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自分至上主義のカナコさん  作者: 大木戸 いずみ
9/10

9

 たしかに……。

 父が生きていて良かった。

 あまりにも「父からの電話」の方に重きを置いていて、「父の生存」について考えていなかった。

 というか、これまでも心のどっかで生きていると思っていた。

 勝手に父は僕らを捨てたのだと解釈していた。

 考えてみれば、突然消えた父に対して母は特に慌てた様子もなかったし、憤慨していたわけでもない。


「生きててよかった」


 僕はぼーっとしながら、カナコさんが言ったことをおうむ返しした。


「あれ? 生きてて嬉しくないの?」

「いや、うん、嬉しい」


 昨日電話をたった瞬間、父が生きていたことが分かって安心した自分がいた。

 それは紛れもない事実だ。

 ただ、感情が追いつかなかった。今もなお感情はぐちゃぐちゃだ。


「坂崎くんって、よく分かんない」

「え」

「何考えてるのか分からないんだもん。高校生なのにやけに大人びてるっていうか。……まぁ、大人にならないといけない環境だったのかもしれないけど」


 鋭いなぁ、と感心してしまう。

 カナコさんは馬鹿じゃない。自分主義だけど、洞察力に長けていると思う。


「僕からしたらカナコさんの方が謎なんだけど」

「私? どこが!?」

「……えっと。だって、なんか僕と喋ってる時のカナコさんとクラスの皆んなが思っているカナコさんにギャップがあるというか」

「当たり前でしょ。人間は多面体の生き物なんだから」

「はい?」


 思わず眉間に皺を寄せてしまう。

 カナコさんは急に自分の世界に入って、自分のワードで話し始める。

 僕がどんどん置いてかれる。


「人ってよく裏表あるって言うじゃん? けど、裏表だけってことはありえないでしょ? もっと沢山の顔を持っているんだよ」

「人によって使い分けてるってこと?」

「そ! 友達の前、恋人の前、親の前、先生の前、それぞれの人の前で自分を無意識下で使い分けているんだよ。人間って優れた生き物だからね〜〜。やっぱりうちらは優秀だ」


 勝手に自画自賛してるよ。

 いや、人類全てを褒めてるから自画自賛ってわけじゃないのか。

 けど、カナコさんの言っていることは理解できる。

 僕はあんまり人と接触しない方だけど、親の前、先生の前、そしてカナコさんの前の自分は若干違う。

 けど、それらは全部僕なんだ。

 ……なんか哲学チックになってしまう。


「その点で、坂崎くんはよく分からない。ずっと、スーーーンって感じがする」

「僕、案外分かりやすいと思うんだけど」

「坂崎くんは友達と喋ってるとこすらも見たことないもん。てか、友達いる?」


 なんて失礼な質問なんだ。

 たしかにいないけど。


「自分の人生の中で友達に必要性を感じていない」


 高校生のくせになかなか生意気な発言だな、と我ながら思う。

 一人でも気の合う友達を作って、和気藹々と話せば人生は少しは彩るのかもしれない。

 けど、自分の人生にそんな豊かさを求めていない。

 ……何で豊かさを感じているのかって聞かれたら困るけど。


「やっぱり変だよ、綱吉。私なんかよりもよっぽど変。徳川家の綱吉よりも坂崎家の綱吉の方が変説ある」

「いや、徳川家の方が圧倒的に変人だよ」


 これだけは反論したい。

 生類憐みの令を発案した人と一緒にはされたくない。

 彼と比較したら、僕の方が圧倒的に凡人だ。

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