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第四十七話「王の誕生と“影の名を冠する者”」

「お、おはようございます、お嬢様……!」


「えっと、皆様、ごきげんよう。本日もどうぞよろしくお願いいたします」


「え? 今日の内容ですか? そ、それは……えっと……あの……」


「ご、ごめんなさい、お嬢様! 私、ちょっと落ち着いてからお話ししますわ!」


(──というわけで、皆様、最後までご覧いただけましたら幸いです……!)

──歓声が鳴り響く。


 戦いの余韻に包まれた王立競技場は、まるで熱狂の渦に飲み込まれたかのようだった。

 私と父の一騎打ちは、観客の目にどう映っただろうか。

 王国最強の騎士と、その娘でありながらも最強の座に最も近い存在──。


 そして、私はここに"敗北"した。


(……はぁ、やっと終わった)


 私はゆっくりと息を整えながら、地面に落ちた剣を拾い上げる。

 その手には、まだ微かな震えが残っていた。


「──良くやった、リリアナ」


 父が剣を収めながら、私を見下ろしていた。

 その表情には、勝者の誇りではなく、むしろ満足げな微笑が浮かんでいる。


(いや、こっちはもうボロボロなんですけど……。ていうか、お父様、最後の攻撃明らかに全力だったよね?)


 私はこの戦いで、勝利を望まなかった。

 だが、それでも負けるつもりもなかった。

 そして、私がこの戦いに込めた意図は──間違いなく成功した。


 観客たちの声が聞こえる。


「すごい……あのリリアナ様が、王国最強の騎士とあれほど渡り合うなんて……!」

「惜しかった……!だが、それでも、彼女は王国最強に最も近い存在なのでは……!?」

「いや、もしかすると……いずれは、本当に王国最強になるのでは……?」


(うん、それでいい。それが狙いだから)


 私は勝たず、しかし、ただの敗者として終わることもなかった。

 王国最強の騎士の娘として、"最も近い存在"と認識される──それが、この戦いの"結果"だった。


 父が私に手を差し伸べる。


「……お前は、間違いなく強い」


(や、褒められても嬉しくないんですけど?こっちは本気でやってないし。いや、本気を出さないと死にそうだったけど)


 私は父の手を取り、ゆっくりと立ち上がる。


「……お父様こそ、流石ですわ」


 その瞬間、観客席から大きな拍手が沸き起こった。

 まるで、戦いの"舞台"が終幕を迎えたことを讃えるかのように。


 私は、静かに目を閉じる。


(これで、私は自由になれる……?)


「……だが、お前の強さはハッキリ言って異常だ」


「それ、お父様が言いますの?」


「……俺はお前を弱い娘だと思っていた。だが、それでもたった一人の娘だ。俺にはこいつしかない」


 父は両手で握るほどの大剣を、片手で軽々と扱いながら言った。


「お前を弱いままにしたくなかった。きっと大人になれば後悔する。だから俺はまだ幼かったお前を……傷つけた」


「……」


「本当に悪いと思っている。すまなかった」


(……寡黙な父親だと思っていたけど、この人もずっと後悔していたのね)


「大丈夫ですわ、お父様!リリアナはこの通りお父様の虐待……じゃなくて修行のおかげでここまで強くなりましたわ!」


「……ああ。二ヶ月ほど前までとは別人のように強くなったな。……まさか別人──」


「なーーーにを言っておりますのお父様!そんな事あるわけないでござんしょう?」


「ござんしょう?」


「噛んだだけですわオホホホ〜」


「……それはさておき、この国の王は俺になった」


「そうですわね。おめでとうございますわ、お父様」


「……リリアナ」


「は、はい?」


「もし俺が死んだらお前が王になる。女王にな」


(あ……)


「どうか一生死なないで下さいませお父様!」


 私の自由がなくなる!!


「……それは無理だ。人間には寿命があるからな」


「そう、ですわね」


「では、俺にはすべき事がある。話は戻ってから話そう」


 父レオンは背を向け、競技場の中心に立ち──


「聞けっ!これよりこの国の王は俺……レオン・フォン・エルフェルトだ!それに伴い、この国の名は『リガリア王国』から『エルフェルト王国』とするっ!何故レオンじゃないのかって?」


 観衆は何も言っていない。しかし、レオンは続ける。


「俺が死んだあと、この国は娘が次期国王となる。リリアナ女王の誕生だっ!!」


 その言葉に観衆が一気に熱くなる。


「……だから俺はこの国の名を『エルフェルト王国』とす──」


 レオンが言い掛けた、その時だった。


 競技場の上空から何かが落ちてきた。


 土煙があがり、やがて姿が見えてくる。


「……………ふぅ。クソッ!(フクロウ)の野郎、覚えときやがれ」


 真っ赤な髪に上半身裸の男が上空から落ちてきた。


「誰だお前は」


「ん?ああ、俺か?おらぁ”カゲロウ”が内の一人、《影鰐》ダイル。まぁ名乗った所で無意味だろ?おっさんよ」


「……カゲロウ。また厄介な奴が来たものだ。それも《影の名を冠する者》か」


 影の名を冠する……?


「リリアナ、民衆を逃がせ」


「しかしお父様──」


「リリアナっ!お前が適任だからそう言っているのだ。お前も分かるだろう」


「……はい、お父様」


(この赤毛の男、強い。私の手が震えている……これは何……恐怖?)


 リリアナの両手が震えていた。


 父の手を見ると、リリアナ同様に震えていた。


「お父様私も加勢を──」


「ならん!!こいつは俺がやる」


「でも手が……」


「問題ない。むしろハンデにはちょうどいい」


「言うじゃねぇかおっさん。俺の『怒気』に震えが止まんねぇんだろ?大抵は俺の前に立てば逃げる事もできず、委縮し、小さくなる。ほら見てみろ周りを」


 赤毛が競技場の周りを指差す。


 そこは観戦席。ただし、観戦する者が誰一人として見えない。


「なっ!俺の民衆に何をした!」


「言ったろ?あいつらぁ、萎縮してんだよぉ……!はははっ、すげぇなぁ……見ろよ、お前らぁ……!縮こまって、ガタガタ震えて、ちっちぇぇ!おい、覚えてるか?昔よぉ、母ちゃんに怒られてさぁ……どんだけ小さくなろうとしたっけ?丸くなって、隅っこで、震えながら、目ぇ真っ赤にして……っくくく!まるで、ガキの頃に戻っちまったみてぇだよなぁ!?ヒャハハハハッ!!」


 瞬間、私たち親子は何をされたのかも分からず吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた──。


 ──衝撃。


 地面を蹴る間もなく、体が弾き飛ばされた。

 何が起こったのか、理解する暇すらなかった。

 ただ、重い衝撃が全身を襲い、壁に叩きつけられた瞬間、肺から空気が一気に押し出される。


「ぐっ……!!」


 視界がぐらつく。

 意識がかき乱される。

 だが、それでも私は即座に体を起こした。


(……なにこれ……今、何が……!?)


 吹き飛ばされたのは私だけではない。

 横を見ると、父も同じように壁に叩きつけられていた。

 いや、それどころか、私より深く壁にめり込んでいる。


「お、お父様!!」


 思わず声を上げる。

 だが、父はすぐに壁から身体を引き剥がし、地面に足をつけた。


「……やれやれ、まさか本当にここまでとはな」


 父が静かに剣を構える。

 その足元には、細かなひび割れが広がっていた。

 今の衝撃だけで、競技場の石畳が割れたのだ。


「……さすがに無事か。王国最強の名は伊達じゃねぇな」


 影鰐──ダイルが、ニヤリと口元を歪めた。

 その目には、まるで遊び相手を見つけた子供のような興味と好奇心が浮かんでいる。


(なに……こいつ、本気で戦いを楽しんでる……?)


 明らかに異常。

 戦場の空気とは違う、異様な圧迫感が支配する。

 私は両手を握りしめながら、父の横に並ぼうとする。


「……お父様、私も戦います」


「ならん!!」


 父の一喝が、私の足を止めた。

 それは、王としての言葉ではなく、"父"としての命令だった。


「こいつは俺がやる。リリアナ、お前は民を守れ」


「で、でも……!」


「聞け!お前はこの国の"次代"だ!俺が負けたら、お前が全てを背負うことになる!」


(……っ!)


 そうだった。

 王国最強の騎士が倒れた時、その先に待つのは──私が"王"になる未来。


(……そんなの、嫌)


 私は自由が欲しい。

 自分の生き方を自分で決めるために、王という責務を逃れようとしていた。

 それなのに──ここで、もし父が倒れたら……?


「……絶対に、負けないでくださいませ」


 私は奥歯を噛みしめながら、一歩退いた。

 その決断が、正しいのかどうかは分からない。

 だが、今は父を信じるしかなかった。


「へぇ……いい親子愛じゃねぇか」


 ダイルが肩を鳴らしながら、愉快そうに笑った。

 だが、その口元からは、明らかに殺意が滲んでいる。


「まぁでもなぁ、おっさん?俺ぁ別にお前と戦う気はねぇんだよなぁ」


「……何?」


「俺の目的は一つ。『王国の抹殺』だ」


 瞬間、空気が歪んだ。


 次の瞬間──


 ──観客席にいた者たちが、次々と崩れ落ちる。


「え……?」


 私の目に映るのは、地に膝をつく貴族たち。

 呻き声を上げながら、そのまま失神する者。

 気を失ったまま倒れ込む兵士たち。


 たった一瞬。

 たったそれだけで、数えきれない人々が無力化された。


「な……なにを……!」


「おいおい言ったろ?何回言わせんだっつーの。俺の"怒気"に当てられると、人は震え、動けなくなる」


 ダイルは薄く笑う。


「ついでに言うとなぁ……あいつら、()()()()()()()?」


「……っ!?」


 ぞくり、とした悪寒が背筋を這い上がる。

 それは、まるで、底なしの奈落を覗き込んだ時のような感覚。


「お、お父様……!」


 私は父を見る。

 だが、父もまた、その手を微かに震わせていた。


(……嘘、でしょ……?)


 王国最強の騎士ですら、この男の"怒気"に抗えない?

 そんな、そんなの……。


「さぁ、どうする?このまま俺に跪くか?」


 ダイルが、一歩前に出る。


 このままでは、父が負ける。

 このままでは──


(……この国が、終わる)


 そんな未来、私が絶対に許さない。

 だから、だから──


「……リリアナ・フォン・エルフェルト。ここに宣言しますわ」


 私は、剣を強く握りしめ、前に出た。


「この戦い、私も参加します!」


 私の言葉に、観客は反応しない。聞こえるのは喚き声や叫び声、泣き声。

起き上がる事も出来ず、ただただ喚き散らかす。


 だが──それよりも驚いたのは、父の言葉だった。


「……馬鹿者逃げろ!!」


「お父様、私がやらねば、この国は終わるのです!」


 私の決意に、父は何も言えなくなった。


 そして、ダイルが──心底愉快そうに、笑った。


「ははは!面白ぇ!!」


 赤毛の男が、牙を剥いた。


 ──そして、"戦い"が、始まる。

「ヒャハハッ!! テメェら、最後まで読んだんだなァ!?」


「どうだったよ? 震えたか? ビビったか? まぁ、そういうこった! お前らがちっちぇぇ存在だってことをよォ!!」


「でもまぁ……この話の続きが気になるってんなら、"もっと見せてやる"よ。次回も楽しみにしてろよォ……!」


「ははっ、俺様の"祭り"は、まだまだ終わらねぇんだからよォ!!」

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