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第四十六話「本気の茶番」

──空気が震えた。


 父の剣が閃く。

 それに応じるように、私も剣を振るう。


 ──刹那、衝撃。


 光と音が弾け、剣と剣が激突する。

 観客席の歓声が割れる。

 私と父の間に巻き起こる風が、競技場全体を吹き抜ける。


(……これは善戦とか言ってられない!)


 勝つつもりはない。しかし、少しばかり本気を出さなければ、このままでは王になるならない以前に私自身が死んでしまう。


それに私の父がこんな強いなんて正直思っていなかった。

流石は剣の家系。正直、アルフォードよりも強い気がする。

……いや、確実に強い。


 だが、この戦いを"本物"にしなければ、観客を満足させることはできない。

 だから、私は"やむを得ず"スキルを解放した。


「ほう……ついに本気を出すか」


 父が嬉しそうに目を細める。

 まるで狩人が獲物を見つけたかのような、危険な目つき。


 だが、私もこのままでは引けない。

 いや、引けば殺される。


「……お父様、全力で行きますわよ」


 そう告げた瞬間、私は全力で駆け出した。


 「──スキル《剣聖》、《武神》」


 私は素早く動く。

 通常の私ならば到底できない、神速の踏み込み。スキル様様のチート。

 このスキルを解放した今なら、父の攻撃を受けず、すべて"いなす"ことができる。


ついでに筋力を上げる《武神》も発動しておいた。


万が一のことがあってはならないからだ。


 私は跳ぶ。

 剣を滑らせる。

 音もなく、刃を交差させる。


 しかし──


「甘いな、娘よ」


 父が、まるで読み切っていたかのように剣を振るう。

 光と衝撃がぶつかり、私は空中で体勢を崩した。


(っ……!?スキルを二つも使ったのに読まれた!?)


・《剣聖》

 効果: 視界と反応速度が飛躍的に向上し、敵の動きがスローモーションのように見える。また、剣技の精度が格段に上昇し、最適な攻撃方法を無意識に選択できる。


・《武神》

 効果: 一定時間、筋力と身体能力を大幅に強化し、通常では不可能な攻撃や防御が可能になる。跳躍力や速度も向上するが、使用後は体に負担が残る。


まさにチート。剣聖に至っては、剣を握ったことがない者でも、歴戦の冒険者の如く戦える。そんなスキルを二つのも使っている私の攻撃を読まれた。


 まるで未来を見ているかのような動き。

 私の全てを理解したかのような、完璧なカウンター。


 これが、王国最強の実力──。


「リリアナ、お前の動きは見切った」


 次の瞬間、視界が逆さまになった。


「──ッ!!?」


 体が宙を舞う。

 地面が迫る。

 避けられない。


 激突。


 轟音とともに、私は石畳へと叩きつけられた。


 全身が悲鳴を上げる。

 呼吸ができない。

 肺に走る衝撃。

 喉が詰まり、視界が歪む。


(ぐ……くっ……!)


 それでも、私は剣を手放さなかった。


「……ふむ。まだ立てるか」


 父の足音が近づく。

 私は震える膝を押さえながら、ゆっくりと立ち上がった。


(負けるわけにはいかない……でも──)


 勝つわけにもいかない。


 だから私は、最後の"舞台"を作る。

 ここで、私が"敗北"するための最善の手を。


「……これで、最後にしましょう」


 私は、相棒である焔銀の剣を構えた。


 そして──

 この決闘の"幕引き"が始まる。


──最後の一撃。


 私の剣はそれでも赤く染まらない。


(何故……?《影狼》ガルス・クロウリーの時は染まったというのに……!)


魔力を帯びることで赤く染まるという私の相棒は、期待に応えてくれない。


 父は静かに頷いた。


「……いいだろう。お前の全力、見せてもらおう」


 父の剣が、重く、ゆっくりと振り上げられる。

 王国最強の騎士、その名にふさわしい構え。

 それはまるで、戦場で千の兵を屠る剣士のごとき威圧を放っていた。


そんな父の姿を見て私は唾を飲む。


(……ここで、私は"負ける")


 だが、ただ負けるのではない。

 観客が納得し、興奮し、そして"惜しかった"と思わせる負け方をしなければならない。


 私は、一歩、踏み込む。


 剣がうなる。

 音が消える。


 一閃。


 私の剣が、父の剣とぶつかる。


 轟音。


 衝撃波が競技場を包み、観客席にまで揺れが伝わる。


(ここから……!)


 私は剣を押し込み、全身の力を込める。

 だが──


「甘い!」


 瞬間、父の剣が軌道を変えた。


「っ──!?」


 視界が弾ける。

 衝撃が腕を貫き、私は吹き飛ばされた。


「──く……がはっ」


 背中が地面を滑る。

 肺が圧迫され、呼吸が詰まる。


(今の一撃、もう一度でも受けたら……!)


 いや、もう"受けて"しまっている。

 私の剣は、父の一撃を受け流すことなく、はじき飛ばされたのだ。


 体が思うように動かない。足に力が入らない。

 立ち上がるのもやっと。


(……これで、終わり)


 私は、剣を手放す。


「──勝負あり!」


 審判の声が響き、競技場が歓声で満たされた。


 私の"敗北"が決まった瞬間だった。


 ──だが、観客の反応は、私の思った通りだった。


「す、すごい!あのリリアナ様が、王国最強の騎士と互角に……!」


「まるで、王の座を争う者の戦いのようだった!」


(いやまさにその為の戦いなんだけど……疲れた)


「くぅ惜しかった……!でも流石は王国最強の騎士の娘だな!血は争えないな!」


 そう、まさにこれが"私の狙った結果"。


 私は勝たず、だが、弱くもなかった。

 この戦いで私は、あくまで王国最強の"()()()"()()()()()()事を、この場で印象付けた。


 これでいい。今はこれで……。


(……これで、私は晴れて自由になれる)


 私は静かに目を閉じた。


(はぁ……疲れた。……ミレーヌぅ〜)


 ──舞台は、終わったのだから。



「……フンッ、とんだ茶番だね」

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