選択
あれから数日が経ったがぼくの生活に変わりはなかった。少しスイッチのことが頭にあったが学校に行き、バイトに行く。それをただ繰り返していた。
明日の不燃ゴミに出せばスイッチのことも完全に忘れて元通りの生活に戻るだろう。
「明日忘れないようにしとかないと、」
そんなことを考えていると携帯が鳴った。知らない番号。心当たりはない。
電話に出る。
「はいもしもし。、、、、、えっ?」
明日捨てるはずだったスイッチとついていた紙を手に取る。
電話は、地元の総合病院からだった。
母の持病が悪化したらしい。もともと体の弱い人ではあったがそんな様子なんて見せていなかったのに。今は容体は落ち着いているようだが話を聞く限りすぐにでも手術が必要らしい。
難しい手術のようでかなりのお金が必要らしい。
ただ、そんなお金なんてうちにはなかった。
左手に持った紙を一瞥する。
【このスイッチを押すとお金が手に入ります】
【一回押せば100万円】
もしもこの紙に書いてあることが本当なら。
お金がない今、母を助けるためにはこの言葉を信じるしかなかった。
スイッチを押して100万円を手に入れる。
ただ、もしも本当に100万円が手に入るのであればそれはつまり、、、
押すという選択肢しかぼくには残っていなかった。
何よりも母のことが大切だったから。
ぼくは、スイッチを押した。
スイッチを押したタイミングでは特に何も起きなかった。目の前にお金が降って湧くわけでもなく。
ただ空虚な時間だけが流れた。
「やっぱり、そんなうまい話ないよな。」
本気で期待していたわけではない。
でも、期待せずにはいられなかった。
肩を落とす。
ゴトっ
玄関の方から音がした。
なんだろう。
ドアポストを見ると一つの封筒が入っていた。
「まさか、、」
疑いつつもぼくはそれがなんなのかを理解していた。
封筒を開けるとお金の束が入っていた。
数えなくてもぼくにはそれがいくらなのかわかった。
きっと100万円なのだろう。タイミングを考えるとそれしかあり得なかった。
色々と考えたいことはあったがまずは母の入院先の病院に電話をかける。お金の準備ができたこととこれからの手術のこと。色々と話し終えると病院へ行くために駅へと走った。