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第五十七話「忍び寄る影」

ご覧いただきありがとうございますわ……なんて言いたいところですが、今回は少し真面目な話をいたします。

カゲロウという謎の組織、未だ明かされぬその実態。

そして、リリアナたちは次なる戦いにどう備えるのか。

女子会……いえ、"作戦会議"の始まりですわ。


戦いの幕はすでに上がっている。

どうぞ、最後までお付き合いくださいませ。

 ──静かな寝室に、三人。


 場所は、私の部屋。

 シエラとミレーヌ、そして私。


 こうして並ぶと、それぞれの服装の違いが際立つ。


 シエラはいつものギルド受付嬢の制服ではなく、動きやすいシンプルなブラウスに黒のロングスカートという控えめな装い。

 彼女は元々メイドだったが、今は公爵家のメイド服は身に着けていない。

 しかし、その所作や姿勢の美しさには、かつてのメイドとしての矜持が垣間見えた。


 ミレーヌは、正統派のメイド服。

 白いエプロンが清潔感を漂わせ、紅茶を淹れる姿が容易に想像できるほど完璧なメイドらしさを醸し出していた。

 髪は丁寧にまとめられ、余計な一房すら崩れていないのは、彼女の几帳面さの表れだろう。

 しかし、本人の性格を考えると、その姿と中身のギャップが微笑ましく思えてしまう。


 そして、私は……


 寝巻きのままだった。


(……えっ!?待って、なんで私だけパジャマ!?)


 シエラとミレーヌが改まった顔で戦略会議をしている横で、私は"おやすみモード"全開の格好で話を聞いている。

 完全に"場違い感"がすごい。


「……お嬢様、どうかなさいました?」


 ミレーヌが心配そうに覗き込む。


(どうしたもこうしたも!!なんで私だけこんなリラックスした格好なの!?)


 でも、ここで「着替えてきます」と言うのは負けな気がした。

 だから、私は何事もなかったかのように背筋を伸ばし、静かに咳払いをした。


「いえ、何でもありませんわ」


「そうですか?」


 ミレーヌは首を傾げながらも、それ以上追及はしてこなかった。

 しかし、シエラは私の服装に気づいたのか、僅かに口角を上げていた。


 ……もう、気にしないことにしよう。


 そしてまるで女子会のような形で、今回の襲撃について話し合うことになった。


(女子会……?)


 議題は”国の未来を脅かす危険人物について”、である。


「それにしても、あの男……本当に不気味でしたね」


 シエラが低く呟く。

 彼女は、あの戦いを直接見てはいないが、ミレーヌから報告を受けたらしい。


「ええ、私もそう思います」


 ミレーヌも頷く。

 彼女はあの場にいた。直接対峙したわけではないが、それでも感じ取るものがあったのだろう。


「リリアナ様は、今まで戦った中で一番強い相手だったと感じましたか?」


 シエラの問いに、私は少し考える。


(……正直、今まで戦った中でダントツに強かった)


 戦いを思い返す。

 "影鰐"ダイル。

 あの怒りを力に変え、異常な速度で戦う男。

 戦えば戦うほど加速し、最終的には私の《戦乙女の咆哮》すら上回ろうとした存在。


「ええ、間違いなく。今まで戦った中で一番強かったですわ」


「……ですよね」


 シエラはため息をついた。


「レオン様が勝てなかった相手ですから当然ですね。あの方はこの国の砦とも言われていたお方でしたから。それがリリアナ様が打ち倒した。これは彼の方も相当ショックでしょう」


 私は、ふと父のことを思い出した。

 ──自分の娘に負けただけでなく、その直後に「カゲロウ」とかいう謎の集団の男に負けたのだから。


 ……生涯を剣に費やしてきた男にとって、これは相当こたえただろう。


(お父様、今どんな気持ちなんでしょうね……)


 思わず、ほんの少しだけ哀れみに近いものを抱く。


 だけど、私の考えはすぐに別の方向へ向かった。

 カゲロウ──そういえば、ミレーヌに深手を負わせた相手も「カゲロウ」と名乗っていたはず。

 ユウが言っていた。"影の名"を持つ男……。


(《影狼》ガルス・クロウリー……)


 確かそんな名前だった。

 でも、ダイルとはまるで戦い方が違った。

 ガルス・クロウリーは勝率にこだわるような男で、戦闘において搦め手を多用するタイプだった。

 

 一方で、ダイルは純粋な強者だった。

 "卑怯な真似"は一切ない、真っ向からの力勝負。


(……同じ組織に属しているのに、こんなに戦い方が違うものなの?)


 普通、組織に属する以上、ある程度の戦闘スタイルは統一されるはず。

 しかし、彼らには"共通した戦術"がないように見える。


(いや……違う)


 そこで、私はあることに気づいた。


(カゲロウには、それぞれの目的がある)


 ガルス・クロウリーは勝率にこだわり、ダイルは"強い相手と戦いたかった"。

 戦闘スタイルも異なり、戦う理由もバラバラ。


(……じゃあ、統率はされていない?)


 そんな考えが、一瞬だけよぎる。

 でも、その仮説はすぐに否定した。


(私は馬鹿か!!)


 思考の中で、自分を叱責する。

 組織として動いている以上、"統率する存在"がいるのは当たり前だ。

 カゲロウを名乗る以上、それらをまとめる者がいる。

 そして──その者が、次にいつ襲ってくるか分からない。


「ミレーヌ、シエラ」


「「はい、お嬢様」」


 私が声をかけると、二人は即座に返事をする。

 私の表情を見て、何か察したのか、シエラが眉をひそめた。


「お父様を呼んで来てください。お父様にお伝えしたいことがあります」


 そして──


「──なんだ」


 そう言って、部屋に入ってきたのは父レオンだった。


 私は思わず、表情を歪める。


「……お父様、盗み聞きは良くありませんわ……」


(てか普通にキモい!娘の部屋の会話聞く!?)


 シエラとミレーヌも、少し驚いた表情を浮かべている。

 しかし、一番表情が変わったのはシエラだった。


「はぁ……レオン様。この際だからいいますが、私に気を使うのはやめてください」


 彼女の声は、冷たかった。

 いや、怒気すら含んでいたかもしれない。


 レオンは、珍しく言葉を詰まらせる。


「い、いやでも、お前は俺を許しては──」


「──ないです」


「即答なのだな……」


 レオンは、どこか寂しげに呟いた。

 ……いや、"寂しげ"というよりも、"覚悟していた"という方が正しいかもしれない。


 だが、シエラは続けた。


「ですが、それはあくまで個人的な話。今はそんなことを言っている場合ではありません。それは勝負に負けたあなたが一番理解しているはずです」


 私は、思わず小さく笑った。


(シエラって受付嬢の時も思ってたけど、本当に怖いもの無しね……ズバズバいうからちょっと怖い)


 すると、レオンはすっと息を吸い込んで──


「悪かった。……正直、今回の相手は俺一人では勝てなかった。それは潔く認める。だから──」


「「今後に備える必要がある」」


「ですわ」


 リリアナとレオンは、見事にハモった。

 それを見たシエラとミレーヌは、口元を押さえながら微笑む。


「やはり、お二人は親子ですね」


「ええ、とても似ていらっしゃいますわ」


(ちょっと待って!?)


 そんなことを言われると、なんだかとても恥ずかしいんだけど!?


「……お父様!そんなことはどうでもいいですから、今後の対策について話し合いますわよ!!」


「……そうだな」


 こうして、私たちは"次なる戦い"に備えることとなった。


 リリアナの言葉を皮切りに、話は一気に現実的な方向へと進んだ。


「カゲロウと名乗る者たちは、少なくともこれまでに二人、王都で確認されています。そして、どちらも戦闘スタイルは違えど、異常な実力を持っていましたわ」


 私は冷静に言葉を紡ぎながら、シエラとミレーヌの顔を見る。


「《影鰐》ダイルと、《影狼》ガルス・クロウリー。どちらも単独で王国騎士団を圧倒できるほどの実力者でしたわ」


「……カゲロウというのは、組織の名称で間違いないのですか?」 


 シエラが眉をひそめながら問う。私は少し考えてから、頷く。


「ええ。そう断言できますわ」


「なぜ?」と言いたげな表情でミレーヌが首を傾げる。


「単独で動いているならば、わざわざ"カゲロウ"と名乗る必要がないからですわ」


 私は、ふと拳を握りしめた。


「彼らが個々の目的で動いているように見えても、最終的に"カゲロウ"を名乗っている以上、その裏には統率する何者かがいる……そう考えるのが自然です」


 私の言葉にシエラが真剣な顔で、


「統率が完全に取れていないとしても、何かしらの"上"がいる可能性は高いですね」


「問題は、そいつがどれほどの実力者なのか、そして何を目的にしているか、ですわ」


 私は静かに息を吐いた。


「ダイルは"純粋に強者と戦いたかった"。ガルス・クロウリーは"勝率にこだわっていた"。もし、それぞれの目的が異なるなら……その"上"にいる者の目的は、もっと異質なものなのかもしれませんわ」


「……考えたくないですが、もし彼らが"それぞれの目的"を優先する集団だった場合、さらに統率された状態で襲撃が行われる可能性がありますね」


 シエラの言葉に、私たちは息をのんだ。


「……まだ油断はできませんわね」


 誰からともなくそう呟いた。


 ---


 話し合いを終えた頃、部屋の空気は少しだけ落ち着いていた。


 だが、そんな中、シエラがふと私を見つめた。


「リリアナ様」


「……?」


 私は、彼女の真剣な表情を見て、少し身構えた。


「単刀直入に聞きます。どうしてそこまで強くなれたのですか?」


「っ……」


 一瞬、時間が止まったような感覚に陥る。


(……どうして、か)


 正直私にも分からないからなんとも……。


 シエラは知っているのだろうか?

 私が転生者であることを。

 いや、もちろんそんなはずはない。だけど、私の心は、それを思わず期待してしまった。


 けれど──


「……何事も、すべては"積み重ね"ですわ」


 私は、そう言うしかなかった。


 嘘ではない。

 だけど、それは半分本音、半分嘘だ。


 確かに私は努力をしてきたつもりだ。

 でも、この世界に転生する前のリリアナは、きっと──

 私が思っている以上に、辛い思いをしてきたのだろう。


 私は、それを知ることができない。

 だけど、魂の奥底に刻まれた"感情"が、それを訴えている。


(……転生なんて、言えるはずがない)


 言ったところで、誰も信じない。

 それに、今の私は"リリアナ・フォン・エルフェルト"として生きている。

 前世の叶ではなく、もう、()()()()()()()()()()


 だから──


「……シエラ」


 私は、何も言わずに彼女を抱きしめた。


 シエラは一瞬驚いたようだったが、すぐに私の背中に手を回した。


「リリアナ様……」


 私たちは、何も言わずにそのまま抱き合った。

 言葉にしなくても、伝わるものがある気がした。


 そして──


「わ、私もですっ!」


 突如、ミレーヌが勢いよく飛び込んできた。


「ええっ!?」


 私は驚いて彼女を見つめる。


「だって、リリアナ様とシエラさんが抱きしめ合っているのを見て、なんだか……!」 


「いや、気持ちは嬉しいですけど、ミレーヌ……!」


「3人で一緒に!きっとその方が温かいです!」


 そんなことを言いながら、私は気づけばシエラとミレーヌに挟まれる形になっていた。


 ──その様子を見ていた、一人の男がいた。


「……」


 レオン・フォン・エルフェルト。

 部屋の片隅で腕を組み、微妙な表情を浮かべていた。


「……」


(……お父様も混ざりたいのかな。違うか)


 私たち3人が、仲睦まじく抱きしめ合う中、

 一人だけ完全に場違いな雰囲気を醸し出すレオン様。


 父としての役目を果たせなかった罪悪感。

 しかし、そこに入るわけにはいかない妙な距離感。

 何とも言えない葛藤を抱えているのだろう。


「……はぁ」


 私が苦笑しながらため息をつくと、

 レオンは気まずそうに視線をそらしながら、小さく呟いた。


「……俺は、部屋に戻る」


「まあ、そうですわね」


 私は静かに笑いながら、今度こそ本当に心の奥が温かくなるのを感じていた。

今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

戦いの余韻も冷めやらぬまま、リリアナたちはカゲロウの脅威にどう立ち向かうのか。

それにしても……親子でハモるとは、何とも微笑ましい光景でしたね。

いやいや、決して笑いごとではないのですが。


次回はさらに核心へと迫る展開になりますので、ぜひブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

それでは、また次回お会いしましょう!

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