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温泉

幸せになって下さいと言って笑った司祭が死んだ

 兄さんの介護よろしくねと言って僧侶が死にながら笑った

 クソッタレと言って戦士が断末魔をあげた

 ごめんね、パパと消え入るような声で言って魔術師がくたばった。

 誰も灰にさせないと、これを永遠の別れになんてさせないと、こんな結末など認めないと侍が絶叫した。

 クソボケ共が! つっっっかえねえな! ファック! と俺は切れた。

 いつも通り短刀を自らの頸動脈、喉笛、心臓に突き刺し眼球を貫き脳を引っ掻き回す。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 そして時は、廻る。


 侍が暗い目でローブの追い剥ぎへ、ずば抜けた技術と腕力の乗った斬撃を繰り出す。フェイント、連撃の1段目だ。盗賊のローブがはじける。そいつは女だった。女を攻撃する事に本能レベルの禁忌持つ侍の身体が一瞬硬直する。これが前のループで戦線が崩壊した原因だ。


 前のループでは侍がいくら強いと言っても先手必勝一撃必殺が絶対の摂理の迷宮戦闘だ。先手を取れなければどうなるかは分かりきってる。侍はさっきはこの女にぶっ刺され気配を隠していた追い剥ぎに追加で心臓を貫かれた。不動の最高戦力が刺された困惑が広がり隙が出来たのでさらに被害が拡大した。なのでその運命を覆す。ぬるりとその女の後ろに回り込んだ俺が肋骨の無い背中から短剣を心臓に刺した。防御力も、戦士系クラスのタフさも、無い女はあっさりとくたばった。クソッタレ。気分が悪い。

 ああ、追い剥ぎ生かして報復食らいたくないというエゴのために俺は人を殺すのだ。つくつぐどうしようもねえクズだな俺。

 しかし地力では勝っている以上、正面からぶつかったら勝つのは俺達だ。侍が凄まじい勢いで相手を無力化していく


 俺自身も故郷に娘がいるんだとか言うおっさんの心臓を貫き殺す。断末魔が耳を腐らせる

 俺は長男だから兄弟の為に死ぬ訳にはいかないとかガタガタ言い出す巨漢の喉元を掻っ切り殺す。返り血による気化熱は魂までも冷やす。 


もう悪い事はしないと誓った痩せた男の眼窩に短剣を差し込み脳を搔き回し殺す。短剣を振るう手が腐り落ちそうだ。


 どうせお前らも俺が寝てる時夢に出てきて恨みがましそうな目で見てくんだろ、クズ共が。


 クズが断末魔を上げた。


 “人殺しぃぃぃぃ! ”


 ■■■■

 殺人という禁忌を犯し柄にも無く気持ちが落ち込んでいる俺にトドメとばかりに厄介事が舞い込んできた

 侍が病院送り、僧侶が留置所送りだという何度聞いたか覚えてない報告だった。


【黄金の剣】の汚点二匹、バカ1号と2号、それが侍と僧侶だ。バカって言葉はクソ兄妹の為にある。

 バカ1号は侍

 美という概念が形をとったかのような絶世の美男子だ。世界最高の絵描きと彫刻家が人生をかけてこいつの面の良さを表現しようとしてもその美しさを表現しきることは不可能だと断言できる。美の神の寵愛を一身に受けた、ともすれば美少女とも見紛う、同性である俺がゾッとするほどの美青年。


 しかし女でさえあれば、下は受精卵から、上は棺桶まで、美醜問わず欲情する異常性愛者。未亡人とデート行くとか言って90超えのババアと夜の街に消え、深層のご令嬢達とデートだとか言ってブスの百鬼夜行をつれて夜の街に消え、人妻とデートだとか言ってトレボー王の嫁と夜の街に消え……もう言いたく無い。

 さらにスカトロ趣味に目覚めているらしく検便盗難事件を起こした過去がある。

 その上デリカシーと配慮が壊滅しているため同性の友人がいない。

 女相手だと多少はデリカシーと配慮が機能するため仲良くなったりすることは一応可能だがハイパー兵器を暴発させた事による浮気で大体台無しになる。刺されて病院送りはもはや日常だ


 1週間前爆乳美女のうんこが喰いたいですね ……レアでね(グッ

 とか抜かしたバカ1号は次の日嬢のうんこ食って見事入院した。

 バカ曰く軽く火を通しておけば問題無いと考えたらしい。

 あーっ 何言ってるかわかんねえよ

 どうして(頭の)病院に行かずにこんな場所に来たの? 

 侍・ファクトリーの門を開けろ! 完全なる馬鹿の誕生だっ。


 バカ2号は僧侶。

 絶世の美女だ、終身名誉AAAAカップである事を除けば見た目だけならこの世に顕現した女神と言っても過言ではない。憂いを帯びた儚げな横顔は気の弱い男なら一目見ただけで失神しかねないが、シリアスな顔でもどうせ昼飯をニンニク一キロ丼にするかチョコケーキの砂糖漬けハチミツがけにするか、もしくは大事に集めてるハナクソコレクションに加え鼻毛コレクションを作るかとか絶対馬鹿を超えた馬鹿としか言いようの無い事を考えている。


 侍もクソバカだがこいつはバカ通り越してテメェの頭にはおがくずでも詰まってんのか、お……お前 変なクスリでもやってるのかとしか言いようが無い思考回路をしてる。


 このバカの介護する内に何度なめるなっ メスブタァッと叫んだか覚えてない。怒らないで下さいね 顔が良くてスペックが異常に高く性根が一応善性なだけの女ってバカみたいじゃないですか


 介護してるうちに思考の9割程度は理解出来てしまう様になったのが悲しい。残りの一割は根源的恐怖が理解を拒否する

 しかし正気の部分は理知的でこいつなりの論理で動く。奇行の3割程度は後々あれはそんな意味があったのかとかハッとさせられる。7割はやっぱこいつキ……となるのだが。




 この一ヶ月だけでも異界馬 【チャリンコ】のサドルに股を強く打ち付けて貞操を散らし、不審者通報で5回留置所にぶち込まれ、深夜2時にお盆と茶碗を持って町中を徘徊し、ミミズさんごっこと称しながら上半身を地面に埋め窒息死しかけ、拾い食いで腹を壊し公衆の面前で脱糞一歩手前まで行き、鼻糞をトレボー王に見せびらかし切られかけ……まだまだあるがこれ以上語ると俺の頭の血管が切れるからここまでにする。

 カスみたいな本性がバレておらず聖女とまで呼ばれ宗教画の題材にまでなっている

 ウ……ウソやろ こ……こんなことが こ……こんなことが許されていいのか。飼い主である兄が手綱を握っている場合ならマシだがコイツがトラブルを起こすと兄貴もバカのシンクロニシティを起こして刺されて病院送りになっていたりするため俺がバカ共の対処に追われるハメになる。司祭が助けてくれるとは言え息をする様にトラブルを起こす23歳児と19歳児の尻拭いをするのはキレそうになる

 ホントバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ。こいつらのバカさを語り切るにはハーメルンの文字数限界までバカといっても足りない、


 離れればトラブルを起こし近づけば便所コオロギみたいに纏わりついてくる



 留置所のおっさんと病院のジジイに憐れみの目で見られるのはもう嫌だ。

 ■■■■


 リルガミンの風呂は魔術師曰く凄く広くて良いそうだ。俺の次に濁った目を珍しくキラキラと輝かせて言った。いつもの早口で。こいつ好きなものの話になるといつも早口になるよな。


 しかし俺は風呂にはいけない。体の傷を見せると面倒な事になりそうだからだ。

 しかしその面倒な事になる時がきた。


 高級酒と限定スイーツにつられ侍の部屋に行った時の話だ。


 “これが……友達との……飲み会……! うへへへすぴょぴょぴょぷぴょぴょぴょ! やったよママ、パパ、夢が叶ったよ! ”


 喜びのあまり侍は満面の笑みを浮かべ鼻水と涙と涎を垂れ流してキメェ笑みを浮かべ笑ってた。


 そしてお互いでろでろに酔ってガチムチパンツレスリングをやるかとなってお互い全裸になった時だ。


 全裸になった俺の傷を見て侍の顔色が変わった。“なんだい……それ”

 ちょっと昔反社に飼い殺しにされてた時に付いたやつ、別に大した傷じゃねえよと言うと

 “大した事ない訳ねえだろ!! ”侍が怒鳴った


 “その仕打ちを、君以外が、大した事ないとか言いやがったらそいつをぶん殴んぞ! ”“ふっざけんじゃねえ! こんなの人間の所業じゃねえぞ! ”“誰だ僕の友達をこんな目にあわせやがったゴミ野郎は! ぶっ殺してやるよ! ”


 なんで俺より怒ってるんだよ、ちょっとビビった。こいつは基本的に怒るという機能が付いてない。自分自身がが危害を加えられる場合、命の危険にさらされない限り何をされてもヘラヘラ笑ってる。

 ゴキブリごっこをしていたバカ2号もベットの下から這い出してきた。


 喜怒哀楽の“喜”と“楽”しか無いほんわかぱっぱの顔面に明確な嫌悪感が浮かんだ。


 “……大した事無いわけ無いよ”

 “回復魔術って基本的に平時の状態に体を戻す魔術なんだよ、それで治らないって事は傷だらけ火傷だらけの状態が長すぎてボロボロの状態が平時の状態になってたって事だよ”

 “私は生き物全般好きなんだけどこんな事する奴らを生物にカウントしたくない”とゾッとする程冷たい声で言った。ちょっとビビった。


 それから何故か侍に旅行に誘われ、僧侶に手術を受けるよう言われた。

 先に旅行に行くことになった。


 その旨を残りの馬鹿どもに伝えると戦士と魔術師は三馬鹿抜けるとキツイな、中身はともかく冒険者としては一流だしよと言い始め、司祭はゲロを吐きながら涙を流し俺に向かってごめんなさいごめんなさいなんでもしますと壊れた玩具の様に言い始めた。何? この状況。


 始めに行ったのはバードノーブルという居酒屋だ。喋りまくるコミュ障の侍、喋らないコミュ障の俺、説明不要の僧侶だ。クソみたいな会話をする侍にくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃ飯を口から撒き散らす僧侶によって会話自体は地獄の様相を示していたものの一品2ゴールドで買える安価さ、特にデカいジョッキを安価で頼めるのは俺の好みだった。


 転生者なる異世界の民が作り出したラーメン屋、【ジロウ】にも行った。侍は“なんだこの豚の餌! ”といい客に袋叩きに遭い僧侶はニンニクマシマシマシマシマシマシマシとか言うニンニクが山と積まれたのを喰って腸内細菌が全滅し倒れた。


 食べ放題で僧侶は過食嘔吐、俺も過食嘔吐、侍は盗賊君いつも僕の妹を意地汚い言っているけど君も大概だよと言った。


 こいつら金持ちの癖してしょぼい旅行だなと思ったら“”小国の王族でも体験できない豪華なツアーでも良いけど

 君は生粋の貧乏人だからそんなんじゃ緊張して楽しめないだろ。当たってるよ、チクショウ。”


 そして旅行最終日、俺たちは温泉旅館に泊まっていた。貸切にしたそうだ。


 そして誰もいない風呂に入ってみたのだがこれがまあ良い事良い事、温度関係なく体にじんわりと温かさが伝わって心地良い。ほぅという声が漏れる。ああ~という声が漏れる。幸せだ。という声が漏れる。そして気配を感じ右に目をやるとバカ1号と馬鹿2号がいた。……いつからみてたと聞くとほぅ辺りからだそうだ。俺のクールなイメージが崩れた。クソッタレ。


 ナチュラルに男湯に入ってきてる僧侶はこの際どうでも良い。あまりにも美しいものに欲情するのは逆に難しい。異界絵画モナリザに欲情する人間なんていないのと同じだ。


 一周回って性欲がゼロになる。


 それから色々と話をしたが僧侶が潜水ごっこで遊ぶ間侍に気になっていた事、なんで絶対パーティーメンバー裏切らないのか聞いてみた。

 魔術師と戦士はピンチになると偶にバックレるが侍、僧侶司祭はどんな危機的状況になっても自分以外の誰かが生きていれば絶対に逃げない、裏切らない。


 “僕は恵まれている。家族にも、友達にも、仲間にも、周りの人間にも、家柄にも、運にも、顔にも、先生にも、財産にも、学力にも、武力にも、才能にも、身長にも、声にも、勘にも、でもさ僕の順風満帆な人生にも三つだけ辛い事があったんだ。”


 “1つ目はママが死んだ事”

 ……分かるよ……


 “パパが死んだ事、”

 そりゃどうでも良いっすね


 “あといじめられた事”


 この化け物をいじめる? 意味が分からなかった。荒唐無稽な事の例えとしてグレーターデーモンを〇〇するというのがあるがそれくらい意味が分からない。ただ理由を聞けば割と納得できた。


 なんでも母親、父親が死んだ為、執事長が家の乗っ取りを考えていた事、父親母親が腐敗を少しで良いから払拭しようとしていたため貴族連中に疎まれていた事。それらの要員に加えその時の侍は大して強くなかったそうだ。その上今では大得意な勉強もできない落ちこぼれだったそうだ。

 いじめの原因についてだがどうせ検便パクったのが原因だろうと思ったが

 “ああそうかその手があっt……いややってないやってない”

 “いじめられている人間を見ているのが耐えられずに前に出て庇ったら次は僕がいじめられてね”

 “別にそれだけなら耐えられたんだけど僕が庇った子まで嬉々として僕を簀巻きにしてどこまで流せるかゲームとか顔面何倍に腫れさせること出来るかゲームに参加してきたんだ

 あれはきつかったな。”

 まあクズ共によるいじめとしてはあるあるだな。分かる分かる。

 “僕はその時誓ったんだ”

 復讐のために強くなりボコボコにするとかだろ、そう思っていたが侍は言った。

 “裏切られるのがこんなに辛いのなら僕は誰かを絶対に裏切らない様にしようと、誰にもこんな思いはさせないようにしようと。”

 ……


 ■■■■


 “で、良かったかい? 旅行は”

 まあ悪くなかった。あ、あ、ありがとよ

 “そりゃあ良かった何よりだ……本当に、何よりだ……”


 ……お前もっと配慮とデリカシーありゃ友達たくさんできそうなのにな

 “そう言えば盗賊さん、なんで名前を呼ばれるの嫌がるの? ”

 僧侶が平泳ぎしながら聞いてきた。俺は名前を名乗りたくないのは。名の方は母さんから受け継いだ中で残った唯一のものだから、クズになった俺が使う事で穢したくない。だから使わない。姓の方は母さん置いて家出やがった血縁上血が繋がってるだけのクソ野郎のものだから使いたくない。エルフ混じりの伝説的な忍者らしいがだからなんだよとしか言いようが無い。俺が治療費払いきれ無かったのが母さんの死の原因とはいえ、テメェが母さん放って出ていかず治療費払うの手伝ってくれりゃ母さんは今も生きてられたんだ。嫌いだ嫌いだテメェが嫌いだ。そして……俺が嫌いだ。


 そう言うと僧侶が俺の両手を握って目を正面からまっすぐ見ていってくる。


 “いつかきっと、盗賊さんも、今よりちょっとだけ自分を好きになって、自分の名前を堂々と言える時がきっと来るよ”

 とかほざいてた。どうでも良いけどこいつさっき大便してた上に手を洗って無いんだよな。


 嫌いだ嫌いだ。こいつらの目が嫌いだ。こいつらの俺に幸せになって欲しいと願う目が大嫌いだ。昔の誇れた自分、もう失った良心を、そして誰かの幸せを願えていた頃を思い出すから


 ……相手が追い剥ぎとはいえ人を三人以上殺した上性根が腐ってる俺はきっと地獄に落ちる。死後に天国の母さんともネズ吉くんとも会えない。

 でもそれで良い。

 どうしようもなく醜い心の持ち主になった俺を見られたくないから。

 地獄のような現世からやっと抜けられた大切な人たちに、悪党の俺なんかが会ったら絶対に迷惑をかけてしまうから。




 でもコイツラはきっと天国にいく。人を三人殺しているが、まあ、こいつら程それで苦しんでいれば神も許してくれるだろう。そしてきっといつか母さんやネズ吉くんと会うだろう。その時の為に印象は良くしておかなくちゃな。大嫌いだが。


 そして俺達は迷宮都市に舞い戻る。

 この後馬鹿二匹が三日くらいは珍しく騒動を起こさなかった事、

 僧侶の【手術】とやらを何度も何度も受けた事で俺の体の傷は最終的に癒えたと言う事は言っておく。

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