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学園ミステリ 空き机の祥子さん  作者: 長曽禰ロボ子
鏡屋敷の謎
36/42

鏡屋敷の謎 7

「まさか、あの子がこのゲームを始めるとはね」

「玄関のドアを開けた時には、ちょっと驚いたわね。あなたちの遊びのことを聞いていなければ、あなただと思ってしまったでしょうね」

「私、自分で作ったゲームに参加する趣味なんてないわ」

 クスリと少女は笑った。

「たどり着けるかしら、あの子」

「もちろんですよ。あの子は、もうひとりのあなたなのでしょう。こんなにも頭のいいあなたの」

「どうかしら。あの子は単純で本能的で、そして少しお馬鹿さんなのよ」

「あらあら」

「でも、そうね。ちょっと期待もしているの」

 少女が言った。

「あの子は、()()()()()にどう答えるのかしら――」



 自転車を降りてからは、たしかに体力勝負だった。

 神社をつっきったり、工場跡の広い野原を走らされたり。第11の場所でも使われた認識票を探す広大なアスレチックだ。お昼ご飯のほかにドーナッツを補給しておいてよかった。後付けの言い訳だけど。

 今は防砂林の中だ。

 ――赤い紐を縛ってある木を探せ。

「見つけたぞ」

 野球帽の子が、松の木に赤い紐でくくりつけてあった認識票を掴んだ。

「自転車に戻れるのか」

 野球帽の子が町の方へと振り返った。

 どんどんあの公園から離れていくようで、不安になる。

「そろそろ3時ですね」

 裕美がスマホで時間を確認した。

 陽射しも傾きはじめている。そろそろ明日に回した方がいいだろうか。

「まだまだ続くようなら困る。そろそろ終わりなんだ、新潟での私は」

「?」

「それはわからないけど」

 と、陽向が言った。

「自転車の方は大丈夫。歩かされてるだけであの公園からあまり離れてないよ。それより次の指令は?」

「わかるのか?」

「そういえば、陽向ちゃんは迷子になったことがないって、おばさんが言ってましたね」

「ふうん、右と左の区別はつかないのに」


その地より南に百歩進め。道路にてさらにそのまま南に100歩。一段低くなっているコンクリートで固められた側溝を見ることができるだろう。そこに降りて西に進め。

がんばれ、このクエストはもうすぐ終わる。


「だそうだ」

 スマホにパスワードを入力した野球帽の子が言った。



 元はこの高さがこのあたりの地面だったのだろうか。

 住宅街の中を一段低い側溝が流れている。

 側溝のまわりはコンクリートでかためられて、人が通れるようになっている。3人は指示通りに側溝に降りてそこを進んだ。

「あった」

 側溝に渡してある橋やパイプをくぐりながら歩いていると、そのうちの1本に認識票がぶら下げてあった。


その場で南側の崖を登れ。そこに閉じられた門がある。門は君の持っている鍵で開けることができるだろう。

おめでとう。

そこが第2の場所、最後のチェックポイントだ。


 3人は顔を合わせた。

「やった!」

「たどり着きましたね!」

「長かったな!」

 南側の崖の上は肩くらいの高さの真新しい茶色いフェンス、そしてたしかにそこに門扉がついている。両岸の他の家の塀には門扉はない。そりゃ、こんな側溝があるのだからフェンスはともかく門扉をつける必要はないだろう。

 このゲームのためだけに門扉をつけたのだろうか。

 漫画やアニメやゲームで見るような大きな門とはいかないけど、凝っている。

「とにかく昇ろう」

 陽向の身長ちかくある崖だったが陽向と野球帽の子はあっさり昇り、2人で裕美を引っ張り上げた。さすがに上は狭い。フェンスが迫り、1人が立っていられるほどの余裕しかない。

「うん、開かないな」

 野球帽の子が門扉を揺すって言った。

「みんなの鍵で試してみましょう。記念です」

 裕美が言った。

 陽向だけがキョロキョロとまわりを眺めている。

「どうしたんです、ひなたちゃん」

「この家」

 陽向が言った。

「最初の家だ」

 えっと裕美と野球帽の子もまわりを見た。

 門扉の先にある家は後ろ姿だ。四方の視界は他の家で塞がれている。

「これでわかるのか」

「前のほうを見て。見覚えあるだろう。ほら、あの黄色い車もあるよ」

 野球帽の子と裕美は横歩きで陽向の方へと移動して、家の向こう側を覗き込んだ。

 本当だ。

 今まで地面より低く、家に囲まれた薄暗い所を歩いてきたので、なんとなく古い町のように感じていた。でも向こう側は道が広く、明るく、新しい家が建ち並ぶ新興住宅地だ。そして、見覚えのある黄色い車。

 通り慣れた道でも、いつもと違う角度からだとまるで見知らぬ景色に感じてしまうことがある。

「それを利用したトリックか」

 野球帽の子が言った。

「変だったんだ。暗号解読から始まったゲームなのに、途中から()()()()になってしまった。それも時間がかかるだけで簡単なおつかいだ」

「意地悪だったのは第7の駅名くらいでしたね」

「みんな、そうと気づかせないまま同じ家に導くための工夫だったんだ。めちゃくちゃ長い工夫だったんだ」

「自転車を降ろさせたのも」

 裕美の言葉にうなずいて、野球帽の子は苦笑を浮かべた。

「まあ、そうだよな。こんな子供のためのゲームに何軒も何人も揃えるわけにはいかない。このゲームマスターの誤算は、うちのパーティに南野(みなみの)陽向(ひなた)がいたことさ」

「あっ!」

 と、陽向が声をあげた。

「ごめん、黙っていた方が良かった!?」

「ゲームマスターの計算としては、家に入ったところで驚かせるつもりだったんでしょうけど、そのまえに驚いちゃっただけですよ、陽向ちゃん」

「そうそう。ゲームマスターは不満だろうけどさ」

 野球帽の子は門扉に鍵を入れかけ、ひょいっと鍵を持ち上げた。

「なあ、裕美」

 野球帽の子が言った。

「ここはその直感力に敬意を表して、陽向に最初に鍵を開けてもらおう。どうだい」

「賛成です」

 裕美と野球帽の子は、また横歩きをして門扉の前を空けた。

 そして、どうぞと陽向に手を差し伸べた。

 こんなに褒めてもらったの生まれて初めてだな。そんなことを思いながら陽向は鍵を差し込んだ。かちり。鍵が開いた。今度は陽向が横歩きで門扉の前から動き、裕美と野球帽の子のための場所を空けた。裕美と野球帽の子も自分の鍵を試し、3人は笑いあった。

 フェンスと家の間は1メートルほどしかなく、白い砂が撒いてある。

 そして門扉のすぐ前に勝手口がある。

 たぶん勝手口なのだろうけど、なぜか呼び鈴がついている。ここでも促されて陽向が呼び鈴を押した。3人とも気にしているのはその勝手口の横のグリーンカーテンだ。

 北側に?

 そしてどういうわけか、そのグリーンカーテンにもうひとつの勝手口が隠されてないか。

「あらあら、いらっしゃい」

 勝手口の戸が開いた。

 そこにいたのは、やっぱり同じおばあさんだった。3人は顔を見合わせて笑った。



 やはり勝手口だったらしい。上げてもらったのは台所で、そこを抜けると見覚えのある重厚な円卓が置かれたリビングだ。だけど、クスクスと笑いながら席に着こうとした裕美が怪訝そうな表情を浮かべた。

「どうしたんだ、裕美」

 野球帽の子も前と同じ席に座ろうとして、あっと動きを止めた。

 ふたりは部屋を見渡し、そして陽向を見た。

 陽向は平然と前と同じ席に着いている。

 ()()()()()()()()()に。

「……気付かないのか、陽向」

「……それとも――すぐにわかったのですか、陽向ちゃん」

 陽向はきょとんとしている。

「なんのこと? もしかしてこの部屋が鏡対称の部屋だって事?」

 そうだ。

 円卓と家具の位置関係に違和感がある。そして、窓からは西日が差している。前に入ったときには同じように午後だったのに、西日がはいらない部屋だった。むしろ陽向の言葉ではっきりと理解できた。

 この部屋は、前の部屋と鏡対称の部屋なのだ。

「あらあら、あっという間に気付いたのね、あなたたち」

 おばあさんが台所から前と同じようにお菓子の入れたボウルとカルピスを運んできた。

「暑かったでしょう、召し上がれ」

 わあい、ありがとうございますと陽向は手を伸ばした。

 そして、おばあさん。

 表情も変わらない。優しそうな表情も上品さも変わらない。

 だけど、前は一目でわかる仕立てのいい服だった。今は通販で買ったような――。

「そう、この家は鏡屋敷」

 おばあさんが言った。

「第2のチェックポイントよ。この家が鏡屋敷だと見破ったあなたたちは無事に最後の関門を突破しました。最後の謎と最後のキーをあなたたちにあげましょう」

 裕美と野球帽の子は呆然としている。

 陽向はちゅうちゅうとカルピスを飲んでいる。


■登場人物

佐々木裕美 (ささき ゆみ)

県立五十嵐浜高校一年三組。小動物。安楽椅子探偵。


南野陽向 (みなみの ひなた)

県立五十嵐浜高校一年三組。態度はふてぶてしいがかわいいものが好き。裕美の保護者。


森岡祥子 (もりおか しょうこ)

裕美や陽向のクラスメートなのだが、一度も登校してこない。そして裕美と陽向にとっては知っている名前でもあるらしい。謎の存在。


林原詩織 (はやしばら しおり)

一年三組暫定委員長。裕美や陽向と同じ中学出身。中学時代には成績トップだった。


高橋菜々緖 (たかはし ななお)

裕美や陽向と同じ中学出身。本を読むのが好きでおとなしかったのだが…。


笈川真咲 (おいかわ まさき)

裕美や陽向と同じ中学出身。華やかで美人で、ヒエラルキーのトップに君臨した女王。


太刀川琴絵 (たちかわ ことえ)

五十嵐浜高二年生。中学生の頃から県大会常連の剣士。生徒会副会長だが立候補した覚えはない。


小宮山睦美 (こみやま むつみ)

上遠野という少女を知る生徒。


藤森真実先生 (ふじもり まさみ)

県立五十嵐浜高校教師。二八歳独身。



南野太陽 (みなみの たいよう)

陽向の兄。ハンサムだが変人。


林原伊織 (はやしばら いおり)

林原詩織の兄。ハンサムだが変人でシスコン。


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