表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

将来

作者:

しんと冷えた風がいたずらに髪を揺らす。ここ近年、地球温暖化だ、異常気象だと常に騒がれてはいるも

のの、五月の夜の空気はまだ完全な夏にはなっていないようで、十分な余裕が感じられる。

ほのかに、足元から冷気が伝ってくる。そうか、この涼しさは川の影響でもあるかもしれない、と、私は

ぼんやり考えた。

「夜の鴨川ってなんか怖い。お昼はあんなにキラキラやったのに。」

どこか不満げな声が足元から聞こえてくる。そっと見やると、私の腰ほどにもみたない身長の少女が、寒

いのだろうか、肩をすくめ縮こまりながら、辿々しく言葉を紡いでいた。

「もう、お散歩いい。はよ帰ろう。」

薄い唇をつんととがらせて少女が言う。なんて身勝手な、と私は肩をすくめた。


少女の名前はみらいという。みらいは私の母の妹の娘で、つまり従姉妹である。みらいの母が、旦那と二

人で旅行に行く間、みらいの世話を頼まれたのである。

「京都で一人暮らししてるって言うてたよなあ?」

唐突なみらいの母からの電話に、その夜は大変驚いたものだ。その言葉の通り、私は大学進学をきっかけ

に、東京から京都に越してきたのである。

もともと京都に住む叔父さんの家に嫁いだみらいの母は、結婚してからをずっと京都で暮らしていた。こ

の地にルーツがない私にとってこの一家の存在は有難く、引っ越し当初は大変お世話になったものだ。

「京都の大学進むことにしてんな。上京やな!」

「これやから京都の人は嫌やねん。下京やんなあ?」

「あほ、殺されるで……。」

叔父も叔母も愉快な人で、慣れないことの多い新生活の中、その底抜けな明るさに救われることが多かっ

たことを思い出す。週末は食事に呼んでもらうことも多かったが、大学生活に慣れていくうちにそんな機会

もだんだん少なくなっていった。

何より極めつけは、全世界に猛威を振るった流行り病、コロナウイルスの流行である。そのすさまじい感

染力と猛威を鑑みて、日本だけでなく世界的に、何事においてもソーシャルディスタンスが取られた。入学

してすぐにその影響を受けた私の大学生活は、全てが家の中で完結するものになっていた。もとより京都に

越してきた私に知り合いなどおらず、知り合うための機関は機能しておらず、気づけばもうずっと、家で孤

独にパソコンと向き合う生活を送っていた。


「住んでるよ。下鴨のあたり。引っ越し手伝ってくれたじゃん。忘れたの?」

何か嫌な予感がする、と思いながらも言葉を返す。叔母は天真爛漫な人で、急な連絡であるにも関わらず

持ってくる問題のスケールが大きいことがしばしばあった。

「そう、ほんならよかった。じゃあお願いあるねんけど、ゴールデンウィークの期間、みらいのこと預か

ってくれん?ちゃんとお金は渡すし。明日の夕方、みらいそっち連れて行くからお願いな。」

予想的中である。私は肩をすくめた。叔母のお願いとは決定事項なのである。


みらいは小学校1年生になったばかりの6歳である。利口な子だと思うことの多い反面、叔母の血を濃く

継いでいるのか、突飛なことを言い出すことの多い少女であった。いや、小学校一年生など、みんなみらい

のようなものだろうか。

叔母譲りの性格なのか、人懐っこく明るいみらいは、私が家に訪ねていくと大層喜んだ。チャイムを鳴ら

すと、ドアの向こうからドタドタと賑やかな足音が聞こえ、玄関が勢いよく開く。私を見つけるやいなや、

満面の笑みで、お姉ちゃん!と叫んでくるみらいは本当に愛おしく、気づけば頬が緩んでいた。そんなみら

いとも、思い返せば久しく会っていなかったことに気付く。

電話のあった翌日、本当にみらい一家が私の家にやってきた。ほんの数日面倒を見るには多すぎる額を包

んで、叔母はあっけからんと言う。

「なんかあったらハワイまで来てくれたらいいから。」

軽く叔母を睨むと、嘘嘘、とカラッと笑う叔母。

「ほんまにごめんな、頼みます。」

申し訳なさそうに眉を寄せる叔父は、カラフルなアロハシャツに身を包んでいた。


みらいは私の家に来てからずっとご機嫌で、持参した小説を読んで時間を過ごしていた。物珍しいものな

どないが、我が家のワンルームの狭いアパートが気に入ったのか、始終笑みを絶やさなかった。

「お姉ちゃんの家、初めて来た。なんか秘密基地みたい。」

爛々と目を輝かせながら、みらいが言う。

「それって、褒めてる?」

「褒めてる。みらいの家よりずっとちっさくて、狭くて、なんかワクワクする。でもずっと住むのは嫌か

も。」

無邪気さは時に鋭利さをもつ。お姉ちゃんはもうここに三年住んでるんだよといえば、どんな目を向けら

れたのか気になったが、これ以上無暗に傷つかなくとも良いか、と、私は静かな微笑みを返した。

夜ごはんも、狭いお風呂もご機嫌に終えたみらいであったが、もう眠ろうと布団に入った時にその突飛な

発言が出た。

「死ぬのが怖い。」

なんの脈略もなく静かに泣きながら訴えてくるみらいに、この状況が怖いよ、と告げるほどデリカシーが

ない私でない。泣いて眠れないみらいを連れて、私たちは夜の鴨川を散歩することにしたのである。


「もう眠れそうなの?」

鴨川沿いをゆっくり歩きながらみらいに問う。確かに、夜の鴨川はどこか禍々しい。太陽を受けてあんな

にもキラキラと輝いていた表情を持っているとは考え辛いほどに、川は黒く、暗く、うごめいている。そん

な川に沿ってゆっくり下っていると、鴨川デルタが見えてきた。鴨川デルタとは、この賀茂川と高瀬川が合

流する地点の三角州のことを指し、飛び石などが置かれたここは、昼間は家族連れや学生でひどくにぎわう。

その風景を知っているからか、夜の鴨川は余計にどんよりと感じられた。

「うーん、分からん。アイス食べたら寝れるかも。」

「ゲンキンだなあ。」

私は肩をすくめた。近くのコンビニを探しながら、また歩く。

「死ぬのが怖いなんて、考えたことなかったな。起こってもないことを心配しても、仕方ないと思うけど。」

私が言葉を投げかけると、みらいが不満そうに私を睨んだ。

「大学生だって、落単したらどうしようって悩むやろ。それと一緒。」

「どこでそんなこと覚えたの。」

「ティックトック。」

ふん、と顎を上げるみらいが憎らしくも可愛らしい。小学生に似つかない「落単」という単語に笑みがこ

ぼれるも、去年の成績を思い出して口角が凍った。

「あ、でもお母さんとか……お父さんが死んじゃったらどうしようって、小さい頃は思ったことがあった

かもしれない。」

みらいが勢いよく私を見た。

「みらいもそれ、悩んでてん。でもこの前解決した。」

「えっ、知りたい。どうやって解決したの?」

「もしママとかパパが死んじゃったら、腕、もらうねん。抱き枕にして寝る。ママかパパと手つながな、

みらい寝れへんから。」

頑張った時に頭撫でてほしいし、と何のけなく続けるみらいに絶句する。現実的か否かは置いておいて、

合理的ではあるようにも思う。幼いがゆえのシンプルな発想が孕むサイコパスさに感情が追い付かない。

「な、お姉ちゃんもそうし。」

「そうする。」

そうとしか返せなかった。


冷たい風が優しくもいたずらに髪を揺らす。みらいの髪の毛は一本一本が細く、柔らかいので、些細な風

にも千切れてしまうのではないかと思われた。サラサラとみらいの髪が揺れる。コンビニを目指すべく川沿

いを離れ、住宅がひしめく下鴨を歩いていると、ふいに視界が大きく開けた。

「売地って何?」

突如現れたなにもない土地は異様に大きく感じられた。前にあったであろう建物の形は見る影もなく、ど

こか整然としている。そこに大きく掲げられた看板の文字を見て、みらいが尋ねた。

「この土地を売ってますよーってことだよ。」

「ふーん。家とか建てたりするん?」

「そうだね。」

そうなんやー、とみらいが単調に答える。

「ここ、前は何があったん?」

「えっとねー……。」

みらいの言葉に、私は口をつぐんだ。私は下鴨に越してきてからもう三年、このあたりのことなら何でも

知っているつもりでいたのだが、ここに以前に何があったのか、全く思い出せないのである。この道を真っ

すぐ行けばあの店がある、この角を曲がればあの公園につく……周辺の情報はサラサラ出てくるのに、この

場所に何があったかのみ、すっぽり記憶から抜けてしまっているようだった。

「……忘れちゃった。」

そっかー、とみらいは平坦な声で答えた。コンビニを目指して更に歩く。

歩きながら、みらいとの先ほどの会話がふいに反芻された。父や母が死んだら体の一部を貰うと言ったみ

らい。果たして私には、そのように言ってくれる人がいるだろうか、と首をかしげる。

さっき見た売地が脳裏によぎった。さして何もなしてこなかった人生、なんとなく過ごしている日々に思

いを馳せる。私も、あの土地同様、そこにあったことだけが事実の、中身を持たない存在かもしれないと思

うと、耳の奥がキンとした。

冷たい風が頬を撫でる。空を見上げると、そこに月はなかった。どんよりとした薄暗い雲が夜空を覆って

いる。


しっかりアイスを買って、一時間ほどの散歩を終え帰宅したみらいは、アイスを食べるやいなやストン

と眠ってしまった。少し疲れたのか、アイスを食べて落ち着いたのか、なんにせよもう泣くことはなかった

ことにホッと胸を下ろす。

携帯を確認すると、大学の課題のタスクが溜まっていることに気づく。親元を離れたくてなんとなく京都

へ来たが、理由はそれだけである。さして興味のない講義を受け、またそんな講義とも全く関係のない企業

へ就職するべく日々を過ごす。その後は、ただ生きていくためだけに働いて、の繰り返しであろう。いや、

そもそも就職できるのだろうか、と私は首を傾げた。

「ガクチカ、ですか。」

三回生の終わり、 就活を控えていたことを思い出した私は、なんとなく大学の就活センターへ足を運んだ。

何からしてよいのか皆目検討もつかず、とりあえずで訪れたのは良いものの、早速聞き慣れない言葉に頭を

傾けることになる。

「そう。学生生活で力を入れたこと。何かしらあるでしょう?」

人の良さそうな、胡散臭い笑みを浮かべた中年女性の職員が私に問いかける。

「面接では絶対聞かれるのよ。 私を雇うことは企業にとってメリットになりますって、アピールしなきゃ。 」

「あまり、無くて。」

「それじゃ困るわよ。趣味は?どの業界に行きたいの?それに合わせて考えなきゃ。」

「それも、特に。」

要領を得ない私の回答に、職員の女性が首をすくめた。嘲りを帯びた視線が私を捉える。

「あなた、これまで何をしてきたの?」

今年の春に四回生になり、いくつかの企業を受けるも、どれも全敗だったことを思い出す。一抹の不安を

壮大な無気力の中に包み隠し、ここ一ヶ月はただじっと、何もせず、家に引きこもった。

何のための、誰のためかも分からない毎日にため息が出る。さっき見た空き地が、脳裏にこびりついて、

その夜はあまり眠れなかった。


ほのかな醤油の匂いで目を覚ます。時計を確認すると、まだ 7 時であった。自堕落な大学生の身には眩し

すぎる朝日に目を細めながら、キッチンを見やる。そこではみらいが器用にフライパンを振るっていた。

「お姉ちゃんおはよう。卵焼き、食べるやろ?」

この家に卵なんかあっただろうか、と首を捻ってからそうか、と声が出た。そういえば、叔母がお金とと

もに食料も渡してくれたことを思い出す。

「おはよう。食べたいな、それより、みらいちゃん卵焼きなんか作れるんだね。」

火を止めたみらいが皿に卵焼きを移しながら答える。

「当たり前やん!みらい、将来の夢はコックさんやから!」

キラキラとした瞳でみらいが堂々と告げる。それより、調味料醤油しかないんはやばいで、というみらい

の不服そうな声を背中で聞きながらパックに入った白ご飯を温める。

「お姉ちゃんは将来の夢、なに?」

少し歪な卵焼きを、みらいがテーブルに運びながら尋ねる。将来、というどこか懐かしい響きに私は首を

傾げた。

私は今年で 22 歳になる。来年には社会に出る年だ。私にとっての将来とは、いつを指すのだろうかとぼ

んやり考える。これから先のことを思うと、なんだかどうしようもなく途方のないものに感じられ、首をす

くめた。

「コック.みらいちゃんの料理を食べることかな。」

みらいが目をまあるく見開く。ぐんぐん上がる口角がどうしようもなく愛おしくて、私は目を細めた。

「任せて!ママと、パパが一番最初って決めてるから、六番目くらいになると思うけど。タダで食べさせ

てあげるから!」

みらいが無邪気に、声高らかに私に告げる。私にもかつてはこんな無邪気さがあっただろうかと胸の内を

探ったが、薄暗い霧が記憶を覆って、見つけることはできなかった。

「三番と四番と五番目は誰なのよ。」

冗談めかして尋ねると、みらいが真剣な顔で答えた。

「まだ決まってない。でもこれから先、お姉ちゃんより先に食べさせたげたいって思うくらい好きな人出

てくるかもしれんから、空けとくねん。」

嘘はつきたくないからな、と胸を張るみらい。あけすけな無邪気さに頬が緩む。

みらいの作った卵焼きは醤油を入れすぎたか、少し焦げてはいるものの、奥には甘さが感じられた。


「公園行きたい。 」

午前中は機嫌よく本を読んでいたが、ついに退屈になったのか、昼下がりにみらいが騒ぎ出した。暑さや

混雑を理由になだめるも、一向に折れる気配のなさに根負けし、私達は付近の公園へ出向いた。

広々とした公園には多くの人が集まっていた。小さな子どもたちが無邪気に走り回っている。私は木陰に

腰をおろし、携帯にかまけることにした。みらいは持ち前の明るさを活かし、先に遊んでいた初対面であろ

う子供らと遊び回っている。

五月とはいえもうすっかり夏なのでは、と思われるほどに激しさを振るう太陽光をうんざりと見上げる。

たまに吹く、乾いた風のみを救いに、私はいたずらに携帯を触った。

私もあんな風に、あっけらかんと人と接した時期もあったのだろうかとみらいを見てふと思う。小学生の

頃は確かに、自然と友人ができたものだ。

歳を追うに連れて対人関係が億劫になっていったことを思い出す。大学にも親しい友人は数えるほどし

かいなかった。

ソーシャルディスタンスが全面的に解除され、やっと毎日大学に通えるようになるまでに、三年もの月日

が流れていた。この三年間を、私は一切思い出すことが出来ない。文字通り空白の三年間を抱え、四回生の

春、ついに足を踏み入れたキャンパスは、偉く賑わっていた。思い思いの個性を纏った学生たちが、楽しげ

に語らい合っている。その晴れやかな表情を見ていると、どこか場違いな、私の居場所がここには無いよう

な気持ちがした。

パソコン上のみで顔を合わせていた学友とついに対面で会い、何より驚いたのは、彼らは既に親しい人を

獲得していたことである。空白の三年間の全ての責任をコロナウイルスに押し付けていた私は、酷く愕然と

することになる。問題があったのは自然災害でなく、私の人間性であったのだ。他責思考で、どうしようも

ない自身の内面に目を背けるように、大学へ向かう足はどんどん遠のいていった。

「なあなあ、来週末、ゼミの四回生で飲み会しよと思ってるんやけど。 」

四回生ともなると、ほとんどと言っていいほど受ける講義は少なくなってくる。その数少ない講義の一つ

に、去年から同じメンバーで構成されているゼミがあった。去年一年はパソコン上で顔を合わせていたゼミ

のメンバーたちと、晴れて今年の春から、対面で顔を合わせ講義を受けることになったのである。

週に一回のそのゼミの終わりがけに、ある女性から声をかけられた。明るくも下品でない茶色に染められ

た髪をゆるく巻き、バッチリとメイクを施した彼女は、まさに世間の想像する女子大生そのものであった。

オンライン上のゼミでも活発に発言し、よく笑う、人の良さそうな彼女の名前は自然と頭に入っていた。

「ほら、こうして大学にもすっかり通えるようになったし。せっかく同じゼミやし?親睦深めたいやん?

みんなに声かけてるねんけど。よかったら、どう?」

桜色に彩られた薄い唇が横に広がる。彼女はコロナ禍でも居場所を見出した側の人間なんだろうなとぼ

んやりと思う。早いうちに始めた就活が功を奏し、三回生の秋口にはもう就職先も決まったのだと楽しげに

話していたことを思い出す。

嫉妬しているわけではない。嫉妬をする権利もないことも重々承知している。しかし彼女と対峙している

と、非があったのは私自身であるという事実が浮き彫りにされるように感じて、どうしても息苦しかった。

何も答えずじっと固まる私を心配そうに彼女が見つめる。

「また、決めたら教えてな。」

じゃあまた来週!と軽やかに彼女がゼミ室を後にする。他に残っていたゼミ生も教室を後にし、私だけが

残った。

安い蛍光灯で照らされた教室内が急に薄暗さを携えた。湿っぽい空気が充満し、一緒にいたたまれない気

持ちが飽和する。

しかし、このほうが楽だ、とぼんやりと思った。ずっと一人でいれば、明るさに目を細めることもない。


ふいに、強烈な風が吹いた。驚いた私は、はっと空を見上げる。ビュウという音を立てながら、公園を絞

り上げるかのように唐突に襲来したそれは、木々の木の葉をこれでもかというほどに揺らしてみせた。ガサ

ガサと木の葉が音を立てる。乱れる髪の毛を抑え、揺れる木々をぼんやり眺める。

風が止むも、木の葉はまだ音を鳴らし続けている。また携帯へと顔を伏せようとした瞬間、視界の端にみ

らいが映った。

みらいは目を輝かせながら、揺れる木々を見上げていた。目に焼き付けるかのようにそれを凝視するみら

いは、どこか嬉しそうに見えた。

みらいと仲良く遊んでいた一人の少女がやってきて、みらいに何やら話しかけた。みらいは嬉しそうな笑

顔のまま、木を指さしながら少女に何かを訴えているようだ。

携帯に目を落とす。調べれば何でも出てくる現代の必需品である。しかし、みらいがさっき見ていた景色

は、どうやってもスマホでは探すことができないのだろうなとぼんやり思う。みらいがどんな色の世界を見

ていたのか、どうしようもなく気になった。


「みらい、将来はやっぱりパイロットになるわ。」

帰り道、脈略なくみらいが話しだした。

「あれ、コックさんじゃなかったの。」

「うん、さっき公園でめっちゃ風吹いたやん?あのとき、一枚の葉っぱがすごい上手に飛んでるように見

えてん。あんなすごい風の中、気持ちよさそうに飛んでてん。なんかめっちゃすごくて。みらいも飛びたい

なーって。飛ぶって言ったら飛行機やろ?」

二カッと、みらいが笑う。

ずいぶん日が長くなったもので、もう六時だというのにまだ空が明るい。よく晴れた今日の空は、ライト

ブルーの絵の具をたくさんの水で溶いたかのような、薄く透き通った青空だった。そこに柔らかい茜色が色

を差している。昨晩の夜と違って、乾いた、柔らかい風が体を通り抜ける。

その夜は小さなファミレスで夕食を摂った。可愛らしい制服に身を包むウェイトレスを見て、将来の夢変

えよかな、とみらいがぼやく。

「なりたいもんいっぱいあって大変やわ。お花屋さんも、ケーキ屋さんも全部したい。」

ちゃっかり食後に頼んだデザートのショートケーキを頬張りながらみらいが言う。クリームといちごの、

赤と白のコントラストが異様なほどに鮮やかに映った。底抜けに白いクリームには、眩しさまでもが感じられた。


その夜、またみらいは「死ぬのが怖い」と訴えて泣いた。みらいを宥めながら、みらいの好きだという小

説を読み聞かせてみる。

「小説は、先がわからんからこそ何が起こるんやろうってワクワクするねん。将来もそう。何しよって考

えるん楽しい。でも死んだらそれで終わりやろ。先ないやん。どうしようもないやん。やから怖いねん。 」

みらいが静かに涙を流しながら訴える。

「天国とか、あるじゃん。大丈夫だよ。 」

眠気に朦朧としながら私がぼんやりとした言葉を返すと、みらいが小さくため息を付いた。

「あるけど。それも結局終わりの話やん。天国に行く、で終わりやん。その先書いた本とか見たことない

もん。オチでしかないやん。 」

それってやっぱり怖い、とみらいが言う。根拠のない大丈夫を口にしながら、みらいの体をさすっていると、

みらいがゆっくり眠りについた。私もそっとまぶたを閉じる。


その夜、夢を見た。

キラキラとまばゆい周囲に目を細める。上を見上げると、太陽の光が滲んでチラチラ瞬いているのが見え

た。このまばゆさは太陽光に水が反射したものだ、と気づく。

下を見やる。いつもの足ではなく、鱗が見えた。その鱗の美しさは例えようがないほどであった。緋色、

碧色、翡翠色……色とりどりの小さな鱗がびっしりと腰から下を覆っている。鱗は鏡面のようにピカピカ光

を反射し、反射した光もうっすら色を纏っている。万華鏡のように繊細で、鮮やかな光景に、ああ、私は今

人魚なのだとぼんやり思う。

手を見ると、普段扱っている手より一回り小さいことに気がつく。どうやら私は子供の頃の姿であるよう

だった。

小学生の頃、スイミングスクールに通っていたことを思い出す。昔から泳ぐことは好きだった。水中に身

を鎮めると、体が自分のものでないかのように軽くて、愉快だった。水中でグルグル回ると、何にでもなれるような気がした。壁を蹴って水中を割いて進むと、どこまででも行けるような気がした。ヒレまでついている今日の体の軽さは比にならない。私はまばゆい海をぐんぐん泳いだ。

ふいに、キラキラした何かが海の底に落ちていくのが見えた。なんだろうと思い凝視するも、よくわから

ない。まあいいか、と泳ぎ続けていると、一枚、また一枚とキラキラの欠片が溢れていく。

少しずつ息が苦しくなってきて、気がついた。キラキラした欠片は私の鱗だ。それらはどんどん剥がれて

いき、暗い海の底に沈んでいく。取り戻さなければ、と思い深く潜ろうとするも、うまく泳ぐことができな

い。ボロボロ、ボロボロと鱗が剥がれていく。それに比例するかのように、どんどん息が苦しくなる。涙な

がらに鱗を諦め、私は海面へとヒレを動かす。 さっきまであんなに軽かった体が、どうしようもなく重く

感じられた。

懸命に泳いでいると、下半身を一つにまとめていたはずのヒレが、二つになっている感覚に襲われた。い

や、違う。人間に戻ったのである。下半身を見やると立派な足が二本、帰ってきていた。もう子供の足では

ない。今の、私の足だ。

この足ではもう深くまで泳ぐことも出来ない。海面が近い。私は最後に、海の底に堆積していくであろう

私の鱗の欠片を思い涙した。海面に勢いよく顔を出す。

あれほどまばゆかった太陽はそこになかった。どんよりとした厚い雲が空一面を覆っている。肩で息をす

る。もう胸は痛くなかったが、計り知れない絶望が強く私を押さえつけていた。あの羽のように軽く、どこ

までも自由なヒレはもう帰って来ない。枷でしかない両足で、朗らかな海を上がり、この先を生きていかね

ばならないのである。


目を覚ますと、昨日同様みらいがキッチンに立っていた。出汁の、甘くて柔らかい匂いがする。昨日、

醤油しかないなんか有り得へんと訴えるみらいに根負けし、今後二度と使わないであろう白だしを購入さ

せられたのである。

「あ、お姉ちゃんおはよう。」

みらいがこちらを一瞥し、明るく言う。

「今日は卵焼きじゃなくて、出汁巻きやで。みらい、これ大好きやねん!」

みらいがそう言って、無邪気に笑う。

「ほら、見て、めっちゃ綺麗やろ。やっぱりみらい、コックの才能あるわ!」

白い小さな歯を見せながら、みらいがニコニコ笑う。その小さな歯を見て、私はほんのりと、夢で見た

色とりどりに煌めく鱗を思い出していた。

「何ニヤついてんねん。まだ夢の中なん?」

微笑みながら立ち尽くす私を見てみらいが眉をひそめながら言う。

窓から指す朝日の鋭さが、どうしようもないほど今日を知らせている。

みらいの作っただし巻き卵は、ふわふわ柔らかく、どこかホッとする味がした。家に唯一置いていた調味

料、醤油を少し垂らしてみると、優しい出汁に甘みと旨味が足されて、私はこの日のために醤油を買ったの

だと思ったほど美味しかった。

私があまりにも美味しい、美味しいとつぶやくので流石に照れたのか、みらいが、家においている小さな

テレビを着けた。朝のニュース番組が流れている。こんなものを見るのは何年ぶりだろう、と首を傾げると

ともに、自分の堕落した生活を思い頭を振った。

「ニュースって難しくてあかんわ。はよ連ドラ始まらんかな。」

みらいが不満げに唇を尖らせる。

神妙な面持ちをしたニュースキャスターが、何やら不景気な話を延々と続けている。やれ政治家の裏金問

題だ、やれ少子化だ、物価高だ、聞いているだけで気が滅入ってくる。

こういう小さな絶望の積み重ねなのだ、とぼんやり思う。幼い頃、それこそ小学生の頃などは未来に対し

て不安など一切無かった。しかし歳を重ねるにつれて見えてきた現実とこれからの薄暗さに、自分の彩度ま

でもが下がっていったように思う。

ふと、ある大学帰りの電車内の出来事を思い出す。その日の電車は酷く混んでいた。全身を他者と密着さ

せ、唯一空気に触れているのは顔と、手すりを掴む手の平のみ。そんな窮屈な車内で、あと 30 分は揺られ

なければならないのかと小さく息を付いた瞬間に、身体に違和感を覚えた。

明らかに触られているのである。大きな手の平が腰から下をまさぐっている。嫌悪感、羞恥感、感情がご

ちゃ混ぜになりながらも頭は冷静であった。これが痴漢か。

近年より啓発されるようになってきた痴漢。私であれば声を上げられるのに、と被害を見ながらタカを

くくっていた事を思い出す。声は一切出なかった。次の駅で人混みを掻き分け降車し、トイレでひたすら吐

いた事を思い出す。

顔も知らない誰かに、何もしていない私が悪意に晒されている事が惨めで仕方なかった。声を上げれば、

服装がどうの、女だからどうのと世間は騒ぐ。善人が無闇に悪意に晒されて良いわけがないのに、良いわけ

が無いのに、思考と反して声は出なかった。

こういう小さな絶望の積み重ねなのである。どれだけ真っ当に生きてきても、夢見ても、悪意に、現実に

阻まれる。こういう小さな絶望の積み重ねなのである。声を上げても変わらない現実に限りを見るという事が、大人になるということなのである。その事実に出来る限り傷付くことがないよう、己を社会に適応させていく、これが大人になるということなのである。

食後に、みらいが初めてこの家に来た夜、散歩した際に買ったシュークリームを食べた。アイスを買うみ

らいに合わせて私もシュークリームを買ったのだが、食べるのを忘れていたのである。賞味期限は昨日だっ

た。

「まあ、まだ消費期限は切れてないやろし、大丈夫や。」

みらいと私で半分こして食べる。シューがすこししけっている。クリームもなんだかパサついており、あ

まり美味しくないなと思いながらももさもさ口を動かす。

ぼんやりと、人生にも消費期限があれば良いのになと思う。この薄暗さがいつまでも続くように思えて不

安なのではないだろうか。たかだか 22 年しか生きていないのにこんなにも後ろ向きな思考に苛まれている

現状、それ以上に長いとてつもない時間を過ごさなければならない未来に希望を見出だせないのである。

せめて終わりが決まっていれば、もっと活力をもって日々を過ごせそうなものだ、と環境を祟りながら最

後のひとくちを惰性で口に放り込む。どこまでも他責思考な自分がそっと顔を覗かせている。

「日本の未来、暗いなあ。」

ぼそっと呟くと、みらいが勢いよく口を開いた。

「みらいは明るいで!みらい、大統領にもなりたいねん!みらいが、大統領なって、日本の未来も明るく

するから安心して!」

小さな胸をこれでもかと張って鼻息荒く語るみらいに、思わず口元がほころぶ。日本の長の名称は総理

大臣であることは黙っておいた。

刹那、ピンポーンとドアのチャイムが鳴った。誰?と不思議そうな顔をしているみらいに大丈夫だよと微

笑みかけ、玄関を開けるべく立ち上がる。

「ごめん、早く来すぎたかなあ?」

ひょろっと背の高い、人の良さそうな顔をした青年が、目を細めながらそう言った。


青年の名は優希という。優希は私の 2 つ上で、社会人 2 年目の歳だ。大学時代に出会った私達は、もう 1

年ほど交際を続けていた。

出会った、と言っても、その出会いはマッチングアプリによる人為的なものである。孤独を持て余してい

た私は、何気なく登録したマッチングアプリで優希と出会った。同じく孤独に苛まれたいたらしい彼とはな

んだか妙に気が合い、気づけば一年が経っていた。

一人でいるほうがずっと気が楽なのに、かといってずっと一人でもいられない自分の傲慢さに嫌気が差

す。マッチングアプリはコミュニケーションの目的がはっきりしていて、本当に使いやすかった。もともと

好意がある前提で会うためか、大学の顔見知りと話すよりもずっと気が楽だった。大学の人と話すときはど

こか、深い沼の中を手探りで進んでいるかのような感覚に襲われるが、優希にはそんな思いを抱いたことが

なかった。

何よりも恋人関係というものは、ギブアンドテイクの色が強いものであるように思う。手探りで学友と話

すよりも、ただ体を重ねるほうがずっと分かりやすい。もうずっと、私はまともに人と話していなかった。

そんなゴールデンウィークで仕事も休みの彼と、今日五月五日、こどもの日に合う約束をしていたのであ

る。もともと子ども好きの優希は、みらいを預かっている旨を話し、みらいも同行させてもよいか聞いた際

にも快く了承してくれた。

あとはみらいが優希と打ち解けられるかが心配の種であったが、みらいの性格を見るに心配ないだろう。

見ると、みらいは優希が手土産で持ってきた焼きプリンを嬉しそうに開封しているところだった。

「みらい、プリン大好きやねん。食べたらなんか元気出るし!いただきまーす!」

みらいが小さなスプーンを勢いよくプリンに突き刺す。

「えっ、みらいちゃん、焼きプリンの食べ方間違ってるで。」

「焼きプリンに食べ方なんかあるん?」

目を丸くして尋ねるみらいに、神妙な面持ちで優希が答える。

「あるわ……ほら、焼きプリンはこうやって、『焼き』の部分だけまず食べんねん。」

そう言って優希は、みらいのプリンを取り上げた。そして焼きプリンの表面に施された、表面の焦げた部

分をぐるっとスプーンで巻き取る。

「マグロで言ったらトロやで。」

はい、と『焼き』の部分だけを巻き取ったスプーンを渡す優希。

「きしょい食べ方。」

みらいがあからさまに侮蔑したような目で優希を見る。優希は不満そうに口を尖らせた。

優希は私と違い、関西生まれ関西育ちの生粋の関西人である。明るくてノリの良い性格がみらいと共鳴す

るところがあったのだろう、二人は終始小気味よい会話を続けていた。

「」

「」

何はともあれ打ち解けた様子でじゃれる二人を尻目に、朝の洗い物を片付ける。

「優希、洗い物終わったよ。」

「よーし、じゃあそろそろ行こか。」

優希がぐっと伸びをする。みらいが目を輝かせて言った。

「どこいくのどこいくの!公園?!」

「もっといいとこ。」

優希がニヤリと笑う。

今日も気持ちの良い五月晴れの空であった。今日の空は爽やかで健康な群青色をしている。幼児が青いク

レヨンで力いっぱい塗りつぶしたような、深くて濃い濃紺の空を見上げ息を吸う。画用紙のようにあからさ

まに白い雲がいくつか見える。日差しは夏を疑うほどに鋭いが、今日も風はカラッと乾いており、不快感は

少なかった。

出町柳のバス停からバスに乗り込む。向かった先は平安神宮である。平安神宮前には大きな広場があり、

ここでは季節に合わせて様々なイベントが行われているのである。

「やっぱ五月言うたら餃子やからな!」

「餃子に季節性ないやろ。」

胸を張って豪語する優希にみらいが冷たいツッコミを入れている。眼の前の広場の入口は、『餃子フェス』

と書かれた大きなアーチで彩られていた。

平安神宮前の餃子フェスは、事実季節問わず年 6 回ほどのペースで開催されている。様々なお店の餃子の

出店が立ち並び、家族連れや若者で大変賑わうこのイベントは、今日も大変な盛り上がりを見せていた。

広場の中央には特設ステージも用意されており、大道芸からマジック、忍者ショーまで、幅広い演目が子

どもたちを楽しませている。広場の端には簡易的なボールプールや、アスレチックなども設置されており、

子どもの甲高い声が絶えず聞こえてくる。

何よりも目を引くのは、特設ステージに設置されている鯉のぼりの大群である。背の高い木と木に繋がれ

たワイヤーに、数多の鯉が群がっている。 乾いた風がカラッと吹くと、鯉たちも一斉に濃紺の空に泳ぎだす。

もとより真っ青なクレヨンを力いっぱい塗ったような空であったので、単調な色使いと模様をした鯉の

ぼりが、思わず感嘆の声が出てしまうほどによく映えた。赤、青、黄色と、元気な色の鱗を身にまとう大小

様々な魚たちは自由そのものであった。

私達はいくつか餃子を買って、鯉のぼりが泳ぐ特設ステージを眺めながらお昼を食べた。大道芸を見て、

あれくらいみらいにも出来る、と駆け出そうとするみらいを優希と二人で必死に止めた。

「あんなん俺にも出来るわ。しかももっとハイクオリティで。でも俺は乱入したりせん。」

「なんで?みんなでやったらもっとすごくなるのに。」

「みらいちゃんやって、自分が頑張って発表するときに急にちゃう人が割り込んで来たら嫌やろ。」

「……確かに。」

「これが大人の対応ってもんや。 」

「そっか。みらいも大人やもん。」

ふんとふんぞり返って、みらいが椅子に腰を下ろす。腕組をして、お手並み拝見とでも言わんばかりに顎

をつんと上げているみらいを見ていると可愛らしくて思わず笑みが零れそうになったが、グッと我慢する。

「優希、みらいちゃんのこと扱うの上手いね。」

「こどもは素直やからな。可愛いわ。」

「本当は運動神経の欠片もないのにね。」

私が茶化して言うと、優希はうるさいわ、と朗らかに笑ってみせた。

「でもああやって、なにか一つでも特技があるの羨ましい。特技というか、自分があるのが。私には何も

無いや。なんとなく生きちゃってる。 」

私がポツリと呟くと、優希がわずかに目を見開いた。

「最近、急に不安になるんだよね。私ってこんなんで、なんで生きていかなきゃなのかなとか、考えても

仕方ないのに。」

鋭い三つの視線をふいに思い出す。ある企業の面接に進んだ私は、三人の面接官と対峙していた。張り詰

めた空気と、冷たい視線が私を射抜く。

「君、そんなじゃどこにも取ってもらえないよ。」

私の拙い受け答えを終始面倒くさそうな面持ちで聞いていた面接官のひとりが重々しく口を開く。私は

ただ、唇を噛み締めていた。

優希が何かを言おうと口を開こうとした瞬間、ワアっと大きな歓声が周囲から響いた。どうやら大道芸が

フィニッシュを迎えたようである。みらいを見やると、一心不乱に拍手をしていた。

テーブルに残る、冷えた餃子を口に運ぶ。冷たくなった皮は固くなっており、気を付けて食べなければ口

を切ってしまいそうだった。

少し時間が経ち、大道芸人が撤退し、周囲が落ち着いた。無人になったステージを見て、みらいが一目散

に駆け出していく。

「次の演者さん来たらすぐ戻ってこいよ!」

優希が走るみらいの背中に声をかける。わかってるわ!という声だけが風に乗って届いた。

みらいはステージでダンスを初めた。学校でやったのか、ダンススクールに通っているのかはわからない

が、とにかく楽しそうで、力いっぱいなパフォーマンスは見ているだけで頬が緩む。暫くすると他の子供達

もステージにワラワラと集まってき、思い思いのダンスを踊りだした。

初対面であるであろうにもかかわらず、無邪気に顔を見合わせながらケラケラ笑う子供らを眺めている

と、自然と心が和らいだ。見ると、優希の表情もにこやかである。周囲を軽く見渡すと、保護者であろう大

人たちから、大学生と思しき若者まで、皆がニコニコしながら子どもたちを眺めている。ステージを中心に

発生した、柔らかくて、朗らかな空気が広場全体を覆っていく感覚に襲われる。

ああ、私もかつてはこうだったのだろうなとぼんやり思う。すっかり忘れてしまっていた。いや、忘れて

いたというより、今やっと気がついたのである。

踊り笑う子どもたちと呼応するように、鯉のぼりが大空にはためく。鯉が激流を登り、龍になるという逸

話。それに子供らの健全な成長を重ね、今日までその思いを継承してきた人々に思いを馳せる。ここ数日、

ささくれだっていた心が少し柔らかくなるのを感じた。

痴漢にあった直後、次の駅で降車してトイレで吐いたことを思い出す。どうしようもなく惨めで、情け

ない自分に失望と怒りを覚えるうちに、全身の血の気がすっかり引いてしまった。手足の先は氷のように冷

たく、身体もブルブル震えているのに、ただ胃のあたりだけが熱かった。これを抱え込んでいてはいけない、

そう感じ、鬼気迫る勢いでトイレの個室に駆け込み、扉を閉める余力もなくひたすら便器に顔を突っ込んで

嗚咽をもらしているうちに、数人の女性が集まっていた。

心配そうに伺う視線を感じ、身体を起こそうとするも上手くいかない。人に迷惑をかけているという事

実に焦るも体調は一向に優れないままだった。すみません、すみませんと小さく声が漏れた事を覚えている。

「大丈夫。大丈夫やから。ゆっくり息し。」

突如、温かい手のひらが私の背中を優しく撫でた。見かねたのか、見守ってくれていた女性の一人が介

抱にあたってくれたのである。すみません、と再び嗚咽とともに小さく謝罪をもらすと、じんわりと温かい

手のひらがゆっくり、更にゆっくり私の背を撫でる。

「大丈夫やから。あんたは何も悪くない。 」

その言葉を聞いて、私は糸が切れたように号泣してしまった。その後は数人の女性達に抱き抱えられな

がら役務室に運ばれ、硬いイスの上で横になり静養した。気分が良くなった時にはもう背中を撫でてくれた

女性も、傍で見守ってくれていた女性も、誰一人残ってはいなかった。

ひとしきり食べて、気づけば夕方になっていた。未だ青空が広がってはいるものの、どこか夜の気配を帯

びてきたようにも思う。あんなにも突き抜けるように青かった空がすこしくすんできた。

日差しも和らぎ、心地の良い気候をもう少し堪能するべく、私達は平安神宮から祇園四条の駅まで歩くこ

とにした。

平安神宮から少し東に歩くと見えてくるロームシアター前の街路樹が、青々と茂っている。歩道に面したス

ターバックスが、テラス席として簡易的なベンチを設置しており、多くの人々がコーヒーの柔らかい香りを

まといながら談笑している。

「この木、ソメイヨシノやで。みらい知ってるねん。」

街路樹を指さしながらみらいが言う。確かに、よく見ればその葉には見覚えがあった。足元には花をつけ

ていたであろう花柄が落ちている。何より平安神宮はお花見のスポットとしても有名である。この立ち並ぶ

街路樹はみらいの言う通り、桜、ソメイヨシノであろう。

「ソメイヨシノといえば、これ全部クローンなんやって。」

優希がふと思い出したように声を上げる。

「ソメイヨシノは江戸時代に品種改良の末開発された桜なんやけど、自然受粉しにくい性質らしくて。古

くから、挿し木や接ぎ木をしながら増やしてきたらしい。 」

「ようわからん。」

みらいが口を尖らせる。

「」

「そうなんや。じゃあ、みらいの小学校にいっぱい生えてるソメイヨシノも、誰かがそこに分身させたっ

てこと?」

「そういうこと。」

「ほんなら植えてくれた人にお礼言わなあかんわ。桜のお陰で掃除は大変やけど、やっぱ咲いたらきれい

やし。卒業式のときとか、写真映えもするしな。 」

「現代っ子か。」

みらいと優希の会話を聞きながらぼんやり考える。江戸時代といえばもう 800 年ほど前である。そんな

昔から、ずっと人の手で守り、継承されてきたのかと思うと少し気が遠くなる。ソメイヨシノの美しさに

人々が魅せられてきたというのもあるのだろうが、みらいの言葉を聞いて、それだけではないのだろうなと

思う。

ソメイヨシノといえばやはり学校を想像する。校庭に、校門にたくさん植えられているその花は、卒業式

から入学式までの間花を咲かせる。春一番、新しい季節を告げる花を、子供らの新しい門出を祝して大人た

ちが植えたのだろうと想像すると、胃のあたりがじんわり熱くなった。

「まさに、人の心を種とした花だ。」

ぼそっと呟くと優希がふわりと笑った。

「そうやな。始まりは、より良い桜を追求したるねんって傲慢な探究心やったところも含めて、人を体現

した花やと思うわ。 」

いい話にしようと思ったのに、と軽く睨むと、優希がクスクス笑った。みらいもそれを見て、真似るよう

にクスクス笑う。

祇園四条の駅から京阪電車に乗って、出町柳へ向かう。京都の京阪電車はいつ乗っても穏やかな空気が流

れている。大阪の環状線なんかは、 いつもどこか殺伐とした雰囲気を感じるが、京都、特に京阪電車は違う。

全体的にシックな内装や、静かな運転が作用しているのかもしれない。京阪電車にかかわらず、京都全体に

蔓延るゆとりある空気感が私は大好きだった。

三人で並んで、鴨川沿いをゆっくり歩く。茜色の夕日を反射して、川面が黄金色に、チラチラと輝いてい

る。柔らかい風が頬を撫でた。今日も鴨川は賑わっており、浅瀬ではしゃぐ小さな子どもや、足をつけて涼

む学生と思しき人々まで、様々である。

「祇園四条の、四条大橋から鴨川見下ろしてみ。あそこの川沿い、なんでかわからんけど絶対に等間隔で

カップルが座ってんねん。」

「えー、そうなんや。」

「神宮丸太町あたりの鴨川の飛び石は、デルタよりもっと長い距離を繋いでるから、渡るのスリルあるで。 」

「えーっ、行きたい。」

「夏限定で、ていうかもう始まってんのかな。河原町の先斗町のところ。鴨川の上に家作って、そこでご

飯食べれたりもするねん。足元から涼しい風上がってきて気持ちいし、景色もいいんやで。 」

「すご。」

優希がみらいに鴨川うんちくというほどのものでもないことを話して聞かせている。優希は鴨川を愛し

ており、二人で鴨川沿いをただ歩くだけの日も多かった。

「なんか安心するねんな、鴨川見てると。」

優希がそうなふうに言っていたことを思い出す。ずっと古くから京都を貫流しつづけているからだろう

か、鴨川をぼんやり眺めているだけで確かに包容されているような気がした。ちらちら輝く川面や、穏やか

に流れる水流を見ていると、ふいに時間の流れがゆっくりになったような錯覚を覚える。

鴨川がいたるところで、様々な人々の拠り所になっているのも頷けるように思う。その川を中心に営まれ

てきた人々の些細な日々に思いを馳せる。

我が家を目指して鴨川を登っていると、突如あっ、っと小さな声を上げて、みらいが草むらに走り寄った。

「ちょっと、虫が付くからあんまり草むらの中入らないでよ……。」

草むらの中で急にうずくまったみらいに私が声をかけると、みらいが何かを手のひらに乗せてこちらに

戻ってきた。

「お姉ちゃん。猫ちゃんが。」

みらいが今にも泣きだそそうな瞳で私を見つめる。小さな両手にはそれ以上に小さな子猫が、体を硬くし

たままで眠っていた。

みらいは必死に猫を蘇生させようと、水はないか、食料はないかと訴えかけてくるが、もうその猫は死ん

でいるのだろうな、とぼんやり思う。あんなにも死を恐れていたみらいにその事実を投げかけるのはあまり

にも酷で、私は口を閉ざして立ち尽くした。

「みらいちゃん。その猫ちゃん、もう死んでるわ。 」

優希がふいに口を開いた。

「死んでへん。だってまだあったかいもん。こんなに可愛いのに。そうや、朝買ってきてくれたプリンあ

るやん。あれ食べさせたげたら元気なるって。 」

「ならへん。もう死んでるから。」

「なんで?死んだらもう、プリン食べれへんのに。死んだらあかん。」

みらいがボロボロと泣き出す。優希が優しくみらいの頭を撫でた。広い河川敷に、みらいの泣き声がただ

響いた。

一度家に帰った私達は、死んだ子猫を柔らかいタオルで包み、近くの雑貨屋で小さなスコップを買い、公

園へ向かった。みらいは終始、グズグズと泣き続けていた。

プリン食べさせたげたら、とうわ言のように力なく何度も訴えるみらいに、優希が優しく声をかけた。

「今度はこの猫ちゃんがプリンになる番や。」

きょとんとしてみらいが聞き返す。

「なにそれ。どういう事?」

公園の角に小さな穴を作りながら、優希が続ける。

「みらいちゃん、プリン食べたら元気出るっていうてたやん。あれと一緒。猫ちゃんをこうやって土に返

したら、土の中にいるちっさい微生物とか、植物の根が猫ちゃんを分解して、食べて、より元気になってい

くねん。そうやって大きくなった植物をちっさい虫が食べて、元気になって、そんな虫をまた猫ちゃんが食

べて、そうやって世界は回ってるねん。 」

みらいがすっと泣き止み、大きな目で優希を見つめた。

「死んだらそれで終わりじゃないってこと?」

「そうやで。命は巡っていくもんやからな。自分だけのものちゃうねん。」

柔らかい風が優希の前髪を揺らす。茜色の優しい色をした夕日が、優希の髪の毛を透かして、黄金色に煌

めいた。ゆっくりと、夜が近づいてくる。

猫を土に返し、帰宅した私達は、簡単な夕食を摂った。公園から帰る際、思い思い食べたいものをスーパ

ーで購入したのである。 みらいは終始神妙な面持ちでプリンを食べていた。優希の軽妙なトークを手で制し、

プリンを食べ終えたみらいは早々に布団に入ってしまった。今日はもう、死ぬのが怖いと訴えて泣くことも

無かった。

みらいが寝たことを確認して、優希を送るべく家に鍵をかけてから夜へ出る。今日はありがとう、という

私に、優希は優しいほほえみで返した。

「みらいちゃん、ずっと、死ぬのが怖いって泣いて寝れなかったんだよね。私じゃどうにも出来なかった

から、本当に助かった。」

もうきっと泣くこともないのだろうなと思いながらそういうと、優希が茶化した口調で私に言った。

「いや、お姉さんもですよ。一人で生きてる気になってはりますけど。 」

柔らかな風が体を通り抜ける。

「俺、両親が教師やねんな。大変なことも多そうやけど、それ以上に楽しそうで。昔の教え子が、結婚し

ましたーとか言うて家訪ねてきたり。卒業生の同窓会にもしょっちゅう呼ばれてはるけど、行けへんかった

ときには「先生のこんな話で盛り上がりました」とか手紙届いたりする。何年経っても両親の存在が、小さ

くも教え子に影を落としてるってことや。 」

「素敵だね。 」

「そうやろ。でも別に、教員に限ったことちゃうと思うで。人は 1 人では生きていかれへんからな。誰かの

言葉とか、小説とか、ちっちゃい行動とか。そういうのに時に絶望したり、救われたり、そうやって生きて

いく。人間って、良くも悪くも他者と影響し合って命を繋ぐ生き物やから。そうやって、たまには生きるん

嫌になりながらも、結局大きい善意のサイクルの中に居るんはどうしようもなく事実や。だからこそ、生き

ていくしかない。 」

優希が私の目をじっと見つめた。私はきゅっと口を噤む。

「進んで孤独になったらあかん。不幸ぶったらあかん。 大丈夫、いっぱいおるで。俺もおる。大丈夫やから。 」

大丈夫、とさらに呟きながら、優希が私の手を力強く握る。私よりも少し大きくて、固くて、あたたかい

手の平はじんわり汗ばんでいる。

きっとその一言が、ずっと欲しかったのだろうとぼんやり思う。その言葉に救われてきたし、これから先

も救われていくのだろうとふと思う。どこまででも一人では生きていけない事実を疎ましく思うも、無意識

に頬は緩んでいた。

刹那、パラパラと小雨が降り出した。この程度なら気にするほどでもないかと思った矢先、雨粒はどんど

ん大きさを増していく。

「おかしいな。こんな話をした夜には、空は冴えかえって、星が瞬いているものだと思うんだけど。 」

小走りで雨宿り出来そうなところを探しながら私が言うと、優希が笑った。

「小説ちゃうねん。都合よく晴れへんし、意味もなく雨も降るわ。」

それもそうか、と私が微笑むと優希もふわりと笑ってみせた。雨がふいに柔らかくなった気がしたが、き

っと気のせいなのだろう。近くのコンビニに立ち寄り雨が弱くなるのを待つ。

夜がただ、時計の針と同じだけ、刻一刻と更けていく。

優希を送り届け帰宅し、眠りにつくと、夢を見た。

周囲が眩いほど煌めいている。直感的に、ああ、あの夢の続きだ、とぼんやり思う。

私の体はやはり幼い頃のもので、 最初はまばゆい海の中をぐんぐん泳ぐも、やはり鱗が次第に剥がれだす。

しかし、焦りはなかった。重くなる体をゆっくりと海面に向かわせる。その間も輝く鱗はポロポロ剥がれ落

ち、暗い海の底へ舞っていく。しかし、やはり焦りはなかった。

大きくなった体と、二本の足を携えて、海面に勢いよく顔を出す。薄ら雲が空全体を覆っている。その奥

では太陽が煌々と煌めいているのであろう、雲は灰色に鈍くきらめき、不自然なほどに明るい視界に目を細

める。

肩で呼吸をしながらあたりを見渡すと、遠くに陸が見えた。そこから一本の突堤が伸びており、目を凝ら

して見つめると、誰かが手を振っているのが見えた。

重たい体を懸命に動かし、全身で突堤へ向かう。誰かが、こちらへ手を差し伸ばした。

刹那、薄ら雲の合間から太陽が差し込んだ。逆光を受け、手を差し伸ばしている人の顔へ影を指す。顔を

見ることは叶わなくも、優しく力強い手が、私を引き上げる。

ついに海から上がった私は、ゆっくりと立ち上がった。少しふらつきを覚えるも、両足をしっかり地につ

け息を吸う。足の裏から大地の胎動を感じる。

あんなにも陸に上がることを恐れていたことが嘘のように、指の先まで活力がみなぎっていることに気

付く。きっともう大丈夫だ、と、何の根拠もなくぼんやりと思った。

「はい、これ。」

顔に影を差したままの誰かが私に誘いかける。

「落としてたよ。君のだろ、大切にしないとね。」

そういって、誰かが私に小さな何かを手渡した。

石のように固く、魚の鱗のように小さなそれは、くすんだ藍色をしている。表面に大小さまざまな傷がつ

いており、光に透かすと鈍く光った。

これをずっと探していたのだと、ぼんやりと思う。いや、本当はずっと持っていたのだ。忘れていただけ

で、見えていなかっただけで。 最後まで持ち続けることが出来ない鮮やかな鱗ばかりに気を取られていたが、

本当に必要としていたものは、常に、自分の中で抱き続けていたのだ。

「ありがとう。」

顔の見えない誰かにそっと告げると、誰かが微笑んだ気がした。

「いいんだよ。僕もかつてしてもらったことだから。君もいつか、こっち側になる。」

唇を噛み締めて、ゆっくり頷く。途端、周囲が真っ白に輝き、何も見えなくなった。

「ほんまにありがとうなあ。」

連休最終日、早々に叔母がみらいを迎えにやってきた。海外旅行が心底楽しかったと言わんばかりに浅黒

く日焼けした肌を見ていると、笑みがこぼれた。

「全然大したことしてないよ。むしろ、私のほうがみらいちゃんにお世話になっちゃった。」

ポツリと呟くと、叔母がケラケラと笑った。

「みらいに?想像つかんけど、そんなら良かったわ。」

叔母の笑い方につられて微笑むと、私の顔を覗き込みながら叔母が言った。

「あんたのこと、心配しててん。コロナもあって以来、家にもあんま遊びにこんくなったやろ。寂しくて

しんでんちゃうかと思ってたから、久しぶりに笑顔見れて安心したわ。 」

「寂しくないし、それくらいじゃ人は死なないよ。」

「いや、私は未だに孤独死って寂しくて死ぬことやと思ってるからな。ほんであながちまちがいでもない

で。人は寂しくて死ぬし、ちっさい嬉しい出来事で明日も頑張ろってなれる、単細胞な生き物やねんから。 」

実際は単細胞どころかありえん数の細胞あるんやけど、と叔母がケタケタ笑う。

「うん。もう大丈夫。」

叔母の目を見つめ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。叔母がふわりと微笑んだ。

また泊まりにくるわ!と笑顔で叫ぶみらいと叔母を見送ったあと、鴨川沿いを散歩することにした。太陽

を受けてチラチラと輝く川面を眺める。川の側では老若男女が思い思いに休日を過ごしている。

子どもの甲高い笑い声が風に乗って耳に届く。夢を見ているのではと思うほどに平和が充満した下鴨を、

ただひたすらに下る。体が嘘みたいに軽かった。風を切って、ぐんぐん歩く。

「あ!」

すれ違った女性に声をかけられる。柔らかい茶髪をゆるく巻いた彼女の顔には見覚えがあった。

「野崎さん。偶然だね。」

ふわりと声をかけると、彼女が少し目を丸くして、嬉しそうに微笑んだ。

「名前覚えててくれたんや。なんか嬉しいわ。この前も喋ってくれんかったし!嫌われてんのかと思って

た!」

ケラケラと彼女が笑う。つられて笑みを返すと、私の顔を覗き込みながら言った。

「てか、飲み会の話!考えてくれた?一緒に飲もう!もっとお互いのこと、知れる会になるって!」

桜色の唇が忙しなく動く。優しい風が彼女の柔らかい髪をそっと撫でた。

「うん。行きたい。もっと野崎さんと、みんなと話してみたいし。まだ遅くないかな。 」

半ば自分に問いかけるような、情けない声が出た。淡く彩られた彼女の目がきゅっと垂れ下がる。

「遅くない遅くない!人生これから!」

川辺を彩る雑草の緑が、やけに眩しく感じられた。薫風が壮大に一帯を撫でる。彼女の言葉に、スケール

大きくない?と返すと、あっけらかんとした笑顔が返ってくる。

来週のゼミで会うことを約束し、彼女と別れる。あてもなく、ただひたすらに家とは反対の方向へ足を動

かす。自らで空白にした時間を埋めるかのように、全身で風を感じ続けた。

「将来、何になろうかな。」

小さなつぶやきは、風に乗って届いた子どもたちの楽しげな笑い声の中に溶けて消えた。

「おひさまの花」のリメイク。

私の四年間を綴った、卒業制作一作目ボツ作品。

カギカッコ空白は、足そうと思って足せてない箇所。

ボツになったけど、えー、これ結構上手にかけてると思うんだけどなあ…メッセージ性も強くて、エピソードも一つ一つ独立してて……うーん。

コピペしたからか、改行とか空白が所々反映されておらず、読みにくいかもしれない。いつか、気が向いたら直す。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ