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撃ちぬかれたい  作者: 七草太一
第一章 『開幕、異世界生活』
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第一章2  『接触不良は起きてない』

 男たちの侮蔑と嘲弄まじりの視線、それを受けアキラはシャドウを見られた恥ずかしさより悪寒を感じていた。

 見た目はおそらく二十代半ばくらい。

 亜人ではないようだが、善人でもない。

 薄汚い身なりと、内面のいやしさがそのまま顔に表れたような雰囲気だ。


「最初のイベントがこれってマジかよ」


 ボクシングの試合経験はあってもストリートファイト、喧嘩の経験はない。

 逃げようにも男たちは入口を塞いで立っている。衝突必至。 

 緊急クエスト、『チンピラを撃退せよ』の発生だ。

 

「金目の物よこせや。珍しい恰好の兄ちゃん」


 『物盗りを撃退せよ』に更新。


「金目の物なんて持ってません。一文無しです」


「そのバッグと服脱いでどっか行きな」


 金目の物が無いとわかったら見逃してくれるかもと思ったが甘かった。

 こいつらは何が何でも何かを奪いたいらしい。

 まさにチンピラ。

 しかも服まで脱げとはたまったものではない。いう通りに服を脱いだらアキラは街中で裸の変態として放り出されることになる。 

 変態を誰が助けてくれようか。

 気味悪がられ、街の人からの情報収集も出来なくなる。

 帰る家もない。

 所謂THE ENDだ。

 しかし、言うことを聞かずに抵抗し相手を怒らせてしまったらこちらでも終わりの可能性がある。異世界だ。暴行以上、命を盗られるかもしれない。

 

「……いや、異世界なんだここは。俺は異世界転移者。無双できるにちがいない。戦いの中でチートボーナススキルに目覚めたりするかもしれないぜ」


 恐怖を通り越して開き直り、拳を握りしめる。


「なんかブツブツ言ってるぜ」


「素直に言うこと聞けやあ!」


 男が一人向かってくる。


「身ぐるみ剥がしてやらあ!」


 大振りの右パンチ。振りかぶっているため隙が大きい。

 どうやら素人のようだ。そもそもこの世界に格闘技はあるのだろうか。

 アキラはパンチをかわし、右ストレートを男の顔面に叩き込む。


「ぐ、は」


 綺麗にパンチが入った。

 男は腕をだらりと垂らし、地面にキスをする。倒した。


 拳が微かに痛い。

 初めて人を素手で殴った、その結果に少し罪悪感を覚える。


「いやいや悪いのはあっちだ。とにかくここを突破しないと」


「てめえ、ふざけんなオラア!」


 先の戦闘結果に怖気づいて退散してくれたらと願ったが思い届かず、二人目が向かってくる。

 右、左のパンチをフットワークでいなし、左フック。

 結果、この男も地面にキスをした。


「よし、俺無双できてる……! これは身体能力が上がってるのか? 元々の力なのか? どっちだろう」


「てめえ!」


 あと一人。

 アドレナリンで恐怖を削ぎ落とし、少し冷静さも取り戻してきたアキラは残り一人の男の方を向く。

 と、アキラは目に映ったものに身震いした。


「な、なんですかそれは」


「知らねえが、昨日輸送馬車から盗ったモンだよ! こう持つのか?」


 銃だ。

 不幸にも男の構え方は映画で見たその構えと一致していた。


「ま、ままま待って、撃たないでください」


「うるせえ! 俺の仲間を傷つけやがって、ただじゃ済まさねえ」


 死ぬ死ぬ死ぬ。

 完全にアキラは固まってしまった。足が動かない。


「死ねえ!」


 カチッ


 カチッ カチッ


 弾が出ない。

 

「なんだガラクタじゃねえかくそっ! 覚えてやがれっ!」


 男は銃をアキラに向かって放り投げ、仲間を置いてけぼりに駆け足で去っていった。


「た、助かった~」


 思わず膝を地面につく。

 額に汗が流れるのを感じる。


「治安良くないんだな、さっさとここから出よう。あ、これ質屋的なところに持っていったら売れるかな」


 銃を拾う。リボルバータイプだ。映画で見るような銃より一回り大きい気がする。奇妙な点が一つ。


「弾を入れる穴がない……?」


 銃をバッグにしまい、手のひらを閉じたり開いたりを繰り返して微かに痛むのを感じながらアキラは路地裏をあとにした。


「酒場、酒場はと」


 人混みに紛れアキラは目的地を探し、歩き回っていた。

 黒髪に上下白のジャージ。普段なら誰も気にも留めないだろうが、この世界ではそういうわけにもいかない。

 カラフルな髪色、異文化の群衆の中で、アキラは浮いていた。

 辺りをキョロキョロしているのも一役買っているだろう。

 行き交う人々の目線に多少いたたまれなくなってきていた。


「あー。どこにあるんだいったい……」


 文字が読めないから店名がわからない。

 それもあって酒場探しは難航している。

 目的の店かわからないのに入口の扉を開けて店内を確認するといった勇気、度胸はアキラにはなかった。


「なんか分かりやすい特徴があったりしないのか。扉がウエスタン仕様とか」

 

 苦戦に落ち込み斜め下を見つめながら歩いていると、肩に軽い衝撃が走る。

 

「きゃっ」


 突然の女性の声。アキラは声の方に視線を移す。

 白いローブで顔を隠した女の子が尻餅をついて倒れている。いやもしかしたら声の高い男の子かもしれない。


「あ、ご、ごめんなさい。大丈夫ですか」


 と、目線の斜め下に光を反射する物が映り込む。


「ペンダント……?」


 刹那、アキラの目からそれは消える。女の子?が素早く回収したのだ。

 女の子?は何も言わずアキラの前から立ち去ろうとする。

 咄嗟にアキラは聞く。


「あの、人が集まる酒場がどこにあるか知りませんか?」


 女の子? は何も言わず右手の人差し指で方向を示した。


「あ、ありがとう」


 女の子?は去っていった。

 アキラは、示された方向へと歩を進めた。


「ウエスタンっぽい扉、これは酒場だろっ」


 目的地との邂逅に笑みがこぼれる。やっと。

 やっと見つけた。

 

「お金持ってないのに入っていいのかな」


 日本円ならば五千円ほど持っているのに。

 迷う。しかし、ここまで来たらなるようになるさ。


「えーい、なるようになれ!」


 扉を開ける。進撃一番に目に映ったのは赤茶色の長髪、灰色のコートの人物。


「あ、俺のヒロイン……」


 アキラは誰にも聞こえない声量で呟く。

 その女の子は酒場の人たちに何か聞き込みをしているようだった。

 それを終え、女の子の目にアキラが映る。

 茫然と立っているアキラに、女の子は僅かに驚いた面持ちで言葉を投げる。

 

「あなたはさっきの。また会うなんて奇遇ね。私、藍色のペンダントを探しているのだけど見なかった、あ、さっきも聞いたわねこれ。じゃあごゆっくり」


 藍色のペンダントと聞いてアキラははっとする。


「あー!」


「ど、どうしたの?」


「見た! 見た俺! 藍色のペンダント!」


 血相を変えて女の子はアキラとの距離を詰める。

 

「どこ? どこで見たの!?」


 じっとアキラを見つめる女の子。かわいい。

 アキラは目を逸らしたくなるが、ここで逸らしたら男が廃ると目を合わせる。


「白いローブの女の子が、うん多分女の子、が持ってた」


「持ってたってことはやっぱり盗まれたんだ。ありがとう」


 赤茶色の髪の女の子は、酒場の出口へと向かう。


「ま、待ってくれ!」


 アキラは女の子を呼び止めた。呼び止めなければもう会えなくなるような気がしていた。


「何? 私、急ぐのだけれど」


 焦りの色が見える表情と声。


「目撃者の俺がついていった方がいいだろ。力になるぜ!」


 生涯最大のイケボを披露するアキラ。カッコつけたいお年頃。

 酒場の人に色々聞くよりも、この女の子に聞く方が話しやすいという本心がある。


「そんな、出会ったばかりの人に」


「いいんだよ。女の子が困ってるのを捨て置けないっ」


 女の子は目線を左右に振って少し悩む素振りを見せる。そしてアキラを見る。


「そうね、どんな背格好かもはっきりしないし……。わかった一緒に行きましょう」


 俺も白いローブってこと以外わからないけどな。

 あとわかるのは確か、身長は155センチくらい、細身、くらいかな。 

 そんな思いを抱きながらなんとかなるだろうと珍しく前向き、もしくは逃げの思考でアキラは女の子に近づく。

 女の子は手を差し出す。

 えっ。とアキラはどぎまぎする。


「私はメルザ。メルザ・フェルダー。よろしくね」


アキラは手汗を拭き、差し出された手を握る。


「アキラ。アサメアキラだ。よろしく」 


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