に、確信に近い感覚が湧き上がる。
私はまだ、何も"解放"していない。
なのに、戦局を支配しているのは間違いなく私のほうだった。
剣と拳がぶつかり合い、火花が散るたびに私の確信は深まっていく。
その光景を眺めながら、エルが低く呟いた。
「……ミカと同レベルだと。何者だあいつは」
彼の声には、驚きと興味が入り混じっていた。
だが、その言葉に答えたのは私ではなかった。
「あいつは俺の娘だ、よそ者」
──レオン。
私の背筋に、戦いとは異なる別の緊張が走る。
戦闘に集中しながらも、内心で思わず叫んでしまいそうだった。
(お父様……来るの遅すぎますわよ!?)
レオンは静かに歩みを進め、エルの正面に立つ。
剣を握る手には迷いがない。
それは、"この国を守る者"の意志そのものだった。
「……お前があいつの父親か」
エルが静かに呟く。
その目には、敵意もなければ、興味すら薄いように見えた。
「いかにも。俺はこの国の国王、レオン・フォン・エルフェルト。貴様らがこの国を害する存在とあるならば容赦はせん」
レオンは厳かに宣言する。
その威厳に、民を守る王の覚悟が込められていた。
「……おっさん。俺らはこの国が欲しいだけだ。素直に渡せば危害は加えないと誓う」
エルは相変わらず、ポケットに手を突っ込んだまま、淡々とした口調で言う。
だが、その言葉に、レオンは迷わず答えた。
「そうか。であるなら、それは王として断言する。無理だ、と」
その瞬間、エルの目がわずかに細められる。
空気が張り詰めた。
「死ぬぞ、おっさん」
「小僧ごときに負けるほど腕は鈍っとらん」
レオンが剣を構える。
一瞬、空気が揺らぐ。
そして──
レオンは一瞬で間合いを詰め、一気に剣を振り下ろした。
「悪いな青年! これも王の務めなのだ!」
剣閃が走る──はずだった。
だが、その瞬間、レオンの身体が弾き飛ばされる。
「なっ!!?」
私は戦いながら、その異様な光景を目の端で捉えた。
エルは、依然としてポケットに手を入れたまま。
一歩も動いていない。
「悪いなおっさん。これも俺たちのためだ」
エルは深く息を吐く。
レオンは剣を振り下ろす寸前で、まるで見えない"壁"に弾かれたように吹き飛ばされた。
彼の剣はエルに届いていない。
(この青年、何をした……?俺の刃が届く前に吹き飛ばされた?)
「はぁ。だるい。おっさん、俺は住むところが欲しいだけだ。危害を加えるつもりはないって言ってんだろ」
エルは変わらず、淡々とした調子で言う。
「……それ……でも。俺はこの国の王となったからには民を守る責務が……ある」
レオンはゆっくりと立ち上がる。
その目にはまだ闘志が灯っていた。
「いやだから……はぁ。これだからおっさんは嫌なんだ。人の話を聞こうとしない」
「何だと」
「お前らが去れば民は守られる。俺たちも人殺しなんて真似したくはないんだ」
「だったら他所へ行け」
「行ったさ。で、拒否られた。だからここにきた。この世界は残酷だよ、全く」
エルの目が僅かに翳る。
その表情には、怒りとも悲しみともとれる何かが滲んでいた。
「……どこの国に行ったかは知らん。だが、この国はお前たち二人を受け入れるくらいの余裕はある。危害を加えないと約束するのならな」
「……だから。それじゃだめなんだって。俺らがお前らの下につく気はない。……もう二度とごめんだ」
その言葉の奥にある感情は、一体何なのか。
彼らは単なる侵略者ではない。
何か別の"事情"がある。
私は、剣を握り直しながら静かに言った。
「……貴方方、どうやら訳ありのようですわね」
次の瞬間、エルが舌打ちする。
「ちっ……おいミカ! まだ終わらないのか!」
「やっとるんじゃ!! でもこの女強いんじゃーーーー!!」
「私は二人がかりでもよろしくてよ?」
「ちっ。舐めやがって」
エルが私を睨む。
「なら、交代だ。ミカ、お前はこのおっさんを相手しろ」
ミカは一瞬驚いたように目を見開いた。
だが、すぐに不満そうに顔をしかめる。
「えええええ!! 妾がおっさん!? 嫌なのじゃー! 加齢臭は嫌なのじゃー!!」
レオンの顔が僅かに引きつる。
その横で、私は口元を押さえて笑いを堪えた。
「クスッ…お父様、言われてますわよ」
「……気にしているんだ。触れないでくれ」
(そこはナイーブなんだ、お父様)
レオンが静かに剣を構え直す。
そんな父の姿を見て、ミカは一つ溜息をつくと、ナックルを打ち合わせるように拳を鳴らした。
「しょうがないのう。妾が相手をしてやるのじゃ!」
「小僧の次は小娘か。子を持つ親としては、気が引くことだ。改心したばかりだと言うのに……」
レオンはそう呟くと、深く息を吐いた。
彼の肩に乗る重圧が、この戦いの意味を示していた。
──そして、一方。
「ではお前の相手は俺だ、女」
エルが私を見据える。
その目には、先ほどまでとは異なる冷徹な光が宿っていた。
「よろしくってよ」
「……お前の父親、死ぬぞ」
「どうしてですの?」
「ミカは力勝負では負けやしない」
「……あら、私のお父様だってそう簡単に負けたりはしませんわよ?」
「……そうか。もういい。一応忠告はしたからな」
──そして、戦場が二つに分かれる。
「おお! 皆の衆、最後まで読んでくれて感謝なのじゃ!」
いやー、妾、今回はようやく"おっさん"と戦えるのじゃな!
加齢臭はともかく、どれほどの腕前か確かめてやるのじゃ!
……ん? 何じゃ、エル、その目は? え、調子に乗るな?
ふむ……まあまあ、次回も大いに盛り上がること間違いなしじゃから、
お主ら、絶対に読んでくれよな!?
それと、評価とかブックマークとか……?
なんでも押せるもんは押していくのじゃー!!
ほな、また次回じゃな!




