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誰がプリンを食べたのか?

作者: たなか

 冷蔵庫を開けた私は、ショックで思わず膝をつきました。



「あああ!! 誰!? 私のプリン勝手に食べたの!?」



 よりによって私が大好きな窯焼きとろとろ生カスタードプリンを盗み食いするなんて! キッチンに置いてあった空容器を怒りに震える手で掴み、鬼気迫る表情で尋ねる私を、平然と無視する3人。



「いや3人に聞いてるんですけど! 今回は、ちゃんと名前も書いてたじゃん!」



「……いい大人がプリン食べられたぐらいでマジ切れするとか……春香、大人げないよ……そこまで大事なら共同で使ってる冷蔵庫に入れないで、常に持ち歩くべき……」



 軽蔑したようなジト目で私を見てくる夏海。食べ物の恨みに子供も大人も関係ないでしょうが! あと生温かい携帯人肌プリンなんて私も食べたくないわよ!



「夏海! あんたが犯人なの!?」



「……私、そもそも甘いものそんなに好きじゃないし……プリンよりポテチがいい……じゃがりんこに……カラームチョもいいね……プリッソやカーノレも捨てがたいな……」



 夏海はポップコーンを頬張りながら聞いてもいない個人的スナックランキングを報告してきます。



「そうだったね……疑ってごめん……私にリクエストされても困るけど……」



「春香さあ、ひょっとして自分が食べたこと、忘れちゃってるんじゃないの~?」



 にやにや笑いながら私をおちょくる秋奈。



「そんなわけないでしょ! 全員同い年なのに、なんで私だけ突然物忘れが始まるのよ! ……秋奈、まさかあんたが食べたの?」



「春香は観察力が足りないなあ……よく見なよ。その容器の中、使い捨てスプーンも一緒に入っているでしょ? 私、それ絶対取っておく派だから」



「……確かに……いや、それはそれで困ってるのよ! あんたの捨てられない症候群のせいで、私達のスペースまでどんどん圧迫されてるんだから! スプーンだけならまだしも、紙袋に空き箱、空き瓶に雑誌と段ボールの山。あんた一人暮らししてたら絶対ゴミ屋敷の主になるわよ」



「分かってないわね。いつかこの段ボールに命を救われる日が来るかもしれないじゃないの」



 秋奈は、やれやれと呆れたように首を振っています。



「その『いつか使うかも』が駄目なんだって……そもそも段ボールに命運を任せる日なんて絶対来ないわよ……というよりそれ只のホームレスじゃない……まあ、いいわ。消去法で犯人は冬乃に決まりね!」



「もう……プレイ中に話しかけないでよ……3乙したら、春香のせいだから! ……うち、連日の狩り疲れで、昨日ひたすら爆睡してたの、知ってるよね?」



 全く自慢するようなことではありませんが、ゲームで徹夜続きだった彼女は、言う通り昨晩ずっと寝ていました。こちらに視線を向けることすらせず、現在進行形で狩り真っ最中みたいです。



 いい大人が働きもせず……なんて、私達3人共、言えた台詞ではありませんが……



「…………えっ、じゃあ本当に誰の仕業なの?」



「……私、犯人分かったかも! 昨日の夜、突然停電したよね? ほら、ちょうど電話が掛かってきたタイミングでさ? 結構長い時間だった気がするけど……」



 自慢げに腕を組んで推理を披露し始める秋奈。



「ええ、そうね。それがどうかしたの?」



「……その間にこっそり泥棒が忍び込んで、プリンを食べたんじゃない? いや、私達に気付かれない手際の良さから判断するに、きっとプロの怪盗だね!」



「プリン専門の怪盗なんて聞いたことないわよ! お金目当てよりよっぽど怖いじゃない……もういいわ……まだ眠いし、こうなったらふて寝してくる……」



「「「お休み~」」」



 いくら考えても埒が明かないので犯人捜しを諦め、私は仕方なく、しばし眠りにつくことにしたのでした。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 さて、プリンを食べたのは誰なのでしょう?




 ヒント1「犯人の名前は登場していませんが、確かにそこにいました」




 ヒント2「実際には停電なんて起きていませんでした」




 ヒント3「犯人は停電(・・)の間にプリンを食べました」





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 四季は重い体を引きずりながら、今日も会社へ向かっています。



(はあ……四人ともつまらないことで、よくあんなに盛り上がれるわね……でも、申し訳ないから今日の帰りにプリン買って帰ろう。あとポテチも。4人分買うとカロリー的に厳しいものがあるんだけど、たまにはいっか……)



 春香、夏海、秋奈、冬乃は、四季が創り出した多重人格です。



 ブラック企業と自宅を往復する日々に疲れ果てた彼女は、せめて我が家にいる間だけでも仕事から自分を完全に切り離したいと常日頃から願っていて、気付けば彼女達が脳内に生まれていました。



 突然の停電の原因、それは職場の上司からの緊急連絡でした。4人は仕事に関わることが出来ないので、彼女達と四季が急遽入れ替わることになったのです。トラブル解決のために、関係各所に業務メールを送り、疲れ果てた四季は、冷蔵庫にあったプリンを、ついヤケ食いしてしまったのでした。



(自分でプレイするより、冬乃が目を輝かせて楽しそうにゲームしているところを観るほうが幸せを感じるのよね……秋奈にからかわれてプリプリ怒る春香を眺めるのも楽しいし……夏海がテレビ観ながら、だらだら怠惰にポテチを貪る姿も可愛いわぁ……ああ、美少女4人との癒しの共同生活、当分止められそうにないよ……)



 4人の幸せそうなぐうたらライフを妄想しつつ、四季は気合を入れて、地獄の満員電車に乗り込むのでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] てっきり ニートだから電気代払えなくて停電 私たち「3人」だから冬は実は存在しない つまり冬は幽霊的な存在で幻覚・記憶の捏造を行なっている みたいな感じかなって思っちゃった 冬の名前も…
[一言] 四季さん……がんばれぇ……(泣
[良い点] 猫課長に続いて、たなか先生が新たなライフハックを発明してはる…! 百合畑は若干ハードルが高いので、ちょうど昨日、猫てらみるくさんのお猫様小説を拝読したばかりですし、お猫様脳内多頭飼いなど挑…
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