第五十四話「現れた救世主……?」
──扉の向こうに立っていたのは、見慣れた顔の女性だった。
「受付のお姉さんがどうしてここに!?」
私は、驚きのあまり思わず声を上げた。
王都の冒険者ギルドで働く受付嬢、シエラ。
クールな雰囲気を纏いながらも、どこか柔らかい印象のある女性。
私も何度かギルドで顔を合わせていたが、まさかこんな場所で再会するとは思わなかった。
シエラは静かに微笑みながら、一歩踏み出した。
「リリアナ様を助けに来ました」
「……助けに?」
私は困惑する。
この状況をどう打破するつもりなのか?
二対一の圧倒的不利な構図を、ギルドの受付嬢がどうにかできるとは思えない。
そんなことを考えていると──
「シエラ、戻ってきてくれたのだな」
そう言ったのは、父・レオンだった。
(……戻って……きた?)
父の言葉に、私は違和感を覚える。
戻ってきた、とはどういうことなのか。
まるで、彼女がかつてここにいたことがあるかのような──
「いいえ、戻ってきたわけではありません」
シエラの声が、冷たく響いた。
「今でも私は貴方を許してはいませんから」
彼女の言葉には、鋭い棘があった。
まるで、過去の因縁をぶつけるかのように。
(許していない……?)
私は、彼女の横顔を見つめる。
彼女の目には、確かに"怒り"と"哀しみ"が宿っていた。
「……シエラ」
レオンは彼女を見つめ、ほんの僅かに目を伏せた。
その顔には、珍しく"後悔"の色が滲んでいた。
(どういうこと……?)
私は、戸惑いながらも、二人の間に流れる空気の重さを感じ取る。
──そして、彼女は語り出した。
「リリアナ様、私が以前どこで働いていたか、ご存知ですか?」
「……ギルドの受付では?」
「それは今の話です」
彼女は、真っ直ぐ私を見つめた。
「私は、かつてエルフェルト公爵家でメイドをしていました」
「──え?」
思わず、私は息を呑む。
「ここで……?」
「ええ。ですが、私は"ある理由"で、この屋敷を去りました」
彼女の声が、僅かに震える。
私は、その先の言葉を待った。
そして、シエラはゆっくりと──過去を語り始めた。




