夜の道
足を靴で包んだ。
雁首の電気信号が夜を示す。
連続の颶風が衣類に膨らみを作っては去っていく。
体躯を百入茶色に染め上げ水晶体の風物を後ろに流す。
宵闇が円形に押し込んだ煌めきは駆け上がる欲望の安全弁。すまし顔で整列。
ホモ・サピエンスは自分以外には存在しないのでは?
乗算された陰翳は塀を這い、鎌首をもたげる。
肢体を憐光に舐められ藍鉄の窪みを作りながら私は再び片道切符の冥闇に潜る。
大気の洪水を裂き、背部からの三夏が素膚を魔する。
にわかに店の燈が漆黒を暴き、衣服の常闇を払った。
高所にあった心肝は忽ち墜落し、露呈した現を忌避。
幾何も無く鎮静化したそれを抱え顕現した関頭を仰ぐ。
カーブミラーの凸面鏡と私との隔たりが狭窄するにつれ、脂肪に包まれた頭蓋が膨潤し、湾曲の後、追いやられた。
主舵を切ると榎のさんざめきが鼓膜の動揺を生み、循環する闊歩は地維とコンクリのグラデーションを経過し、人の轍を撹拌し始めた。
最早標は殆ど背いた太陰と暗順応を残すのみである。
緊縛するクラックとミカドオオアリの反芻がアイデンティティの段々と靴底との対面が120秒ほど反復し、間隙から首を垂れる穢れた新緑のヘアーパーティクルが緩やかにアーチの頻度を増し始めた頃に脚は頂に届いていた。人による名前の固定化の権化が軋む横で訪人の肢体はようやっと小さな膝栗毛以外の択を取り、吐息を夜に溶かしながらこれ以上の先に虚像の帰還不能点を作り出した。
芒種に住む虫の息吹を思設けながら涼み台を軋ませ、筋繊維を弛緩に変えたことで水面下で感電しているニューロンの存在証明に一役買いながら、射干玉の群れを同胞の中で泳がせた。
「涼しい」
便秘&下痢