転生した元日本人、悪役令嬢に。 〜女神(身内)が相手をフルスイングしていった〜
「メドヴェ・フォン・ラガルド、お前との婚約、破棄させてもらうぞ」
「・・・は?」
「聞こえないことはないだろう?」
「いや、そっちはどうでもよくて」
私って淀川潔子よね?誰メドヴェなんたらかんたらって。
「って、ぐおぉ・・・あ、頭が・・・割れる・・・」
急に鋭い頭痛が・・・あ、なんか流れ込んでくる・・・これは、記憶?メドなんちゃらってのの記憶?
「お、おい大丈夫か?救護班急げ!メドヴェ嬢を医務室へお連れしろ!」
婚約破棄だの言う割には紳士で草。
数日経ちまして。
どうやら私は日本で死んだ後メドヴェとかいう令嬢に生まれ変わったらしい。俗に言う転生とやらか。
でも神様よう、なんで私がこの『悪役令嬢』にならにゃならんのだ。流れ込んで来た記憶を辿ったけど、いかにも悪役令嬢だ。本人の知らないところで黒い噂が飛び交うし、紳士だと思っていた婚約者(不本意だがそうらしい)はヒロイン的立場の女狐に誑かされて婚約破棄に踏み切る阿呆だし。家族も屑。なんなの同じ空間にいることすら許さないとか。小学生の虐めか!あ〜、神様とかいるんなら一発殴ってやりたい。
というか、自分の体を鏡で見て絶望したよ。元々私結構美形って言われてたし、自惚れかもしれないけど自信もあった。なのにこの体ときたら、顔は凡、胸も尻も出ず特にくびれているわけでもない、まさにモブ。悪役令嬢ならせめて体つきくらい綺麗であれ。あと、婚約者ーー名前は確か、ジェラルドだったかーーとの婚約も、完全に政略という貴族っぷり。これじゃ女狐に誑かされても仕方ない・・・わけねぇだろアホが!
その後、中断してしまったパーティをとのお達しにより、再び大観衆の集う会場へ行かなければならなくなった。嫌だ〜!どうせまた婚約破棄とか言われるんだ〜!
「メドヴェ・フォン・ラガルド」
ほらきた!はいはい、返事すりゃいいんでしょ、すれば。
「はい、ジェラルド閣下」
「いきなり倒れたので心配であったが、大丈夫のようだな。あの時言いそびれたことを今一度言わせてもらう。私ジェラルド・フォン・マルグリッドはメドヴェ嬢との婚約を破棄する。理由はこちらのマリー子爵令嬢への見過ごし難い数々の所業である。マリー、説明してやれ」
ああそうだ。あいつマリーとかいったな。いつか殴る。
ここまでで分かるように、私は少々血の気が多いらしい。もう死んだけど、近所のお婆ちゃんにも諭された。し、これまた死んだ幼馴染の弟みたいな子にも言われた。何なら私自身治したかった。そう、治したかったのだ。生憎治らなかった訳だが。
「そして、メドヴェ様は言ったのです。『貴方のような田舎者に閣下は合わない。諦めなさい』と!皆様このようなことが許されますか!?」
半分以上聞いてなかったけど、曰く『教科書を水浸しにして使えなくした』だの、『階段から落とされた』だの、『非情な言葉を浴びせた』だと。よくもまあそこまで盛って信じる奴がいたもんだ。いや、いたから今があるのか。
で、どうもマリーとか言う奴は人望も厚いらしく、ついでに女神に認められた聖女とかなようでマリーの証言(勿論全て出まかせである)を信じ、私に冷たい目を向けてくる。
『そんなことを・・・?』
『まさか聖女様に向かって・・・』
『嫉妬からかしら?』
『聖女様可愛いけどいうほどじゃないが・・・あれと比べれば閣下が堕ちるのも分かる・・・』
あんたら、殴り飛ばしたろか。
「とのことだが、何か申し開きはあるか?」
はぁ、もうめんどくさい。どうせ一度終わった人生だし、長々と生きてる意味もないよね。
「ありません。どうぞ処刑でも終身刑でもして下さい」
「何も無いの?・・・つまらないの」
おい、聞こえてるぞ。
「では、判決を女神様に聞くとしよう。マリー、頼んだ」
「はぁい閣下。・・・女神様、聖女が願います。どうぞお越し下さいませ」
パァァァ・・・
『おお、女神様だ』
『なんとお美しい・・・』
女神が現れた。正直神とかあまり信じてなかったけど、こうして見せられちゃ納得するしかない。・・・しっかし、な〜んか見たことあるのよね、あの女神様。誰だっけかな・・・?
「女神様、あちらのメドヴェ様は、聖女である私に数々の許されざる所業を行ってきました。つきましては、公正な判決をお願いしたく存じます」
『そうだねぇ・・・。あたしゃその辺の事情はあまりわからないんだけれどねぇ』
この声、あっ!
「思い出した!」
「おいメドヴェ嬢!女神様がお話しているのに話の腰を折るんじゃない!」
「お婆ちゃん!!」
「・・・は?」
その瞬間、私の体が光って、光が収まると、潔子の体になっていた。やった〜!あのモブ体とはおさらばだ〜!
『だ、誰だあの麗人は・・・』
『あそこにいたのはメドヴェ嬢だったはず・・・』
『まさか彼女が・・・?いやそんなはずは・・・』
「な、ど、どういこと!?なんであんたがそんな綺麗に・・・」
「綺麗だ・・・」
「は?」
「メドヴェ嬢。いや、名も知らぬ御令嬢。私は貴女に一目惚れした。婚約してくれ!」
「はぁぁぁ!?」
『あ〜、思い出したよ。あんれまぁ、潔子ちゃんかい?少し見ない間に綺麗になって。お婆ちゃん嬉しいよ』
「やっぱりツルお婆ちゃんだ!うわ〜、だいぶ前に死んじゃったと思ったらこんなとこで会うなんて!」
「お〜い、無視しないでくれないか」
「うっさい女狐に誑かされたアホ!あんたとの婚約なんか今破棄したでしょ!それとも何?顔か体が良ければ誰でもいい訳!?屑野郎ね!」
「グボァ」
『・・・潔子ちゃんもこうなったら訳だし、あんたも顔見せたらどうなの?』
「え?お婆ちゃん何言って」
「しょうがない、僕も顔出すか」
あれ?この声って。
「もしかして、ソウ君?」
「あはは、お姉ちゃん久しぶり。僕が先に旅立っちゃってごめん」
「いいよ、こうして会えたんだし」
「でさ、お姉ちゃん。今婚約破棄されたってことはさ、お姉ちゃんフリーだよね?」
「え?まあ、そうなるのかしらね」
「じゃあさ。いつかした約束、覚えてる?」
そうだ。確かに、昔約束した。
「あ〜、大きくなったら結婚しようってやつ?」
「覚えててくれたんだ。今その約束、叶えてもらっていい・・・かな?」
「へ?それって・・・」
「プロポーズ・・・だよ?・・・駄目、かな」
「駄目な訳ないでしょ。私だってソウ君が死ぬまで本気だったんだから」
「・・・ほんと?神様に誓って?」
「ん。神様に誓って」
『ということは、あたしに誓う訳だねぇ。いやぁ、若いのはいいさねぇ。青春だよ』
「あ、お婆ちゃんに誓うのか。なんかどこの誰とも知らない神に誓うよりよっぽど信頼できるね」
「ちょっと、何家族水入らずみたいな雰囲気出してるのよ!こっちを見なさいよ!」
「あ、忘れてた」
『マリー、だったかねぇ?あんたみたいな聖女、あたしの記憶にゃないんだけどねぇ。・・・あぁいや、いたねぇ。お布施として渡されたお金を私利私欲のために使う外道だって記憶してるよ。それにあたしに判決ねぇ。実は今まで全部見てたからねぇ。あんたの悪事なんてバレバレさね。ま、聖女の位を返上して修道院にでも行ってな。あとそこのじぇらるどとかいう男。あんたも同罪さ。言われたことを碌に調べず鵜呑みにしちまうなんてまぁ情け無い。それにノッた理由もマリーとかの方が体がイイからとか、男失格さ。あんたも修道院に行ってな』
「なっ・・・」
「ど、どういうことだ!?」
「お婆ちゃんの言うことに嘘はあり得ないよ。お婆ちゃんは生前から嘘だけは大っ嫌いだったからね。それで何度叱られたことか」
『周りで見てるだけの碌でなし共。このことを周りに捻じ曲げて伝えようもんなら・・・分かってるね?』
流石お婆ちゃん。周りへの牽制も忘れない。
『あと2人とも。今の人生捨ててあたしのとこにこないかい?こっちにゃ梅干しもお漬物もあるよぉ』
「お婆ちゃんのお漬物!」
「お婆ちゃんの梅干し!」
「どうせ人生一回終わってるし、行く!」
「僕も!」
『はい、二名様ご案内さね』
次の瞬間、私たちはお婆ちゃんのいるところへ飛んだ。周りから見れば一瞬で私たちが消滅したと思うだろう。
「あ、懐かしい匂い。畳と襖、お婆ちゃんの家に来たみたい」
「みたいじゃなくて来てるんだよぉ。2人とも、いらっしゃい。ゆっくりしていってね」
「は〜い。・・・なんか、昔を思い出すね」
「あんれ、もうそんなに経ってるのかい?年をとるといけないねぇ。まだ半年も経ってないように感じるよ」
「いや、実際経ってないと思うよ。だってこのカレンダー、お婆ちゃんが亡くなってから半年しか経ってないもの」
「じゃあ、日本とここでは時間の進み方が違うのかもねぇ」
「ソウ君が死んでもう10年になるのにソウ君が変わらないのもそのせいか」
「あれ!?もうそんなになってるの!?・・・お姉ちゃんちなみに今いくつ?」
「26・・・ってそんなこと答えさせるな馬鹿!」
「あいたっ」
「・・・今のは蒼太が悪いさね」
こうして、時間の進み方がとてつもなく遅い世界で、メドヴェのいた世界のジェラルドの末路とかをテレビで見ながら私達はのんびり過ごしたのだった。
ちなみに、ここでは年をとらないらしい。なにそれ理想郷?
〜完〜