一年目・春・4月7日(月)・朝の選択
選んだのは、響君!
悩みに悩んだんだけれど、女の子同士のイチャイチャも大好物ではあるのだけれど、やっぱり男の子同士のイチャイチャも見たいという思いが強かったからってだけなんだけれどね。
クリアしたら、灯ちゃんルートも堪能できると信じて、響君ルート堪能しちゃうぞっと。
まずはプロローグを読み進めないとね。
それもカーソルのお仕事お仕事っと。
本当に大好きだった。
心から愛していたし、ずっと一緒に歩いて行けると思っていた。
でも、運命というのは時に残酷なもので。
ずっとそばにあると思っていた存在を一瞬にして奪ってしまった。
あの粉雪が舞う、冬の晴れたあの日に。
俺は世界で一番大切な人を失った。
それ以来俺は、粉雪が降る日と、誰かとの距離を必要以上に縮める事が怖くなってしまった――。
ジリリリリリッ。
けたたましく鳴り響く目覚ましを、俺は布団の中から腕だけを鳴らして叩きとめる。
そして、静かになったのを確認して、二度寝しようと布団の中に深く潜り込もうとした次の瞬間。
「いや、起きんか!」
という声と共に掛け布団を容赦なく引っぺがされてしまう。
掛け布団と共に俺のベッドの横に立っていたのは、双子の妹である灯だ。
「あーかーりー…布団返せよ」
「駄目だっての。今何時だと思ってるのさ。もう7時半だよ!入学式から遅刻する気なのかな?ほらさっさと起きた起きた!」
掛け布団を求めて伸ばした俺の手を容赦なくぴしゃりと跳ねのけると、灯は逆に俺の腕を掴んでグイグイとベッドから引きずり降ろそうと実力行使してきた。
「おわっ…!ちょっ、待て待て…!落ちる落ちる、危ないだろ引っ張んなって!」
「落とすつもりでやってるんだってば」
「わ、分かった!起きる!起きるから!」
降参というように声をあげれば、灯は漸く俺から手を離した。
「よろしい。ならさっさと顔洗って支度済ませちゃってよ?お父さんもお母さんも、もう準備万端で待ってるんだからさ」
「……本当にあの二人も来る気なのかよ。高校の入学式に両親とも同伴とかありえねーんだけど」
「一応、保護者用の席だって用意されているんだし来たっておかしくはないでしょ。ほら早く支度するする!」
「わーったよ…ったく、って着替えるから出てけよな」
「はいはい。解ってますよ。まあ響の裸なんて今更見たって恥ずかしくもなんともないけどね」
「お前はもっと慎みというものを持て。一応は女だろうが」
「失敬だな。どこからどう見たって女じゃないか」
「中身が男なんだ、中身が!…いいから早く出て行けって!」
「はいはい。ちゃんと準備して降りてくるんだぞ。8時には出るからね、家」
そういった灯は一度だけ肩を竦めると漸く部屋を出て行った。
「全く、あいつは我が妹ながら本当に…」
ぶつぶつと言いながらも、灯の足音が部屋から離れて階段を降りていくのを確認して俺は、二度寝
ピコーンッ!
『手早く制服に着替え身支度を済ませることにした』
「あ、あれ?いや、違うぞ、俺はそっちじゃなくて二度寝をしようとだな」
ピコーンッ!
『手早く制服に着替え身支度を済ませることにした』
「いやいやっ!だから、そうじゃなくて俺は二度寝がした」
ピコーンッ!
『手早く制服に着替え身支度を済ませることにした』
「……分かったよ。着替えればいいんだろ、着替えれば!」
何か強制的なものを感じないでもないけれど、まあ折角起きたんだし真面目に入学式に出るとするかと思いなおせば、俺は二度寝するのを諦め手早く真新しい制服に着替え身支度を済ませることにした。
よしよし。
ここで三回この選択肢を選んで起こしておかないと、二度寝してしまうと高難易度攻略者の一人である幼馴染ちゃんと顔合わせられなくて攻略開始フラグが立たないんだよね。
何度もやり直したからしっかり覚えてるんだから。
因みに二度寝してしまうと、本当に置いて行かれてしまって遅刻して教育指導担当の教師に怒られて目をつけられるイベントは見られるんだけれど、教育指導担当の教師は学園関係者キャラの中で攻略できないキャラの二人の内の一人だから見なくてオッケーだしさ。
じゃあ、続き続きっと。
身支度を済ませて一階に下りた俺はリビングへと向かう。
そこには灯の言葉通り、準備を万全に整えた両親と同じ高校制服に身を包んだ灯の姿が見られた。
「おはよう。響。ちゃんと起きて来られたのね。朝ごはんは食べる?」
「…いや、あんまり腹減ってないし、珈琲だけでいいや」
「はいはい。ちょっと待ってね」
「…それにしても響も灯ももう高校一年生か。何だか感慨深いなぁ」
「って、今から泣かないでよお父さん!別に家から出ていくわけでもないんだし」
「ははっ、すまんすまん。ついな」
いつもと変わりない他愛無い朝の会話を終えた後は、母さんの入れてくれたブラック珈琲を飲み干し親父の車で高校へと向かう事に。
10分ほどで校門前までつくと、俺達三人を先に下ろして親父は駐車場に車を止めに行った。
喜多原学園。
今日から俺と灯が通う高校の名前だ。
もう既に何人かの生徒達と、保護者の姿も数名見える中、開かれた校門から軽く覗き込んだ校内の、校舎へと続くまでの道の両脇には何本かの桜の木が立ち並び俺達を歓迎するかのように満開の花を咲かせていた。
「桜、か」
ぼそりと呟いた俺の脳裏にとある言葉が思い浮かんで来た。
『ねえ響!見て見て、満開の桜だよ!凄く綺麗だよね!』
『私ね、花の中で桜が一番好きなんだ。色も形も可愛いし、桜吹雪も綺麗だし。それにね、何より短い期間にだけ咲く儚い命でも一生懸命咲き誇っている姿が素敵だなって』
そう言って微笑んだのは、出会ってまだ間もない頃だっただろうか。
あの頃からあいつは――。
「響?」
そこまで考えたところで、背後から声をかけられて俺ははっとして振り返る。
そこには、怪訝そうな顔をした灯と、その隣で不思議そうに顔をしている灯と同じ喜多原学園の制服の身を包んだ女子生徒の姿があった。
「んあ?何だよ灯?それに美鈴も来てたのか」
「うん。おはよう、響ちゃん」
「ああ、おはよう」
女子生徒の名前は、松波 美鈴。
俺と灯の幼稚園からの幼馴染で、親同士も仲がいいからよく一緒に家族で出かけたりしているおれと灯にとってはもう一人の兄妹の様な存在の少女だ。
灯が和風の美少女なら、美鈴は洋風の美少女って感じで、ふんわりと柔らかい長髪を背中の中央で一つ括りにして大きなピンク色のリボンをつけている。
中学校時代は灯と二人で二大美女とか言われてて、かなりモテていたようだけれど二人して今まで誰とも付き合った事はないんだよな。
まあ、高校生からが本番でもあるのかもしれないけれどさ。
「それで、だよ。何をぼーっとしてたのかな?響は」
「別にぼーっとしてたわけじゃねーよ。ただ、桜が満開に咲いてるな、と思ってみてただけだ」
「桜か。確かに満開だね」
「綺麗だよね、満開の桜。見応えもあるし」
「何だ響、桜に見惚れてたのか。結構ロマンチストじゃない」
「見惚れてたわけじゃないっての。ただ」
「ただ?」
「……あいつも桜が凄く好きだったなって、思い出してただけだ」
「………っ!」
「響ちゃん……」
俺の言葉に、灯は軽く目を見開いて息を飲みこみ、美鈴は悲しげな表情を浮かべる。
二人はあの日の事を知っている俺以外の三人のうちの二人だったから。
どことなく気まずい空気が三人の間を流れ始めたのも束の間、気まずい雰囲気を振り払ったのはカメラを片手にやってきた親父の暢気な声だった。
「響!灯!入学式が始める前に校門で一回写真を撮るぞ!お、美鈴ちゃんもいたのか」
「おはようございます。おじさん」
「おはよう。今日も相変わらず可愛いね。その制服もよく似合っているよ」
「ふふ、有り難うございます」
「親父、その言い方変質者臭いからやめろよ」
「どういう意味だ、響。っと、それより写真だ写真。ほら撮るぞ!美鈴ちゃんも一緒に入って入って」
「い、いいんですか?」
「いいんじゃない?美鈴はもう家族みたいなものだしさ」
「灯ちゃん。有り難う」
灯の言葉に嬉しそうに笑った後、美鈴は俺の様子を窺うように見つめながら問いかけて来た。
「響ちゃんも、嫌じゃない?」
『嫌だと言う
嫌じゃないと言う』
ピコーンッ!
『嫌じゃないと言う』
「別に嫌じゃないって。一緒に家族旅行行った時も撮ってるだろ。今更遠慮なんかすんなよ」
「そっか。そうだよね。うん、有り難う、響ちゃん」
俺の答えに美鈴はほっとしたように、嬉しそうに笑って頷いた。
美鈴のやつ最近たまにこうして変に気を使うんだよな。
本当に今更なのに変な奴。
美鈴は家族のようなものだし、それでなくったって大事な幼馴染みなんだから、俺も灯も気を使われる事なんかないのにな。
なんて思いながら、親父の写真撮影会に付き合った後は、そのまま入学式会場である体育館へと向かった。
よし、これで美鈴ちゃんとの攻略開始フラグは踏めたな。
良かった、良かった。
次は入学式後に場面が切り替わるはず。
このゲームは、平日は学園で、午前中の休み時間に1回、お昼休みに2回、放課後に3回、街中で寄り道に3回と行く場所を選べるシステムになってるんだ。
発生したイベントによっては1回の行動だけで終わってしまう事もあるけれどね。
土日と祝日、春休み、夏休み、冬休みの期間は、朝・昼・夜とそれぞれ3回ずつ選べるようになってる感じで、その時にどこに行って誰に合うかが重要なんだよな。
まあ、今日はまだプロローグの段階だから、本格的に動くのは明日からなんだけれど、このプロローグ内であと二人、攻略開始フラグが立つ攻略キャラがいるから、昼と夜のターンも気を抜かないようにしないとね。
ファイト、おー!