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撃ちぬかれたい  作者: 七草太一
第一章 『開幕、異世界生活』
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第一章3  『四季はある。死期もある。』

「ここから、どっちに行ったのアキラ」


「あ、ああ。こっちだな」


 声色に緊張が乗るアキラ。

 女性に名前で呼ばれるなど母以外では経験したことがない。

 耳ざわりの良い心地よい声に名前を呼ばれる――こんなに心が躍るとは。

 自然とにやけ顔になっていた。


「ちょっと。何にやけてるの」


「ご、ごめん」


 この女の子、メルザはにやけたくてもにやけられない事情があるのに俺ってやつは。浅はかだった。

 アキラは心の内で反省する。

 二人は、アキラが白いローブの女の子と遭遇した場所に来ていた。


「謝らなくてもいいわよ。……やっぱり、こっちに行ったってことは貧民街に行ったようね」


「貧民街に行った確証があるのか?」


 確証を得たような声色で呟くメルザに、アキラは疑問をぶつけた。


「さっき酒場で聞いたの。盗品を貧民街の人たちにばら撒いてる人がいるって」


「なんだそれ、義賊っぽいなかっこいい」


睨まれるアキラ。


「あ……と、盗られた人はたまったもんじゃないよな。うん、悪い奴だな。悪い奴」


 そもそも義賊は悪人から盗む。この女の子が悪人にみえるか、いや見えない。


「行くわよ」


 メルザの左側を歩くアキラ。

 美少女の横を歩くアキラの心持ちは、先ほどのこの異世界に転移したときのような憔悴はない。

 どこか明るい気持ちだ。

 華美でないシンプルな、それでいて存在を際立たせるような恰好。

 その横に使い古した白ジャージの男。

 釣り合いがとれないかもしれない。いつもなら消極的にそう考えそうなところだが、いまのアキラは違った。

 

 さっきチンピラを撃退したんだ。

 俺はこの子に降りかかる困難も撃退してみせるぜ。

 そして、笑顔を拝んでやる。

 アキラがそんな思いを巡らしているとメルザが尋ねる。


「アキラ、珍しい服装だけど違う国から来たの? 観光?」


「あ、えーと」


 正直に言うべきか。頭がおかしいと思われたらこれほど悲壮的なことはない。


「日本ってところから来た。自分探しの旅をしてるんだ」


「二ホン? 知らない国ね。なにか特色はあるの?」


「ええと、四季があるよ」


「この国にも四季はあるわよ」


 手痛いツッコミだ。アキラの受けたダメージをよそに、メルザの口元がくすりとした気がした。


「自分探しの旅? うまくいけばいいね」


「メルザのペンダント探しがうまくいくことが先決だよ」


「うん。ありがとう」


 なんてことない雑談をしながら歩いていると、貧民街に到着したようだ。

 路上に座っている人、寝転んでいる人、薄汚い衣服。覇気のない目。


「息が詰まるな」 


「気をつけて。アキラ、珍しい恰好だから盗人に狙われるかも。そのバッグ、大事に持っていてね」


 アキラはバッグに手をやり、さする。


「バッグを奪うために殺されたりとかは、無いよな?」


「さあ、どうかしら」


 ゾッとするアキラ。

 辺りの淀んだ雰囲気に気を抜けば飲み込まれそうになる。

 あっという間に消極的思考へ陥りそうだった。


 すると、奥に行ったところからこの区域の雰囲気とは似合わない明るい声がする。

 子供の声だ。


「なにかしら」


 メルザは声の方へと足を進める。

 アキラもそれについていく。

 

「みんな今日も元気で良かった」


 白いローブの人物が子供たちに囲まれている。


「あ、ペンダント持ってた女の子だ! 多分」


「多分って……どっちなのよ」


 メルザは呆れたかのような素振りで額に手をやる。


「はい。ミーシャにはこれ。ペンダント」


 ローブの女の子は、ローブの内側から藍色のペンダントを取り出す。

 

「それは私のよ」


 突き刺さるかのような声。ローブの女の子?は一瞬固まり、メルザの方を見る。


「やっと見つけた。他の物なら盗られても諦めつくけど、それは駄目なの。どうしても。さあ返しなさい」


「くっ」


 ローブの女の子?はペンダントをローブの内側にしまって、走りだす。


「あ、待って!」


 メルザが叫ぶ、より前にアキラは女の子?を追いかけ走る。


「待て! 泥棒!」


 アキラはロードワークで鍛えた心肺能力には自信があった。

 絶対に逃がさない。

 そんな心中のアキラをよそに、女の子?はなかなかに速い。

 

 気づけば森に入っていた。

 足場の悪さ、いりくんだ地形にもたついているアキラとは対照的に、女の子?は難なく奥へと入っていく。

 このままでは見失ってしまう。

 いや、見失った。


「えっと、多分こっちに行ったよな」


 記憶を頼りに森の奥へと進んでいくアキラ。


「あ、いた! ……あれ?」


 女の子?は仰向けに倒れている。

 ローブが頭から外れて顔が露わになっていた。

 胸まで伸びる綺麗な銀髪。凛とした顔立ちには幼さが垣間見える。


「なんで気絶してるんだ? 俺に追いかけられるのそんなに恐怖だったのか?」


 そんなわけないよなと思いつつ、アキラはこの状況をどうするか考える。


「気絶してる女の子の服をまさぐるってヤバいよな。メルザこっち来てるかな。取り敢えず、合流しないと。この子はおぶっていくか。街へ戻ろう」


 そう言って先ほど来た道の方を振り向くと、そこには狼?がいた。


「げ! 狼? 角が生えてる……魔獣ってやつか!」


 やばい、どうする?アキラに素手で魔獣に挑む気概は無かった。

 なんとか刺激しないようにと、直立不動と化していた。


「おいおいおいマジかよ」


 魔獣が立ち去ることを願ったアキラの思いむなしく、狼のような魔獣の数は増えていく。十匹。

 魔獣の群れの奥から人が現れる。


「魔獣で囲んだだけで失神した奴とまだ誰か来ると思ってたが、なんだあ変な恰好だなお前」


 黒いローブに白髪の男。

 陰鬱な雰囲気を漂わせている。

 魔獣は唸り声を震わせていた。

 男を襲う気配はない。


「さあお前ら、食事の時間だ」


 魔獣に話かけているように見えた。

 

「魔獣使いってとこか……!」


 アキラはそう言いながら脳味噌をフル回転させる。

 この状況を打破するにはどうすれば。

 素手で魔獣と戦うのは無謀過ぎる。

 魔獣使いのあの男を倒せば魔獣は霧散するか?いや、魔獣があの男を守るだろう。

 所持品に何か活路を見いだせるものは――。


「そうだ、これ、これが使えれば……」


 バッグから取り出したそれは、異世界転移最初のイベントで手に入れた、リボルバー銃。

 だが、チンピラが使ったときは不発だった。

 改めて確認しても弾を込めるところが無い。


「なんか出てくれ、頼む」


 アキラは両手で銃を構える。


「なんだそりゃ。いけ」


 魔獣が一匹飛びかかってくる。


「で、出ろ! あっちいけ!」


 トリガーを引いた。

 刹那、青色のエネルギー弾のようなものが銃口から飛び出す。


「キャン!」


 弾は魔獣に命中。魔獣使いの男をそっぽに魔獣は森の中へと走り去っていく。


「や、やった」


「てめえ……!」


 魔獣使いの男の表情は怒りに満ちている。


「じゃあその魔道具が使えねえように、全員で襲うまでだ!」


「え、ちょ、それはマズいのでは」


「いけ。お前ら!」


「う、うわああああ!」


 アキラは頭が真っ白になった。

 逃げようにも、恐怖で足が動かない。

 時が止まったかのような感覚に襲われる。 


「エスレイ!」


 突如、森の中から飛び出してきた光線がアキラの前を横切り、飛びかかる魔獣を撃墜した。


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