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自分至上主義のカナコさん  作者: 大木戸 いずみ
5/10

5 電話

 家に帰るなり、犬が僕のそばへと駆け寄ってくる。

 かわいいな、とは思う。けど、抱きしめたいなどという感情は湧かない。

 雌なのに名前は「小次郎」って名付けられた僕の家の犬。

 小次郎は「小次郎」と呼ばれて、尻尾を振って喜んでいるのだから、なかなか気に入っているのかもしれない。

 ただ、僕は一度も犬を名前で呼んだことがない。

 ずっと、「犬」って呼んでる。


「犬、ただいま」


 母は夜遅くまで働いていて、家にいない。

 父は「釣りに行ってくる」と言ったまま一年ぐらい家に帰ってきていない。

 長い釣りだ。釣り好きだから仕方がないか。

 良い魚を持って帰って来てくれることを願っていよう。


 リビングに入り、テレビをつける。

 特に意味もなく、帰ってきて手を洗うのと同じぐらい一連の作業でテレビをつけるのだ。

 内容はなんでも良い。

 家の中が静かすぎるのが苦手なだけ。


 ソファに腰を下ろして、スマホをいじる。

 テレビはBGMぐらいになればいい。

 スマホでテトリスをしながら、カナコさんのことについて考えた。

 僕はSNSをしていないし、する予定もない。

 カナコさんのプライベートをしることなどほとんどない。けど、それでいい。

 けど……………。


「あそこまで自分勝手な女の子の私生活は少し気になるかも」


 そう呟いたのと同時に、スマホの画面にゲームオーバーという文字が出た。

 テトリスをこんなに早く失敗したのは初めてだ。


 テレビへと視線を移す。

 売れっ子アイドルが田舎へ行って野菜を作る、というアイドルオタクに人気のありそうな番組。

 あんな細い女の子が桑とか持てるのか。

 農具と同じぐらいの細さをしている。

 ……いつから世の中は細い方が魅力的という風潮になってしまったのだろうか。


 プルルルル、と家の電話が鳴った。

 電話を取るのは昔から苦手だ。僕はゆっくりとソファから立ち上がり、電話の方へと向かった。


「もしもし、坂崎です」


 何も聞こえない。

 悪戯電話? この時代に?

 セールスならすぐに何か言うはずだ。


『俺だ』


 その声に思わず、受話器を床に落としてしまった。

 心臓が一瞬止まるかと思った。僕は呆然とそこに立ち尽くした。

 うるさいぐらい心臓の鼓動が早くなる。

 ……なぜ今? 

 一体今まで何をしていたんだ?

 ずっと音信不通だったくせに。「釣り」に行って、僕らを捨てたと思っていたのに。


『綱吉?』


 床に落ちた受話器から父の声が聞こえた。

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