Letter for you(前)
0.
小さい頃___
一人の女の子から聞いた
2つの伝説話を
1つ目は___
運命の人は瞳があった瞬間にわかること
2つ目は___
運命の人と口付けを交わすと来世も会えること
僕には関係ない、
正直、
"どうでもいいこと"
そんなことひは無縁の人生を歩むんだから___
1.
僕にはなにもない
才能も勇気も知恵も
テストは平均点あたりを彷徨い
部活は中学で挫折した
そう、僕にはなにもない
みんなは楽しそうに友達と話すが
僕には友達も
クラスメートに話しかける勇気もない
色んなものを持っている奴らが羨ましい
妬ましい
ずるい
なんで
どうして
"僕にはなにもないんだろう"
2.
今日も面倒くさいが学校に行く。クラスのドアを開けても、返事をしても誰も返してくれない。それもそうか、僕には友達もいないし、頭も悪い。陽キャか陰キャかと聞かれたら間違いなく陰キャであるだろう。僕はクラスでは空気だ。やりたいこともなにもない。部活のため、友だちに会うため、勉強するため……「学校に行く」という行動には僕にとっては何も意味がない。それでも、親に心配をかけないため、クラスの空気となりながら今日も1日を過ごす。
何回、何十回と座ってきた自分の椅子に腰をおろす。今日もつまらない1日が始まると思うと憂鬱だ。
「天野くんおはよ!」
僕は席の隣の、全く知らない人から声をかけられた。というかなんでこの人が僕に話しかけてきているんだ。
そう____この人の名前は"渡利咲茉"つまり……クラスの一軍女子である。僕は陰キャでクラスの空気であるゆえに陽キャに話しかけられたことはない。
「あれ? 聞こえなかったかな? おはよ!」
と、もう一回挨拶してきた。本当に話しかけてほしくないのだがこのままだと永遠に挨拶され続け周りからなんなんだこいつはみたいな目で見られてしまうと思い、
「お、おはようございます……」
と声を絞り出して言った。
「おはよ! 私は渡利咲茉! よろしくね!」
「あ、、はい、よろしく、お願い、します……」
なんでこんな陽キャ女子が隣の席かなんて理由は一択だ。担任が無造作に席替えを決めたからだ。自分たちで決められるのなら陽キャの狭間にいるか、陰キャで固まるかの二択だったが先生のせいでこんな陽キャ……しかも女子の隣になってしまった。気まずさを噛み締めつつ、やはり渡利さんが登校するとクラスのあちらこちらから人がわんさか集まってくる。
「咲茉〜! 今日新作のクレープ食べに行こ!」
「ねぇねぇ、宿題やってきた? え! 写させて頂戴!」
「咲茉またコンクールで金賞取ったの?」
「今日の時間割だるくない?」
「咲茉ちゃんだ〜!!!!」
など、四方八方から声をかけられている。しかも1つ1つにきちんと対応している。なんなんだこの人は。なんとなく、羨ましいと思った。妬ましいといつもは思ってしまうのに今回ばかりは何故かそうは思わなかった。
3.
その日の帰りのホームルームか終わると僕は勢いよく教室を、学校を飛び出した。飛び出した、と言ってもいつも通りのことだ。だがいつもと違うことがあった。それは、
「スマホ……教室に忘れた……」
僕はまだ学校から遠く離れていないしこのあと用事の1つもないので取りに帰ることにした。どうせクラスの一軍たちが陣取って話しているんだろうな……と考えてしまったがクラスに入るとそんなことはなかった。しかも、人が一人もいない。神様ありがとう。自分の席に向かって足を進めていくにつれ、気になるものを見つけてしまった。それは、渡利咲茉の机の上に一冊の手帳が置いてあった。しかもご丁寧に"日記帳"と書かれている。見ては行けないのは分かってる。でも___でも気になる。スマホを取りに来たことなんてすっかり忘れて渡利咲茉の日記が気になって仕方が無い。そんな欲望に負けて、日記帳を開いてしまった。この出来事がまさかこんなことに発展するなんて___このときは知る由もなかった。
4.
私は病気を患っています。しかも一生治ることのない病気。世界でも難しく治療方法が見つかってないらしいです。このことに気付いたのは5歳ぐらいのことです。私が遊んでいるとき、お母さんから声をかけられていたのに自分の名前がわからず、私の名前も分かりませんでした。その様子を不審に思い、お母さんが病院に連れて行くと、治らないとされている治療法がない病気だったらしいです。
私の病気は始めの方は5年に1回ぐらいのペースで記憶を無くしていく病気でした。それが徐々に早くなり、最短で1週間まで短くなることがあるらしいです。私はそういうふうに診断されたときから毎日日記をつけることにしました。5歳ぐらいの頃は親やお医者さんにやってみてと言われてやったので何を書けばいいのか分からなくてご飯のことしか書いてなかった気がします。小学校高学年ぐらいになる頃には自分の忘れたくないことを毎回メモしてました。元々はお医者さんから入院生活を勧められてたけれど。もしかしたら治療方法が見つかるかもしれないからって。でも、その確率は低いし何より検査とかしなくちゃいけなかったり投薬をし続けたりしないといけなかったりして、嫌だったからが1番の原因です。だから入院しないことにし、今日もこうやって日記をつけています。
ですが、この病気……記憶無くすだけじゃなく、記憶を無くすペースが上がってくるにつれて死亡率が上がっていくらしいです。もし、記憶を無くすのが1週間ペースになれば死亡率は90%台に跳ね上がるそうです。つまり私は長くは生きられない。だからこそ入院生活は嫌だったんです。だから死ぬまで……というかもうあと、長くても3年ぐらい程? で私は死んじゃうそうです。それまで精一杯生きる予定です。日記と言うより決意表明みたいですね。この手帳を使い切る頃には私はここにいないかもしれません。
5.
僕は渡利咲茉の日記を読んだことを後悔した。こんな話は知りたくなかった。という気持ちと可哀想だな、という気持ちがこみ上げてきたから。僕はスマホを取って家に帰ろうとした。そこで、いきなりガラガラっと教室のドアが開いた。
「えっ!? 天野くんじゃん! どうしたの?」
「え、あ、えっと……す、スマホをと、取りに……」
「そうなんだね てか、私の日記見た?」
「い、い、いや、み、み、見てない、ですよ、」
「その反応絶対見たじゃん! 正直に言って?」
「…………見ました。ごめんなさい」
僕は素直に白状して謝った。もし、クラスの一軍女子を怒らせたらどんな仕打ちを受けるのか怖かったから。
「やっぱりね〜」
「?」
「別に見られても良かったんだけど…… まぁ、嘘でしょ?って思うじゃん? 本当のことで、私もうすぐ死ぬらしいの」
「…………」
僕が何も答えられないでいると彼女は話を続けた。
「まぁ、そんなに気にしないで」
ヘラっと笑うと日記に手を伸ばしてリュックに詰めようとする。
「あ、でも約束ね? このことは誰にも言わないでね」
なんで? っていう思いが込み上げてきたけど、そんなことは言えなかった。一軍の怒りをかったらどうなるかわからない。でも、無意識に口が動いた。
「なんでですか?」
しまった、と思って思わず口を塞ぐ。彼女は僕を軽蔑的な目で見ず、こっちに振り向いた。不意に彼女と目が合う。ドキッと心臓が跳ね上がる。
「皆に迷惑をかけたくないからだよ。私がもうすぐなんてクラスの皆が知ったら今の扱いのままじゃいられなくなるかもしれない。この関係が崩れるかもしれない。それが、、、怖いの……」
思わず聞いた彼女の本音。いつも明るく振る舞ってる人もほんとは怖いんだ。そうなんだ。
「こんな話つまらなかったよね。ごめんごめん」
全く悪くないのに謝ると日記帳を回収して教室を飛び出していった。教室には、知ってはいけないことを知った僕と、心臓の跳ねる音だけが残っていた。
6.
次の日、僕はドキドキしながらクラスに入った。もし、渡利咲茉がクラスに昨日のことを言っていたら___間違いなく僕の居場所が更になくなってしまう。教室のドアを開けた先の光景は昨日と変わらない、何回何十回と見た景色だった。その事実にそっと胸をなでおろす。ただ、次の関門は渡利咲茉の席の隣に座ること。例によって渡利咲茉は学校に早く来ている。僕は足音と存在を押し殺して自分の席に近づく。
「あ、天野くんおはよ!」
声をかけられたことにビクッと心臓がはねたが、ある意味安心した。昨日と態度が"変わらない事に"。いつも通り、席に座って授業を受ける。いつも通り。いつもと変わらない。休み時間に友達と騒いでる奴らを眺めて羨む。それでも、視界の端に映る君の笑顔が頭から離れなかった。でも、問題が1つ起きた。それは、渡利咲茉が体調不良で早退したのだ。昨日の事が絡んでいるような気がしたけど、どうせ関係ないと思って授業を受けていた。だが、先生が放課後僕を呼び出して渡利咲茉にプリントを届けてくれ、と言った。嫌と断りたかったが、何故かその時の僕は「いいですよ」と言ってしまった。
7.
「えっと……こっちだったよな……?」
僕は先生からもらった地図を頼りに渡利咲茉の家を探しに行った。学校から15分ほどの距離にあった。そして、インターホンを鳴らした。
「すみませーん。咲茉さんと同じクラスの天野なんですが、プリントを届けに来ました」
『咲茉のお友達さんですね。待っててくださいね』
友達、というワードに若干の違和感を覚えたが今更ただのクラスメイトです、と訂正するのもおかしい気がした。数秒後に扉が開き、渡利咲茉の母親らしき人が出てきた。
「わざわざ、届けに来てくれてありがとうございます」
「いえいえ」
「暑いので中に入ってくださいな」
「いえ、大丈夫です」
「そんな事言わずに、入ってくださいな」
「では、お言葉に甘えて………」
僕は家にお邪魔させてもらうことになった。リビングに案内されると、そこには渡利咲茉の姿があった。僕を見つけると、
「天野くん!?」
と、叫ばれた。そんな驚かなくてもいいのに。
「まさか、届けに来たのが君だったなんてね〜。ビックリだよ〜」
体調不良で帰ったのが嘘かのように元気に喋っている。
「た、体調は大丈夫ですか?」
「う〜んぼちぼちかな〜」
「"病気"のことが関係しています?」
この答えは渡利咲茉からではなく、母親から返ってきた。
「まさか、咲茉他の人にこの事を言ったの?」
その声色は否定とかじゃなく、心の底から驚いているような声色だった。
「う〜ん、まぁ、そんな感じかな?」
渡利咲茉がこんな反応になったのも無理は無い。僕が勝手に日記を見ただけなんだから。母親は特に怒りもせず
「そうなのね。やっとこの事を話せる人ができて良かったわ」
と、安堵の息をもらしていた。すこし、のんびりした雰囲気をまとったのも束の間。
「ウッ」
渡利咲茉が急に倒れたのだ。
「咲茉!?」
母親が必死に渡利咲茉の肩を揺するが反応が無い。僕は咄嗟にスマホを構えて救急車を呼んだ。
8.
病院に着くと、僕と渡利の母親は外で待つことになった。当の本人は処置室に運ばれた。隣では、渡利の母親が無事を祈っている。処置室から、医者の人が出てきて僕たちの方に近づいてきた。
「あなたの娘さんは……余命があと3日です」
「えッ………」
思わぬ余命宣告に2人は固まる。数秒あいて、渡利の母親が
「娘はッ、娘はどうなるんですかッ?」
と医者にすがりつくようにして言った。
「娘さんはその通り寿命を迎えて死にます」
「そんな………」
僕も悲しくなかったわけじゃない。でも___